12 タージラの街2
馬車の車輪にはゴムが巻いてあって、思いのほか振動が少ない。
「狩りの腕を見たい、モーリンジカはどうだ?」
「かまわない」
手足と首が丸い胴体についている奇妙な体型のシカが草をはんでいる。群れから離れて単体行動している。
「こっちを狙われたら危ないから離れたところで狩りを開始してくれ」
ラインガルスは馬車から遠ざかり、モーリンジカへチートンを投げた。
放物線を描いてマントをつけたブタは落ちてゆき、見えないなにかをした。
モーリンジカは硬直させた足を伸ばしたまま倒れた。
「よし」ラインガルスは言った。
チートンは足がわずかに動くようになり、気功の元素勁を放てるという。たぶんそれだ。
「おーー?」
不可解なものを見たホッツが、おかしな声を出した。
ホッツがモーリンジカを馬車に乗せ「ブタに魔法器つけてるのかい?」と聞いた。
「そんなものだ」
「自爆させたりしたら、かわいそうじゃないか」
「そんなことはしない」
ブタが好きなのかホッツは安心して、うなずいた。
アガタがブラシでチートンの皮膚をこすっている。
うっとりとチートンは体を休めている。
「肉のうまいモンスターを優先したい」ラインガルスが言った。
「東側だとトリコカバが肉質も良くて量もある。ただリンガリザードよりも強い、狩士よりはバトルマスターの獲物になってしまうが」
「いけるだろう」
自信に満ちているもののチートンへ、おまかせなのをホッツは知らない。
正直にブタが強いからなんとかなる、と言ったら相手にされないからしかたない。
水場にトリコカバの群れがいた。
「馬車に乗せられる数は?」
「三頭」
ラインガルスの問いに微妙な表情でホッツが答える。
トリコカバの群れと渡り合えるのは巨人級以上の陸戦士チーム。
トリコカバは魔法を防ぐ皮に守られ、強靱なアゴ、勢いの乗った体当たりをまともに受ければ生きては帰れない。
ラインガルスはさっきより遠くからチートンを投げる。
チートンはトリコカバまで半分の距離でいったん地面に落ちて、空高く跳ね上がり滑空する。
トリコカバの群を見下ろし、チートンが元素勁を放った。
ドン、と音がした。
数十頭いるカバの群は動かなくなった。
チートンがトリコカバの上に座り、待っている。
「全部たおしたのか?」
呆然としたホッツが言う。
「いや、三頭だけで、あとは気絶している。急いで回収しよう」
トリコカバに固定バンドを装着、フックをかける。力を合わせ、巻き上げ機で荷台へ引き乗せてシートをかける。
獲物で満杯になった馬車はタージラへ帰るため来た道を戻る。
「魔法が通じないはずなのに、新魔法か?」
「詳細は教えられないがそんなものだ」
興奮が冷めてきたホッツが気を取り直して
「預かったモンスターはどこへ届ければいい」と言った。
「タージラへ来たばかりでわからない。おすすめの解体所を知りたい」
「売るんじゃないのか」
「食べる」
「全部か?」
「できれば冷倉庫をレンタルしたい」
「ん?というと、1狩る。2解体する。3保管する。4調理する。までをやりたいってことか」
「なるほど、4番のおすすめはあるかな」
「解体と保管はうちで扱える。料理は煮込みか、焼き肉か」
「う、う、う、うまーいステーキが食べたいです」アガタが口をはさむ。
う、は、とても、という意味だろうか。
「ロコンコ亭は肉の持ち込みができて味もいい」
「戻ったらさっそく行こうか」
「わ、わ、わーい」
「それにしてもトリコカバ3頭も調達するなんて、何人で食べるんだ」
「二人と一匹」
「明日も狩りに行くなら多すぎるだろう。西にはもっと評判の良い肉がある。売っていいんじゃないか」
「そうだな、考えてみよう」
途中の街でリンガリザードが売れて少し余裕があるとはいえ、輸送馬車代は高かったし、倉庫代も月単位で払うなら、すぐ資金はなくなるかもしれない。
「えーーー」
アガタが非難めいた声を上げた。