11 タージラの街
タージラの外壁は、できたてのクリームみたいに白かった。
街中では家を建てる木槌の音がどこからも聞こえる。
モンスター討伐市場は、だれもが足早にモンスターを運んでいた。
ローチウルフ、ダックスフォックスが何十体も転がっている。
最近モンスターの襲撃があり、街は修復作業で大忙しだった。
モンスター狩りの手続きを頼むと、二十歳ほどの女性が受け付けしている場所へ案内された。
水仙黄色のワークシャツから伸びる腕は筋肉が盛り上がり、厚ぼったい唇からは、ほがらかで親切な声がした。
「ようこそ、タージラ狩猟市場へ。はじめてかな」
ラインガルスとアガタを見て、女性は微笑む。
「狩りへの参加は、おおきく二つに分けられます。狩証を購入して独立する。雇われで狩りに参加する」
「狩証を購入したい」
「金貨三枚になります」
ラインガルスが金貨を払うと、女性は十枚綴りの狩証にスタンプを押して渡した。番号が1570と印字されている。
「狩証は十枚になっていて、メンバー内での権利譲渡に使われています。ここで登録を変更しなければ有効になりません。狩証一枚につき報酬の10パーセントが自動で口座へ振り込まれる、といった使い方ができます」
「動物でも登録できる?」
「希望する人はいるんだけど、できないの」
「それなら十枚ともラインガルスで登録を」
名簿にラインガルスの名が記入された。
「実績が上がれば番号呼びから、自分たちのクラン名に変更できるから、死なないように稼いでね」
「ありがとう」
倉庫付きの輸送隊の案内を頼むと
「まだ早いんじゃないかしら」と言いながら「ペゼットじいさんが担当していた狩士が亡くなられて空きがあるから行ってみて」と、地図を書いてくれた。
討伐市場からそれほど遠くない倉庫が並ぶ通り。それぞれの倉庫がカラフルに色を塗って主張している。
ペゼットじいさんの倉庫は広い道沿いにあり、緑色に塗られていた。
「こんにちは」
倉庫の中は、ひんやりしていて、モンスターは置かれていなかった。
「なんでぇ」
白髪交じりの老人がでてきた。ひらべったい鼻、くたびれた表情をしている。
「モンスターの輸送を頼みたい」
「戦力はどれくらいだ」
「二人と一匹」
「んあ!それなら自分たちで運んだほうが安くすむじゃねえか」
「新鮮な良い肉を手に入れたくて」
「モンスターってのはな、運ぶより前に倒さなくちゃならねんだぜ。それこそ家一件なんてデカさの奴とも渡り合わなくちゃならねえ。ただ踏みつぶされて死ぬ狩士も珍しくない稼業なんだ。もうちょっと考え直してみちゃどうだい」
「リンガリザードくらいなら余裕で狩れる。無茶はしない」
「んー、まあそれがほんとならいいけどよ。お前さん、名前は?」
「ラインガルス。よろしく、ペゼットさん」
「おう、とりあえずこれから夕方まで、おためしで近場の狩りに付き添ってみて、そいで条件を決めようじゃねえか。仮契約で金貨二枚な」
「それでいい」
「おーい、ホッツ。運搬仕事だ」
ペゼットが呼ぶと、作業服を着た三十過ぎの男がすぐに出てきた。
実直な表情で、胸板が厚く体重もたっぷり。
聞き耳を立てていたらしく、すぐに「じゃあ、行くかね」と、馬二頭を運搬用荷車につなぐ。
大きな荷車の前部には座るところもあったが、ラインガルスとアガタは御者台に座った。
図書館にいるチートンを横抱きにして戻ってくると、ホッツが「おとりの餌か?」と聞いてきた。
「そんなところだ」
「落ち着いてきたとはいえ、まだモンスターが活性化している。用心しろよ」
「わかった」