四
じりじりと検非違使は、包囲の輪を縮めてくる。
管狐はとっくの昔にどこかへ退散してしまい、姿は見えない。
包囲の輪を縮める検非違使は無言で、顔の仮面についた双つの目玉がてんでんばらばらの動きをしていた。
しかし、時太郎は検非違使同士の〝声〟を聞いていた。人間とは違う、猛烈な速度で交し合う二進符号の遣り取り。
瞬間、翔一が検非違使の言葉を理解していた。二進符号の圧縮された情報を展開、解読する。
お花が口を開いた。口から流れるのは検非違使の汎用機械語である。それはお花の言葉であり、翔一の言葉であり、時太郎の言葉である。
すでに三人の意識は一つのものになっていた。
──待て! われわれは〈御門〉に用がある。お前たちは時太郎を〈御門〉に連れて行くよう、命令を受けているはず……
お花の〝声〟に検非違使たちは、ぎくりと立ち止まった。ぶるぶると検非違使の手足が細かく痙攣している。
〈御門〉の命令は絶対だが、お花の発した汎用機械語は、さらなる上位の命令語を含んでいた。そのため対立均衡が生じ、手足の動きが麻痺していた。
──お前たちは〈御門〉のもとに時太郎を連れて行くよう、命令されているのだろう? その際、自発的に従いてくることを禁じられているわけではないはずだ!
ふっと検非違使たちの痙攣が止まった。全員すっと背筋を伸ばし、頷いた。
──従いてこい!
時太郎たち三人を中心に、検非違使は環を作るように歩き出した。時太郎は信太屋敷を出て、都大路に踏み出した。
夜明けの光の中、無数の二輪車が整列をしている。
二輪車揃えの列だ!
ひゅう──
風が出てきた。
はたはたと風をはらんで二輪車に跨った武者の旗指物が翻る。
さっと眩しい夜明けの光が差し込み、二輪車の金属部分を輝かせる。全員、ぴくりとも動かず、命令を待っている。
「時太郎!」
二輪車の列から声が掛かる。
時太郎がそちらを見ると、木本藤四郎が二輪車の間から伸び上がって、こちらを窺い見ている。
藤四郎は時太郎たちを取り囲む検非違使に気付くと、ぎくりとなった。
「時太郎! おぬし、どこへ向かうつもりだ? そやつらは、御所の検非違使ではないか?」
時太郎の目と合った藤四郎の表情が、大きく変化した。
それまではどちらかというと、時太郎を案じるような表情だったのが、時太郎と目を合わせた瞬間、怖れに似た表情が浮かぶ。
「おぬし、いったい……」
ふつふつと藤四郎の顔一杯に汗が噴き出した。
「御所へ……」
それだけを答えると時太郎は目を逸らし、検非違使とともに立ち去った。
藤四郎は呪縛されたように立ち尽くしていた。




