四
そうこうするうち人影は全て消え、見上げると空には、ちらほらと星が輝いてきている。
源二は立ち止まった。
「この辺りで、野宿といたそう」
姫はうなずいた。
野宿には慣れてきている。街道を外れ、適当な茂みを探す。
銀杏の大木の根本を野宿の場所と決め、時姫は膝を折って座り込んだ。腰を下ろすと、溜息をつき、がっくりと首を垂れる。
痛ましつ感じつつ源二は姫の様子を見守った。
やはり、この旅は相当姫にこたえておるようじゃ……。
背負った笈を地面に置くと、源二は中から小さな紙箱を手にとった。箱を引き出し、中にきちんと整列している細い木の棒を摘みあげる。
棒の先には薬品が付着していた。棒の頭を紙箱の茶色い表面にこすりつけると、ぱっと火花が散って、棒の先が燃え上がった。
それを大事に乾いた細枝に移し替え、焚き火を燃え上がらせた。二人の顔が焚き火に、赤々と染め上がる。
源二の仕草を、時姫は興味深げに見つめていた。
「不思議なものですね。そんなことで火が点くなんて」
「南蛮人から買い求めたものでござる。南蛮人は、これを〝燐寸〟と称してござった」
得意になって源二は答える。
時姫の声が弾んだ。
「源二は、南蛮人に会ったことがあるのですね! どんな人たちなのです? 妾と変わったところはありますか?」
「見たところ、われらとそう変わり申さぬ。話す言葉も同じなら、顔形にいささかの変わりもありませぬ」
源二は煙管を取り出すと、燃え上がる焚火に近づけ、一服ぷかりと吸い付ける。
ぼんやりと時姫はつぶやいた。
「いったい、南蛮人とは何者なのでしょう。あの者らは、どこから来るのでしょう」
「さあ、一度しつこく尋ねたことがござったが、結局、はぐらかされてしまい申してござる。おそらくは異国の者でござろうが、その異国がどこにあるのかさえ、見当もつきもうさぬでな」
ぽん、と源二は煙管を叩いて灰を焚火に落とした。次の瞬間、膝を浮かせ、太刀に手を掛けている。
「何者? そこに隠れている奴、姿を見せよ」
鋭い叱声が飛ぶと、がさりと茂みがざわめいた。ひょろりとした姿の人影が焚火に姿を表した。
「おぬしは……」
源二は、あまりの意外さに絶句していた。立っていたのは河童の三郎太であった。