二
控えの間で、上総ノ介は怒りを抑えかねていた。破槌城であれば、思い切り怒鳴り散らし鬱憤を晴らすところであったが、御所ではそれも叶わず怒りは沈殿した。
現在、上総ノ介の執着している問題は〈御門〉への謁見であった。謁見が実現しなくては、征夷大将軍宣下がうまくいかないことは、京に来て判ったことである。そのため、御所の公卿、および関白を動かしているのだが、進展は一向にはかばかしくない。
上総ノ介の天下統一は目の前に来ている。武力的には、上総ノ介の圧倒であったが、諸国の領主はそれだけでは畏服しない。全国に号令するためには、征夷大将軍宣下が是非とも必要であり、そのための謁見であった。
控えの間に木本藤四郎が平伏している。上総ノ介は眦を決し、きっと藤四郎を睨んで叫んだ。
「鼠っ! なにか知恵は思いつかぬか? あの腐れ禰宜どもを、ずってんどうと、高転びにすっ転ばせる方策じゃ!」
藤四郎はゆっくりと顔を上げた。
「殿……ひと言、申し上げて宜しうございますか?」
「ん?」
藤四郎の口調に上総ノ介は、怪訝そうに振り向いた。
「何かあるのか?」
「知恵……と言うほどではござりませぬが、拙者ふと殿の童のころのことを思い出してござります。殿はお若い頃、周りの者が眉を顰めるほどの悪童でござりましたような」
上総ノ介は「ふっ」と笑った。
「何を言い出すかと思うと、そのような戯けたこと……」
「殿は童の頃、近所の子供を引き連れ、合戦じゃと仰せになっては、村単位で喧嘩をなされました。その頃のことを思い出してござります。今の状態は、いわば子供の喧嘩のようなもの……子供の喧嘩の最初は……」
上総ノ介に、うずうずと笑いがこみ上げる。
「そうか! 子供の喧嘩か! 鼠っ、そちの言う通りじゃ。ちと、くそ真面目に考えすぎておったようじゃ……」
真顔になり、藤四郎に向き直った。
「藤四郎、この京に現在いる直属の士分以上の配下は今、何名じゃ?」
「百名ほどでございましょうか?」というのが、藤四郎の答であった。
上総ノ介は頷き、どすんと腰を下ろした。
「二輪車揃えじゃ! 我らの軍事力を大いに公卿どもに見せてやり、肝を拉ぎさせてやろうぞ! 全員、自慢の二輪車を持って、御所前に集まるよう手配いたせ!」
藤四郎は、ほくほく顔になった。
「きゃつらの驚く顔が見えるようでござりまするな。そうじゃ、上様! 傀儡も加えてはいかがでござりましょう?」
上総ノ介は「ぱん!」と手を叩いた。
「それじゃ! 破槌城から傀儡どもも呼び寄せよ! そうじゃ、確か公卿どもは御所の塀の崩れを修理してほしいと、ほざいておったな、その修理に託けて呼べばよい」
藤四郎はいったん、平伏して立ち上がると、急ぎ準備に立ち上がって控えの間を出て行った。
それを見送り、上総ノ介は空を見上げた。
〈御舟〉の姿が空を切り裂くように聳えている。見上げる上総ノ介の表情は、不審なものとなっている。
「それにしても、つくづく妙じゃ……。公卿どもら、なぜあのように頑なな態度をとるのじゃろう? いったい、〈御門〉とはなんじゃ?」




