↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通読・河童戦記  作者: 万卜人
苦楽魔《くらま》
PR
54/123

六

 時太郎とお花の後から、烏天狗の翔一は苦楽魔を振り返り振り返り、息をぜえぜえはあはあ切らせながら従いてくる。足下は草鞋《わらじ》である。

 なんでも一本歯の下駄は、平衡《バランス》を取るのが非常に難しく、一人前の天狗にならないと、派手に転《こ》けるばかりで、履けないものなのだそうだ。大天狗に渡された小さな葉団扇を大事そうに帯に挟んでいる。

 空はとっぷりと夕暮れで、苦楽魔の辺りからは仄かに火明かりが点々と灯っているのが見えるだけになっていた。

 必死に従いてくる翔一の足取りは、時太郎が見ても危なっかしい。履いているのが草鞋にも関わらず、しょっちゅう躓いたり、ずるっと滑らせたりして、数度となく尻餅をどでっと無様につ搗いて、時太郎とお花に助けられている。

「ねえ、やっぱり、あいつ一緒に連れてきて、大丈夫?」

 お花が時太郎に囁いた。時太郎は小さく舌打ちした。

「しかたないよ、もう決まったことだ!」

「でも、あんな調子で、少しは役に立つのかな?」

 歩みは翔一の鈍足のせいで、かなり遅れていた。

 聞こえないよう小声で話していたのだが、翔一は察していたのだろう。泣き出しそうな顔になって、ぺこりと頭を下げた。

「あいすいませぬ! このような半人前のわたくしを旅の道連れとして加えて頂きましたが、これではお二人の足手まといになるばかり……やはり苦楽魔に戻り、別の天狗を呼んできたほうがよさそうに思います」

 時太郎は手を振り「よせよ!」と叱った。まったく面倒な奴である。

 その内、翔一は見るからに疲れきり、足が縺《もつ》れ、倒れるようにして、へたりこんだ。しかたなく、時太郎は野宿にすることにした。

 といっても、そこらの平坦な場所の木陰に、ごろ寝するだけのことだ。二人の横に翔一は、筋肉痛がひど酷いのか、呻き声を上げながら寝ころんだ。

 空を見上げると、星空が見えてくる。

 その星空を見上げた時太郎は、ふと苦楽魔の天儀台と呼ばれた部屋で見た星空を思い出した。

「あの天儀台って部屋の星空は、この星空と同じなのかな?」

「ああ、あの星空はこの惑星から見た星空ではないのです。地球と申す、この惑星から遙か何百秒差距《パーセク》も遠く離れた場所から見た星空なのだそうです」

 翔一の予想外の答に、時太郎は「えーっ?」と顔を上げた。

「そりゃ、どういう意味?」

「わたくしにも良く判りません。ですが、この世界は惑星と申す球体のような世界で、昼間に見るお日様の周りを回っているそうなのです。お日様の周りを一年かけて回り、それが一年の暦となっているのです。天狗はその暦を作成するのが仕事なのです」

「それで、地球ってのは、なんだい?」

「地球とは、光の速さでも何十年も、いや、何百年何千年も掛かるほどの遠くにある世界で、そこからこの惑星に人々が天翔る船《スペースシップ》に乗ってやってきて、現在のような世界を作ったと言われております」

 星空を見上げる翔一の口調が楽しげなものに変わった。

「時太郎さん、お花さん。わたくしは、京の都に行くのが楽しみなのですよ。なんでも聞くところによれば、京の翔遡宇院《しょうそういん》という博物館には、古い記録が途轍もなく沢山の量、残っているそうなのです。わたくしは、そういった古記録を一目、見てみたい! 古い暦の記録とか、色んな物があるでしょうね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。