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五
時姫は立ち上がった。
がさがさとススキの穂を掻きわけ、誰かが近づいてくる。いくら月夜とはいえ、人の顔を見分けるほどの明るさではない。
時姫は、そっと着物の帯から懐剣を取り出し、握りしめた。敵であれば、せめて一太刀! いや、それが無理なら、自害するつもりだった。
姫さまーっ──!
野太い声に、時姫は安堵の吐息を漏らした。その声は間違いなく、源二のものだった。
姿を現した源二に、時姫はぎくりと立ち止まった。
髪の毛は大童に乱れ、着物のあちこちは切り裂かれ、返り血を受けている。手には抜き身の刀を下げていた。
「少々、手荒い仕儀に遭いもうしましたが、なんとか敵勢を撒いてまいりました。さ、急ぎましょうず」
懐紙を使って刀身を拭うと、源二はぱちりと刀を鞘に納めた。
時姫は、うなずいた。
「案内を頼みます。妾は、外の事情は、まるで不案内ですから」
「お任せくだされ! まずは京から離れることでございます」
主従はその場を立ち去った。