一
「うん、これなら何とか見られる格好になった!」
満足そうな三郎太の声に、時太郎は「へっ!」と顔をしかめた。
「父さん、やっぱり、こうしなきゃ駄目かい?」
三郎太は鹿爪らしく、うなずいた。
「ああ、天狗一族は、対面を重んずる一族だ。いつもの、下帯一丁の格好で会いに行ったら、四の五の言わずに追い出されるぞ!」
時太郎は肩を落とした。
着物を身に着けている。というよりは父親の三郎太に無理やり着せられたのだ。一年中、裸同然でいて、いきなり着せられた着物は、なんだかごわごわして、むず痒い。それに、腰を締め付ける帯が苦しい。
朝の光が斜めに洞窟に差し込んでいる。二人は入口近くに向かい合って座っていた。
旅立ちが決まって、三郎太は時太郎に話しがあると言って、ここに連れてきたのだ。
三郎太の半身は差し込んだ朝の光に照らされている。にやりと笑って三郎太は口を開いた。
「それに、その頭もなんとかしなくてはならないな!」
「おれの頭?」と、時太郎は自分の頭を押さえた。
「そうだ。そんなボサボサじゃ、天狗は会ってくれんぞ。よし、おれがお前の頭をなんとかしよう。ちょっと待っておれ……」
立ち上がると、奥へ歩いていく。膝をつき、物入れから櫛と鋏を手に戻ってくる。
「これはな、お前の母さんが使っていた道具だ。おれが焼け跡から探して持ってきた」
「焼け跡?」
「あとで話す。動くなよ!」
しゃきしゃきと鋏を鳴らし、櫛を使って三郎太は手早く時太郎の髪の毛を梳いていく。後頭部で髪の毛を引っ張ると、丁髷の形に結い上げた。
「なんだか、顔が突っ張るよ……」
時太郎が不服を言うと、三郎太は首を振った。
「じきに慣れるさ。さあ、出かけるぞ」
「どこへ……?」
「お前の生まれた所だ」
「えっ?」
三郎太は洞窟を出て、足早に外へと歩いていく。
後を追う時太郎は、どきどきしていた。
いよいよ総てが明かされる、そんな期待で胸が苦しい。
洞窟を出ると、一人の河童とばったり出会った。河童にしては珍しく、でっぷりと太った体躯をしている。あの、長老の洞窟を守っていた河童である。
太った河童は、三郎太と時太郎の姿を見て、ぎょっと立ち止まった。
くるりと背を向けると、小走りに駆けていく。
なぜか、異常に慌てていた。
時太郎が水虎さまの〝お告げ〟を受けたあと、河童たちは時太郎の顔を見ると、どうにも具合の悪い表情になる。
それまで、さんざん〝土掘り〟だの〝はぐれ者〟だのと馬鹿にしていた時太郎に、事もあろうか水虎さまが直々に話しかけ〝お告げを〟与えたのだ。
どうにも具合の悪い感じになるのも、無理からぬことである。




