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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

召喚された勇者の話

作者: 空木

よぉ、“新”大将やってる?

……ありゃ?まだ準備中?あ―…出直すか―…


え?友人だから構わない?、お前からそんな言葉が出るなんてお兄さんビックリよ。

いやいや、お兄さんは冗談だって。そういう所は相変わらずだな、お前……

とりあえず、まぁ。お言葉に甘えて。


それにして月日が経つのは早いもんだなぁ……

確かお前と始めて会ったのっつて、それぞれ十代の頃だっけ?

まさか酒場にガキが来るとは思ってなかった、だと?

ガキが通ってるって噂が、実はその酒場の息子でした〜、なんて知るかっての。

あの頃の俺は……とにかく酒に酔いたかったんだよ。マセガキ?う、うるせい!


そんな事より、早くなんか作ってくれよ。

親父さんの時から通ってる俺が、お前の腕を評価してやる。


へ?作ってる間、暇だからなんか話せって?……そうだな。

じゃあ、今話題の“勇者様”の噂とか、どうよ?


ほら、この国ってなんか魔王を倒す為にどっかから勇者様を召喚するだろ?

その勇者様が、召喚されて城では大騒ぎらしい。

なんでも元の世界で剣術を嗜んでいたらしく。王族、政治家、貴族たちの前で騎士団長と模擬訓練やってコテンパンになったらしい。あ、団長の方が、だからな?

んで、正義感溢れる少年らしくて、今にでも魔王を倒しに行くって飛び出しそうで。

逆に周りの連中が準備出来てなくて、勇者を引き留めてるのが現状なんだと。

ハハッ!クソ笑える!


…あ?俺らがガキの頃にも勇者がいた筈だ。何処に行ったって?

………知らねーよ、つか元の世界にでも帰ったんじゃねーの?


そんなことより。ほら、そろそろ出来ただろ?

この大親友様が呑んでやるんだから、感謝しながら差し出せ。

……そう睨むなって、ジョーダンだから。


じゃ、二代目の時代の始まりと勇者様を祝して、乾杯!




―――ああ、今日も世界は平和だ。


* * *



よぉ、大将。やってるか?

おう、久しぶりの大親友様の登場だぜ。

……相変わらず、冷たい奴だな。ん、案内、ありがとさん。


おい。今の子誰よ?あんな可愛い店員見たことねーよ?

暴漢から助けて、働き先がないからってうちで雇ってる?……ほぉ~へぇ~

ニヤけ顔がウザい?俺、元々こんな顔だって。


そっかぁ―……こんな堅物にも春はやって来るのか―


まぁ、良いことだと思う。だがな、女って奴は怖いぞ?

噂で知ってると思うが、また勇者様が召喚されたろ。

そいつかなりイケメンで、更にとてつもない魔力を持っていて、姫様に、女騎士に、美人なエルフ、小さい子供の奴隷もだったか…?

とにかく、いろんな女を連れてハーレムを楽しんでいたらしい。


ま、本来の役目である。

魔王討伐もさっさと終わらせて、元の世界に帰らずこの世界で暮らしていただろ?

そんな順風満帆の日々が突如壊れたらしい。


死んでたんだと、しかもハーレムの一人に殺されて。


旅が終わった後も、ハーレムが増え続けて。

初期にハーレム要員になった女の一人が、構ってもらえない嫉妬のあまり……な?

んで、牢屋に入れられる直前まで。『自分はやってない』って犯行を認めず。

処刑される前にそのまま牢屋の中で、発狂して死んだのがつい最近の話。


いやぁ、女は怖いね―…

俺はもう少し、一人で遊んでようと思う。うん。


………ん?前の勇者も死んでるって?―――よく知ってるなお前。

あの事件は噂も少なかったし、そもそもお前には興味がないと思ってた。

酒場だから自然と情報が集まる?そっか。それもそうだな。


確か俺の聞いた話によると。魔王討伐したって連絡があったのにいつまでも帰って来ない勇者に痺れを切らして、極秘裏に捜索隊を派遣したら。頭のない死体を見つけたんだと。

んで、やけに良い装備してたから調べたら勇者の持ち物だと判明。

国の発表だと勇者はご帰還されたってなってたから。噂を流したのは、見つけた兵士達ってところかねぇ……


ま、いくら強い奴だって、疲れてたら隙だって出来るだろ?

魔物か盗賊か、誰かの呪い…とかじゃねーの?と俺は思うわけ。


だから、そんなに怖い顔すんなよ?あの子まで怯えるだろ。

ほらほら、久しぶりの友人と可愛いあの子を見つけられたお前を祝して乾杯。




―――ああ、今日も世界は平和だ。


* * *



よ、大将。結婚おめでとう。

祝いの品だ。中身?………子供用品だよ。


そんな驚愕した顔二人してすんな。だから言いたくなかったんだよ。

俺だってもういい歳してんだから、そのくらいのプレゼントを用意出来るさ。

………ちょっと、人に頼って一緒に選んだんだよ。


いや、“コレ”じゃねーよ。どっちかって言うと……娘みて―な……


おい、やめろ。隠し子とかじゃねーから。断じて違うから。

奥さんも笑わないでくれ。おい、坊主、膝の上に乗ろうとすんな。

プレゼント開けていいから、隣座って遊んでろ。


あ。奥さん。

後ろでお客さん呼んでるぞ?坊主とコイツの面倒見てるから向かって、どうぞ。


ん?どんな経緯で知り合ったって?

……まぁ、お前にはいつも世話になってるし。いいか。


ちょっとさ、仕事の関係で知り合う事になって。

そいつ、全然仕事出来なくて。いや、周りの期待が大き過ぎるから上手くいかなくて。

だが周りの奴らはそれに気付きもしないで、どんどん、孤立して……


俺も昔そういう時期があったから、昔の自分見てるようで……気が付いたら話かけてた。

そいつとはかなり歳も離れてるし、お互い始めて面と向かって話す訳だから。かなり怯えられるし、俺も無意識に声かけたからなんも話用意してなかったし、会話が成立してなかった。アレ。


ま、そんな感じでなるべく見かけたら挨拶するようにしてたら、徐々に会話出来るようになって。ちょっと感動した。

んで、俺が教えられること全部教えたら飲み込み早くて。最初に孤立してたのが嘘みたいに周りから認められるようになってさ。すげーだろ?


お前んとこの坊主思い出してさ、子育ってこんな感じなのかなって。

娘がいるのに肝心の嫁がいない?うるせぇ、昔にも言ったと思うが俺は妻子は持たないし、持てねぇんだよ……それに、お前さ。



“狡兎死して走狗烹らる”って、解るか?



………いや、解らないならそれでいい。

ほら、坊主も変なこと言っちまった詫びだ。膝乗せてやる。

うお、ちっと重くなったか?いいぞ、そのままデカくなってお前の両親安心させてやれ。

俺は金だけは余ってるから、欲しいもん何でも用意してやるさ。


………妹が欲しい?ごめんオジサン嘘ついた。

オジサンは嘘つきなんだよ、誰に対しても。


さ、コイツの成長を祝して……え、今度その娘連れて来い?お、おう、そのうちな。




―――ああ、今日も世界は平和だ。


* * *


その国では常に魔王が発生し、既に“四度”の召喚が行われていました。

王族のみが知っている伝説によると魔王を倒す為には常に新しい勇者でないと倒すことが出来ず、さらに勇者を上回る存在は“この世”には存在しません。


しかしそれでは国は困ってしまいます。一度使った勇者がいては新しい勇者の邪魔になりますし。そして処分したくても、この世の物では歯が立ちません。


困って、悩んで、思い付きました。―――勇者は勇者に処分させよう!と。


それを聞いて皆、良案だと笑いました。笑って、微笑って、嗤って。






「今読んでいる手紙と、俺が預かっている金貨がお前宛に残された“アイツ”の全部だよ」


 そう言うと酒場の主人は、カウンターの下に置いていた頭陀袋を手紙を読んで泣き崩れている少女の目の前にガシャンと音をたて置いた。音の具合からかなりの量が入っていると思われるが少女はそれを見る事はなく、泣き腫らした顔で主人を見つめた。


「…貴方は知っていたんですか?」


「……出会った時から不審な奴だったよ。見慣れない顔だちと上等な装備、最初は何処かの貴族の子かと思ったが、一貴族の子供にしてはやけに“知り過ぎていた”。酒場の主人をしている俺ですら知らない情報がスラスラ出るんで。もうその時点で怪しさ満載だ」


「……なら、どうして。兵士たちに訴え出なかったんですか?」


少女の言葉を聞いて主人は、少しだけそっぽ向くように呟いた。


「恥ずかしながら、俺は友人が少ない。それでいて俺の家族とも仲が良い奴なんてアイツぐらいしかいないんだ」


 そう言うと主人の足元から様子を見ていた息子の頭を撫でて、遊んでいるようにとその場から退出させる。いなくなった事を確認すると洗って端に置いておいたグラスを取り、拭き始める。視線をグラスに向けたまま世間話でもするかのように。


「そういえば、聞いたか?今は“何処かの誰か”が城で騒動起こして国が滅茶苦茶になっているらしい。民も騒動に乗じてやりたい放題だ。今ならば悪さをしても逃亡しちまえば捕まる事はないだろうよ」


 そして言い終わると口を閉じ、店にはグラスを吹く音と時計の秒針の音のみが響いた。少女は目元を擦ると手紙を頭陀袋を置いたまま。店を後にする。



「『ああ、今日も世界は平和だ』――――――全然、平和じゃないよ。■■■さん」


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