SCENE 6――新たなる闘い――
――音が、聴こえた。
眠りから覚める時の様に。俺の五感は、聴覚から起動していく。
“……YOUR……?”
“……YOUR_NAME?”
繰り返し聞こえる――声。
――俺は――
答えを紡ぎ出そうとする意識――次第に明確さを増していく。
――俺は……ショウ・ブラックボックス――
やがて、視界が開けた――。
<GIGA>ワールドへのアクセス。
トンネルの様な、閉塞感を帯びた通路――俺の意識は、そこに実体化した。
闘技場へと続く回廊――。
剥き出しのコンクリート壁。遙か先に見えるのは――まばゆい光と、歓声。
俺はもう一度、踏みしめた床の感触を確かめる。
――俺は今、確かにここにいる――
娑婆にいる時は、当たり前だった感覚。
ここでは――それが唯一、俺という存在を繋ぎとめるものだった。
――この世界では――
――“信じる”事が、全て。
能力も、強さも、自分自身も――信じなければ、何も生まれない。
「……皮肉なもんだな」
自嘲の笑みが漏れる。
「零式」時代。俺は――あらゆる人間を、言葉を疑ってきた。
――テロリストとして。世界を覆う、巨大なものと闘う為に。
そして、今は――。
“仲間の裏切り”という疑念に、囚われ続けている。
「こんな俺が……」
不意に、不安が襲ってくる。
――勝てるのか?……この<GIGA>ワールドに――
湧き上がる――それは自分への疑念。
――と、聴覚が、一際大きくなる歓声を捉えた。
はっとして、目を上げる。網膜を焼く光――刺激。
それが、俺の心に別の感情を差し込む。
闘争心――思い出す。
――何を疑おうが……何を信じようが――
それだけは、いつも俺の中にあった。
「……そうだな」
――どちらにしろ、今は――
――他に道は無い。
俺は歩きだした。
――目の前の、闘いに向かって。
――相変わらず――
ムカつく奴らだ。
灼熱の陽光の様な、照明の下――立体映像の観衆どもを、俺は悪意の眼で睨めつけた。
見慣れた円形の石床。俺は、相手を待っている。
――今日の相手は――
新人。被検体の死亡により、急遽補充された――そう聞いている。
――とうとう、俺達の中から死亡者が――
明日は我が身――誰かは分らぬそいつの為に、俺は短い祈りを捧げた。
『……お待たせしました』
と、場内アナウンスが、ざらついた声を響かせる。
『本日初参戦の新人――サム・マグダネルの入場です!』
湧き上がる歓声。その中を歩いてくる人影――小柄な赤髪野郎。
その緑色の瞳は、真っ直ぐ――俺を見据えていた。
――サム・マグダネル……?――
俺の意識が違和感を告げる。
その名前・雰囲気――遠い、掠れた記憶。
――こいつとは……どこかで――
赤髪が、痩せ細った脚を石床にかけた。
その左肩――描かれたものに、俺は目を奪われる。
禍々しい蝸牛の刺青――。
緑の瞳が、喜悦の色を浮かべた。