SCENE 5――ゴードンの懸念――
「何だ……これは」
ゴードンは茫然と呟いた。
モニターが焼き切れるかと思うほどの、凄まじい光。思わず目を逸らした数秒――その間に、一体何が起きたのか。
正常に戻った画面――そこには、うつ伏せに倒れたドレイクが映っていた。
目立った外傷はない。だがその身体からは白い煙が幾筋も立ち昇り、銀色の防火服は、至る所が黒く焼け焦げている。
その傍らでは、筋肉組織が露出するほど焼け焦げた――トレストの姿。ドレイクの意識はもう無いのだろう。彼が創り出した炎は、その身から跡形もなく消失していた。
熱で濁った眼が、嗤う――それでも尚、平然と直立している様は、まるで悪趣味なSFX。
この世界、だからこそ――そしてこの男の、異常な精神力を証明する光景だった。
「――強力な電荷の放出……?」
すぐ隣で、コンピュータの解析結果を凝視していたオペレーターが、思わず声を上げる。
マグカップを握る手に、力が入った。
「なに……?どういう事だ」
困惑気味のゴードンが問い質す。
「つまり――」オペレーターは、信じられないという風に、一度言葉を切った。
「……落雷です」
「……は?そんな――馬鹿な!?」ゴードンが声を荒げる。
あり得ない事――。
――<GIGA>システムには、気象条件などプログラムされていない――
このシステムは、“天候”という概念そのものを知らない筈だ。
だとすれば――。
「トレスト……奴の能力だというのか……?」
ゴードンの顔が蒼ざめた。その眼が、モニターの中で両腕を高く掲げ、勝利を誇示する醜悪な怪物を見据える。
――あいつの能力は……システムを捻じ曲げるとでも……?――
――最悪だ。
よりによって――<GIGA>の“真実”を知るあいつに、そんな力が備わるとは。
何とかしなくては――。
「……イレイザー支部長?」
鬼気迫る、ゴードンの表情――オペレーターは怖々声をかける。
「――研究チームは?今何をしている……?」
眼球だけをぎろりと動かし、彼はオペレーターに訊ねた。
「――遅れている<GIGA>ワールドの構築を……並行して、各被験体のデータ解析……それと……」
「中断させろ」
説明もそこそこに、ぴしゃりと言い放つ。
「早急に、今の現象を解析させろ。トレスト・ミハエルコフの能力――それを徹底的に解明するのだ」
「……ですが、支部長……」
「――早くしろ!」
一喝。オペレーターが、びくっ、と身体を縮込ませる。
――気弱な社員の抗議を聞いてやれる様な余裕は、今の彼には無い。
大慌てで端末に向かう姿を、苛立った眼が、見詰めていた。
***
「低能どもが……」
延々続く、薄青の廊下。総合管制室を後にし、柔らかい光の中を足早に歩くゴードン――その手には、メタルシルバーの携帯が握られていた。
――時間が無いんだ――
耳にあてた内部から、コール音が繰り返し、漏れ聞こえる。
――“法案提出”という虚偽で、なんとか体裁を取り繕ってはいるが……いずれ幹部どもは、レイスは……私の真意に気付く――
その前に、何としても――。
――コール音が途切れた。
どこかへ、繋がった様だ。
「――私だ」
その声に、僅かな緊迫感が混じる。
――もう、選択肢はない――
――覚悟した様に、言葉を紡いだ。
「そうだ。あいつを……“教授”を、覚醒させろ――」