SCENE 16――brute――
――まるで、光る砂浜の様だった。
疑似戦闘スペース。その白い空間一面に広がる破片――。
疑似戦闘ギミック=あのデッサン人形。
眼の前の空間:見渡す限り――百体分はあろうか――その破壊された残骸が散らばっていた。
――その中で、佇む影がひとつ。
樽の様な巨体が――蒼い瞳で、その光景を眺めていた。
「まだ……足りねえ……」
――トレスト・ミハエルコフ。その口から、失望にも似た響きが洩れる。
「おい……もう、終わりか……?」
見上げた虚空に、問いかけた。
――彼は苛立っていた。
現実に。
<GIGA>に。
自分自身に。
それは――満たされない事への苛立ち。
終りの見えない、監禁の日々。
未だコントロール出来ない、自身の能力。
そして、最も求めるものは――。
「……もういいだろう」
突然――足元から声。見下ろすと――地面から生え出た様な格好で転がる、人形の首がそこにあった。
「システム的にもそうだが……これ以上は、我々の方も限界だ……」
その首を介して――喋っているのは、忌々しい学者ども。
心底疲労した声が、無機質な残骸から聞こえて来る。
「フン……悪趣味だな」
「媒体がなければ――この世界で肉声の具現化は出来ないからな……仕方あるまい」
トレストの侮蔑に――声は、淡々と正論を述べた。
――<GIGA>ワールド:その基盤――徹底したリアリティ。
その土台の上に、精神で構築する建造物――被検体の能力=≪MECELL≫の性能。
ゆえに――虚空から声を発する様な非現実は有り得ない。それを許せば――。
この研究そのものが、意味を成さなくなる。
「まあいい……ところで、ゴードンの野郎はどうした?今日はそこにいないのか?」
首の残骸を介し――息を呑む気配がした。
「いい加減……あいつには、約束を果たしてもらいたいもんだ」
――最初に奪われたのは、財産。
メルザックの権力:研究チームへの資金提供をストップさせた。
次に、仲間。
苦楽を共にした研究員達:買収・罠・社会的抹殺――去っていった。
そして――肉親。
奪い返す。
その為に、彼は――<GIGA>に身を委ねた――。
「支部長は――」
「――“出張中”だ。恐らく……君の父上の処だろう」
――突然。
初めて聞く声が、残骸の発言権を奪い取った。
「――何?」
「あいつにも困ったものだ……父上程の天才的頭脳――活躍して頂かなければ、大きな社会的損失だというのに」
快活な声――それが紡ぐ言葉に、トレストの意識が揺れた。
「――どうだね?取引をしようじゃないか。君の望み……私には、それを叶える力がある」
自信たっぷりに――その声が告げる。
「……何者だ?あんた……」
トレストの声が、僅かに震えた。
「私は、レイス――メルザックを統べる王」