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〔GIGA〕  作者: 藤宮 創
16/20

SCENE 14――隠者(ハーミット)――

 ――ずきり。

 右上腕部に、鈍い痛みが疾る。

 「チッ……」

 俺は焼けた傷を押さえ――白い空間を、油断なく見渡した。

 広大な虚無――そこから、猛禽を思わせる気配。

 まるで、空気そのものから発散されているかの様に――そこら中から、それは感じられた。

 ――隠者(ハーミット)

 これが、あの小柄な老人の発するものとは――。

 知らず、全身の筋肉が緊迫する。

 耳の中で――静寂が音を立てた。

 「何が――“引退した”だ……あの爺さん」

 思わず洩れる悪態。

 俺は今更ながら――酔狂に付き合ってやった事を後悔した。



 ――その肢体は、枯れ枝の様に見えた。

 「あんたも……被験体なのか?」

 ――<GIGA(ここ)>にアクセス出来るのは……≪MECELL(メセル)≫を移植された被験体だけ――

 そう解っていながら――思わず、俺は尋ねる。

 老いた顔がゆっくりと頷き――にいっと、大層に笑って見せた。

 「見ての通り――この老体じゃ。とうの昔に引退したがな」

 その身を晒すように、大きく両腕を広げて見せる。

 ――老体?……どうだかな――

 眼に映るもの――それを素直に信じてはならない。

 この世界において、姿形は必ずしも真実ではない――スネイルがそうだった様に。

 「引退……?だったら何故……今更アクセスして来た?」

 俺は慎重に――“真実”を探っていた。

 目の前の人物:ある程度の年齢である事は、物腰や先に見せた洞察で見当がつく。

 ――だが……何故俺に接触して来た?――

 闘技場以外でのコンタクトなど――常識的に考えて、あり得ない事。

 ここはゲームの中でもなければ、俺達は気楽なユーザーでもない。

 危険な実験場にいる、剣呑極まりない犯罪者達――。

 徹底して、管理されて然るべきなのだ。

 「酔狂……かのう……」

 俺の疑念を知ってか知らずか――老人は呑気な声音で答える。

 「長く生きていると……時々、お前さんの様な向こう見ずにちょっかいを出したくなるんじゃ……おお、そうじゃ」

 突然、大声を上げ――たるんだ皮膚から覗く眼を、輝かせた。

 「わしと一戦、交えてみんか……?」

 「――は?」

 「久方ぶりに――この身体を使ってみたいんじゃ」

 そう言って、老人は樹皮の様に荒れた己の掌を眺める。

 その様子は――まるで道化の様に見えた。

 ――この爺さん……どこまで、本気で言ってる?――

 ――捉え処が無い。

 「お前さんも……まあまあ手練の様じゃし。いい暇潰しじゃ……のう?」

 生来の性格なのか――おどけた言動の中に漂う高慢さ:神経を逆撫でる。

 ――あるいは……挑発しているのか。

 「ケッ……」

 無意識に――俺は声を洩らした。

 「何様だか知らねえが――」

 ――真実は――

 「……相手してやろうじゃねえか」

 ――這いつくばったコイツから、聴いてやる――

 ささくれた感情の赴くまま――俺の身体は、光の粒子へと変換し始めた。



 「……どこにいやがる……?」

 猛禽の様な殺気は――途切れる事無く、肌にまとわりつく。

 右腕の痛みに耐えながら、俺は周囲を見渡した。

 ――白い空間:虚構の世界。

 そこに溶け込む様に――先刻から、薄く白煙が立ち昇っていた。

 微かに漂う――薬品の臭い。

 「何者だよ……あの爺さん」

 俺は右前方――床に穿たれた、白煙の源を見やる。

 変色し、溶け崩れた穴――見覚えのある光景。

 ――そして、微かな戦慄。


 その淵から、ぽたりと――酸の雫が落ちた。


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