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〔GIGA〕  作者: 藤宮 創
15/20

SCENE 13――交錯する思念――

 重厚な造りのデスク――古めかしいアンティーク家具。

 決して使い勝手が良いとは言えないそれは、屋敷同様、持ち主の趣味趣向を如実に反映していた。

 ――ゴードンの私室。そこに、レイスとパトリシアの姿。

 「……泳がせておくさ」

 レイスの声。その眼は、卓上のモニターを見詰めている。

 ――パトリシアが、意外そうな表情を見せた。

 モニターを流れる文字――≪MECELL(メセル)≫:完全(コンプ)適合(リート):ミハエルコフ教授――所々に読み取れる言葉。

 ――レイスの口元が、微かに歪む。

 「ようやくあいつも――我が社に貢献してくれそうだ」



***



 「誰だ……あんた」

 俺は目の前の人物を――呆然と見詰め、呟いた。



 スネイルとの死闘:一週間が経過――。

 見渡す限りの白い空間――<GIGA>ワールド内:疑似(スパー)戦闘(リング)スペース。

 この七日あまり――俺は、連日学者どもの試験材料にされていた。

 現実(リアル)世界(ワールド):X線・MRI・脳波測定・果ては訳の解らない試薬を飲まされての、超音波検査――奴らの興味は唯一つ。

 <SHADE−particle>――進化した、俺の能力。

 その全貌を知る事に、躍起になっていた。

 そして当然のごとく――<GIGA>:この殺風景な空間で、繰り返される疑似(スパー)戦闘(リング)

 辟易――だが心のどこかが望む――力の実感。

 闘うたび、感じる高揚――ギャンブルの最中の様な。

 俺の身体は、幾度となく粒子と化し――幾度となく、銀色の人形どもを貫いた。

 ただ、漫然と――力に酔いながら。



 ――その出会いは、唐突に訪れた。

 いつもと同じ、白い空間――七日目:今日。

 見飽きたデッサン人形どもの代わりに――そこにいたのは、白髭の小柄な老人。

 落ちくぼんだ眼が、静かに――こちらに向けられていた。

 その眼の色:そこに宿る意志。人形どもには決して発散出来ない、生命の雰囲気。

 ――明らかに、俺達同様:生身の人間のアクセス。

 前屈みのせいもあるが――やけに小さく見える。俺の肩くらいまであればいい方だろうか。

 白く長い顎鬚を垂らし、佇む姿――水墨画から抜け出た仙人の様。

 ――微動だにしないその姿を、俺は凝視していた。

 ――こいつは一体……?――

 「……ふん」

 と、突然――老人が鼻を鳴らす。

 ――その眼が、嘲る様に細められた。

 「素質は有る様じゃが……いかんせん、修行が足らんのう」

 「――何だと?」

 静かな口調:唐突な批判――そこに混じり合った高慢さ。それが癇に障り、俺は思わず声を上げる。

 ――貫いてやろうか――

 感情の起伏に連動する様に――身体から、光の粒が浮遊し始めた。

 「……それ見た事か」

 一転――老人の口調が厳しくなる。

 「今のお主は……“力”を無意味に誇示したがっておる……子供と一緒じゃ」

 ――驚愕。

 心の内側に、触れられた様な感覚――動揺に比例して、俺の身体は収縮していく。

 ――何故――

 ――それが解る。

 あの心の高揚――俺自身、曖昧に感じていただけのそれを――この老人は、いとも簡単に言葉に変換した。

 「誰だ……あんた」

 俺は目の前の人物を――呆然と見詰め、呟いた。

 皺だらけの顔――穏やかに、笑う。


 「隠者(ハーミット)――そう呼ばれておる」



***



 メルザックCo., ltd.:北半球統括支部――。

 「ショウ……ブラックボックス、か……」

 わざとらしい程の光量に照らされた廊下を歩きながら、ゴードンは呟いた。

 先刻――教授(プロフェッサー)の思考の中に流れた名前。当人も気付いていない様だが、それは≪MECELL(メセル)≫を介し抽出され、ゴードンの持つ小型端末にデータ転送されている。

 教授(プロフェッサー)――その肉体は≪MECELL(メセル)≫に侵食されていた。

 それは[TYPE−01]と呼ばれる、最初期のナノマシン。その制御の失敗――彼の身体を奇形(フリークス)に変えた原因。

 だが暴走しながらも――それは本来の機能を失ってはいなかった。

 「適合率は……ほう、78%か……あの一瞬で、よくここまで調べたものだ」

 データを解析しながら――ゴードンが感嘆の声を洩らす。

 水槽から伸びたコード――教授(プロフェッサー)に直結したそれは、彼と様々な機器・コンピュータを意識レベルで繋ぐもの。

 そこから教授(プロフェッサー)は――あの時、モニターに映った男について調べ上げ。

 そこからゴードンは――その情報を盗み見た。

 「この男を利用すれば――」その顔が、喜悦に染まる。

 ――足取りが速まった。

 「達成するかもしれん――私の、夢が」


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