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〔GIGA〕  作者: 藤宮 創
12/20

SCENE 10――教授(プロフェッサー)――

 ――冷たい、金属の壁面。闇の空間――そこかしこで、赤や緑の光が点滅している。

 現実(リアル)世界(ワールド)――とある施設の一室。

 広大な空間の中――光の固まった場所に、人影。

 ――モニターに照らされた、スーツ姿の男。

 「ほう……面白い」

 画面に映る光景――男が声を上げる。

 ――ちらりと、赤髪痩躯が見て取れた。

 メルザックCo., ltd.所有:忘れられた研究施設。

 世界各地で繰り返した、企業の買収・合併――いわゆる喰い合いの残骸。そんな、放置されたままの建造物――相当数存在。

 「この新人(グリーンボーイ)……なかなか期待出来そうですな……」

 その中で、大柄な男――北半球統括支部長:ゴードン・イレイザーは喋り続ける。

 ――冷たい室内に、声が反響した。

 「どうですかな――教授(プロフェッサー)?」

 言いながら――傍らの、円筒形の水槽の様な装置を見上げる。

 高さ:約4m――頭頂部からは、ドレッドヘアの様な極太コードが無数に垂れ下がり、ガラスの側面を這って床に伸びている。その内部――琥珀色の液体。

 その中に――人型の粘土細工を引き千切り、機械を埋め込んだ様なものが、浮かんでいた。

 ――老人:白髭の――大仰な管の付いた酸素マスクを嵌め、全身にコードを取り付けられた、上半身のみの肉体――眼球が、ゴードンの声に反応して動く。

 ――ごぼり。

 マスクの隙間から、気泡が漏れ出した

 「――いやだなあ」ゴードンが、おどけた様に肩を竦める。

 「そんな目で、見ないで下さいよ――かつてのビジネスパートナーじゃないですか」

 水槽の中――微動だにしない青い瞳を、正面から見据えた。

 ――ごぼり。

 再び――気泡が昇っていく。

 「それで……どうです?――彼等を見たご感想は」

 片腕を広げ、モニターを指し示す――芝居がかった動作。

 「あなたの開発した≪MECELL(メセル)≫は――」効果的に言葉を区切る――反応を窺う。

 「ここまで、進化したんですよ――私の手で」

 嬉々として――胸を張るゴードン。それに隠れる様に、苛立ちを宿した瞳――ビジネスマンの性。

 本心を、決して悟らせない為の――道化の演技。

 「――ふん……進化、じゃと……?」

 それにつられる様に――唐突に、水槽に備え付けられたスピーカーが声を発した。

 「スペックを低くして――適合し易くしただけじゃろう?……そんなものは、進化とは言わぬ」

 言葉に合わせ、収縮する肉体――間違いなく、この老人が喋っている。

 液体の中で――醒めた目を、こちらに向けていた。

 「ほう……相変わらずですな」

 一変――ゴードンの顔から、表情が消える。

 「人体実験の失敗で、滅茶苦茶になったその身体――私が助けなければ、一ヶ月と持たなかったんですよ……感謝して欲しいものだ」

 「……頼んだ憶えはないわ」

 辛辣な言葉の応酬。

 ――薄闇の空間が、一瞬にして緊迫した。

 「――まあ……いいでしょう。あまり時間も無い」

 押し殺した声――荒れた感情を抑え、ゴードンが切り出す。

 「本来なら、永遠に眠っていて欲しかったが……早急に、あなたの協力が必要になった」

 静かな口調――異形の老人が、訝しげに顔をしかめた。

 「完全(コンプ)適合(リート)……か?」

 ――ごぼり。

 沸き立つ泡の中で――老人が言葉を紡ぐ。

 ゴードンの、顔――鋭く微笑んだ。

 「そう……あなたの理論では――≪MECELL(メセル)≫に100%適合した者は、一個師団に匹敵する戦闘能力を持つ筈――そうでしたね?」

 言いながら、傍らのモニターを見やる。

 「ならば、教えて頂きたい――このクズどもの誰をどうすれば――その完全(コンプ)適合(リート)になるのか」

 老人:琥珀の液体の中――青い瞳が、モニターに向けられる。

 そこに映るのは――溶解していく、男。そして――。

 ほんの一瞬――老人の眼が、科学者特有の光を帯びた。

 ――ゴードンは気付かない。

 「どうですかな――エンリコ・ミハエルコフ教授?」


***


 ――暖かい――

 陽だまりにいる様な――そんな感覚が、おれを包んだ。

 無意識に目を閉じる。能力の解放――<SHADE>を使う時と似ていたが――温度まで感じた事は、今までない。

 ――ドクン――

 確実に――何か別の事が、起きようとしていた。

 「な…なん……?」

 スネイルの気配――驚愕が、伝わってくる。

 ――伝わってくる?

 相手の感情が――振動の様に、俺の身体に届いた。まるで空気を揺らす様――。

 目を開いた。眼前を浮遊する、粒子――それは、俺の一部。


 その瞬間――俺の身体は、光の砂と化していた。


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