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〔GIGA〕  作者: 藤宮 創
11/20

SCENE 9――過去との闘い/Harley’s son――

 ≫薄暗く――冷たい室内。

 窓ガラスに映る姿――本来の、現実(リアル)の――己の肉体。

 その手前に、人影――数人。

 「我々が――」影の一人が、静かに口を開く。

 「新しい世界を創るのだ」

 ――深いバリトンの声。

 「その為に――試練を与えよう」

 ――遠い記憶。顔の見えない、男の映像――

 「マグダネル――お前は……」≪



 「――何の冗談だ……?」

 ――ダメージの蓄積が酷い。俺は何とか上体を持ち上げ――ふざけた奴の顔を正面から睨む。

 その顔が――嘲りの笑みを浮かべた。

 ――“核”――

 そんなものが――『零式』で許される筈がない。

 安易な大量殺戮――それは、ハーレーが最も忌み嫌ったもの。

 行う破壊活動と、同等のものを差し出す覚悟。

 メンバーにも、自分にも――彼はそれを求めた。

 「そんなもの――」

 ――だからこそ、確信を持って言える。

 「デヴィットが――認める筈ねえ」

 その名前に――スネイルの頬が、ぴくり、と反応した。

 「ケッ……“Harley’s son”か……」

 苦々しげに、言葉を吐き捨てる。

 「あのクソ餓鬼……思い出したくもねえ」

 デヴィット――卓越した戦闘の才能・統率力――ハーレーの寵愛を受け、後継者として育てられた少年。

 何処で生まれ――『零式』に出逢うまで、何をして来たか――謎。記憶の途切れた孤児。

 だからこそ、あらゆる技術を真綿の様に吸収出来たのか――。

 そして――ハーレー亡き後。

 『零式』は、彼とその後見人達に委ねられた。

 通称――“Harley’s son”



 ≫「……そんなものは、必要ない」

 少年の声――幼さを残しながら、深い威厳――背負うものの重さ。

 「我々が破壊するものは、矛盾した世の仕組みそのものだ――“核”などという、馬鹿げた武力に頼る意味はない」

 確信に満ちた瞳――不意に、それが驚愕に見開かれる。

 「――お前達……」洩れた呟き。傍に居並ぶ男たちが、一斉に銃を構える。

 「裏切る気か――ハーレーの遺志を」≪



 「なあ……俺達は、何と戦ってるんだ?」

 俺を見下ろしながら――スネイルは、突然問いかけた。

 「――何だと?」

 意図が解らず――俺は眉根を寄せる。

 「俺達の敵は――体制だ。国家そのものだ!」――奴の叫び。拳を振り上げ――まるで有名な、あの独裁者の様。

 「……だろう?」

 怒りの塊の様な、その顔が――微かに翳った。

 「だったら――同等の力を持つ事が、なぜ悪い?」

 ――沈黙。

 “能力”の白煙――沈静化。落ち着いている証拠。

 こいつは――本気でそんな事を言っている。

 「やっぱり……イカレてるぜ、お前」

 「何……?」

 息も絶え絶えの俺が洩らす言葉に、スネイルの顔が歪む。

 「俺達は……体制の敵である前に……民衆の味方だ」

 ハーレーの理念――イコール、俺の理念――。

 「そんな俺達が……」

 ――湧き上がる感情。俺はしっかりと、奴の瞳を見据えた。

 「……彼等ごと――無差別に殺す兵器を持ってどうする」

 視線が正面からぶつかる――信念の対立。

 「ケッ……」嘲笑う様に――スネイルが唇を吊り上げる。

 「ほざいてろよ……どの道――“Harley’s son”は、もう終わりだ」

 「――何だと?」

 再び湧き上がる、不安。

 それを正確に射抜く様に――奴の言葉。

 「気付いてるんだろ……? “世代交代”は――もう始まってる」



 ≫「ショウ・ブラックボックス……奴は危険だ……」

 男が言う――相変わらず、顔は見えない――記憶から消えている。

 「ハーレーの信奉者にして……最強の戦士(ソルジャー)……奴を消すのだ……」

 それに答える、自分の声――遠くから聞こえる様な――男の驚いた反応。

 何と言ったのだろう――思い出せない。

 それから――再び男の声。肩に手が置かれている。

 ――身体が、震えていた。

 「いいな、マグダネル……犠牲無くして、理想の実現はあり得ない」≪



 「……後見人の糞どもは――あらかた抹殺した」

 淡々とした口調――対照的に、俺の精神は揺らぐ。

 「――“仕入れ先”も、もう見当がついてる……アジアの小国だ。後は……」

 呆然とする俺――スネイルが更に畳みかける。

 「デビットや、お前ら……ハーレーの匂いを、根絶すれば終わりだ――『零式』の実権は、 俺達が握る。だからよ――」

 殺気――唐突に膨れ上がる。

 身体が無意識に、反応しかけた――その瞬間。

 「死んでくれよ――“ハーレーの信奉者”さんよ!」

 噴出――水蒸気爆発の様に、奴の身体が能力を開放する。

 強烈な熱波が、俺の身体を打った。

 「が……あぁ……」

 喉が焼かれていく。両腕が――露出した皮膚が、蝋燭の様に溶解し始める。

 ――死……?――

 それが――脳裏をよぎった瞬間。浮かんだのは――。

 ――仲間の顔。

 ――デビットの顔。

 そして――ハーレーの顔。

 ――いやだ――

 俺の故郷――帰るべき場所。『零式』が――。

 ――愛するものが、歪む――消える。

 それだけは――。

 「……認め、ねえ……絶対に!」意識が急速に――焦点を結んでいく。

 ――その瞬間。

 ――ドクン――

 俺の中で――何かが起き始めた。

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