第三話「放課後と明日の事情」
ホームルーム活動が終わり、放課後となった。クラスメイトはおのおの部活動やら帰宅やらで教室から離れていく。明日からは土曜、日曜と休みだからか、予定の話が俺の耳に遠巻きに入ってきていた。
さて、俺もそろそろ――――。
「ノボルくん!」
「うおっ!?」
席を立とうとしたところで、突然声を掛けられ思わず俺は立ちそびれてしまった。
気がつくと俺の机の目の前に川口シイナが立っていた。
細い体、長い髪、近くでよく見るとわかるが病気をしていたせいか顔はうっすら白みを帯びている。
思わずノートにまとめた内容が頭をよぎる。
彼女はあの事件の何かに関係しているのだろうか……?
いや、いけない……だた事故現場のそばにいただけかもしれないじゃないか。
だけれど、すべての現場に偶然いたなんていことが考えられるのか?
もやもやと考えをめぐらせていると川口が何か決意を決め込んだ表情になっていた。
思ったよりも眼力が強い……気持ちは蛇ににらまれた蛙状態だ。
「あ、あのさ、ノボルくん! 明日の休み、遊びに行かない?」
「……はい?」
あの、なんて言いました?
いまだ真剣な表情を崩さない彼女を見つめたまま、俺の思考がビジー状態に陥る。
俺が川口と遊びに行く? なんでそんなことを、俺にはライカがいるし……?
「話しがあるの。……だからお願い」
真剣な彼女の表情は、到底ただ遊びにいくだけの雰囲気ではない。
だから俺は意を決することにした。
「……わかったよ」
相手はどう取ったのかそれを聞いてパッと嬉しそうに笑みを浮かべている。
俺はそんな彼女を見ながら「ふぅ」とわざとらしく息を吐いて苦笑するしかなかった。
ごめんライカ……。
その後彼女と二、三打ち合わせをした後、また明日ということで教室で別れた。
日課といかいつの間にか恒例となっていたのだが、俺とライカは駅まで一緒に下校する。
当然というか明日は休みなので、どこかに出かけようかとかそんな話が出てくるわけで、川口と約束している俺としてはしどろもどろになるわけがないわけで。
ああ、ライカさん思った通りイライラしておられますよ。
「っで、どういうことで! 明日は遊べないのだって? 私とのゲーセン巡りより何が大切だって?」
「い、いや……。本当に悪いと思ってるんだけど先約がいるんだって」
「へぇ、そう」
ジト目で俺をにらんでくるライカ。
……うぅ、想像はしていたけど、それ以上に彼女の攻撃はつらい。
現に歩くスピードが尋問モードになっている。ゆっくりじっくり、あせらず行こうなスピード。
駅までが遠い。不自然に速度を落としているので、二人して小学生に抜かされるぐらいゆっくり歩いている。
そして彼女は質問するとき一切視線をそらさないで俺をにらんでくる。
正直、俺は気圧されまくり。
だけどそれ以上に、罪悪感とでも言うのだろうか、物凄く後ろめたい。
って……当たり前か……。
「ちなみに、女の子でしょ」
「さ、さあ。どうだろう……」
鋭いっ!?。
もうどう聞いたって肯定にしか聞こえない返事を返して、俺は小さくなっていく。
「おおい……ノボル……。もう、あんたお人よしだから誘われたら断れなかったんでしょ」
「ごめん……」
そういわれながら内心一息つく。
駅も近くなってきたおかげか言及はここまでで終わるみたいだ。
「まったく、わかったわよ。明後日埋め合わせで、ポップン、太鼓、ちゃぶ台返し、それぞれ十回おごってもらうからね」
「ホント、ごめん」
そう謝るころには駅の改札までまでたどり着いていた。
「それじゃ、私は」とライカが改札へと歩いていく。
俺は特に電車に乗るわけではないので「また、今日はホント悪かった」と謝罪をいって彼女を見送る。
なんとか誤魔化仕切れたか。
「あぁそうそう。ノボル、二言忘れてた」
改札をくぐろうとして何か思い出したのか彼女が流れから一度外れ、こっちを振り返る。
「どうしたんだ?」
彼女「んーむー」と言葉を選ぶために間を俺に言った。
「どんな結果になったかちゃんと私に報告すること、それと危なくなったら警察にでも頼りなさいよ」
このときになってやっと分かった。
ライカは俺が明日やろうとしていたことを全部分かってたんだと。
「どう、当たってた?」
「完敗だよ」
まったく、ホントに鋭すぎるよ、ライカ。
彼女を見送り、俺は自分の家へ帰る。
「ともかく明日、だよな」
帰り道でため息を一つついてその息は白く空中に消えた。
明日は川口シイナと会いに行く。
彼女は何者なのか、話すべきこととはなんなのか。