第一話「問いかけ」
俺、城戸ノボルには悩みがあった。
「――――というわけでここの代名詞はwhoを使うわけだ。」
十二月、教室にいても少し肌寒さを感じる中での三限目の英語の授業。
世間では近所の廃工場が倒壊するなどと、事故物騒なニュースが多い中、学校ではまるで関係のない穏やかに時間が流れている。
「それでは次の問題、川口に答えてもらおうか」
眼鏡をかけた教師に指名され俺の二つ前の席の女子が立ち上がる。
第一印象、細い、そして髪が長い、あと俺にとっては小さいころ友達として遊んだことのある人物。
名前は川口 シイナという。
どのぐらい小さかったかというと、あのころはまだ男子と女子がごっちゃになって遊んでいた、幼稚園後半から小学校前半ぐらい。
あのころの面影をわずかに残している彼女は、俺の最大の悩みでもあった。
「えっと……Whomです」
「はい、その通り。ちなみに最近だとwhoでもいいらしい。でも紛らわしいからここの答えはwhom、いいな? それから――――」
無事に答えた川口は席に座りなおす。
ちなみに彼女は高校入学をしたはいいものの、高校生の俺では聞いたこともないような病気になったそうで、半年以上ほど遅れてから俺の通う高校に遅れて通い始めた。
教師からするとちゃんとついてきているのか心配なのだろうか、授業で一回は当てられている。
「――――とこの表をノートに写しておくこと、テストに使うぞ」
教師が黒板に今言ったことの簡略版みたいなものを書いていき、俺を含む生徒たちがそれをノートに写していく。
けれども、俺はノートに別のことを書き綴っていた。
表題は「インビジブルイーター」
小説とかそういうものではなく、実際に起こっている通り魔事件を週刊誌がそう取り上げていたのを拝借していている。
事件内容を簡単に言うと、神出鬼没の通り魔が通行人(この場合被害者)の喉笛を噛みきっていくというもの。
凶器は『歯』、被害者の共通点は特になく、7人襲われ、みな死んでいる。
犯人はいまだこの付近を逃走中だという。
まぁ、それが一般的な(警察的な)この事件の現在の状況。
だけど、警察は見逃している。
全ての被害者は、殺されてしまうのその少し前に彼女が川口がそばにいたということを―――。
そして俺はすべての現場になったその場所で川口を見てしまっている。
「―――――城戸、次の問題をやってもらおうか」
「へ?」
突然、意識の外から声がかかり、ハッと目が覚めたような気分になる。
ずいぶん考えごとに集中していたみたいで、黒板に見たことも無い表が出来上がっていた。
「え、あっと……すみません」
教室中から「くすくす」と微妙にさめた笑いが聞こえてくる。
……迂闊だった。
「それじゃあ、城戸。そこのところは宿題として追加しておけよ。それじゃあ時間だし授業を終わるぞ」
先生のセリフの後、間をおかずにチャイムがなった。
俺はいま人生におけるターニングポイントに立っているのかもしれない。
それはあまりにも非現実的で、信じたくは無いけど、その可能性を捨てきれない。
でもそんな不確かなそんな情報じゃ、誰も笑い話か悪意のある話にしか聞こえないだろう。
俺が確かめないといけない。
しかし、確かめて―――俺はどうしようというのだろうか?