021 ボクと入学試験3
宿に一度戻り、今後の予定を確認する。
試験当日の直前に受付が終わり、それまでに試験会場に入っていなければ受験資格が無くなるらしい。
前もって行動してれば問題なさそう。
今日を含めて3日後、明後日に試験だからそれまでに一つくらい以来は受けられそうだ。
今日は移動だけだったけど、気分的には依頼を受けるより新しく訪れた街を観光して回りたい。
荷物から術式を織り込んだ魔術衣を取り出し、手早く着替える。
袖の中の鞘に大きめのカッターナイフ位のダガーを納め、髪を首のあたりで一つにまとめる。
フード付きの外套を羽織り、フード深めにを被る。
学園があるだけに、治安は悪くないらしい事は調べて知っているけど、それでも子供の独り歩きは犯罪に巻き込まれる危険がついてまわる。
出掛ける準備が出来たところでお腹が鳴る。
そう言えば着いてから食べるつもりで、お昼は何も食べていなかった。
宿の食堂に移動して食事ができるか聞いてみよう。
カウンターに先ほどの女の子が暇そうに座っている。
「ねぇ、今の時間ってご飯食べれるかな?」
「あ、お客さん。
今の時間に出せるのは簡単な軽食だけになります」
暇そうにしていたのを見られてちょっと恥ずかしそうに答える。
「そっか。夕飯は日暮れに戻れば間に合うかな?」
「大丈夫ですよ!今日は私が作る日なので、ぜひ食べてください!」
「うん、それじゃあ夕飯はここで食べるね。」
「いってらっしゃーい!」
そっか。この世界じゃ子供でも家の手伝いとかで働いてるんだよね。
前世じゃ考えられないけど、そうでもしないと生き残れない厳しい世界なんだな。
ここはアルトリア王国のヴォード伯爵が領主として治めているらしい。
フルネームは聞いたけど忘れた。
貴族様なんてボクにとって関わりたくない人種だから仕方ない。
ほら、今も街中を豪勢な馬車が通ったけど、きっと学園に入学希望の子供を乗せてきたんだろう。
何にせよ、自分から関わるつもりがないから無視に限る。
この街は今まで見た街の中でも比較的裕福な土地になるようだ。
街道は綺麗に整備されてるし、店先に並ぶ商品も新鮮なものが多い。
制服を取り扱ってる、と大々的に宣伝してる洋服店もあった。
制服かぁ…やっぱりスカートなんだよね…。
ショーウィンドウに飾られた制服は男子用はブレザーにチェックのスラックス風のズボン、女子用は同じくブレザーにチェックのスカート。ブレザーは学科で色が変わるらしい。
飾られてるのは人気の騎士科の制服らしい。
ブレザーは白で、スカートは青地に白のチェック柄。
男子も同じ色合いだ。
そういえば、と受付で渡された学科案内の紙を見る。
学習課程は、初等部が10歳から12歳までで、必修課程さえ終えれば飛び級も可能。
中等部が初等部終了から3年、こちらも飛び級可能。
高等部がさらに3年。飛び級無しでまともに通えば9年だ全課程が終わるらしい。
初等部は基礎知識と一般教養がメインで、中等部から専修科目が選択式、高等部は中等部の専修科目のさらに専門的な知識や技術を学べるそうだ。
ボクの場合は魔術科を希望予定だ。
他にも魔道具科も気になったけど、当初の目的通り、魔術を勉強しようと思っている。
紙を眺めながら歩いてると、小さい子供とぶつかる。
完全に油断してたので尻もちをついてしまう。
「いたたた…。」
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
近くを歩いてたおじさんが心配して声をかけてくれた。
「あ、大丈夫です。ちょっとボーッとしてました。」
大通りの真ん中で尻もちつくなんて、かなり恥ずかしくて慌てて起き上がる。
「嬢ちゃん、財布はあるか?」
「え?ありまs……ない!?」
「やっぱりか。さっきぶつかった時にスられたな」
「エエェェ!?」
ボクは慌てて振り返り、子供が逃げた方へ走り出す。
まったく、ボクから財布を盗むなんて、身の程知らずだよね。
魔道衣の術式を起動し、身体能力を上げる。
財布にはボクにだけ場所がわかるように魔術式を織り込んである。
この街の道に詳しいとはいえ、子供の足でボクからは逃げられない。
細い路地に座り込み財布の中身を確認しようとしてる子供を見つける。
「ボクの財布、返してくれるかな?」
ビクッと肩を揺らす子供。
「財布さえ返してくれれば衛兵に突き出したりもしない。
抵抗するなら力ずくで取り返すけど。」
「なんだよ!金持ちなんだろ!?
これくらいケチケチすんなよ!」
この物言いである。
「それはね、ボクが一年かけて冒険者として依頼を達成した報酬を貯金したものなんだよ。
この街の学園に通うために。」
自力で貯めたお金を身勝手な物言いをするスリに譲る謂れはない。
「もう1度言うよ。素直に返さないなら、力ずくで取り返す。」
冒険者として稼いだ、と聞いて諦めたらしい子供は渋々といった顔で財布を渡してくる。
ボクは受け取った財布から銀貨を一枚取り出して子供に手渡す。
「なんだよ?」
「ボクはさっきも言ったとおり、学園に通うためにこの街に来たばっかりなんだ。
そのお金でキミに一つお願いがある。」
「俺に出来る事なら…。」
警戒してるよね。
「この街を案内して欲しい。
それだけだよ。」
「案内に銀貨1枚って馬鹿だろ!?」
「むっ。別にキミに同情したわけでもないし、施しのつもりもない。
ただこんな細い道まで知ってるんだから、案内にちょうどいいと思っただけだよ。」
「じゃあ案内してやるよ。でもこの銀貨は返さねえからな!」
「構わないよ。報酬として渡したんだから。
ボクはリリィ。君の名前は?」
「俺はレスティだ。
案内してやるからはぐれんなよ?」
「大丈夫だよ。
それじゃあ案内はお任せしたよ。」
トラブルはあったけど、しっかり案内してもらおう。
次回少年の案内で街を周ります。
魔術科の専修科目は
魔術式、魔術符、各属性の特化科目に分かれます。
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