014 猫と私4(エレナ視点)
市場で久しぶりの買い物を済ませ、家に帰る。
最近は使う事がほとんど無かったアイテムバックから食材を取り出す。
確か食材は何でもいいけど味付けは薄め、だったわね。
野菜と一緒に軽く茹でて薄く味付けをしてスープにする。
「熱いから気をつけてね」
お皿に盛り付けてテーブルに置くと、遠慮がちに登ってくる。
よほどお腹がすいていたのか、まだ熱いご飯を一口食べたところで飛び上がった。
軽く冷ましてあげると、今度はゆっくり食べ始める。
それから完全に傷と体力が治るまで、町で食材を買い、家では猫に話しかける日々だ。
驚いた事に、この子は人の言葉が理解できるらしい。
それに、調べてみるとやはり猫にしては異常なほど魔力量が高い。
さらに適性も四属性。
ただの猫としては規格外もいいところだ。
過去の文献や昔付き合いのあった冒険者仲間に頼んで調べてみたけど、結果は予想通りだった。
もしかして精霊のケット・シーの仲間か、とも思ったけど、ケット・シーは物質的な肉体は持たない。
人の言葉が分かるなら会話が出来そうだけど、問題はあの子が何を言ってるのかがこっちには分からない。
時々相槌を打つような素振りを見せるけど、言葉が分からないので確かではない。
魔導具作りが得意な知人宛に、猫の言葉が分かるようになる物を頼むため、手紙を出してみる。
返事は直ぐに来て、二つ返事で了承を得た。
問題はこの家から相手の場所まで往復で2日半程かかる事だ。
その間のご飯は作りおきにするとして、帰ってきたら居なくなってたりしないか不安だった。
まぁ逃げてしまったならそれはそれで諦めよう。
本来人と関わりたくない、と世捨て人のような生活をしてるわけだし、言葉が分かってると言うのも思い違いかもしれない。
「それじゃあ、行ってくるから、お留守番よろしくね。リリィ」
先日決まった名前。
百合の花の花言葉の無垢に相応しい、美しい毛並み。
ちょっとおっちょこちょいだけど、猫とは思えないほど利口だった。
魔術の素質があるかも、と戯れて魔道書を読み聞かせてみたけど、とても真面目に聞いているようだった。
これで人の言葉が喋れたりしたら、本当に魔術を使えたりして、なんてちょっと楽しみになる。
とにかく魔導具を受け取りに行こう。
会話が出来るようになったら色々話をしてみたい。
2日半の日程を急ぎ足にすれば何とか明日の夜には戻れるだろう。
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魔導具師のギル。
冒険者時代に知り合った変人。
頼んだ通りのものはまず作らない。
今回は猫の言葉が分かるもの、と頼んだけど勝手に自分が考えた機能を追加したり、全く違うものを作る可能性が高い。
「それでも腕は確かなのよね。」
久しぶりに会う知人は、やはり頼んだ通りのものは作らなかった。
でも、期待した以上のものを作ってくれたのは間違いない。
目の前で嬉嬉として魔導具の説明をする、人族の男性。
歳は確か三十になったくらいか。
「で、聞いてるのかね?エレナ」
「もちろんよ。
それで、結局魔力を流すとどうなるの?」
「やっぱり聞いてないではないか!
いいかね?この魔導具は空間属性に干渉、増加と固定と言う三つの特性を加えている。
魔力を通せば、まず肉体を一つの空間と考え、干渉する事で形が変わる。
そのままだと猫のサイズのまま、形だけが変わる。
それでは不完全だ。
そこに増加で空間の領域を増加する事で魔力量によるが、まぁ子供くらいにはなるだろう。
その形状とサイズを維持するのは無駄に魔力を消費する。
そこで固定すれば多少調節を誤っても急に大きくなったりするようなことはない。
つまり、猫の言葉が分かるもの、では無く、猫を人と対話出来るようにする魔導具だ。
一度発動すればつけている間は定期的に魔力を勝手に吸って維持してくれる。
外せば吸った魔力量が無くなるまでは維持できるだろうが、あまりおすすめはせんな。」
「えぇと、取り敢えず着けて魔力を通せば人間になるって言うことでいいのかしら?」
「大雑把過ぎたが、簡単に言えばそんな所だ。
まぁ、その猫も空間属性の適性があるなら魔導具を作ることも出来るようになるだろうが、まずはその魔導具無しで人型になれるようにすることだな。
でないと肉体強化もろくに使えんからな。」
「そうね。その辺は理解してるつもりよ。
それじゃあ、ギルありがとうね。
また困った事とか必要な素材があれば連絡してね。
今回のお礼でサービスするから。」
「承った。
では、その時は連絡させてもらおう。」
受け取った魔導具をしまい、部屋を出る。
予想通り、では無いけど期待以上の物だった。
早く帰ってリリィを驚かせたいな。
逸る気持ちを抑えることなく家路につく。
これでエレナさん視点は一旦終了です。
次回から人形になったリリィの日常やら色々です。
早ければ今日中にもう1話は投稿します。
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