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サメ小説アンソロジー『サメ、サメ、サメ!!』  作者: サメ小説アンソロジー企画班
18/22

鮫に八つ当たりする女子大生の話 作:橙山ロボ富

橙山ロボ富


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http://mypage.syosetu.com/291724/

 九月に入ったというのに、脳ミソまで溶けそうなほどクソ暑い日が続く日本列島。皆さんはどうお過ごしだろうか。


 一昔前であれば、夏といえば海、夏といえば山、夏といえばお祭り、夏といえば花火と、夏にあやかってさまざまな遊びが提案されたことだろう。


 しかし、真夏日や猛暑日などという基準がとうに過去のものになった現代において(今日も最高気温は四十度近い。これで十日連続だぞコンチクショー)、夏といえばエアコンだ。


 わざわざクソ暑いなか出かけて熱中症でぶっ倒れるくらいなら、涼しいところにいたほうがマシである。海や花火を楽しむ者は年々少なくなってきていることだろう。


 そんななか、「やっぱり夏は海でしょ!」と大学の学友たちを強制招集し、免許取って車を買ったばかりの後輩などを足代わりにして海に行こうとしている者がいる。


 彼女の名前は尾立(おりゅう)薊美(あざみ)

 K県立女子大学の文化学部に在籍する女子大生で、先月末で二十一歳になったばかりのピチピチギャル(死語)だ。もう一度言う、ピチピチギャルだ。教授にそう言われたが、本人は意味を理解していない。


 すらっと伸びた長い脚、きゅっと締まったヘソ回り、健康的に日焼けした小麦色の肌を薄着の裾からチラ見させてる姿は、なるほどギャルなのかもしれない。

 もっとも、彼女は幼少の頃からヤンチャな性格で、女友達とママゴトをするよりも男友達とドッジボールをするほうが好きなタイプであった。それは今も変わらず、日常的な運動によって身体は引き締まり、肌はこんがりと焼けているのだ。


 将来を心配した両親によって女子高女子大と進学させられていなければ、今頃は男子に交じって野球でもしていたかもしれないような、そんな娘である。


 さて、そんな薊美の実家は海に近く、祖父が漁師をしていたこともあって、夏場はよく海で遊んでいた。浜辺で陽が落ちるまで泳ぎ、近くの小島まで遠泳で往復したりもしていた。

 泳ぐことは大好きで、海で遊ぶことはさらに大好きである。


 なので、学友たちを地元に引き連れて、一緒に海で遊べれば楽しいだろうと考えたのだ。実家の近くにはきちんと整備された海水浴場もあって、海で泳ぐのが初めていう子でも大丈夫だろう、とも。


 だというのに。


「……鮫のせいで、遊泳禁止ぃ!? ちょっと父さん、それどういうことよ!」


 大学のキャンパス内で、携帯電話を耳に押し付けた薊美が叫んでいた。

 電話の向こうの父親が、苦心して娘を宥めている。


『県外から来たサーファーが鮫に噛まれて、安全だと判断できるまで泳いじゃダメなんだって』

「そんな!」

『そういうわけだから、残念だけど諦めてくれ。あ、友達連れて帰ってくる分には構わないからな』


 長い電話が終わり、しばし呆然としていた薊美は。


「……ぜったい許さない」


 メラメラと燃える怒りを胸に、とりあえず学友たちに謝罪の電話をかけて回った。




 数日後。薊美は海に来ていた。

 件の、鮫が出て遊泳禁止になっている海水浴場、その近くにある主に地元民が利用する小さな海岸だ。国道から下ってすぐにある。


 薊美は、Tシャツに短パンというラフな格好(服の下には水着を着ている)で、念入りな準備体操をしたうえ、海に向かって仁王立ちしていた。

 その背後には、さらに二人。どちらも薊美と同年代の女性がいる。

 ひとりは薊美の地元の友人。もうひとりは薊美の大学の後輩だ。


「……海ね」

「海でしょ」

「海、ですね」


 とりあえずなんかイイ感じの雰囲気を出そうとする薊美に対して、後ろの二人は雑に返事をする。

 薊美は振り返って、二人をジトっと睨んだ。


真紀(まき)加奈(かな)ちゃん。もうちょっとノってきてよ」

「アンタのワガママに付き合ってここまで来てやってんだから、これ以上を望まれてもノーサンキューよ」

「先輩、暑くて倒れそうです」

「もう、仕方がないわね。真紀、アタシの財布から金出していいから、飲み物買ってきてよ。ひとり二本まで」

「オッケー。アンタは何飲むの?」

「ポンタのグレープで。あと、適当にカップ麺も。ちゃんとお湯入れてきてね」

「なにそれ? まぁ、買ってくりゃいいんでしょ? アンタの後輩も借りてくから。ほら、行こ」

「あ、はい」


 うおおぉぉ、と雄叫びをあげながら海に飛び込んでいく薊美を横目に、ふたりは国道に上がって少し歩く。近くのコンビニまで、徒歩五分といったところだ。


「ねぇ、アンタ。加奈って言ったっけ? なんで薊美に付いてきたの? むりやり?」

「あ、いえ、私、地元が山奥のほうで、海で泳いだことがなかったので、一度来てみたかったんです」

「へー、変わってんね。好き好んで海の近くに来たいだなんて。潮風でバイクもチャリも錆びっ錆びになるし、台風のときはマジヤバイよ」

「そうなんですか? 真紀さんは、どうして今日ここに?」

「まぁ、バイト辞めて暇だったしねぇ。たまにはアイツの顔見とこうかと」

「仲が良いんですね」

「腐れ縁よ。地元出ていった奴の中で、なんだかんだ今も付き合いがあるのはアイツぐらいだから」


 しばらく歩いているとコンビニに着いた。冷房の効いた店内に入って飲み物を選ぶ。加奈は麦茶、真紀はアイスコーヒーにした。

 頼まれていたポンタグレープと、カップ麺(検討の結果シーフード味)も買って店を出る。

 日差しの強さに、ふたりして顔をしかめた。


「カップ麺。熱いから、こぼさないように気を付けてね」

「は、はい」

「薊美のやつ、これ何時食べる気なんだろうね? 食べるころにはゼッテーのびてると思うけど」

「そ、そうですよね……」

「アイツ勉強は出来ても基本的にバカだからね。あ、タバコいい?」

「はい、大丈夫です」


 サンキュー、と真紀はタバコをくわえて火をつける。


「アイツ、大学でも色々バカなことやってんじゃない? ウチは中学まで一緒だったけど、いつも話題には事欠かない奴だったからね」

「あ、やっぱりそうなんですね」

「やっぱり、ってことは、やっぱりバカやってんのね……」


 はぁー、とため息とともに煙を吐き出した。


「昔から力加減の分からない奴でねぇ。体育の授業でバスケやってるとき、ダンクしてゴールをぶち壊したり、押し戸を間違えて引いてるのに気付かなくて、力任せにドアノブを引きちぎったり、クラスメイトが他校の不良に絡まれてるのを見つけて、近くにあったバス停の立て札ブン回して追い散らしたり、色々やってるよ」

「さ、さすがですね……」

「最近聞いたのだと、邪魔になってる違法駐車の車を素手で押してどかしたって話だけど」

「それ、私見ました。何してるのかなって見てたら、思いっきりこう、ずりずりずり~って。私びっくりして、尻餅ついちゃいました」

「ははは、あのバカ。バレないようにこっそりやったって言ってたのに、バッチリ見られてんじゃん」


 そんなこんなと話していたら、海岸まで戻ってきた。

 海のほうを見ると、ふたりがコンビニに行く前に海に飛び込んでいた薊美が、ザバザバと岸に戻ってきていた。


「あれ、もう戻ってきてんの? 一回海に入ったら一時間は戻ってこないと思ってたんだけど」

「私たちの姿を見て、帰ってきてるんじゃないですか?」

「そうかなぁ……、というかアイツ、手になんか持ってない?」

「ほんとですね。なんだろう……?」


 ふたりが波打ち際まで行くと、薊美は空いているほうの手を大きく振ってきた。


「おかえりー。ふたりとも、タイミングバッチリね」

「あ、アンタなにそれ……」

「え、ええぇぇぇええええ!?」


 真紀はくわえていたタバコをポロリと落とし、加奈は驚きのあまりその場に尻餅をついた。


「なにって、今回の元凶よ」


 薊美の手には尾びれが握られていて、彼女にここまで引き上げられた鮫が、じたばたと暴れていた。


「薊美、アンタまさかコレを捕まえるために海に来たの?」

「当然じゃない。アタシの計画を邪魔したらどうなるか、分からせてやらないと」

「せ、先輩……、それ、どうやって捕まえたんですか……?」

「普通に泳いで、見つけて回り込んで、掴んで引っ張ってきただけよ。だいぶ暴れてたけど、足付くとこまできたらこっちのもんよ」


 そう言いながら薊美は、鮫を完全に砂浜に引き上げた。

 まな板の上の鯉ならぬ、砂浜の上のフカである。


「おおう、まだ生きてんじゃん……」

「え、エラがぱくぱくしてますね。ちょっとグロテスク……」

「さ、加奈ちゃん、それちょうだい」

「へ? ……このカップ麺ですか? あの、いったい何を……」

「こうすんのよ」


 まだそこそこ熱いカップ麺を受け取ると、なんと薊美は鮫の口めがけて中身をぶちまけた。

 麺やスープが口の中に入り、心なしか鮫も、先程より苦しそうにしている。


 薊美は腹を抱えて大笑いした。


「はははー! お腹空いて人なんて噛むくらいなら、熱々のラーメンでも喰ってなさいよ! この、この! バカザメが!」


 そして足元の砂を掴んで投げ掛けまくっている。

 どれだけ効いてるのか分からないが、少なくとも、後ろで見てるふたりはドン引きしていた。


「ほら! ふたりも投げて投げて!」

「わ、私たちもですか……!?」

「そうよ! 私たちで悪い鮫を成敗するの!」


 あまりの申し出に、加奈は固まる。

 そんな加奈に、真紀はそっと耳打ちした。


「このバカ、自分の気が済まないといつまでもやめないから、形だけでもやってあげて。ウチもやるから」

「は、はい」


 ふたりも渋々、砂をかける。

 こんなところを誰かに見られたら、皆まとめて頭がおかしい人だと思われそうだった。


「真紀、ポンタ出して」

「……はいよ」

「あはははは! 熱々のラーメンの次は、炭酸飲料なんていかが!?」


 のたうつ鮫の、目とかエラとか口とかに、ポンタ(グレープ味)をかけていく薊美。

 まったくもって理解に苦しむ奇行だが、それを突っ込める者はこの場にいない。いないのだ。


「ほぉら、これに懲りたら、さっさと沖に帰れー!」


 そして最後は、尾びれを掴んで引きずって、海の中に放り込んだ。

 鮫は、しばらくばしゃばしゃと暴れていたが、やがて波に乗って沖のほうに運ばれていき、海中に潜っていった。


「うん、スッキリした」


 満足したのか満面の笑みを浮かべる薊美を、真紀と加奈のふたりは、それはもう死んだ魚のような目で見ていたのだった。

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