ポップアップ・サメノミクス 作ふにゃこ
ふにゃこ
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「サメ映画を撮りたい」
「お、おう」
待ち合わせの喫茶店に着くなり断固とした口調でそう言われ、奏史は勢いに押されてとりあえずうなずいた。
「派手なやつがいいよな。飛んだり爆発したりするやつ」
「いきなり難易度高くないか……?」
映太郎が趣味で動画撮影をしているのは知っていたし、そのうちきちんとした作品をつくりたいことは前々から聞いていた。協力を求められれば手伝ってやるつもりではあったが、奏史もこれといって専門的な技術を持っているわけでもない。映太郎だって、先日ようやくバイト代を貯めて、動画編集がそこそこ充分できるスペックのパソコンを手に入れたばかりのはずだった。二人とも素人同然のふつうの大学生である。
「まず最初に撮ってみるなら、特殊技術がいらないものがいいんじゃないのか? 日常ものか、恋愛ものか。地味でも作品としてひとつ形にしてから、ハードル上げて行った方がよくないかな?」
「そういうのぜんぜん食指が動かん。最初だからこそ、好きなものを撮りたい。俺はサメ映画が大好きなんだ」
「それは知ってるけど……CGとか勉強したの? それとも模型つくり?」
「うーん、いろいろちょこっとはやってみた」
「ちょこっとでサメ爆発させられんのか?」
「いや、それがさ」
映太郎は身を乗り出して、少し小声になった。目が子供のようにきらきらしている。
「ここだけの話なんだが、出たらしい。爆弾ザメ、実際に。だからそれを撮る。でサメシーンはそれをそのまま使う」
「まじで」
「こないだの飲み会で吉野先輩に聞いたんだけど、先輩の地元で見たやつがいるんだって。湖から跳ねて空中で爆発したらしい。大した大きさじゃないらしいんだけど、サイズくらいなら撮れればどうにかなる。突然変異種かなんかで、たぶん近々に駆除されるだろうから、撮るならいましかない」
「な、なるほど……」
「このくらいとか言ってたかな、でも魚のサイズなんてみんな盛るもんだから、たぶんもっと小さいはず」
喫茶店のひとり分の机の幅より大きいくらいを映太郎は手で示す。サメにしては小さい。
そういえば鯨の死体が爆発する動画を見たな、と奏史は思い出していた。ガスが体内に溜まってどうとかいう。自然現象でありえないわけでもないということか。
「で、ヒロイン役もオファーが取れてんだ。その飲み会でサメの話してたら、たまたま隣で飲んでたすげー美人が、変わった生き物に興味があるとかでものすごい盛り上がって。自分も見てみたいし出てくれるって言うんだ。金髪のすっげー美人でさ、外人さんかハーフとかなのかな? どこの国とかは聞かなかったけど、ふつうに日本語ぺらぺらで、あ、少し外国語っぽい微妙な訛りがあったんだけど、またそれが可愛いんだ。とにかく美人はなにやっても可愛いっていうか、なにやっても可愛いくらいのレベルの美人っていうか?」
「それ芸能人とかじゃないのか? 下手に素人の映画に出して大丈夫な人?」
「いやそれが別の仕事が楽しいとかで、芸能関係まったく興味ないんだって。そっちの方まったくの素人らしいんだよ俺もびっくりしたけど」
爆弾ザメでパニックが起きて、可愛いヒロインが逃げ惑ってなんやかんや……そのくらいの画なら撮れそうな気がする。そこまで決まっているのなら内容に関して口を出すのも野暮かな、と奏史はその話に承諾した。少し遠出して雑用もろもろを手伝って、ものすごい美人ものすごい美人と映太郎が繰り返す、ヒロインの顔を拝むだけでも損はあるまい。
次の休日。前日の夜に出発して、奏史と映太郎は朝には吉野先輩の故郷、雨川村に到着していた。
「バスで数時間だけど、けっこう田舎だなあ」
「おうよ。エカテリーナさんは午後くらいに到着って言ってたから、俺たちはとりあえずその間にサメ探そう」
エカテリーナさんというのがその美人さんだそうだ。
午前中にサメを見つけ、撮れそうな画を確認してから、合流して三人で内容を話し合い、一泊して翌日に撮影を決行。取り終わらなければ宿泊を延長してもいい。とりあえず使えそうなサメの素材が撮れればあとは帰ってから編集すればいい。アバウトだがそんな予定だった。
民宿に荷物を預けて、おばちゃんに話を聞いた。ここからさらに数時間ほど山を登った先の湖で、一月前くらいに何人も目撃があったそうだ。人の被害はまだ出ていないそうだが、周囲の土砂崩れには注意しろとのこと。道が数か所それで塞がれていて、村の人間はもう近付かないようにしているらしい。水場からそう離れて飛んでくるわけではないと言うから、近付かなければそれほど危険ではなさそうだ。
「あそこ、ペットを捨てに来る人が多くて、昔はいなかったような魚とか虫とかちょいちょい湧いてたりすんだよ。困ったもんだねえ」
二人は早速その湖へ向かった。
「え、なんか話違くない……?」
どーん、どーん、と花火のような轟音が繰り返し響く。あたりの木々はなぎ倒されている。
「……でかい鯉くらいって言ってなかったっけ……」
土砂で塞がれた道を乗り越えて、林をくぐり抜けると、想像していたようなのどかな田舎の湖の風景はそこにはなかった。
絨毯爆撃でも受けたような焼けただれた地面。炭になった大木。生臭い異臭。淵が崩れていびつになった湖から、5メートルはありそうな巨大な魚が、跳ね上がっては爆発していた。
「うおおおおお! こりゃすげえやCGいらずだぜえええ!」
呆気にとられて怯んでいる奏史とは逆に、映太郎はもう興奮した様子でカメラをまわしている。たしかにその観点ではすごい画が撮れているだろうと思う。
「もうちょっと近くに行く!」
「危ないだろ! おい危ないって!」
「大丈夫大丈夫! おまえはそこで待っててもいいぞ!」
カメラを構えたまま映太郎は歩いていってしまった。おそるおそる奏史は空を見上げる。サメが空中で弾けては、ぼとぼとと肉片を落としている。湖は血肉でまだらに赤く染まっている。
ただ、たしかに水場からそう遠くまで被害があるようではなかった。水面から跳ね上がって落ちて爆発すると地面が焼けるのだろう。焦土はそのくらいの範囲には収まっている。空を飛べるわけではなさそうだ。役所には既に連絡して対策待ちだと言う話だから、人が近付かなければ惨事にはならないのかもしれない。自衛隊か、どこの管轄になるのかは知らないが、ともかく誰か専門家が来てなんとかしてくれるんだろう。
「うっひゃあああ! ひょおおおお!」
歓喜の奇声をあげて夢中でそれを撮っていた映太郎が、ふと動きを止めた。
「なんか揺れてる……地震? 違う、山が動いてる……」
映太郎があたりを見まわしはじめて、奏史もそれに気付いた。
「あれ……なんだあれ」
湖の背後の山が、ぐぐっと盛り上がった。ばらばらと土と木がはがれ落ちた。
「あ、やべ、メモリなくなった。替え貸して」
映太郎が戻ってくる。交換のメモリーカードを渡して、撮り終わった方を奏史は鞄にしまう。その間も、山はもりもりと動いていた。
「サメって、山から出てくんのか?」
「いやまさか」
「サメの親玉的なのが出てくるんじゃ」
「だったらあのサイズやばいって」
「何が出てきてもあのサイズはやばい」
「だよな。逃げるか?」
「いや、撮る。これは撮らないわけにはいかぬ」
メモリーカードを入れ直して、映太郎がカメラを構える。
まるで山が立ち上がるようだった。土が滑り落ちて湖を埋めていく。
サメではない。獣のシルエットだった。
黒いふたつの耳。突き出たマズル。
「熊か……?」
丸い顎。鋭いふたつの目。笑ったような口元。
そいつはちょこんとした黒い手で、顔をぺたぺたはたいて土を落とした。最後はふるふると全身を揺らす。地響き。
白い顔。黒いアイパッチ。
「……パンダ……か……?」
溶岩のようなごつごつした下半身をあらわにして、そいつは両手を上げた。
「オーウ! ベリベリキュートですね!!」
女性の声が聞こえて振り向くと、金髪の美人が立っていた。
「あ、エカテリーナさん。ちわっす」
「エイタローこんにちは!」
「あ、この人が例の……映太郎の友人の奏史です、どうも」
「ソウシ、はじめまして! エカテリーナです!」
現実逃避するような気持ちで奏史はその美人に見入った。たしかにすごい美人だ。ぱっちりとした瞳に長いまつげ、ゆるくウエーブした長い金髪を、横でひとつにまとめている。瞳の色は穏やかなグレーで、欧風のようでどこかエキゾチックでもある。均整の取れた体付きと長い手足はさぞ画面映えするだろう。ノースリーブの白いワンピースに、足元は山を歩くには少々頼りなさそうなサンダルだが、歩き疲れた様子もなく、軽やかな独特の空気感をまとって佇んでいる。ポシェットにハダカデバネズミとダイオウグソクムシと威嚇のポーズのミナミコアリクイのマスコットをぶら下げていた。どこで買ってどんなセンスでそれを付けるんだというデザインだが、それすらも、ああそうか変わった動物が好きなんだなと納得して許せる程度に美人だ。ポシェットは青と白のボーダーで、ぱっと見おしゃれだがよく見ると角が付いていて、ミスジアオイロウミウシをかたどったものだとわかる。
どーん、と轟音が響いて奏史は我に返った。先ほどまでと違う場所で爆発が起きたような気がする。
はっとしてそちらを見る。山のサイズのパンダが湖のすぐ近くにそびえ立っていた。そして湖から跳び上がったサメを、両手で挟んで捕まえている。ぱくりと口に放り込む。口の中でぼふぼふと爆音がして、パンダは目を細めておいしそうな顔をする。パチパチキャンディーでも食べているような感じなのだろうか。
また跳び上がってきたサメをつかもうとして、パンダは手が滑ったのか、サメがあらぬ方向に飛んでいった。ずいぶん遠くへ着地して爆発する。パンダは首を傾げて、別のサメに手を伸ばす。サメは身をよじって逃げようとする。パンダは逃さないように手首をひねるが、逆にサメを投げてしまう。手元からいなくなったサメを不思議そうに探す。
どーん。さらに遠くで爆発音。
「やばい、村の方に飛んだぞ」
映太郎が青ざめた。
おろおろする間に、パンダはサメを捕まえようとしては、不器用なのかぽーんと遠くへ飛ばしてしまう。水場に近付かなければ安全どころではなくなってしまった。たぶん数キロ単位で遠くへ投げている。そんな失敗を何度か繰り返して、いやいやをするように首を降ると、パンダは身をかがめて湖をのぞき込んだ。今度は片手を振り上げて、熊が鮭を採るような要領で水面に叩き付ける。何回かは真上に飛ばして、うまく口でキャッチする。ぼふぼふと口から煙を吐く。何回かは、先ほど以上の勢いですっとんきょうな方向へと飛んでいった。見えないくらいの遠い場所で爆音がする。
「ひええ」
被害を想像して奏史は頭を抱えた。
「うーん、こっちのサメは思ったほど可愛くないですね。顔に関してはちょっと期待はずれです。でも聞いていたより大きいですね。小さいから川を上れたんだろうけど、すごいスピードで進化してるのかしら。爆発するたびに体内でなにか起きているのかも。繁殖方法も気になりますね。私、どっちかというと目が離れてる顔が好きなんですけど。ちょっとあの子寄り目すぎですよね」
のんきな声でエカテリーナは呟いている。
「それどころじゃねえ! どうしようこれ!?」
「どうにもなんねえだろ! とにかくまわりの人に知らせろ! 避難とかした方がいいレベルだろこれ! 携帯……くっそ、圏外かよ!」
携帯電話を振りまわす奏史と映太郎を尻目に、エカテリーナは双眼鏡を取り出して湖の様子をまじまじと観察している。
「爆発で遺伝子に衝撃を与えることで突然変異を自ら促しているのかしら……別の個体がずっと下で待機しているように見えますね。オスが爆発して落とした精子をメスが水中で受精しているのでしょうか。ああ、すごいですね。きっと大きな爆発を起こすためにどんどん体が大きくなったのですね。ふむ……顔は可愛くないけど生態は実に興味深いです」
「ちょ、ちょっとエカテリーナさん、落ち着きすぎ」
「やはり生殖活動のようです。エクスタシーに見えますね。自爆SEXなんて、ストイックで情熱的でそそられます私。まさに命を燃やしているのですね」
「え、なんかいま美女がすげえエロいこと言わなかった?」
急に奏史が反応して別の意味でそわそわしはじめた。
「おまえまでそんなこと言ってる場合じゃ……あ、ああおまえ、あれか、生命の危機を感じると人は子孫を残そうとそういう欲求が……そういう場合なんだな、すまん……」
複雑な表情で映太郎は眉間を押さえた。そんな男子二人を気にする様子もなく、エカテリーナは双眼鏡で見える範囲を舐めるように隅々まで見渡している。
「湖から川につながる出口を、爆発で崩してしまって通れなくなってしまったのですね。閉じ込められてしまって、加速する以外に生き残る術はなかったということかしら……この生命力は驚嘆に値します」
失敗続きのパンダがイライラしはじめた。駄々をこねるように頭を抱えてころんと転がる。ころん、いや、ぐばしゃあ。ほぼ山の下半身をねじるようにして、ねじりきれず、土砂が巻き上がる。大木が何本も宙に投げ出された。なぜか異様に長い尻尾を鞭のように地面に叩き付けている。不本意だ、という意思表示なのだろうか。
数メートルの間近に尻尾が飛んできて、奏史は我に返った。
「ちょ、やべえあれ当たったら死ぬまじで」
「逃げろ! とりあえずここから離れるべきだ! エカテリーナさんも、観察してる場合じゃねえよ! 生物学者かなんかなの? 好奇心の塊なの!?」
「お二人は帰るのですか? 映画はどうしますか?」
「もうそれどころじゃねえだろこれ!」
「そう……たしかにこれは大変ですね。じゃあそれはまた次の機会があればにしましょうね。私もせっかくお知り合いになったお二人がここで死んでしまうのでは忍びないですし」
「とにかく村に引き返して……ちょ、エカテリーナさん!」
山を下りようとする二人とは逆方向に、エカテリーナはすたすたと山の方へ向かって歩いていく。
「とりあえずパンダちょープリティなので私は嬉しいです。ここまで来た甲斐がありました。あのパンダもらっていきますよ。名前はなんてつけようかしら、パンダだとカンカン? ランラン?」
小首を傾げて振り向いてくる。
「サメはどうするのがいいと思いますか? 顔は可愛くはないですが非常に興味深い。川への道を開けて海へ戻したら、今度はどうなると思います? あっという間に世界中に広がって、地球を支配する種にさえなるかもしれません。それくらい驚異的です。でも広い場所に出ればあんな激しい行為はしなくなる可能性も高いです」
「え、なに言ってんのあんた、え?」
「あんな危ない生き物広めんな! 怖えよ!! 海に戻れないんなら好都合だろ、閉じ込めて時間稼いではやく自衛隊に殲滅してもらえ!!」
「うーん、そうなんですよね。人間に任せるとやはりそうなってしまうの。私はそれが残念でならない。もちろん、人類の手段はそれなのだし、それはとても尊重すべきだとも思うのですけれど」
少し苦笑うような微笑を浮かべて、エカテリーナは滑るようにパンダへ近付いていく。ワンピースの裾が翻る。
「待って……なんか、あんた、浮いてないか!?」
奏史がそれに気付くと同時、エカテリーナは高く、高く、この世の理に逆らうように、ふわりと宙に舞った。
「はい。飛べますよ」
なんのことはないような風で、そう言ってから、ふと思い出したように唇の前に人差し指を立てた。
「あ、秘密なんですけど、私、実は女神なんです。この世界の生き物の管理をしています。秘密ですよ」
ぽかんとした二人を横目にエカテリーナはパンダにハグを求める仕草をする。
「パンダちゃーん。おいで」
そして、その巨大なパンダの首に抱き付いた。パンダは興味深そうにそれを見ている。
「たまに発生してしまう規格外の生き物を、あちら側の世界に連れていく仕事、しています。生態系が崩れると、この星はそれを捕食する生き物を生み出します。星はそうしてバランスを取り戻そうとするのだけれど、そうして突出した生き物は孤独になってしまう。だから、私はそれを連れていくのです。できるだけ、環境をつくって生かしてあげたい。そして記録に残す。その中で可愛い子たちをコレクションするのは趣味も兼ねてですけど。最近凝ってるのはペガサスの交配で、サラブレッドをつくり上げる美学は人間に教わったのですよ」
エカテリーナがパンダの鼻先を撫でると、パンダは懐くように目を閉じた。
「いい子ね! うーん、それじゃあやっぱりサメちゃんも回収しますか」
エカテリーナが手を伸ばすと、湖から光に包まれてたくさんのサメが浮かび上がった。
「じゃあ、今回はこれで失礼しますね。機会があればまた会いましょう」
パンダも光に包まれて宙に浮いていく。エカテリーナがバイバイとこちらに手を振って微笑むと、光たちは急速に天高くへと昇っていった。突風が巻き起こり、湖の水が逆巻くように吹き上がる。そして彼らは瞬く間に見えなくなった。
あとには、半分なくなった山と半分埋まった湖、倒壊した木々だけが残った。
舞い上げられた水が雨のように落ちる音だけがする。静かになった湖の畔で奏史と映太郎は空を見上げたまま立ち尽くした。
結局、映画は完成しなかった。
エカテリーナが去った際の突風と水でカメラは壊れてしまい、巨大パンダと彼女の映像は手元には残らなかった。彼女とは先の飲み会で撮影日を取り決めただけで、個人的な連絡先の交換はしそびれていて、それ以降の音沙汰はなく。目の前で起きたことがよくわからなすぎて、夢だったんじゃないかと思ったくらいだ。映太郎と奏史は何回か話し合っては、やっぱり彼女が撮れてればなあ!という結論に至っては、その都度中途半端にしてしまうのだった。内心では二人とも、パンダが投げたサメで死傷者が多少なりとも出てしまったことに気が引けていた。浮かれ気分で好きな作品に取り組むには、完全に気分が削がれてしまっていたのだった。
爆弾ザメの記録映像だけを映太郎は持て余してネットにあげ、それは実在したUMAの映像としてチュパカブラやビッグフットやオゴポゴなんかとともに一部の層で少し流行して、それはそれだけで終わった。
□ ■ □
数十年後に人類が食糧危機に瀕し、深刻なたんぱく質不足に陥ったとき、どこからともなく女神が現れて、信心深い土地の湖に不思議なサメを与えたという。
それは手のひらサイズの小さなサメで、レンジでチンするとほどよく中の身が爆発するように弾けて、そのまま食べられるのだという。ポップコーンのような見た目で手軽に食せる上に手軽に繁殖可能なのでポップシャークと呼ばれ、人類はそれを食して生き延びたという。
映太郎と奏史はそれを見てあの女神があのサメを品種改良したのだと直感し、ああ彼女は本当にいたんだという納得とともに、女神の仕事をやっと理解した。
映太郎の撮った爆弾ザメの動画は、人類を救ったポップシャークの貴重な資料映像としてその際にもてはやされることとなる。
それを受けて、数十年ぶりに「やっぱり俺は映画を撮りたい!」と一念発起した映太郎は、食糧危機の中でも動物愛護を叫んで散々社会を混乱させた過激な動物愛護団体を風刺した、巨大爆弾ザメと巨大爆弾イルカと巨大爆弾パンダでパニックになる世界を舞台に生き物の命とはいかにあるべきかを描いた社会派SFファンタジー映画をCGと特撮を駆使してつくりあげ、その作品は時代に名を残す一大ヒット作となるのだが、またそれは別の話である。
奏史はと言えばその頃、エカテリーナが発した「自爆SEX」という言葉で目覚めてしまった性癖を生涯の目的として完遂すべく、ハードにハードを極めた独自のハードSMをプレイとして築き上げ、その爆薬を駆使して自らを折檻するストイックなロマンチシズムに志を同じくする女性に種を蒔き続けて、90余人の子をなし「爆スタシーの父」と呼ばれるまでになっていたが、それもまた別の話である。
《了》




