サメ創作 作者:RAIN
RAIN
マイペ―ジ
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えー、ばかばかしい噺を一席。
最近の鮫っていうのは、随分様変わりした奴がいるようですね。
何せ海を泳ぐだけに飽き足らず、
創作物によっては吠えて、飛んで、陸に上がって、陸を泳いで、雪山や宇宙なんかを泳ぐ奴もいるようでして、最早”サメ”っていう名前の別世界のモンスターでもいるんじゃないかと思えてきますね。
そんな魔訶不思議な鮫が実際に現れたら、皆さんどんな反応をするんでしょうか?
………。
ここは、人種や職業を問わずに様々な人が集う酒場。
この酒場のオーナーはどんな客でも嫌な顔せず受け入れる人柄が人気で、
そんなオーナーのもとに今日も変わった客が来たようです。
「おい、マスター!大変だ!大変だ!」
「おや?どうしました伊達様」
興奮した様子で酒場に駆け込んで来た男。
この男は、伊達という名前の20代後半のフリーターです。
残念ながら、眼帯も漫才もしたことがないごく普通の伊達でございます。
そんな男に酒場のオーナーは飲み物を出しつつ、笑顔で迎えました。
「マスター、この近くにある海沿いの公園を散歩していたらよ?近くの通行人が『海から何か飛び出して来たぞ!』って大声で叫んでたんで、気になって人混みをかき分けながら見に行ったんだよ。そしたら、何と凄く大きなサメが地上に打ち上げられていたんだ!」
オーナーから渡された飲み物を一気飲みした男は、捲し立てて話を始めました。
「そうですか。こんな昼間からぶらぶらと散歩をしていたのですか。早く定職に就いたら如何ですか?」
「問題はそこじゃねえだろ!?つうか、今日は休日の日曜日だろうが!相変わらず、笑顔で毒を吐くな!?」
「そういえば、そうでしたね。それで、そのサメがどうしたのですか?」
どうやらこのオーナー、客によっては辛辣な態度も取るようです。
「それがよ、そのサメは何と…」
伊達と言う男が続きを話そうとすると、今度は2人の男女が酒場に駆け込んで来ました。
「マスター、大変なんでさ!サメが!サメが!」
「すみませんねぇ…息子が突然押しかけてしまいまして」
先程の男と同様に興奮した様子の男の方は、40過ぎの甚平姿に鉢巻きをつけた大工で、名前を大八といいます。
対して落ち着いた雰囲気の女の方は、60過ぎで以前には乳母を経験したこともある老女で、名前を千代というそうです。
「おや、大八様に千代様?お二人とも本日は慌てた様子でどうしました?」
「それが、母親と道端を歩いていたら凄いものを見たんでさ!」
「凄いもの?」
オーナーは困ったような顔で首を傾げました。
「それがですねぇ…あたしが息子と散歩をしていた途中で、泳いでいるサメを見つけたんですよ」
息子の説明を補足するかのように千代も会話に加わって来ました。
「サメは海を泳ぐ生き物ですから、普通のことではないのでしょうか?」
「それがマスター、そのサメは空を泳いでいたのでさ!」
「そうですねぇ…空を飛んでいましたねぇ」
「空を…ですか?」
2人の話を聞いたオーナーはますます困った顔をするのでした。
勿論、サメが空を飛ぶなんて荒唐無稽な話、一度も聞いたことなんてないのですから、オーナーがそんな顔をするのも当然です。
オーナーも嘘臭い話だと思いながらも、2人の親子により詳しい話を聞こうとするのでした。
しかし、そこへ…。
「すみませーん!マスターはいますかー?」
今度は、酒場の近所に住む短距離種目の選手で、茜という名前の大学生が訪ねてきました。
嬉しそうな顔をした彼女は、オーナーがいるのを確認するといつも自分が座っている席に座るのでした。
「おや、今度は茜様まで。本日は常連様の満員御礼ですね」
そう言うとオーナーは、その女性と親子たちにもそっと飲み物を出すのでした。
「茜様も不思議なサメを見たのですか?」
「あっ、分かりますかー?何とそのサメ、火を噴いたり、咆哮したり、最後には爆発もしたんですよー」
さて、ここまで来ると普通の人なら全員でオーナーを騙そうとしているか、本当にいるのか実際に店の外に出て確認しようとするかもしれません。
しかし、オーナーは全員の話を聞いてある可能性に至りました。
「成程、皆さんの話を聞いてやっと理解出来ました。皆さんの見たサメは、海から陸に上がったあとに、空を飛び、火を噴いたり、最後には爆発したのですね。それでは、皆さんに確認したいことが1つあるのですが、そのサメを見た人たちは悲鳴を上げる以外にも興奮したり、カメラを構えた人たちはいませんでしたか?」
オーナーのこの質問に対して、皆一応に「はい」と答えました。
その回答を聞いたオーナーは満足そうに頷くのでした。
「つまりそのサメは、撮影のために作られた撮影道具だったという訳ですね?」
そう言ってオーナーは一人一人に自分の考えを伝えるのでした。
普通に考えれば、サメが海から地上に上がることはありますが、空を飛んだり、火を噴くなんて現実であり得るわけがありません。
ですが、創作のために作られた存在であればどうでしょうか。
時に、現実にはあり得ないことを実現するのが創作の醍醐味であります。
作者が作品やキャラクターに対して命を吹き込むことで、そこに物語が生まれるのではないでしょうか。
「そういえば、マスターはいつから気付いていたのですかー?」
ふと不思議に思った茜は、そうオーナーに質問するのでした。
「皆さんが私の店に入って来た時の表情が、誰も怖がった様子でないときから何となく予想はついていましたよ?もしそんなサメが街中に現れたなら、普通は誰でもパニックになるはずですからね」
何でもないことのように、オーナーは答えるのでした。
「客商売の場合、お客様との信頼関係を築くことが大事です。そのためには、相手や周りにも目を向けることが必要です。なので、新規のお客さんも常連さんも大切にしなければ、経営だって大船どころか泥舟にだってなってしまいますからね」
「へー、商売って大変なんですねー」
「ええ、そうですね。それに、船旅であれ人気の映画であれ航海(公開)に乗客(常客)は欠かせないですから」
お後がよろしいようで…。




