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サメ小説アンソロジー『サメ、サメ、サメ!!』  作者: サメ小説アンソロジー企画班
11/22

サメ勇者召喚 作者:十一屋 翠

十一屋 翠


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http://mypage.syosetu.com/512725/

 大広間は沈黙に包まれていた。


 この世界ヴァーリトゥドは世界を支配せんと企む悪の魔王シームレスによって滅亡の危機を迎えていたのだ。

 世界中の国々が魔王を倒さんと挙兵したが、多くの国が敗北した。

 聖王国が誇る神聖騎士団も、鉄甲帝国が誇る機甲兵団も、魔導皇国が誇る魔術戦団も全てが壊滅した。

 いずれ劣らぬ列強の騎士団がである。

 野に潜みたる豪の者達も立ち上がった。邪悪ながら法外な報酬に目が眩んだ悪党も戦いを挑んだ。

 かつて英雄と呼ばれた者達も再び剣を取った。

 だがだれも魔王には勝利できなかった。


 万策が尽きた。


 そう思われたある時、とある小国の王の下に見知らぬ魔法使いが現れた。

 魔法使いは言った。


「私の開発した勇者召喚魔法があれば魔王を倒す事の出来る勇者を異世界から召喚する事が出来ます」


 王はよくある押し売りの類だと相手にしなかった。

 だが王女が言った。


「どうせ嘘なら試しにやらせて見せてはいかがですか?」


 姫は決して賢い人間ではなかったが、しかし何もせずに諦めるほど無気力ではなかった。

 そして胸が大きかった。


 姫の言葉を聞いた王は魔法使いに言った。


「見事魔王を倒せる勇者を召喚した暁には望みの褒美をくれてやろう」


 魔法使いは言った。


「その時には姫を妻に頂きたい」


 王は驚いた。

 平民である魔法使いが王族を妻にしたいなどといったからだ。

 それは不敬、口にしただけで死罪は免れない。

 騎士達が不埒な魔法使いに剣を抜く。

 魔法使いの命はあとわずかだ。

 だがそれを姫が止めた。


「王が約束した事です。見事魔王が退治されたのならば、私は喜んで貴方の妻になりましょう」


 胸を張って姫が宣言すると、胸がボインと揺れて全員の目が釘付けになった。


 ◆


 魔法使いは城の大広間に魔法陣を引き呪文を唱え始める。

 489(シャーク)時間に及ぶ儀式の後、魔法陣が青く発光を始めた。

 周囲で魔法使いを見張っていた騎士達が息を飲む。

 そして魔法陣から水が溢れ出し、その中心が爆発した。


 おお!?と騎士達が驚きの声をあげる。


「召喚成功です」


 精根尽き果てた魔法使いが最後の力を振り絞って召喚の成功を告げる。


「い、異世界の勇者は!?」


 騎士達が魔法陣の中央を見る。

 そこに居たのは……


「な、何だ……アレ……は?」


 ビチビチッ


 鮫だった。


「魚ですか?」


 内陸の住人である騎士が鮫の姿を見て困惑する。


「あんなでかい魚がいるかよ。川から溢れちまうぞ」


「確かに、10mはある。大広間にぎりぎりの大きさじゃないか」


 物珍しさから騎士が剣を抜いて鮫を突く。


 ビターンビターン!!


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 騎士達が悲鳴を上げて逃げ出す。


「お、おい魔法使い! コレは一体なんだ! コレが異世界の勇者だというのか!」


「…………その通りです!! この生き物の名はシャーク!! 異世界最強の生物なのです!」


「異世界最強だと!?」


 騎士達がシャークを遠巻きに見つめる。


「た、確かにこの牙は凄まじいな。こんな牙をした生き物はドラゴン位だぞ」


「ああ、コイツなら魔王が相手でも勝てるかも知れないぞ!」


 興奮する騎士達がシャークに歓声を上げる。

 そんな光景を見る魔法使いは内心でこう思っていた。


(やっべー、失敗した)


 魔法使いが呼び出したのはただの異世界の生物。しかも水がなければ死んでしまう脆弱な生き物だ。デカイけど。

 召喚者は召喚した対象と魂が繋がる為、おおよその情報を読み取る事が出来る。

 魔法使いがシャークという名前を理解できたのも、シャークに襲われた人間が叫んだ記憶を魔法使いが読み取ったからだ。


(何とかしてこのシャークを戦わせて、その間にこっそり新しい勇者を召喚しなおそう)


 魔法使いは固く決意した。


(でもその前に酸欠で死に掛けてるのを何とかしないとな)


 魔法使いは水魔法を使える魔法使いを急いで呼びに行かせた。


 ◆


「頼むぞ勇者シャークよ!」


 国王が檻に閉じこめられたシャークに声をかける。

 シャークは返事をせず、ただ狭い檻に体をぶつけるばかりだ。


「……本当にコレが勇者なのか? 儂にはただの巨大な魚にしか見えんのだが」


 国王が不安そうな顔で魔法使いを見る。


「異世界の存在ですゆえ。我々とは考え方もあり方も違い過ぎて理解しづらいだけでございます」


 あくまでも当然の事のように話をすすめる魔法使い。


「そ、そうか?」


「ご安心下さい。召喚者である私と勇者シャークは魂で繋がっております。彼は見事魔王を倒して見せるといきまいておりますよ。おっと、異世界の存在ですので迂闊に近づかれませぬように」


 魔法使いは内心で激しい動悸を抑える。

 召喚後、勇者シャークは水魔法のマジックアイテムを身体にくくりつけられた。このマジックアイテムは術者の求める水を生み出すモノで非常に貴重なものだったが、彼が異世界人であるからと言う理由から特別に装備を許された。 


「で、では勇者シャークの活躍を期待するぞ!」


 国王以下騎士団に見送られ、勇者シャークの冒険が始まった。


(さて、急いで召喚の儀式をやり直さないと!)


 魔法使いは夜逃げした。


 ◆


 魔法使いは自らが暮らす山奥の屋敷で再び召喚の儀式を行っていた。


「もうすぐだ! もうすぐ本当の勇者を召喚できるぞ!」


 魔法使いは必死で儀式を続ける。

 そんな時だった。


 ドンドン!!


 人が来るはずのない屋敷のドアを何者かが叩く。


「一体誰だ!?」


 魔法使いは儀式をポーズすると、玄関に向かって歩き出す。


「新聞も牛乳もいらんぞ!」


「魔法使い殿! 勇者シャークが見事魔王を討ち果たしました!!!」


 玄関の向こうにいたのは騎士だった。

 騎士は魔法使いを見るやシャークの勝利を伝えてくる。


「……な、何?」


 信じられない言葉だった。


「勇者シャークが魔王を退治したのです! 占星術師が物見の術で確認しましたので間違いありません!」


 ◆


 魔王シームレスは困惑していた。否、恐怖していた。

 玉座に座る彼の前、そのに居た筈の魔王の部下は一人も居なくなっていた。

 アレだけ人間達に恐怖と絶望を撒き散らしていた頼もしい部下達の姿がだ。

 始まりは数ヶ月前だった。

 とある地方の魔物達が急激に数を減らし始めたのだ。

 ソレをを不審に思った四天王随一の切れ者である地のマッドマンが調査に出向いた。

 そして消息を断った。

 暫くして別の国の魔物が再び姿を消していった。

 四天王一の武闘派である火のフレイモアが


「所詮マッドマンは四天王一の小物、このフレイモアが問題を解決して見せましょうぞ」


 そう言って消息を断った。

 次に四天王一陰の薄い風のストリーマーが人知れず消息を断った。

 暫く気付かなかった。

 四天王最後の一人水のバシャーンが指摘して初めて気付いた。

 魔物の集団失踪の痕跡が魔王城に近づいている事に。

 そしてソレを迎え撃つ為にバシャーンは魔王城の警備を倍増した。


「恐らくは人間共が召喚したと言う異世界の勇者でしょう。ですがご安心を。私の手に掛かれば勇者など恐るるに足りません」


 フラグを立ててバシャーンは消息を断った。


「こんな所には居られません! 私は故郷へ帰らせてもらいます!!」


 明らかに危険なセリフを吐き捨てながら秘書が逃げた。

 その行方は誰も知らない。


「どうしてこうなった」


 現在、魔王城には魔物は殆どいない。

 謎の勇者に殺されたか勇者を恐れて逃げ出したかだ。


「だが勇者とやらの気配など全くない。四天王を倒せるほどの魔力も神聖力も感じない。一体どうやって彼等を打ち倒したというのだ」


 闘えばその痕跡は残る物。闘気、魔力、神聖力、そういった力の余波をまるで感じない。


「ソレほどまでに隠密能力に優れている勇者と言う訳か」


 魔王は玉座を建ち、窓から城の外を見る。

 外には様々な魔物が闊歩している。

 鳥の魔物、獣の魔物、魚の魔物。

 皆幸せそうだ。

 人間達の領域は神の聖なる力が溢れている。

 魔族や魔物が暮らすには闇の力の濃い土地が必要なのだ。

 だからこそ魔王は立ち上がった。魔物達の未来の為に。

 視界の隅に居た魚の魔物がこちらに向かってくる。


「おや、珍しい魔物だな。見た事がない。それに大きいな」


 魔王は思った。この魔物も謎の勇者によって住む場所を追われた哀れな存在なのだろうと。

 それは見た事もない魚型の魔物だったが、魚が空を飛ぶ筈が無い。だから魔物だろう。

 その魚は自分の周囲に水を纏って空中を泳いでいた。恐らくは水の魔力に特化した魔物。

 大型の魔族も出入りできる窓から魚の魔物が入ってくる。


「良い、許すぞ。しばしこの地で暮らすが良い」


 魔王は闇の土地の王にして守護者。魔物達から無条件の信頼を受ける存在。

 だから魔王は油断していた。

 この魚の魔物が自分を襲う筈が無いと。

 だが魔王は気付いていなかった。

 この魚が纏っている水はマジックアイテムによるものだと。

 そして、この魚は魚ではなく、鮫という圧倒的捕食生物だという事に。

 魔王はまだ気付いていなかった。


 ◆


 まさかの事態に魔法使いも声が出なかった。

 だがそれは事実だった。城へと呼ばれた魔法使いは物見の術で魔王が玉座ごと食い殺されたスプラッター映像を映す。皆吐いた。

 だが魔王を退治した事は事実。

 そのニュースは世界を駆け巡り、人々は歓喜した。異世界からの勇者シャークが魔王を討伐したと。

 こうして世界は平和を取り戻し、魔法使いは宮廷魔導師として王宮に召抱えられおっぱいの大きなお嫁さんを手に入れた。

 だがこの時、誰もが忘れていた事があった。


 ◆


 そして数年後。

 魔法使いと姫との間には愛らしい女児が産まれ、2人の結婚を納得できていなかった国王も孫の可愛さから魔法使いと和解した。

 当たり前のささやかな、だが望んでも決して手に入らなかった平和がここにある。

 誰もがそのありがたさを噛みしめて日々を過ごす。


 だが……


「陛下、新たな被害者です」


「またか」


 大臣の報告を受けて国王は頭を抱える。

 このところ、海沿いの町で次々と民が襲われる事件が発生していた。 

 それはこの国だけではなく、複数の国で発生していた。

 目撃者はなく、あるのは死体に残った大きな歯型だけ。


「魔法使いに命じよ。かつて魔王を退治した、勇者シャークを再び召喚せよと」


「はっ!」


 覚えているだろうか、魔王を退治した勇者シャークがどうなったかを。

 彼は魔法使いの手によってもとの世界へと帰る事が出来たのだろうか?


 魔法使いの、新たな勇者召喚の幕が上がる。

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