第二章『情熱之赤囲炎』
あ、やべ、なに書こうかなー (汗)
と、取り合えず第二章です。
最近暇があれば小説ばかり書いてます。
そんなことより絵の勉強をしろ! と思っていてもなかなか手がつかないんですよねー...... 言い訳かな?
それでは、はじまり~はじまり~
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ......」
開幕早々ため息をする烏乃助であった。
ちなみに時間帯は夕刻。鈴鳴が同心から逃げてから数刻が経過し、日は沈みかけていた。
日中は賑わっていた大通りも日が沈むに連れ、通りを歩く人の数が少しずつ減ってきていた。
「烏乃助、元気ない、大丈夫?」
烏乃助の隣を歩いていたうずめが心配そうに烏乃助に声を掛けてきた。
しかし、今のうずめでは烏乃助を心配する為に必要な『感情』がないため、やはり上っ面な感じに聞こえてしまうが、それでもうずめは烏乃助のことを気に掛けるため、感情が無くてもその様な声掛けをした。
「もしかして、鈴鳴って人に会えたのに見失った事で落ち込んでるの?」
烏乃助は顔を下に伏せながら答えた。
「ちげーよ、この町にあの男、鈴鳴がいることは分かったし、それにこの町に滞在してる間はまたあの男に遭遇する可能性だって有るしな」
「じゃあなんでそんなに落ち込んでるの?」
すると、烏乃助は鋭い形相でうずめを見た。
「誰のせいだろうな~誰のせいで鴨居から貰った路銀の半分以上を失ったんだろうな~」
「.........誰?」
うずめは本当に誰か分からず首を傾げた。
「おめーだよ! なんでちょっと目を離しただけで団子五十人前喰えるんだよ! どうなってんだお前の胃袋はよ!」
すると無表情だがうずめは偉そうに両手を腰に当てて言った。
「むふー、これぞ神の御業」
「そんな御業いらねーよ! 誰得だ!」
「でも、店員さんが私の御業を見て色々と良くしてくれたよ? 団子を更に一人前おまけしてくれたりとか」
「それ、茶屋にとっては御利益あるだろうな~でも俺達にはなんの得もねーじゃねぇか! どうすんだよ! これじゃ次の目的地である若狭(福井県)所か旅籠に泊まれるのも後二、三回じゃねぇか!」
「でもでも、鴨居が言ってたよ? 『月の初めに隠密部隊の人間が旅に必要な路銀、一ヶ月分を届けてくれる』って」
「後半月じゃねぇか! 半月も持たねぇよ! こんな持ち金じゃ!」
「でもでもでも、旅籠に泊まれるお金はあるんでしょ? もうすぐ日は落ちるし今日は旅籠に泊まって今後の事は明日考えよ?」
「誰のせいだと......あ~もういいや、今日はなんか色々疲れたしさっさと旅籠に泊まるぞ」
半ば諦めた烏乃助はうずめを連れて旅籠に向かった、が。
「いやーすみませんお客さん、本日は満室でして」
「え?」
仕方なく他の旅籠に向かった。
「今日は観光客が多くて部屋が空いてないんですよー」
「は?」
仕方なく他の旅籠に向かった。
「いやー残念、もう少し早めに来ていれば空いてたんですが」
「...................」
その後十件の旅籠に回ったがすべて満室であった。
どうやら今の季節観光客が多いようである。
途方にくれた烏乃助はうずめを連れて、町のはずれにある屋台で晩飯であるおでんを食していた。
「ふぉぉ! この『おでん』って言うのおいしー、おじちゃん、それとそれとそれとそれとそれとそれとそれとそれとそれとそれとそれお願い」
「あいよー! 嬢ちゃんよく食べるねー! おじちゃんそういう子好きだよー!」
「むふー」
「待て待て待て待て待て待てぇい! お前あんだけ団子食っといてまだ食うのかよ!? 本気でお前の胃袋どうなってんだ!?」
さすがにこれ以上食われると本気で路銀が底をついてしまう。
ここで烏乃助は一ヶ月前、旅立つ時に鴨居が言った言葉を思い出す。
『いいか? 道中決してうずめから目を離すな、いいか? 絶対だぞ』
烏乃助はてっきり鴨居が言っていた例のいるのかどうかもわからない黒幕からうずめを守ってくれ、と解釈していたが、まさかこの事を言っていたのだろうか?
確かに目を離したら持ち金の半分以上が食費に変わってしまった。
ちなみにここまでの道中のうずめはおとなしかったのだが、ここ、信濃に着いた途端本性をむき出しにしたのである。
多分この信濃の横流町の活気に当てられたのだろうか?
「これ以上有り金を食費に変えるな! せめて後三個にしろ」
するとうずめはその光が宿っていない瞳を烏乃助に向けてこう言った。
「烏乃助のケチんぼー」
表情自体は全然変わっていないが、多分怒ってる? しかし今の彼女にそんな感情はないので、どういう気持ちでそんな事を言ったのかよくわからなかった。
「じー、」
「んだよ」
「烏乃助、それおいしい?」
それとは、烏乃助が飲んでいる信濃の地酒のことを言っていた。
「おめーには、はえーよ」
「やっぱりケチだー」
「へ! 言ってろ言ってろ」
すると二人の会話に屋台のおっちゃんが割り込んできた。
「あんたら随分仲が良さそうだね~兄妹かい?」
「......まぁそんな所だ」
旅をしてる最中はそういう設定で行こうと思った烏乃助。
と、その時であった。
「よーおっちゃん! 繁盛してるか?」
「お! 鈴鳴の坊やじゃねぇか! 昼間の喧嘩はなかなかよかったぜ!」
「おいおいおっちゃん! 俺もう十六だぜ? いつまでもガキ扱いしないでくれよ!」
「がはははは! そいつは悪かったな!」
明日探そうと思っていた『鈴鳴 源国』が屋台の暖簾をくぐって現れた。
「お? あんたは、昼間の」
「あ?」
■
「ハハハハハ! そうかそうか! あんたら兄妹二人で旅してるのか! 大変だな!」
あの後、烏乃助は鈴鳴にすぐに交渉を持ち掛けず、まずこうして酒の席で意気投合しようと考えた。
鴨居の話が本当なら、交渉、即戦闘になりかねない、それに昼間の事も考えると尚更である。
烏乃助は確かに神通力が使える者との戦闘を望んでうずめとの旅を了承したのだが、この男、鈴鳴は場所がどこであろうと売られた喧嘩はその場で即買う男であると分かっていた。
なので烏乃助との戦闘になれば必ず神通力を使うはず、しかも鈴鳴が所有するうずめの心と神通力は『怒火』、つまり町のはずれとはいえ、町に近いこの場所で火の神通力なんか使えば確実にこの町は火の海になりかねない。
さすがの烏乃助もそのような事態は起きてほしくないので、まず鈴鳴と戦闘をするならできるだけ人気が無い場所にしようと思っていた。
なのでまずこうして意気投合して、人気が無い場所に鈴鳴を誘き出して、そこで鈴鳴と戦闘をしようと思ったわけである。
「いや~にしてもあんたらさ~」
「ん?」
鈴鳴は烏乃助とうずめを交互に見た後にこんな事を言った。
「全然似てねーな! ハハハハハハハハ!!」
酒に酔っているのだろうか? すごい失礼な事を笑いながら言ってきた。
まぁ確かに実の兄妹ではないが。
「でさーあんたらなんで旅なんかしてんだ?」
早速、鈴鳴の方からそのような事を切り出してきた。
流石に今は、正直に答えるわけにはいかない、さてどうしたものかと悩む烏乃助。
そんな時うずめが話に入ってきた。
「私たちが旅をする理由、それはーー」
「それは?」
「私たち、..........大道芸人なの!」
「え?」
突然の事で逆に烏乃助の方が驚いてしまった。
「へー! まじかよ! そいつはすごいなー!」
「うん、私たちのお父さんとお母さんは私たちのために必死に働いてくれていたんだけど、ある日お父さんが不慮の事故で他界してしまって、お母さんは病に伏してしまったの、私たちはお母さんの病を治すためにどうしてもお金が必要なの、だからこうして小さい頃から磨いていた誰にもできない芸の技を披露しながら旅をしてお金を稼いでいるの、」
よくそんな嘘をすらすら言えるなーと、烏乃助は関心してしまった。
もしかしたら今のうずめに感情が無いせいで頭の中に雑念がないのかもしれない。
だが、烏乃助は思ってしまった、こんな作り話信用できるはずがないと、だがしかし。
「うおー! まじかよー! なんて健気な子だー!」
号泣しだした、もしかしたらもしかしなくても鈴鳴は単純馬鹿なのかもしれない。
「じゃあなにか!? あんたは妹さんの護衛として付き添ってくれているのか!?」
「え、......あ、うん.......その通りだ」
一応便乗する烏乃助。
「や、やべー! 俺、この兄妹を応援したくなってきたぜぇ!」
「ぐす、鈴鳴の坊や、あっしもでさー.......」
屋台のおっちゃんまで泣き出した。
あんたもかよ! と烏乃助は心の中で突っ込んでしまった、もしかしたここの人たちはみんなこんな感じなのかもしれない。
「い、いいぜ妹さん! だったら俺達にあんたが磨いた芸を見せてくれ! あんたら今日泊まれる場所が無いんだろ? だったら妹さんが汗水垂らして磨いた芸を見せてくれた後に良かったら俺の所に泊めてやるぜ!」
「委細承知」
「お、おい!」
と、烏乃助は小声でうずめに語り掛けた。
(おい、いいのかよ? お前なにか芸ができるのかよ?この流れで失敗したらなんかまずい気がするんだが)
(大丈夫、私に任せて)
烏乃助の不安を尻目にうずめは、立ち上がって屋台の外に出る。
すると、懐から扇子を取り出して突然扇子を使った舞を披露する。
その舞はとても見事なものであった、一矢乱れることも一切流れが止まることもなく、彼女の容姿も合わさってとても美しい舞で、見る者全てを魅了するものであった。
おそらく、彼女が出雲に居た頃に磨いたものかもしれない。
鈴鳴だけでなく烏乃助までもが目を奪われていた。
そこからであった、突然周囲の風の流れが変わって、周囲の風がうずめに向かって流れ始めた。
ーーあれ?これって......。
「烏乃助、私に向けて皿を投げて、」
「なに?」
「いいから、」
言われて烏乃助はうずめに向けて皿を軽く投げた、すると。
「うおおおおお!?」
烏乃助が投げた皿がうずめの周囲を空中で回り始め、まるでうずめと皿が共に舞を披露してなんだか幻想的な雰囲気であった。
そして、舞が全て終わるとうずめは宙に浮いていた皿を手に取って烏乃助と鈴鳴に向けて会釈して終了した。
「........」
鈴鳴はしばらく沈黙し、そして。
「す、すげー!? どうやったんだ!?」
烏乃助は分かっていた、うずめが先月『影隠 鎌鼬』から取り戻した神通力『喜風』を使ったんだと。
しかし、そんな事を知らない鈴鳴にとっては、まさしく奇術の類いに見えたのかもしれない。
「どう? すごかった?」
「ああ! 凄いな! 妹さん! く~こんな凄い芸ならお母さんの病を治す金なんかすぐ貯まるぜ!」
「うん、ありがとう、」
うずめは、なんだか嬉しそうに微笑んだ、だがその微笑みはまだ、なんだかぎこちなかった。
すると一緒に観ていた屋台のおっちゃんがこんな事を話し出した。
「お嬢ちゃん見事なものだね~そんな凄い芸ができるのてっきり『葉名心 推戴』だけかと思っていたよ」
「葉名心?」
聞き慣れない名で首を傾げる烏乃助。
「あれ? お兄さん知らないのかい? 今日本を歓喜の渦に巻き込む大道芸人だよ? 名前から性別は分かりづらいが女性でな、なんでも奇術師の家系の生まれらしくて、幼少の頃から磨いていた奇術の腕を披露しながらお供を連れて日本中を旅してるんだよ、そこんところあんたらに似ているな」
この泰平の世の日本を歓喜の渦に巻き込む奇術師、『葉名心 推戴』。
なんだか泰平の世の日本を震撼させる人斬り『暁 黎命』とは真逆だな、と思った。
「そいつ、技はそんなに凄いのか?」
「凄い所じゃねぇよ! あっしも去年ここ、横流町で彼女の奇術を見たがあれは凄かったなーまさか、突然宙に浮いて、空中で推戴本人が鳩になったり、布を頭に被せただけで体はそのままなのに頭だけ別の場所に移動したり、観客を箱に閉じ込めたら観客が蝶々になって、その蝶々に布を被せたら元に戻ったりしたんだよ!」
「.................へ、へー」
確かに凄い奇術だけどどう返せばいいのか分からなかった烏乃助であった。
「はぁ!? お、おいおっちゃん! そんなすげー人が去年来てたのかよ!?」
鈴鳴が食い付いてきた。
「そりゃ推戴が来てた時はおめー同心にしょっぴかれてたじゃねぇか」
「あーーーーーー、見たかったーーーーーー」
本気で落ち込む鈴鳴であった。
「ま、まぁ妹さんの芸が見れただけでも良しとするか! ...........て、ん?」
よく見るとうずめは、舞が終わってもまだその場に立ち尽くしていた。
「あ? どうしたんだお前?」
「.......」
「.........もしかしてお前も『葉名心 推戴』の奇術が見たいのか?」
無言で頷くうずめであった。
「妹さんも見たいかー、あ! そうだ! 妹さんの芸と葉名心 推戴の奇術を組み合わせたらもっと凄いことになるんじゃないか!?」
「お! そいつは名案だねー」
おっちゃんまでもが鈴鳴の提案に同意した。
確かに見たことはないが葉名心 推戴とうずめの神通力を組み合わせたらもっと凄い芸が生まれそうな気がする。
「うーん、しかし推戴は今どこにいるのか分からないんだよなー、あんたらも推戴に会いたければ噂を頼りに探した方がいいよ、あの人本当に神出鬼没だからさ」
と、おっちゃんが烏乃助とうずめに言った。
しかし、葉名心 推戴、彼女が心の所有者ではない限り烏乃助達には関係のない話であった。
■
「へっくしょん!!」
「あれ? 推戴様どうしましたー?」
「あ、いえ、今どこかで私の噂をしている人がいたような気がして」
「ははっ! なんすか、そのありきたりなー」
「こら! 居子! 推戴様に失礼だろ!」
「あ、い、いえいえ、いいんですよ、ただそんな気がしただけですのでお気に為さらず」
「だってさー」
「......まぁ推戴様がよろしいと言うのでしたら」
「ふふ、華申、貴方は真面目なのは良いことですが私なんかに敬語は不要ですよ、私達幼馴染みなんですから」
「そ、そういうわけにはいきません!.......仕来たりですので」
「あ~華申さん顔真っ赤だ~」
「う、うるさいぞ居子!」
「ふふ、お二人とも本当に仲がよろしいですね」
ここは、薩摩の夜の海岸、そこには三人の人物が立ち話をしていた。
一人は武士のような成りをしており、いかにも真面目そうな青年と、外見は十八歳ぐらいで、やたらと丈が短い着物を着た少女と、女性にしては成人男性と並ぶぐらいの長身のいかにも大人しそうな二十代ぐらいの女性の三人が夜の海を眺めながら話していた。
「それにしても、まさか私なんかの技で皆様を喜ばせることが出来るなんて、夢のようですね」
「それもこれも、推戴様の努力の賜物です、なんせ長い間汚名を着せられていた御家の為にここまで頑張ってこられたのですから!」
「はい、ここまでこれたのも貴方が私を支えてくれたお陰です、ありがとう華申」
「あ、.......いえ.......そんな自分なんて」
「華申さん、まーた顔真っ赤だー推戴様の事が好きならいい加減、告白すればいいのにー」
「お、おい! 居子! またそうやってからかいおって! 自分と推戴様は主従関係であって.......」
「あら、私は別に構いませんよ? 華申」
「え? は!? ち、ちょっと推戴様~」
三人の楽しげな会話が夜の海岸に響いていた。
だが、その楽しい会話も近いうちに出来なくなるのであった。
なんせ『影に隠れる異形の者』が華申と居子の主である稀代の奇術師『葉名心 推戴』の命を狙っていたからである。
■
「おー見えた見えた! あそこが今俺が住んでる村だ!」
烏乃助とうずめと鈴鳴の三人は屋台を後にして、夜の竹林道を歩いていた。
鈴鳴の住みかに向かっていたのだが、そこは横流町ではなく、町から三里(約6km)程離れた山の麓にある小さな村であった。
「なんでお前あんな所に住んでるんだ?」
烏乃助はてっきり鈴鳴の住まいは町にあると思っていたのだが、まさかの町を出ての移動で少し意外であった。
「まぁ、確かに昔は町に住んでたんだけどよ、町で喧嘩買ったり喧嘩両成敗ばっかしてたら奉行所の人間に追い出されちまった(笑)」
「いや、笑い事かよ」
「いーんだよ、確かにあん時はちと辛かったが、だけどよー辛いときこそ無理やりでもいいから笑っときゃいいんだよ!」
「なんじゃそりゃ」
辛いときこそ笑え、一見良さそうな言葉に聞こえるが、その言葉を言った時に見せた鈴鳴の笑顔はなんだか虚しそうに見えた。
「にっしてもあんたら、まさか俺を尋ねてこんな所に来たんだな!」
一応あの後、自分達が大道芸人として、鈴鳴が火を操れる噂を聞いてここ、信濃に来た............という設定にした。
さすがにまだ本当の事を言う訳にはいかないと烏乃助は思ったのである。
「なっはははは! まぁ俺もびっくりしたけどな! 一年くらい前だったかな? 空からへんてこな光が落ちてきてさーそれに触ったらこんな事ができるようになっちまったんだよなー! ホントなんだろうなこれ、まぁどうでもいいが」
ちなみに夜の竹林道を提灯も無しでここまでこれたのは、鈴鳴が火の神通力で掌の上に火の玉を作ってそれを明かり代わりにしたからである。
「........お前はその力がなんなのか気にならないのか?」
「う~ん俺バカだからさー難しい事も、この力の事もよくわかんないんだよなー、でもバカにはバカなりに考えた答えがあるのさ!」
「.......それは?」
少し嫌な予感がした烏乃助。
「そう! この力は! 俺の最強に対する情熱が具現化したものなんだと思う! きっと!」
そういう解釈をするのかと、思った烏乃助。
まぁある日急に神通力が使えるようになったとしても何も知らなければどう解釈すればいいか困るだろうな。
「ところでさっきから気になっていたんだが、なんでお前は最強を目指してるんだ?」
「あーそれか、........それは村に着いてから話すよ、妹さん、なんだか眠そうだしな」
よく見るとうずめはさっきから何度も目を擦って今にも眠ってしまいそうだった。
■
村に着いた頃には村の者達は深い眠りについていた。
烏乃助達は住人を起こさないように鈴鳴の住居に入った。
鈴鳴の住居は掘っ立て小屋であった。壁は隙間だらけで、なんだか年季が入った小屋のように思えた。
夏場は涼しいかもしれないけど、冬場は寒そうな小屋であった。
布団を敷いて先にうずめだけ寝かし付けた。
「にしても妹さん、こんなちっさい体でよく旅に出ようと思ったな、それだけお母さんが大事なんだろうな」
「まぁな」
と言っても烏乃助はうずめの母親のことなんて知らないのだが。
「でさ、さっきの続きだが」
「ああ、俺が最強を目指す理由? 単純な話、俺は弱い自分が気に入らないのさ」
「弱い自分?」
「そ! 人間生きてたら嫌なこと、辛いことなんぞいくらでもあるだろ? ガキの頃の俺はもっとバカでさー、人生に降りかかる不幸は全て己の弱さが招いた結果だと思い込んじまったのさ、それ以来俺は弱い自分が人生の中で一番憎いと思うようになっちまったのさ、まぁ今となっちゃ自分自身に八つ当たりしてるだけかもな」
「..........」
弱い自分が憎い、それはやはり鴨居が言っていた六年前、鈴鳴の故郷が幕府の役人に焼き払われた事が原因だろうか?
最強、烏乃助はその言葉に対してなぜか浮かない表情を浮かべるのであった。
「おっと! 悪いな、こんな辛気くさい話をして!」
鈴鳴はそんな烏乃助の表情を見て、てっきり自分のせいで烏乃助にそんな顔をさせてしまったんだと思ったらしい。
「いや、気にする必要はねぇよ、話題を振ったのはこっちなんだし」
「なははは! やっぱ兄ちゃん、あんた目つきは悪いけどいい奴だな!」
「目つきは関係ねー」
二人は笑いながら、その日の夜を過ごした。
■
翌日、三人は村を出て町に向かっていた。
一応、二泊三日、鈴鳴の元に厄介になる話になった。
鈴鳴は警ら(パトロール)と称して、家族の形見である槍を持って町に出向き、烏乃助とうずめは、大道芸人として、町に芸を披露しに行くことになった。
本当は鈴鳴と行動を共にしようと思ったのだが、当の鈴鳴が、「俺と一緒にいたら厄介事に巻き込まれてしまうぜ? あんたは良くても妹さんをそんな事に巻き込むわけにはいかないしな」
という、気遣いもあって町では、別行動を取ることにした。
今日の夕刻に、例の村で落ち合うことになった。
「それで烏乃助、今日はどうするの? 昨日のあれをここで披露すればいいの?」
「いや、する必要はない、というか、お前はあんまし目立たない方がいいのかもしれない」
いつ、どこで、うずめを狙っている者が潜んでいるのか分からないからである。
「じゃあどうするの?」
「........今晩、鈴鳴と闘う、場所はここからあの村に続く竹林道だ」
「......」
「前回は風だったから良かったが、今回は火だよな? だから日中は火に対する対策を立ててから奴との決戦に挑もうと思う」
「.......ねぇ烏乃助」
「あ?」
「......闘うの? あの人と」
「どういう意味だ?」
質問の意図が分からず質問で返してしまった烏乃助。
「まだ昨日の晩しか話してないけどあの人、本当はいい人なんじゃないの?だったら事情を話せば......」
すると、突然烏乃助の目がとても冷酷なものとなり、うずめを睨み付けた。
「お前なんか勘違いしてないか? あいつとまだ交渉の余地があると思ってるのか?」
「烏乃助?」
烏乃助の豹変を見て疑問に思ううずめ。
普通ここは驚く所だと思うが今のうずめにはそれが出来なかった。
「あいつがいい奴だから交渉すれば闘わずに済むってか? 笑わせんなよ、お前昨日の竹林道でのあいつの言葉忘れたのか?」
あの時うずめは眠気に襲われていたので、あんまし覚えていなかった。
「あいつは、神通力の事をこう言ったぜ、『これは俺の最強に対する情熱が具現化したもの』、これが何を意味するのか分かるか?」
鈴鳴が神通力をその様に解釈した、確かに違和感がある、まず鈴鳴は一度鴨居が送った隠密部隊の人間と接触し、交渉の際に神通力のこと、うずめの心の事を聞いているはず、なのにその様に解釈したと言う事はーー。
「あいつは、交渉をしようとした隠密部隊の人間と交渉所か会話すらしていないことになる、あるいは俺達に隠しているか」
「烏乃助」
「だが奴の性格を考えるとそれは考えにくいな、それに奴とは今は親しい関係だが、交渉をすればなにが起こるか分からん」
「烏乃助」
何度も呼ぶうずめを無視して話を続ける烏乃助、今の烏乃助は明らかに様子がおかしかった。
「やはり奴は危険だし、それに奴は最強を目指してるんだろ?ならどう交渉しようと戦闘は避けられないし、それに俺は奴とも闘ってみたいしな」
「烏乃助」
さっきから烏乃助の声はあまりにも無機質なものに聞こえた。それはまるで今のうずめのようであった。
「それに奴も気付いてるだろうぜ? 俺の実力を、だったら尚更........」
するとうずめは烏乃助に抱き付いた。
まるで我に返ったかのように烏乃助の目はいつも通りに戻った。
「烏乃助、私、そんな烏乃助嫌い、今の烏乃助まるで今の私みたいだった」
「..............ちっ」
舌打ちをして烏乃助はうずめを振りほどいて歩き出し、その後をうずめは追い掛けた。
「悪かったな、今のは忘れてくれ」
「それで結局どうするの?」
「そーだなーまずは......」
いつも通りに戻った烏乃助、さっきの烏乃助はなんだったのだろうか?そもそもうずめはこの『黒爪 烏乃助』という剣士について何も知らなかった。
烏乃助はうずめと出会う前までは一年近く日本全国を放浪していたそうだがそれはなぜ? そもそも放浪する前の烏乃助は何をしていたのか? なぜ鞘から抜くことができない刀なんて使っているのか?
それに先程の烏乃助、まるで感情もなにも感じ取れなかった、それどころか人間味も感じられなかった。
まるで人の形をした無機物のような感じであった。
今の所謎だらけな男であるがうずめは、少しずつこの男の事を知っていこうと思った。
■
時刻は夕刻、烏乃助とうずめは、対鈴鳴戦に備えて色々と済ませた状態で鈴鳴と落ち合うことになっていた例の村に続く竹林道を歩いていた。
「つーか買い出しなんてする必要あったのか?」
烏乃助は野菜が大量に入った籠を背負っていた。
「当然だよ、今の所お世話になってるんだし、それに今晩あの人と戦うんでしょ? だったらちゃんと食べておかなきゃ」
「なんだあれか? 腹が減っては戦はできぬってか? んな必要.......」
ぐ~、と烏乃助の腹が鳴った。
「ね?」
「.........わーたよ、でもお前料理出来るのか?」
「安心して、出羽に居た頃は暇があれば『みそぎ』と一緒に料理の練習してたから」
「え?」
あの口が悪いお姫様と?なんだか物凄く不安になった烏乃助。
その時であった。
ドカァァァァァァァン!!
と、凄まじい爆発音が村の方から聞こえ、そして村の方から煙が見えた。
「烏乃助!」
「ああ、行くぞ!」
■
二人が村に着いた頃には村は火の海になっていて、よく見ると火の中に黒焦げとなった村人の姿があった。
そして、火の手が回っていない場所に二人の人影が見えた。
一人は槍を構えた鈴鳴、と、もう一人は昨日鈴鳴に喧嘩を売っていたあの金棒を持った恰幅のいい中年の男であった。
「ま、待ってくれ鈴鳴! 俺はここまでやるつもりはなかったんだよ! ただお前に仕返しがしたかっただけで!」
男は腰を抜かして尻餅をついて、怯えたその目で鬼の形相と化した鈴鳴を見つめていた。
まさか、こんなひどい事をしたのはあの男なのだろうか? それで鈴鳴は怒って神通力を暴走させたのだろうか? だがーー。
「別似、鬼前刃、何面悪苦音画世、悪意野刃、俺堕亜!」
もの凄くドスが入った低い声で鈴鳴は言った。
するとーー。
ゴオォォォォォォォォォォォ!!
と、凄まじい音を響かせながら鈴鳴の全身から火が吹き出た。
烏乃助とうずめは鈴鳴から結構離れているはずなのに、それでも二人から汗が吹き出る程の熱気であった。
「俺我弱意正堕! 俺我弱意正出皆死惰!!」
「な、なに言ってんだよ、おめー、こ、ここ、ここの連中を殺ったのは、お、おお俺だぞ!」
男は鈴鳴のその姿を見て泣きながら自白した、だが。
「弱意正堕! 俺野正堕! 憎異憎意憎囲! 近奈自分難火死出四魔餌画江絵獲重!!」
どうやら鈴鳴にはもう男の声は聞こえていなかったようだ。
「こ、こいつ、いかれてやがるぅぅ!」
すると、鈴鳴の周囲から巨大な火柱が上がり、男はそれに巻き込まれてしまった。
男は悲鳴を上げる間すらなく一瞬で黒焦げとなり、そして跡形もなく男は完全に焼失してしまった。
「くっ!」
烏乃助は鈴鳴のその凄まじい火力を見て驚愕していた。
すると鈴鳴がこちらに気付いたようだ。
「亜、亜亜亜! 似、兄血楊弍、妹賛! 素、済馬音画!俺野正堕! 俺野.......」
「.........」
すると、烏乃助は無言で背負っていた籠を下ろし、腰に差していた『鞘から抜けない刀』を腰から抜いた。
「烏乃助?」
「.......お前は風の神通力でここの消火活動に当たれ、俺はこいつと今から闘る」
うずめは無言で頷いて一人、火の海と化した村に向かって行く。
そして、烏乃助は右手に持った刀を肩に担いでゆっくり鈴鳴に近づく。
「苦、! 来流名! 死似態之火!?」
鈴鳴の体からは、まだ火が吹き出し続けていた。
どうやら鈴鳴は神通力を制御出来なくなったらしい。
「なにがあって、こんな事になったのかはよくわからんが、やっぱお前ムカつくな」
「亜亜!?」
「そうやってなんでも、かんでも自分のせい、自分のせいて、なんだそれ? マジきもいな、偽善者か?」
突然、燃え盛る鈴鳴相手に挑発をする烏乃助。
「俺がお前にムカついてる理由はそれだよ、それ、なんで怒りを他人にぶつけないんだよ? なんで自分自身に怒りをぶつけてんだよ、マジ意味不だな」
「愚、我亜亜亜亜亜亜!!」
「それで最強とか笑わせる、他人に怒りをぶつけられない臆病者が、町のいざこざ程度を相手にして実戦経験を積んでる振りをして、自分より弱い奴倒して自分が強くなったと思い込んでる、今のお前、そこら辺のチンピラと対して変わらないぞ?」
すると、鈴鳴の胸に『怒』の一文字が浮かび上がった。
「手、手前! 言輪勢手桶罵亜亜亜亜!! 安他殺死血末多羅、妹賛餓悲四六十思伝、手御出差納火蔦我、亡知蔦事火亜亜亜亜!!」
「お前が? 俺を殺す? は! 出来るものなら殺ってみろよ! この臆病者が! つーかなんだ? そのしゃべり方、すっげー聞き取りにくいんだよ! うだうだ言ってねーでさっさとかかってこいよ、この誇大妄想狂が!」
「雄雄雄雄ッッ! 行苦是兄血楊!焼鬼尽喰死手殺流世雄雄雄雄雄雄雄雄ッッ!!」
未だに全身が燃え盛る鈴鳴はその鬼の様な形相で烏乃助を睨み付けて、手に持っていた槍の穂先を烏乃助に向けて構え、まるで大砲のごとき勢いで烏乃助に突進してきた。
第二話「こころいかれる」第三章『怒鈴思火子』に続く
いやー町で烏乃助とうずめと別れた後の鈴鳴の身になにが起こったのでしょうね?
次回は前半が鈴鳴が主人公で、後半から烏乃助vs鈴鳴戦です。
それでは、お楽しみに~.........思手苦鈴世奈亜亜亜亜!!