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こころあつめる(仮)~烏と不思議な少女の伝奇時代冒険譚~  作者: 葉月 心之助
第二話「こころいかれる」
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第一章『熱血馬鹿野郎(ねっけつバッキャロー)』

 お待たせしましたー今回から第二話が始まります。まーた長い長い一話の始まりですねーちなみに今回は豪華二本立てです。


 まぁ今が盆休みだからこそ作業が捗っただけですけどね。

 それでは、はじまり~はじまり~

 ここは、影隠の里。その里が日本の何処に存在しているのか、それを知る者は殆どいない。そんな影隠の里に建立するとある屋敷、通称『妖怪屋敷』、その二階の窓から影隠の里を見下ろす女が一人。


 その女は妖艶な雰囲気を漂わせ、露出度が高い忍び装束を身に纏っていた。見た目は二十代後半辺りだろうか。


「あら~?」


 と、女はその豊満な胸の間に挟んであった一枚の木札を取り出す。

 その木札には『鎌鼬』と書かれていた。

 すると突然、木札に亀裂が入りそしてーー


 パアァァァン!と、勢いよく破裂して周囲に飛び散った。


「あらあら~? 私の鎌鼬ちゃんがいなくなっちゃったわ~死んだのかしら~」


 とても、のんびりした口調で独り言を呟く女。

 その時、女がいる部屋の襖が開き一人の男が入ってきた。


 その男は袖を切り落とした忍び装束を身に纏い、首から膝裏まで伸びる首巻布(マフラー)を首に巻き、そして、特徴的なのが顔に巨大な古傷が有る事、その傷は右の眉から左の頬にかけて大きく続いていた。

 まるで何かに引っ掻かれたような傷であった。

 外見は二十代後半から三十代前半辺りである。


「あら~ん、若様もうお帰りですか~?」


「ああ、此度の任務は早く終わってな、側近として『牛鬼』を連れていったが、どうやら必要なかったらしい」


「あら~また若様一人で片付けたのですか~? 駄目ですよ~そんな事したら牛鬼ちゃんが拗ねちゃうわ~」


「それより鴨居の元に向かった鎌鼬がやられたのか?」


 若様と呼ばれた傷のある男は床に散らばる木札の破片に目をやる。


「そのようでございます~」


「意外だな、あの男がやられるとは、だが『紅葉(もみじ)』よ、確かあの男、人格が戻りかけていると言っていたな?」


「はい~なぜかは解りませんが~どうやら戻りかけていたと言うより元に戻っていた可能性が有りますね~」


「ではなぜ再び術をかけなかった?」


 すると紅葉と呼ばれた女は胸元から扇子を取りだし、その扇子を口元に当てながら答えた。


「だって~鎌鼬ちゃんったら~元に戻った事を必死に隠していたんですもの~私はそれを見るのが好きでしたし~もし人格が戻ったことが我々にバレてしまった時の鎌鼬ちゃんの恐怖と絶望で歪んだ顔を見て見たくて~つい放置してしまいました~」


 紅葉はとても邪悪な笑みを浮かべてその様なことを語った。


「悪趣味な女だ」


「ですが~その悪趣味のお陰で影隠は今の所安泰ではありませんか~」


「ふん、まぁよい」


「それで若様~どうします~? 新たな『鎌鼬』ちゃんをお作りになりますか~?」


「必要ない、あの、男を超える忍なぞそうはいまい」


「あらら~? 随分買っていらっしゃるのですね~」


「無論だ、確かにあいつは冷酷さに欠けてはいたが忍としての腕は本物だ、いずれ我の右腕にしたかったのだが、おしい奴を失ったな」


 若様と呼ばれた男は目を瞑って残念そうにする。


「ええ、本当に..........おいしい人を失ったわぁぁ~」


 紅葉は先程よりも一層邪悪で人がしてはいけないような、そんな気が起きてしまうほどの笑みを浮かべた。


 若様と呼びれた男は鎌鼬の事を忍者として失った事を悔やんだ事に対し、紅葉は鎌鼬のことを忍者としてでも仲間としてでもなく、まるで自分にとっての御馳走としての鎌鼬を失った事を悔やんでいるようであった。


 あの鎌鼬の記憶でもこの女は、人の人格が壊れる所を見て興奮したり、鎌鼬の恐怖と絶望で歪んだ顔を見てみたいと言ったりと、恐らく鎌鼬以外の人間に対してそうなのであろう。


 人を壊して喜ぶその様は、正に人を喰らう『妖魔』のようであった。


「それで若様~鴨居の件はどうします~? 次は『うわん』ちゃんでも向かわせましょうか~?」


 急に真顔に戻って話題を変える紅葉。まるでさっきまでの事が無かったかのような素振りであった。


「......いや必要ない、その件に関しては保留になった、我らが『主』の命だ」


「あら~? 御主人様が~? いが~い」


「紅葉、我らが主の命令に一切疑念を挟むな、我らは所詮『影』、影は本体の動きに黙って従うものだ、故に主が右手を上げれば我らも黙って右手を上げるのみ」


「心得ております~」


 すると若様と呼ばれた男は踵を返して部屋から出て行こうとする。


「もうお休みになられるのですか~?」


「ああそうだ、そして紅葉、今後鎌鼬以外の八鬼衆を失ったとしても増員をする必要はない、なんせもうすぐだからな」


「えぇ、もうすぐ......『逢魔の落日』が訪れるのですね~楽しみだわ~」


「そうだ、我らが悲願が達成される時が近付いている、それまでにこの力をうまく使えるようにしよう」


 すると若様と呼ばれた男の掌から何やら黒い霧のようなものが立ち込めてきた。


「一年前か、『空から不思議な光』が降ってきてそれに触れたらこんなものが出せるようになった、これが何なのか分からないが、この力をより一層、磨きを加えれば我はもっと強くなれる」


 男は掌から立ち込めていた黒い霧を握り潰して自室に戻っていった。


「うふふ若様ったらまるで子供のようなお顔でしたわ~いつかそのお顔を壊してみたいですわ~」


 若様と呼ばれた男に対してもこの口振り、この女に忠誠心というものがあるのだろうか?


初花(うぃはな)ちゃ~んいる~?」


「は、ははははい! こ、こちらに!」


 と、天井裏から一人の小柄な忍び装束の少女が現れた。その首にはやはり首から膝裏まで伸びる首巻布をしていた。


「悪いけど床に散らばったこれ、片付けてくれる~?」


 紅葉は、床に散らばった木札の破片を扇子で指して少女に掃除を命じた。


「ふぇ!? そ、そのために小生(しょうせい)を呼んだでありますか!?」


「あら? 嫌だ?」


 紅葉は初花と呼ばれた少女を睨みたけた。


「め、滅相もございません! 小生(しょうせい)喜んで掃除させて頂きます!」


「あら、有り難うね」


 初花は半泣きになりながら掃除を始める。


「し、しかし鎌鼬殿が居なくなるのは、す、少し寂しいですね」


「あ~そう言えばあなたと鎌鼬ちゃん仲が良かったわよね~」


「は、はい! 鎌鼬殿はとても優しいお方でした! 小生にとって兄のように尊敬しておりました! .........だからこそ」


 と、初花の手が止まって急に怒った顔になる。


「だからこそ! 鎌鼬殿を殺った鴨居が許せないです! いつか天誅を下してやりたいです!」


 初花は手に持っていた木札の破片を突然食べ始めた。


「小生の大好きな鎌鼬殿を奪いやがってぇぇ! 許せない! 許せない! 許せない! 許せないでございますぅぅぅ!」


 そして、初花は木札の破片を全て完食してしまった。


「ハッ! す、すすすすすみません! 紅葉様! つ、つい取り乱したりして! う、うぅ感情的になるなんて忍者にあるまじき行為でございますぅぅ......」


 突然我に返った初花は今度は、ひどく落ち込み出した。確かに忍者にしては感情の起伏が激しい娘である。

 それにしても木札を食べてなんともないとは、この少女の胃袋はどうなっているのだろうか?


「いいのよ~初花ちゃん、その怒りを近いうちに鴨居にぶつけてやりなさいな~」


「り、了解したであります! そそ、それでは失礼いたします!」


 すると初花は影の中にその姿を消しながら部屋から去っていった。


「く、くくく前の初花ちゃんと今の初花ちゃんを比べると本当に別人の様だわ~私の忍法も本当におもしろい......いえ、恐ろしいわね~」


 すると紅葉は胸元から七枚の木札を取り出した。

 そこにはそれぞれ『牛鬼』、『女郎蜘蛛』、『うわん』、『初花』、『がごぜ』、『夜叉』、『濡女』

 と、それぞれ妖怪の、名が書かれていた。


「これからも頑張ってね~私の可愛い可愛い妖怪ちゃん達~」


 熱血!灼熱!伝記時代剣花活劇!こころあつめる(仮)の第二話「こころいかれる」

はじまり~はじまり~



 烏乃助とうずめが出羽を旅立ってから早一月が経過していた。現在は長月(9月)の半ば、今二人の眼前には大通りを埋め尽くす程の人、人、人。


 二人が今いる所は信濃(長野県)の町街道である『横流町』。

 ここはかつて三つの村が互いの領地を巡って争っていたが後に三つとも和解し、三つの村が合併して生まれたのが横流町である。

 横流町の特徴は他国から北陸を目指してよく行商人や旅人がこの町の街道を行き来するので、この大通りで店を開き、旅人を呼び込んで商売をする者が数多く見受けられる。

 更に色んな人が他国から来ると言うことは、裏で非合法な商売をする者もいるということである。

裏表両方共商いが盛んな町、それが横流町であった。


「人がいっぱい、私こんなに人が沢山いる所を見るの初めて」


 そんな人だかりを見て、花柄で清楚な着物を着こなし、華奢で小柄で腰まで伸びたその髪は透き通るような白髪で、その瞳には一切の光が宿っていない少女、うずめがそんな事を呟いた。


「あーそういやお前箱入娘だったな」


 こちらは黒い着物を着崩し、裾がボロボロな袴を履き、ボサボサな頭で、腰まで伸びる総髪を一まとめに縛り、そして病人のような目つきをした男、黒爪(くろづめ) 烏乃助(うのすけ)は、言った。


「? 箱入娘ってなに?」


「お前......まぁいいや、で? 鴨居の話だとこの町の何処かにその『鈴鳴(すずなり) 源国(もとくに)』って奴がいるんだろ?」


 当然、二人は買い物に来た訳でも観光に来た訳でもなく、その鈴鳴と言う人物を訪ねてこの町に来たのである。


「つってもこの人だかりから見つけるのは大変だな、まず俺達は鈴鳴がどんな奴かも知らないしな、取り敢えず聞き込みでも......あ?」


 烏乃助は隣にいるうずめを見ると、そこにはうずめの姿はなかった。


「烏乃助ー」


 と、少し離れた場所にうずめがいた。


「取り敢えず団子食べよ?」


 今うずめがいる場所は茶屋の前であった。


「お前なーこんな人だかりで一人でふらつくなよ、迷子になっても知らんぞ」


「そんなことより団子食べたい」


「そんなことって........つーかお前この町に来る前にも団子食っただろうが」


「今は別腹、それに聞き込みをするんでしょ? だったらまずこの茶屋で聞き込みをしようよ」


 うずめは一人で茶屋の中に入っていった。


「あ、おい!......たく、なんかあいつ自分勝手だな、鴨居のヤローずっと甘やかしてたんじゃないだろうなぁ」


 文句を言いながら烏乃助はうずめが入った茶屋の中に入っていった。



 取り敢えず烏乃助は団子を食べながら茶屋の店員に鈴鳴について聞いてみた。


「え? 鈴鳴ですかい? それでしたらこの町でなにか荒事が起きたらそこに行ってみるといいですぜい」


「町の荒事?」


「へい、鈴鳴の坊主は町で荒事が起きるとすぐさま駆けつけて仲裁に入ろうとするんです、なんせ色んな所から人が来ますからねぇ、荒事やら喧嘩なんて毎日見れますぜい」


「鈴鳴は自警団かなにかか?」


「いんや、あいつが荒事の仲裁に入る理由は、簡単に言えば自分も喧嘩がしたいだけでさぁ」


「はぁ?」


 それは仲裁と言えるのか? と、烏乃助は疑問に思った。


「喧嘩両成敗、と称してどちらが悪いとか関係なしに強引に双方を成敗してしまうんでさ、鈴鳴はそんな事を三年近く繰り返してるんでさ、あいつ強くなることしか眼中にない奴でな、喧嘩の仲裁も強くなるためにやってるとか」


 鴨居の話だと鈴鳴に交渉を持ち掛けたら隠密部隊の人間が襲われたと言っていた、強くなることしか眼中にない男、そして、荒事が起こると問答無用で双方を成敗してしまう。


 それだけ聞くとやはり自分勝手な気違いにしか思えないなと、烏乃助は思った。


「そりゃあ迷惑な話だな、皆困ってるんじゃないか?」


「最初はそうでしたが、何だかんだでこの町の治安が大分良くなったんでさ、なので鈴鳴の坊主に感謝する者も居れば恨みを抱く者も居ますな」


「半々と言うことか」


 ちなみにうずめは烏乃助の隣で団子を黙々と食べていた。


 その時であった、茶屋の外が何やら騒がしかった。

「お! 噂をすれば、旦那! 外で鈴鳴の坊主の喧嘩が見れますぜ!」



「おうこらっっ!! 鈴鳴! こんガキャ!」


 大通りで怒号を叫ぶ一人の恰幅(かっぷく)の良い中年の男がいた。

 その男の外見は甚平(夏のくつろぎ着)を着、無精髭が濃い身長は六尺(180cm)ぐらいだろうか。その背中には大きな金棒を背負っていた。


「んだよぉおっちゃん、いちゃもんか?」


 そんな男に対してこちらはとても小柄な男であった。

 身長は五尺三寸(159cm)ぐらいで修験装束(天狗が着てるあれ)を身に纏い、額には真っ赤な布が巻かれ、その右手には槍が握られていた。

 槍の大きさは全長で六尺四寸(192cm)と、怒鳴っている中年の男よりも大きい槍であった。


 ちなみに穂には布が巻かれているため、その穂でうっかり人を斬ってしまうことはないであろう。


 そんな二人の男を取り囲むように大通りの人達は立ち止まり野次馬として二人の男を取り囲んでいた。


「テメーにやられた俺の弟に代わってテメーを今この場でぶっ潰してやる!」


「なーんだやっぱいちゃもんだ、あんたの弟が昨日、茶屋の娘さんに手を出していたのが見えたから成敗してやったんだよ」


「テメーちゃんと確認したのか!? 俺の弟とあの娘は恋仲だったんだよ! それをテメーは!」


「あーはいはい。そんな事どーでもいいから早く来てくれよおっちゃん。つーか恋仲って、俺から見たら娘さん嫌がってるように見えたぜ?そっちこそちゃんと確認したのか?」


「こ、こいつぅぅ!」


「つーか早く終わらせようぜ? ここの人達に迷惑になっちまう」


 激昂する男に対して槍を持った男は随分と落ち着いていた。

 すると中年の男は背中に背負っていた金棒を手に取って槍を持った男に殴りかかった。


「おお! 終わらせてやる! その槍ごとへし折ってやるよっっ!!」


 すると槍を持った男は右手に持っていた槍を逆手に持ち変えて穂先とは反対側の石突を中年の男に向けて片手で構えた。


「ぐ、ぼぉ!?」


 中年の男は自分からその石突に突っ込み、槍の石突が中年の男の鳩尾(みぞおち)に深々とめり込んだ。


「ぎ、あああああ!? 痛い! む、胸が『熱い』ぃぃぃ!?」


 よく見ると男の胸から煙のようなものが上がっていた。

 あまりの痛みと熱さで男は振り上げた金棒を落として、その場で(うずくま)ってしまった。

 そして、槍を持った男は不敵な笑みを浮かべながら踞る男を見下ろす。


「おいおい、おっちゃんよぉ。その程度の『怒り』で俺の情熱の炎をかき消せると思うなよぉ?」


 その様子を見ていた烏乃助は団子を食べながらしっかりと観察していた。

 まず五尺三寸しかないその体格で身の丈を遥かに越える槍を片手で持ち、自分より大柄な男の突進を受けてもビクともしないほど槍を持った男の『腰構え』はしっかりと出来ていた。

 ちなみに槍を持った男が逆手に持ち変えた理由は、穂先で大男を突かないようにするだけでなく、脇が締まりやすくするためであった。


 いくら腰構えが出来ていても脇が開いていたら、自分より大きい男の突進を止められるはずがない。

脇を締めることで腕を体に密着させると、腕に掛かる負担が減るのである。


 重たい物を持つ際も脇を締めて、体に重たい物を近付けると腕に掛かる負担が減るので、これを読んでいる皆様も是非試してみてください。


「鈴鳴ぃ!」


「見付けたぞぉ!」


「てめぇのせいで商売揚がったりだぁ!」


「くたばれ! この気違いがぁ!」


 と、烏乃助がそんな分析をしているうちに人混みから六人の男達が飛び出して槍を持った男に襲い掛かってきた。

 しかも全員包丁、鎌、斧、鉈、短刀、鋸と殺る気満々な凶器を持って、槍を持った男に迫り来る。


 ーー恨まれ過ぎだろ、と烏乃助は心の中で突っ込んだ。


「お! お! いいねぇ、これで俺はもっと強くなれるぜぇぇ!」


 と言って槍を持った男は嬉しそうに迎え撃つ。


「死ねぇ..... げ!?」


「うお!?」


「何ぃ!?」


 槍を持った男は自分の右側から攻めてきた三人の男に向けて槍を投げつけて、三人の男達の動きが一瞬止まった。

 ちなみに穂先や石突と言った先を向けて投げたのではなく、槍の長柄の部分を三人に投げつけた。

そして、左側から攻めてきた三人に向かって素手で突貫する。


「おらよ!」


「ぐぇ!?」


 と、槍を持っていた男は先程倒した大男を踏み台にして左端の男に向かって跳躍し、顔面を殴りつけた。


「ぐああああ!? あ、熱いぃぃぃ!!」


 よく見ると殴られた男の顔には火傷の跡があった。

 槍男は続けて今倒した男の隣にいた包丁を持った男に飛び掛かる。


「この野郎!」


「シッ!」


 包丁男は槍男の喉を突き刺そうとするが槍男はそれを紙一重で避けながら相手の懐に入り、包丁男の脇腹に強烈な肘打ちを繰り出す。


 その肘打ちは、正面を向いていたへそと両足の爪先を完全に真横に向ける程の腰のキレを使った肘打ちで、その姿はまるで槍を構えたような姿であった。


「ぐげえええ! 熱い、熱い、熱いぃぃぃ!」


 そして、包丁男の隣にいた、男は戦意喪失しかけていた。

 そんな男に槍男はゆっくりと近付きそして....。


「しゃあ!」


「ぎゃあ!」


 今度は腰のキレを使った槍のごとき鋭さの突きを繰り出し、槍男の拳は深々と男の鳩尾にめり込んだ。


「ああああ熱いぃぃぃ!!」


「怯むな! 殺れ!」


 先程の三人が一斉に飛び掛かる。


「よっ! ほっ! はっ!」


 槍男は三人の攻撃を掻い潜って、地面に落ちていた槍を蹴り上げて再び槍を持ち、その穂先を三人の男達に向けた。



 それは、あまりにも一瞬であった、槍を構えた瞬間、三人の男達は地面に伏して踞ってしまったのである。


「あ、あああ!」


「つ、つつつ!」


「い、いいい!」


 どうやら男は一瞬で三人の男を槍で突いたらしい。

 その最速の突きを普通の人は見えなかっただろうが、烏乃助にはその突きを全て見ることができた。


 どうやら突いたのは三人の男達の腕、肩、肘、と致命傷にならない場所を突いたのである。

 すると、周囲から歓声が上がった。


「いいぞぉ! 鈴鳴!」


「今日もいい喧嘩だったぜ!」


「明日も頼むぜ!」


 どうやら、このような事は、ここでは日常茶飯事らしく、完全にここの人達の見せ物になっていた。


「応よ! これからもこの最強の男! 『鈴鳴 源国』をよろしく!」


 その時であった、鈴鳴と呼ばれた槍男の背後で最初に倒した大男が再び金棒を持って、鈴鳴に殴りかかった。


「死ねぇぇぇぇ!!」


「ふっ!」


 と、人混みから烏乃助が飛び出して、その鞘から抜くことが出来ない刀を腰から抜いて、大男の脳天を打ちつけた。


「ぐ、えええ? だ、誰だおめー......」


 大男はようやく気絶してその場で倒れた。


「お、おいおい兄ちゃんよぉ! 邪魔すんなよ! 俺の一発逆転劇を皆に見せ付けてやろうと思ったのに!」


「ああ、そいつは悪かったな、まぁ俺もお前に用があるんだがな」


「へぇー兄ちゃんも俺と闘いたいのかい? いいぜ乗ってやる!」


 鈴鳴はその槍の穂先を烏乃助に向けて構えた。


「は? お前人の話をーー」


 ピーーーッ! と笛を鳴らす音が鳴り響いた。


「こらー! 鈴鳴! またお前かー!」


 人混みを掻き分けて同心が現れた。


「あ、やべ! 兄ちゃん、喧嘩はまた今度な!」


 と言って鈴鳴は人混みを掻き分けて同心から逃走するのであった。


「待てー! この悪ガキがー!」


「ガキじゃねー! 俺もう十六だぜ!」


「私から見ればまだまだガキじゃー!」


 鈴鳴と同心はその場から居なくなってしまった。


「..........なんだありゃ」


 烏乃助はその場で立ち尽くすのであった。



 ちなみにうずめは茶屋でまだ団子を食べていた。

 烏乃助は後に後悔することになる、もっと早くうずめを止めておけばあのような悲劇は起きなかったであろうと。


「お、お嬢ちゃんよく食べるねぇ、外の喧嘩見に行かなくていいのかい?」


「いいから、団子五人前追加で」



 第二話「こころいかれる」第二章『情熱之赤囲炎』に続く。

 うーん、正直自信がないのですが、『初花』を妖怪に含めて良いのかなー、でもでも、自分は伝承での初花のあの健気な姿は好きですけどね。


 次回は鈴鳴との会話がメインで、戦闘はまた三章からです。

それでは、お楽しみに~...........してくれよ!

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