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こころあつめる(仮)~烏と不思議な少女の伝奇時代冒険譚~  作者: 葉月 心之助
第十話「こころあいする」
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第六章『心王』

 久し振りだなー(棒)

「テメェラァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「『渾淳(こんとん)』ッ!!」


 その身を焼きながら放った政至の最強の一撃。


 あらゆる防御を無視する最大級の奥の手が、雷神のこめかみに直撃するのであった。


 雷神の鋼鉄の肉体の正体は知らないが、恐らく『アイツ』と同じだと思った。


 かつての自分の部下『影隠 牛鬼』が使用する『忍法・一鬼闘仙(いっきとうせん)』と同じ仕掛けではないかと読んだ。


 あれの詳細は語れないが、同じの筈、でなければ、政至、深鮫、雷剣に勝ち目がない。


「ああああああああああああ!!」



「ガーハッハッハッハッハ!! よく頑張ったじゃねぇかー」


 ダメであった。雷神を倒すには至らなかった。


「……」


 政至と深鮫と雷剣は、反撃した雷神によって敗北してしまったのだ。


「……口惜しいのぉ……もう『その状態』であるなら……我々の勝ちでもいいものぉ……」


 その状態、そう、政至の奥義は確かに雷神の防御を無視して、その側頭部を串刺しにしてのけたのである。


 明らかに即死、の、筈なのに、頭に刀が串刺しになった状態でも、雷神は死ぬことはなかったのだ。


「………………あ、いや、実は自分自身でもビックリだわー、さすがのオレも死んだかと思ったんだけどなー、まぁいいか」


 雷神が、自分達に止めを刺そうとしている。


「んじゃ、死ね」


 ここまでか。






 ――動くな。


「ッ!?」


 ? なんだ? 急に、急に雷神の動きが止まった?


 ――そのまま自害しろ。


「ぐ、ぶっ!?」


「な、なんじゃ?」


 政至は目を疑った。あの雷神が、頭に刺さった刀を引き抜いて、自分の喉に突き刺した?


「が………げ……………」


 なんで? なんでこんな事を? 


 ――更に死になさい。


「ごぁっ!?」


 ――もっと死になさい。


「げぇ!?」


 ――死になさい。


 ――死になさい。


 ――死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。


「うるぶ、ぺ、………………がぼ、がぼ、べばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(死ね死ね死ね死ねうるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)」


 何が起きたか分からないが、雷神は、喉を滅多刺しにしても、まだ生きている。なんて生命力だ、この世の生物じゃないのか?


「あれ? これだけしても死にませんね。それじゃ『動くな』」


「んぐべ、ば!?」


 自分の喉を刺しまくっていた雷神が、今度は石のように固まってしまった。


「やぁやぁ皆々様。巨人退治の尽力、誠にお見事でした。お疲れ様です」


 少女とも、少年とも似付かない抽象的な若い声が聞こえる。それが何処からなのかは、判別できない。


「こっちこっち、こっちですよ『伏真(ふすま) 政至(まさゆき)』さん。『深鮫(ふかざめ) 挟樂(きょうらく)』さん。えぇと……『鎧さん』」


「……ッ!」


 声がする方向に視線を送ると。そこには、あの神通力の少女『うずめ』が武士のような格好に、紫色の鮮やかな羽織を纏って立っていた。


 ……いや違う。コイツは、うずめではない。.


「……いや、うずめ嬢とは違うな、何奴じゃ?」


 政至の問いに、少しめんどくさそうに、そのうずめ似の人物は自身の事を語り始める。


「あーはいはい、僕は『紫上(しがみ) 兼晴(けんせい)』。表向きは越後の若大名で、その正体は――」


 と、紫上と名乗ったコイツは、自身の正体を明かそうとしたが、その言葉を止めて、背後にいる二人の付き人の女性の方を向いた。


「……『加護弓(かごゆみ) (あま)』さん。これ、僕の正体明かしちゃっていいですかね?」


「……よろしいのでは、ありませんか? 最早隠す必要もありませんし」


「あ、そうですか。では改めて、皆さん、僕の名は『うずめ』。今深鮫さんや鎧さんの中に宿っている『神之御力(かみのみちから)』を管理する者。そして、『山陽院(さんよういん) ニニギ』の()です」


「――っ!?」


 『山陽院 ニニギ』、十年前、この時代を修正しに現れた十体の『神の使徒』を封印した英雄。


 その英雄の娘? それに『うずめ』? 今、目の前に居るコイツは、何を言っているのか、その場に居る全員が全く理解出来ていなかった。


「……あー、やっぱり皆さん混乱してますねー。あ、ちなみに、娘と言いましたが、今は()()()()()()()()ので、悪しからず」


「ちょ、ちょっと、待てや……」


 突如、うずめを名乗る人物の登場に、皆が困惑する中、倒れていた深鮫が立ち上がって、紫上に抗議をする。


「……お、前が、うずめの嬢ちゃん……やと? 嘘ぬかせぇ!!」


「ですよね。信じてくれませんよね。……今、『黒爪(くろづめ) 烏乃助(うのすけ)』と居る方の『うずめ』が()()なのになぁ……」


「黙れやぁ、オラァァァァァァァァ!!」


 深鮫が、腕から刃を生やして、その怒りの感情を込めた一撃を紫上に叩き込もうとするが、


「『止まれ』」


「ぐっ! ――と、止まるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 紫上が『止まれ』と言うと、深鮫はその手を止めたが、すぐに反対の手から刃を伸ばして、一直線に、紫上の喉を狙うが――


「……やれやれ、『王賢心言(おうけんしんごん)』」


「っ!?」


 今度は、紫上の胸に『心』の一文字が浮かぶと、深鮫の動きが再び止まってしまった。


「……鮫? どうした?」


「…………………………………………………………」


 まるで力を無くしたように、深鮫はその場で白目を向けたまま立ち止まってしまった。


「無駄ですよ。誰も『心王』の言葉には逆らえない。その内に『心』を宿す生命、万物の心を、僕は全て支配することが出来るのです」


 なんだそれ? 政至は、それは何もかもがデタラメ過ぎると思った。


 心王? それも神通力なのか、それを理解する暇はない。


 危険だ。うずめを名乗るコイツは、危険過ぎる。


「ぐ……………っ!! くそ! おい、鮫! ここは一旦逃げるぞ! お前の部下を呼べ!!」


「……なぁ、旦那」


「あ?」


 不意に喋ったが、深鮫の声からは、いつも感じる覇気を全く感じず。無気力な声で喋り出した。


「……あんさん。俺様の部下殺したよなぁぁぁぁ?」


「ぐっ、何?」


 殺した? 何故急にそれを――


「今年の睦月(1月)にぃぃぃぃぃぃ殺したなぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 突然の出来事であった。味方であった筈の深鮫が、いきなり襲い掛かって来た。


「なっ……ぬぅ!?」


 瀕死の状態の政至の足に、深鮫が剣山のような無数の刃を突き立ててきた。その表情は、完全に狂気に染まった恐ろしい形相だ。


「が、は……!? おい鮫! 目を覚まさぬか!!」


「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 完全に正気を失っている。これも、あのうずめによって洗脳されたのか?


「……お、もしかして、洗脳されたと思ってます? 残念、違いますよ。その人の心の奥底にある『闇』を刺激しただけです。ほら、他にも」


 と、避難していた筈の深鮫の部下達が現れたが、全員、武器を手に持って、政至に強烈な殺意を向けている。


「……こいつ、俺達の仲間を……殺した」


「あぁ、出羽で殺した」


「……許さねぇ」


「こいつを殺そう」


「こいつも、仲間と同じように殺そう」


「惨たらしく殺そう」





 ――殺そう、殺そう、殺せ、殺、殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺。







「ぬぅああああああああああああああああああ!!!?」







「……ふぅ」


「……うずめさん。何故、政至様にあのような仕打ちを?」


「あー、それはですね『水守(みなかみ)』さん。これからの出雲の最終決戦に置いて、政至さんは()()となるからです。それより――」


「それより何ですか?」


 うずめの付き人の一人に、あの元・若狭の水潟郡(みかたぐん)領主『水守(みなかみ) 弥都波(みずは)』が居り、うずめに怪訝な視線を向けている。


 怒っているのだ。うずめの非人道的なやり方に、


「もー、怒らないで下さい。烏乃助とあの子の方で何があったか分かりませんが、僕達は僕達で出雲に向かいましょう。丁度『恐金(おそれがね)』と『楽雷(らくらい)』を手に入れしたし」


 このうずめは、政至を始末した後に、深鮫と雷剣から『恐金』と『楽雷』を()()()()()後に、その場を去ろうとしたが――


「待ちなさい!!」


「ん?」


 政至も、深鮫も、雷剣も、皆が倒れてしまった中、一人だけ、何の力もないくせ、気丈にも、心王を名乗るうずめの目の前に立ちはだかったのは、


「……『みそぎ』さん。無事でしたか」


 御祓姫であった。雷神の威圧感に圧倒されて気絶していた筈の御祓姫が目を覚まして、うずめの行く手を阻んだのだ。


「……あなたは……何がしたいの? ここまでする必要なんてないでしょうがぁッ!!」


 怒りと悲しみ、それが入り交じった眼差しを、うずめに向けている。


 何故なら、その隣で大勢の人が死んでいるからだ。


 殺したのだ。うずめが心王の力で、直接手を下さずに殺したのだ。


「……必要ですよ。僕はね、本来の目的を果たさなければならないからです……ところで、みそぎさんは、『うずめ』の意味、知ってます?」


「知るわけないでしょッ!! あんたがうずめ? 私が愛したうずめが偽者? そんなわけないでしょ!! あんたの方が偽者よッ!!」


「……」


 目障りに感じたのか、うずめの付き人の一人である巫女装束の女『加護弓 天』が、身の丈を遥かに越える巨大な弓と、槍のような六尺を越える矢を、御祓姫に向けて構えている。


 だが、それを止めるように、うずめは手を横に出して、加護弓を止めてから、御祓姫に近付いた。


「……では特別です。共に出雲に参りましょう、そこで全ての真実と結末をお見せ致しましょう。それでも貴女は、まだ僕を偽者と呼べるかな?」


「……………………………断ったって、どうせその『神通力』で私を無理矢理連れてくんでしょ?」


「ふふ、物分かりが早くて助かります」


 そして、うずめは満面の笑みを浮かべながら、御祓姫にその顔を近付けるのであった。


「じゃあ『みそぎ』。私と一緒に出雲に行こ! みそぎに見せたいものが沢山あるんだぁ!」


 その言動、表情、それは彼女がよく知る『うずめ』のそれだ……でも、違う。いくら顔と声と仕草を真似ても、コイツは違う。


「……止めて、その顔で、あの子の真似をしないで……気持ち悪いわ」


「あ、そうですか? ごめんなさい。では行きましょうか、みそぎさん、加護弓さん、水守さん。全てを終わらせに――」



 こうして、京都編はこれにて終幕とす。


 政至、深鮫、雷剣、雷神、竹平、そして被害にあった不士見町の住人達がどうなったかは、今ここで語る事は出来ない。


 これらの結末を語る前に、烏乃助ともう一方のうずめが、江戸の地で何があったのか。


 それを優先して語ろうと思う。





 ――第七章『時間逆行』に続く。

 

 こんな結末にしちゃったけど、果たして良かったものなのか……京都編は終わりました。


 続いては、本来の江戸編へと戻ります。



 それでは、次回を…………………■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!

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