第二話『邂逅と再会』
はやっ!? 夏休み終わるのはやっ!?
てことで再開ぃぃぃぃぃ!!
どこだここ?
気が付いたら俺は、辺り一面死体、死体、死体、地平線まで広がる大量の死体の絨毯が敷かれた広野に立っていた。
周囲は血と死臭が漂い、無数の鴉が死体を啄んでる。
何故ここに居るのか、当時の俺は理解できなかった。
取り合えず歩いた。死で埋め尽くされた広野を歩き続けた。そう言えば、なんで俺は歩いたんだろ? 生きる為? 誰かに助けを乞うため? よく分からない、なんせ当時の俺は『物事を考えられない程に幼すぎた』から。
たぶん無心で歩いたんだと思う。
何日経っただろうか? 分からない、一週間か、一ヶ月か、もう今となっては判らないが、
俺が『それ』に手を出し始めたのは、そうだな......腹が減った時だ。
「......それ........うまい......のか?」
「カー!」
腹が減った、喉も渇いた、だから俺は目の前の鴉と同じ事をして、餓えと渇きを凌ぎながら、俺は死体の広野を歩き続けているうちに『あの男』と出会った。
それが俺の全ての始まりであり、全ての終わりであった。
「くっくっくぅ、死体を喰う餓鬼がいるぞぉ~。ここは六道の餓鬼道だったかなぁ?」
「......いき......」
「ん?」
「いきてるやつに......はじめて......あった......」
「ふっふっふぅ、第一声がそれかぁ、で? 餓鬼、俺も喰うか?」
「いやだ。いきてるやつは......まずそう」
「......ぷっ! ははははは!! なんだお前!? 面白い餓鬼だな! どうだ? 俺の元に来いよ! 俺の息子になれ!!」
「いやだ。おまえ、うさんくさい......かんじがする」
「はっはっはぁ! ならば━━━━」
■
「......ん?」
「あ、起きた」
烏乃助が目を覚ますと、こちらを覗きこむうずめの顔が視界に映った。
どうやら寝てしまっていたらしい。しかも、うずめの膝の上で、
「......どれくらい寝てた?」
「半刻程」
「そっか」
素っ気ない返事を返しながら、烏乃助は体を起こした。
出羽を出てから早一ヶ月。烏乃助とうずめは現在、相模と江戸に通ずる街道を馬車を使って移動していた。
正直このまま江戸に乗り込んでよいものかどうかも疑わしいが、今更悩んでても仕方ない、正面から堂々と江戸に入り『白羽 時定丸』との決着を着ける。
それが烏乃助の判断であった。
ただ、うずめは違った。時定丸との決戦に持ち込む事が出来たとしてもその後、その後を危惧していた。
恐らく時定丸との決戦の地は、確実に江戸幕府の拠点でもある。江戸城、もしくはその近辺で行われるだろう。
元々、烏乃助と時定丸は、最強の侍を生み出す為に育てられた兄弟。仮に烏乃助が時定丸に勝った瞬間、そこで幕府にとって悲願の『最強の侍』が誕生するわけではある。
この瞬間を幕府が逃す筈がない、絶対に何かしらの行動を取る筈、本来は近々訪れるであろう『神々との抗争』に向けて幕府とも協力すべきな気がするが、どうも幕府は信用できん。
秘密裏に最強の侍を生み出す為に九人の孤児を集めて殺し合わせるなんて、とても人道的なやり方とは思えない。
だから、うずめは決戦よりも逃げる事を考えていた。
時定丸を倒した後、幕府の全戦力が集中するまっただ中から、どう逃げればいいのかを。
「......なんかごちゃごちゃ考えてるなお前」
「あ、ばれた?」
「さすがに一年近くお前と一緒に居たらな、大体分かる」
烏乃助は心配するうずめの頭を撫でながら呟いた。
「心配な事なんて何も無いだろ? 時定丸には勝つし、勝った後はちゃんとお前と共に逃げる。なんせ、時定丸を倒しても、まだお前の心が完全に戻るわけじゃないしな」
「......ん、そ、だね。頼りにして......ふにゃぁ」
「ふにゃぁ?」
どうも烏乃助に頭を撫でられるのが気持ち良かったのか、うずめは頬の筋肉を緩ませて甘い声を漏らした。
「はっ!? い、いいいい、今のは聞かなかったことにして!」
「.......ふにゃぁ(笑)」
「むー! やめてぇ!」
うずめは顔を真っ赤にして烏乃助にポカポカと殴りつけるが、全然痛くなかった。
だがこれで良かったのやもしれない、これでさっきまでの緊張が解れたことだろうし。
「お二方。もうすぐ江戸ですぜぇ」
二人が微笑ましいやり取りをしていたら、馬車を引く商人の男からの呼び声が上がった。
「......いよいよだね。烏乃助」
「ああ、ついに......ん?」
二人がついに差し迫るであろう江戸に向けて決心を決めた顔をしていると、烏乃助は空から何かがこちらに向かって降ってくるのに気が付いた。
「なんだあれ?」
鳥? にしてはデカイ、鷹? 日の光による逆光でよく見えないが、段々とそれが近付いてきて、ようやくそれが人である事に気が付いた。
「なんだぁ!?」
「え? 何、わぁ!?」
まだ状況が飲み込めていないうずめを抱えて、烏乃助は馬車から身を投げ出したと同時に、さっきまで自分達が乗っていた馬車が吹き飛んだ。まるで爆発したかのように勢いよく。
「ぎゃあああ!? あ、あっしの馬車が! 商品がぁ!!」
後ろで商人の悲痛な叫び声が聞こえる。馬車は壊れたが、商人は無事らしい。
「んっががががが! 見事! あ~これ見事なりぃ!!」
「何者だ!」
烏乃助が腰の鞘付き刀を抜いて臨戦体勢となる。
壊れた馬車から巻き上がる土煙の中から、大柄な人物が槍を携えてゆっくりと現れた。
烏乃助はその人物を見てハッ! となった。
「お、お前は!?」
会った事がある。直接ではないが、先月の陸奥の真魂山での『武田 小兵』との決戦の時に魂だけではあったが、その姿を視認したことがある。
信濃で戦った『鈴鳴 源国』の槍の師『大天坊仙海』その人であった。
「ががががが! よく、よくぞぉ、避けてくれた! 不意討ち如きでくたばるような奴には江戸に入る資格なんざ有りはしねぇかんなぁ!」
「ちっ、なんの用だ?」
「んががが! 悪いのう坊主。お前を江戸に入れてやれなくなってしもうた。んな事よりさぁ! さぁさぁ! この儂と戦えい!!」
訳が判らない。なんで鈴鳴の師が邪魔をするんだ? そういや、先月一人で江戸に向かうとは言ってたな。しかも、烏乃助の師『高見魂』とは、かつて神の使徒を封じる旅で仲間だったみたいだし、江戸で高見魂に再会して、何か吹き込まれたのか?
「......ま、いいや、そっちがやる気なら相手になってやる」
「え? いいの? 烏乃助」
「どっちみち、こう言う奴は口じゃ何言っても無駄だろうし......それに、時定丸と闘り合う前の準備運動になりそうだ」
「ががががが! この儂を準備運動代わりか! なんと豪胆で傲慢な奴.....その『傲慢』を捨てなければ、あの小僧に勝てぬぞ?」
「何? っ!」
烏乃助の返答も待たず、仙海は槍による渾身の突きを繰り出し、烏乃助はそれを避けた。
そして、一瞬で間合いを詰めて、腰の切れを使った逆袈裟を放とうとする。
「『燕』......ぐっ!」
「だらっしゃぁぁぁぁぁ!!」
なんと、仙海は烏乃助に体当たりをして吹き飛ばした。予想外の行動に烏乃助は呆気に取られたが、すぐさま持ち直し、連続的な突きの嵐を叩き込む。
「『蜂鳥』!!」
「はいやぁぁ!!」
突きと突きの激しい攻防。互いに一歩も譲らない、やはり鈴鳴の師だけあって強い、中々踏み込めない。
前に出る事も叶わず、かといって、このまま一歩でも下がったら、一気に押し込まれてしまう恐れがある。
なので烏乃助が取った行動は━━━。
「『啄木鳥』!!」
鞘刀の切っ先と槍の切っ先が接触した瞬間、烏乃助は刀の柄頭に掌底を叩き込んで、突きと掌底による二重の衝撃が、槍を伝って仙海の腕に伝わった。
「むぅ!?」
突如発生した衝撃に思わず槍から手を離しそうになったが、反射的に離れそうになった手を強く槍に握り込んだ。
「がが! なっかなか、ん!?」
「『力んだな』。お前の負けだ」
そう、これが烏乃助の狙い。人は手から落ちそうになった物を掴む際、思わず力が込もってしまうもの。しかし、それこそが武道において『負けの元』となる。
力むとは、積もるところ筋肉が一瞬固まる、即ち、一瞬動きが硬直する事、ほんの僅か千分の一秒程度の油断でもあるが、烏乃助から見ると、それが大きな好機に繋がるのであった。
「く、儂の負けか、良いわ好きにせい」
「そうか、なら第最終羽の奥義『黒刀赤烏』!!」
「え? ちょ、好きにしろとは言ったが、それは.......ぎゃああああああああ!!」
■
「こ、これが......老人虐待.......か」
「いやいや、いきなり襲い掛かってきたアンタが悪い」
と、まぁ、仙海をいたぶってから数分後。
気絶していた仙海が目を覚ましたようだ。
後ろでは、大切な馬車と商品を失った商人が泣いているが、特に気にも止めずに、なんで自分達を襲ったのか問いただす事とした。
「なんでこんな事したんだ?」
「......そりゃおめぇ、『白羽 時定丸』を見ちまったからだよ」
「ほぉ?」
「元々『源国』の奴に会いに来ただけのつもりやったが、結局源国には出会えなかった。代わりと言っちゃなんだが、時定丸には会う事は出来たで」
よっころしょっと、言って立ち上がった仙海は、顔に付けてる天狗面の間から覗かせる鋭い眼光を烏乃助に向けた。
「お前は強い、時定丸と同格かそれ以上やもしれぬ、だが勝てない!」
「な、なんでそんな事が判るの!」
と、普段は殆ど会話に割って入らないうずめが珍しく反論したが、烏乃助は判りきったような表情で仙海の目を見た。
「知ってるよ。アイツは天才だ、俺がいくら努力しようが、アイツは俺の更に上を行ってしまう。そんな奴だ」
「烏乃助......」
「判ってても行くのか?」
その問いに対して、烏乃助は軽く頷いた後に、黙って江戸へと歩を進めた。
「アイツが天才だろうが知った事じゃない、これは『俺達』の問題だ。他人が口を挟むな」
「ま、待ってよ烏乃助!」
烏乃助の後をうずめが追う、そんな二人の背に向かって仙海はある事を報せた。
「待て、儂が来たのはお前の力を試す為だけではない。鴉.......『高見魂』の奴に頼まれた事があるんじゃ!」
「なに?」
仙海の口から高見魂の名が出たのを聞いて、烏乃助は歩みを止めて振り返った。
「実は、高見魂の奴がお前と時定丸との決戦の地を決めてるそうでな、そこまでの案内を『この者』に任せる事とする」
と、いつの間にか仙海の背後から頭巾を被った、中性的で小柄な少年が現れた。
「は、初めまして、自分、『いおり』と言う者っす。鈴鳴にぃの弟分の鍛冶師見習いっす!」
「弟分のいおり?」
仙海の背後から現れた、自称鈴鳴の弟分の『いおり』が、これまでの経緯を烏乃助達に話した。
まず、今年の睦月に鈴鳴と、いおりの父親の『国虎』と共に江戸に向かい、国虎は丹精込めた刀を幕府将軍に献上しに、鈴鳴は時定丸に会いに行って以降、二人に会えなくなったまま、故郷の相模に強制送還されたそうな。
その後も、二人に会うために何度も江戸に向かったそうだが手掛かり無し、そんな時に鈴鳴の師である仙海に出会い、彼の助力で高見魂と交渉したそうだ。
「父ちゃんは分かんないけど、きっと鈴にぃは時定丸に負けて死んだかもしれないんっす。だから烏乃助殿! どうか、どうか時定丸を討ち倒し、鈴にぃの仇をとってほしいっす!!」
「......知るか、鈴鳴の奴が時定丸に敗れて死んだなら、アイツも本望の筈だ。なんせ最強の果てに死ねたんだからな」
「......っ!」
「う、烏乃助?」
「どいつもこいつも、俺達の事情に首突っ込みやがって、いい迷惑だ。鈴鳴に時定丸に会わせるように仕向けたのも、本物の最強を目にしたアイツが死ぬか諦めるか、はたまたアイツの情熱に拍車が掛かるか試してみたんだが、死んだならそれまでの話だ」
なんと言うか、烏乃助の言ってる事は、正に武人らしいと言えばそうだが、武人ですらないうずめといおりには、その心境はまったく理解できなかった。
いおりは唯、自分が慕っていた兄貴分の鈴鳴を殺した時定丸に復讐したいだけのようだが━━━。
「だが解せない。アイツの弟分なら、アイツの性分を理解してる筈。なのに、何故復讐の道を選ぶ?」
「そ、それは......」
「ん? そりゃおめぇ、こいつが『女』だからだよ」
「......ん?」
女? いおりが女? 仙海はそう言った。確かに中性的な顔立ちだが、 ん? でも今弟分と。
「......女、女ねぇ、だったら尚更理解できん。女だからなんだってんだ?」
「......鈍い」
「あ?」
「んなの『愛』に決まっとるだろうがぁぁ!!」
愛? 今仙海は愛と言ったか?
「にゃわぁぁぁぁぁぁ!? 仙海の親っさん! なに言ってんすかぁぁぁぁ!!」
「うっさいわボケぇ!」
いおりが顔面真っ赤にして慌てふためいている。
なんだこの展開?
「.......烏乃助のにぶちん」
「なんでお前にそんな事言われなきゃならんのだ」
うずめにまで言われて烏乃助は思った事は「やはり自分は『愛』と言うものが全然理解出来てないな」だった。
■
それから一刻後の江戸城の近くにある剣術道場、そこの中央から神前(神棚)に向かって正座している『白羽 時定丸』が居た。
「んー、たまには剣を振らないとね」
そう言って、時定丸は正座から左足を踏み込み、右の片膝で体を支えながら、腰差した刀で居合いの型を行う。
とてもゆったりとした型だが、一つも無駄の無い洗礼された太刀捌き、体操の様にも思えるその体からは、静かだが、周囲の空気が凍りついたかのような緊迫した雰囲気にさせる程、時定丸はたぎっていた。
静寂の中に一際激しく燃え盛る業火の如く、時定丸は来る決戦に向けて己が刃を再度、研ぎ澄ましていた。
「......癒えない。いくら振っても、いくら斬っても、全然満たされない。僕の心は常に空っぽだ。『愛』。僕は愛に餓えているのか、だから『君』が来たんだね?」
数々の剣の型をゆったりと行いながら、時定丸の胸には『愛』の一文字が浮かんでいた。
「恐らく僕は、多くの愛に囲まれて育ったんだと思う。けど、その愛を実感できなければ、その愛を感じ取る事が出来ないなら。愛されていないのと同意義だ」
静かな独り言、静かな静寂、を、時定丸はその静かな空間を自ら破壊した。
「『千鳥』」
瞬間、時定丸の目の前にあった神前が爆発した。
何が起こったのか、これは時定丸の仕業なのか?
だとしても、神前たる神棚を破壊するのは罰当たりではないだろうか?
「......あーダメだ。ダメダメ。神様を斬っても満たされない。八、君なら、君なら僕の乾きを癒してくれると信じてる。だから『あの時、生かしておいたし』、『一度君が死んだ結末を無かった事にしてあげたんだよ』」
「派手な音がしたから来てみれば、随分と荒れてるなぁ」
すると、道場の入口から一人の少年が入ってきた。
「ん? 何の事? と言うか久し振りだね。四ヶ月振りかな?」
そんな少年に向かって、時定丸はさっきまで浮かべていた無表情から一転して、爽やかな好青年としての笑顔を返した。
しかし、その笑顔を見た少年は溜め息を洩らした。
「んな上っ面な笑顔浮かべてても分かるわ。自分の思いが満たされなくて苛立ってんだろ?」
「え? ......僕苛立ってた?」
「......」
この男は、自分の感情すら理解出来てないのか、そう思い、少年は更に溜め息を溢す。
「苛立ってなかったら、神棚なんて斬らないだろ?」
「神棚? 神棚なんて斬れてないよ?」
「なにを......」
よく見たら、さっきまで跡形もなく壊れていた神棚が元通りになっていた。
「はぁ、神通力か。便利なもん......なぁ!?」
と、いきなり天井が落ちてきて、時定丸と少年がいた道場がぺしゃんこになってしまったのだ。
「げほ......げほ......て、てめぇ!」
「ご、ごめーん。誤って道場ごと斬っちゃった」
瓦礫と化した道場から時定丸と少年が埃まみれになりながら這い出てきた。
なんともデタラメな男である。
てか、神通力で神棚を直した意味が......
「は、ははは、でも、もうすぐだ。もうすぐ満たされる。そんな気もするんだ。だから悪い気がしない」
「私が悪い気がするわー!!」
いきなり時定丸の主である『阿姫』が現れて、時定丸の後頭部に飛び蹴りをかました。
「『御上』のお膝元で何暴れとるんじゃお前はぁ!! お前が粗相をすると主である私が腹を切らされるわぁ!」
「うわーん、ごめーん」
「......」
ポカポカと殴られながら時定丸はうずくまっている。さっきまでの強者としての佇まいが嘘のようだ。
こんな、こんな男に自分は『負けた』のかと、少年は思うのであった。
■
同時刻。
丹波・京の都。
その一角である『不士見町』。
「いいぞぉ! いけいけぇ!!」
「おぉおおおおおおお!!」
そこの『不士見稲荷大社』の境内にある土俵にて、一人の小男が自分より大きな力士を軽々と土俵の外に投げ飛ばしてゆく。
「うっしゃぁ!!」
彼は『竹平 重勝』。かつて、烏乃助とうずめが丹波に訪れた際『楽雷』の所有者『雷剣』の暴走を止める為に、烏乃助達と共に尽力した京都を守護する武士。
烏乃助達が会った頃は好きな筈の相撲から身を引いていたが、あの一件以来、自分に自信を取り戻した様子。
「さすが竹平! やっぱお前強いなぁ!」
「ふふん、まぁね。毎日君達以上の稽古をしてるからね!」
「ははは! すげぇ大口叩けるぐらいに自信が付いたんだな!」
前よりは、とても生き生きしている竹平。そんな彼の元に二人組の編み笠被った小柄な人物が拍手を送りながら近付いてきた。
「ふはははは! 見事な試合よ! いや天晴れなり! あの剣士が絶賛するのも頷ける!」
「......失礼ですが、貴方は?」
「おお! これはこれは失礼した竹平殿。我々は、旅の美少女剣士! 『伏真 政至』とそのお供の美少女じゃぁ!」
なんと、そこには出羽で烏乃助とうずめと別れた筈の政至がそこに居た。自らを美少女剣士とか言ってるが、ピンクの花柄の女物の着物の上から浅見色の袴を履いて、踵まで伸びる髪を左右に縛って、可愛らしい釵を刺して、自らを女の子っぽくしていた。
「誰が美少女よ! アンタ男でしょうが!!」
そして、政至の後ろには、まさかの出羽の『鴨居 義明』の一人娘『御祓姫』も居た。
「なんじゃなんじゃ、別に見た目は可愛いからよいであろう? それに、未来から来た余の友人が、300年後の日本では『男の娘』なるものが流行ってるそうじゃよ?」
「......未来の日本の民達の行き先が不安に思えてきたわ」
二人が何者なのか知らず、二人のやり取りに竹平だけでなく、周囲の力士や観衆は戸惑っていた。
本来は権力が高い二人がここに居ると言うことは、お忍びに近い状態なのだろうと思うが。
目立ちすぎだ。
「ふぅ、やれやれ、本当は西洋から取り寄せた『冥土服』を着たかったのだがのぅ」
「あんなヒラヒラしたものを男のアンタが着るな!」
「よいであろう! 余は可愛いのだから是非もなし!」
「うわうざい!」
正直迷惑だと思った竹平は、二人の会話に割って入った。
「そ、それで、どのような御用件で?」
「おお、そうじゃったそうじゃった! ここに『建速須佐之雷神』の鎧、もとい御主達が信仰しておる『雷剣』がおるはずであろう? 」
「え、雷剣、いや、なんで貴方が須佐之雷神様の事を知ってるんですか!?」
「ま、それは追々話すとしよう、それよりもはよう鎧を見せとくれ、それが『この世界の救済』に繋がるやもしれぬのだからな!」
そう、二人は旧将軍が呼び寄せた英傑が一人『建速須佐之雷神』に繋がる手懸かり求めて不士見町に来たのであった。
第三章『悪雷、憎炎、無愛』に続く。
いやぁ、これからは少しペースダウンしてゆったりと書いていきます。ちなみに十話以降から今までの集大成みたいな感じで、一話の話数が大幅に増加致しますが、問題ないよね?
それでは、十話では三つのストーリーを同時進行でお送り致します!...............下手であることを喜べ、下手で何も出来ない人間の方が学ぶことが常人より多い、それはある意味恵まれていると言う事を学んだ夏休みでした。




