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こころあつめる(仮)~烏と不思議な少女の伝奇時代冒険譚~  作者: 葉月 心之助
第十話「こころあいする」
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第一章『愛は無に帰す』

 とうとう、烏乃助にとって因縁の江戸編かぁ。


 ここまで来るのに一年掛かっちまったよ(笑)


 てな事で、はじまり~はじまり~。


「そんな......烏......乃助」


 うずめは目を疑った。今、烏乃助は今回の対戦相手にして、烏乃助の血の繋がりがない兄弟『白羽(しらはね) 時定丸(ときさだまる)』との試合の最中に『それ』は起こった。


「が......は......!?」


 烏乃助が、『負けた』!?


 今まで色んな強敵を相手にしてきて生き延びてきた烏乃助が、時定丸の一太刀の前に敗れたのだ。


 目の前で首から血の華を咲かせながら地面へと倒れ込む烏乃助。


 声が出ない、なんで負けるの? 相手が烏乃助にとって大切な存在だから?


 その答えを聞く前に、烏乃助は事切れた。


 思考が追い付かない。死んだの? 本当に? まだ心集めの旅は終わってない。


 まだ、神々の進行も止めていない。


 まだまだ、烏乃助にはやらなきゃいけない事があるのに......こんな最後、こんな結末、こんなお別れなんて、


 ━━嫌だ。烏乃助、お願い、目を開けて、生きるのを諦めないで......お願いだから......目を開けてよぉ......。


 うずめは、膝から崩れて尻餅をついた。ずっと一緒に旅をし、お互いに信頼が生まれ、絆が芽生えた相手の最後を見てしまったうずめに、最早立ち上がる力なんて、


 いや、最早、明日へと立ち上がる力すら残されていなかった。


 心が絶望に染まり『無』となったうずめと動かなくなった烏乃助を尻目に、時定丸は青白く、雲一つない空を仰ぎ見て呟いた。


「『八』。君はまだ、ここに来るべきではなかった。これじゃ、僕の『空っぽの心』なんて満たされないよ」


 そう呟いた後、時定丸は烏乃助の遺体に、その雪のように白い刀を突き立て、胸に『愛』の一文字が浮かばせて目を閉じた。


「悪いけど八。最初っから出直してきてね」


 ━━奥義『愛然無聖(あいねんむしょう)



 ━━うずめ。


「ん?」


 ━━うずめ、どうした?


「......あ、あれ? 烏乃助?」


「どうしたんだよ。急に立ち止まって、なんかあった......かっ!?」


 うずめは今、目の前で生きている烏乃助の顔を触りまくって、烏乃助が生きている事を確認しだした。


「......なんで生きてるの? 烏乃助」


「おまっ、いきなり辛辣な事を言うな」


「ふははは! とうとう白髪童女にも嫌われたかや? 剣士よ」


「????」


 あれ? 政至も居る。さっきまで自分達は江戸に居たような気がするのだが、ここは陸奥から出羽に通じる街道?


「ねぇ、もしかして、今出羽に向かってる?」


「そうだが、本当にどうしたんだお前? 寝惚けてるのか?」


「なんじゃ? 確か御主ら、一つの布団で寝とるじゃったなぁ? さては、昨晩の間に良からぬ事をしたのかや? くくく」


「お前、本当によくそんな事を堂々と言えるな」


 全然理解できない。烏乃助が生きてる。しかも、今は江戸に居ない。もしかして、さっきまでのあれは夢だったのか? 自分達が江戸に居て、時定丸と対峙して、そして烏乃助が敗れて死んだのも。全て夢?


 白昼夢だったのだろうか?


 けど、あの生々しい感覚、鮮明に残る烏乃助の死。全てがとても夢で片付けていいとは思えない程に現実味があった。


 だが結局、うずめは何も分からずに、そのまま烏乃助と政至と共に、出羽の鴨居城を目指すのであった。



 同時刻。

 

 江戸城。


 天守閣。


「もうじきかのぉ、神がこの歪んだ歴史を正しに来るのは」


「もうじきでございますな」


 そこには、幕府の暗部『高見魂』と、上座に座る一人の老人が居た。


 そして、高見魂は一振りの刀を取り出し、それを老人へと献上する。


「尾張の地にて回収した『宝剣・クトネシリカ』。アイヌ神話の英雄が使っていた宝剣です」


「『暁 黎命』が持っていた剣だな。皮肉なものよ。アイヌの民族が滅んだキッカケとなった部族間での抗争。その引き金を引いたのが、我々本州の人間だったとはのぅ」


「いえ、お気に病むことはございません。そぉ遠くない未来で、アイヌは滅びる運命にあったのですから『こちらの世界ではそれが早まっただけのこと』」


 老人は、暁が持っていた宝剣を鞘から抜き、その青白い刀身をまじまじと見つめる。


「美しい剣だ。宝剣と呼ばれることはある。して高見魂よ、もうじき来るのであろう? お前の息子が、この江戸の地に」


「はい、恐らく神子となる例の娘を連れて」


「......そうかそうか、行幸じゃ。悪いとは思うておる。お主の息子達に殺し合い命じたのも、最強の侍を作ろうとしたのも、全ては『ワシの命令によるもの』お主は、よくぞこのような老いぼれの我が儘に付き合ってくれたな。感謝する」


「しかたなきこと、そうでもしないと『あの計画』が完了しませんから」


 高見魂は立ち上がり、天守閣から出ていこうとするが、老人は高見魂を呼び止めた。


「高見魂、いや鴉よ。嫌なら止めてもいいぞ? 御主とて、大切に育てた息子を闘わせるなど......」


「く、くっくっくぅ、お言葉ですが、事の発端はあなた様のお声があってのこと、あなたが命じる限り、私は平気で死を招く不吉な鴉となりましょうぞ」


 そうして、天守閣から出て、廊下の窓から城下町を眺めると、そこには現・最強の侍『白羽 時定丸』と、彼の主にして江戸幕府(えどばくふ)預奉所(あずかりたてまつるところ)外部監察所(がいぶかんさつどころ)総監督(そうかんとく)の『猿目田(さるめだ) 阿姫(あき)』の二人が、江戸の子供達と戯れていた。 


「わーまてー」


「......なぁんで私まで、こんなガキ共の相手しないとダメなのよぉ」


 子供達に服やら髪やら引っ張られながら、阿姫はぶつくさと文句を垂れていた。


「あーくだらぬ。もうじき神々の連中が来るって時に......あだっ!?」


「わーい、次は阿姫ちゃんが鬼ねー」


「みんな逃げろー」


「......ふ、ふふふ、上等じゃクソガキ共ッ!! 人の髪を抜いた罪、その身で持って味わえやぁゴラッ!!」


 阿姫は、見た目少女だが、歳だけで言えば、時定丸よりもかなり上らしい。


 なんだが、子供相手に本気で鬼ごっこをしてる阿姫は、とても歳上、強いては幕府の外部監察所総監督とは思えない程に子供じみていた。


「あはは、なんだ。阿姫ちゃんも本当は遊びたかったんじゃない」


 と、時定丸はまんべんの笑みを浮かべながら、逃げる子供達を追い掛けていた。


「んなわけあるか! このナマクラ刀! お前もガキ共をさっさと捕まえろ!」


「はいはい」


 二人は、今のところ特にやることがない、そんな時は大抵、時定丸が子供達と遊んでいるのだが、今日は珍しく阿姫まで付いて一緒に子供達と戯れているのだ。


 本当なら、時定丸は侍である以上、暇な時こそ剣の稽古に明け暮れているべきではないのか?


 そう思うだろうが、もう『時定丸に剣の修行は必要ない』のだ。


 行住座臥(ぎょうじゅうざが)、時定丸はもう剣を振る必要がない、後は日常生活を送りながら、日常生活における最低限の行動を全て『修行』に変えてしまえば、もう後は自然と基礎が落ちないように維持するだけ。


 それに━━。


「くっくっくぅ、それでいい。『九』、お前は剣から学ぶことはもう何もない、だから学べ、子供しか持ち得ぬ純真無垢な『狂気』をな。それでようやく、お前と言う刀が完成する」


 不適な笑みを溢しながら、高見魂は、近々訪れるであろう。烏乃助と時定丸との試合を待ち望んでいた。 



 陸奥を出て数週間後。


 出羽・鴨居城。


「いや、よくぞ戻った烏乃助にうずめよ。それに政至の坊っちゃん」


 鴨居城の応接室にて、城主の鴨居と、烏乃助、うずめ、政至がそこに居た。


「まずは鴨居殿、半年ほど前の無礼をここで詫びることとしよう」


「よせやい。元々そんな柄じゃないじゃろ?」


「く、くく、確かにな。詫びのついでではあるが......」


「分かっておる。神々との抗争に向けて協定を結びたいのであろう? 案ずるなかれ」


 と、まぁ、今年の睦月に鴨居城で盛大に暴れたあの政至が、こうして鴨居と協定をあっさり結ぶとは、何とも妙な気分である。


「それにしても政至の坊主、影隠が居なくなった途端に、何だか丸くなったように見えるのぉ。まるで牙を抜かれた猛獣じゃ」


「くははは! 牙が抜けたかどうか、そこの剣士で試してやろうかの?」


 なんか、二人の軽いいがみ合いに巻き込まれてしまった烏乃助は溜め息をついた。


「あのなぁ、またアンタと闘うのはうんざりなんだよ。こちらは」


「おや? どうした剣士よ。また負けるのが恐いのかや?」


「......あの時、気絶した俺の鼻血を舐めただろアンタ。んな気持ち悪いのとは、もう剣を交えたくないだけだ」


「ふむぅ、そうかそうか、悲しいのう。もっと御主と激しく闘りたかったものだがのう......うぬ?」


 話の途中にも関わらず、烏乃助は立ち上がって席を外そうとする。その後にうずめも付いていこうとする。


「どうした烏乃助?」


「鴨居、今後の方針がまだ決まってないんだろ? 決まったら声掛けてくれ。その間、少し考え事がしたいんでな」


 そう言って烏乃助とうずめは、部屋から退室し、鴨居と政至が部屋に残された。


「......ふぅ、あれかの。次なる剣士の相手が」


「白羽 時定丸。烏乃助にとっては、この世で唯一の兄弟にして家族。今まで不殺を貫いた烏乃助の奴も、どのような行動するか悩んでおるのであろう」



 鴨居城。


 展望台があった廊下。


 そこで、烏乃助とうずめは、日の光に照され、活気溢れる城下町の風景を眺めていた。


「......」


「......ねぇ、烏乃助」


「何だよ」


「陸奥を出てからずっと考えていたんでしょ? あの人の事を」


「ああ、考えていた」


「......それで、烏乃助はどうしたいの?」


「斬る」


 即答であった。


 まさに斬り捨てるが如くの即答っぷり、斬るとは、殺すことであろう。


 それでも、うずめは然程驚きもしなかった。


 なんとなく、分かっていたような気がするからだ。


 分かっていても、うずめは再度確認をとった。


「どうしても?」


「ああ、うずめ、俺は『白羽 時定丸』を斬る。他の奴は殺さない。だが、アイツだけは斬らないとダメなんだ」


「......大切だから斬るの? だとしたら、もう烏乃助の考えてることなんて、誰も理解できないよ」


 二人の会話は、何の感情もなくあっさりしていた。


 烏乃助は、唯一無二の家族を斬る。大切だからこそ斬ると言った。常人が聞けば、とても狂気じみてると言うか、猟奇じみてると言うか。


 たぶんそこには、誰にも理解できない、二人だけの世界があるのだろうと思った。


 そこは否定しない、烏乃助と時定丸、この二人がそれを望む以上、誰も二人の間に入る事は許されないであろう。


 それを分かった上で、今度はうずめが、ある決意を宣言した。


「......烏乃助。怒らないで聞いてくれる?」


「なんだよ」


「烏乃助、私は『こころあつめる』のを諦めようと思う」


「......何故だ?」


「......今までの事を考えて思ったの、私の持つ神通力って、人を不幸にしてばかりなんじゃないかって」


「......」


「それに、今までの話の流れだと、これは元々私の力じゃないみたいじゃない」


 うずめは、去年の葉月から、これまでの旅先での事を考えて思った。


 神通力を手にした心の所有者達。その中には、確かに人助けに使っていた者もいた。


 動ける自由を得て、喜ぶ者もいた。


 だが、神通力を手にしただけで、不幸になった者が何人か居たのは確かだ。


 不死身の体を得たばかりに、死ぬことが許されなくなり、狂った者。


 神通力を所有していただけで、理不尽に命を落とした者。

 

「......神通力で不幸になった人達は確かに居た。だからもう嫌」


「......」


「私、思い出したの、出雲が火の海に包まれたあの日、私のお父様が、『私の心を暴走させた』のも」


「......」


「全てを終わらせる為だったそうだけど、それだけで、何人死んだか、烏乃助は知ってる?」


「......」


「必要ないんだよ。こんな力、こんな力が人を幸せにできるはずがない。烏乃助だって、神通力のせいで何度も死にかけたじゃない」


「......」


「全ての神通力が揃ったその時、なんか、更なる不幸が訪れる、そんな気がするの、だから烏乃助」


「......」


「こころをあつめるとは諦めて、神様の進行を止める事に専念しよ? だから━━」


「断る」


「......烏乃助?」


 何の迷いもなく、またもや即答した烏乃助に、うずめは多少驚いてしまった。


「確かに、神通力のせいで、不幸になった連中は沢山いるだろうよ。だからなんだ? お前、まさかお前自身の心が『自分だけの物』と勘違いしてないか?」


「それは......」


「ハッキリ言ってやる。お前の心は、もうお前だけのものじゃなくなってんだよ。お前、今まで何人の『心』に触れてきたんだ?」


「っ!?」


 確かに、うずめはこれまで、色んな心の所有者達の、過去の記憶、いや心そのものに触れてきた。


 うずめは、これ以上不幸を増やしたくないから、こころをあつめるのを諦めると言った。


 だが、不幸じゃない人生なんて有り得るのか?


 人は、生きていれば必ず不幸を体験する。


 その不幸で挫折する者、不幸で傷付く者、不幸で死を選ぶ者。


 そんなの、


「そんなの当たり前なんだよ。みんな不幸なんだよ。お前が触れた心の所有者達の記憶の中に、一人でも不幸を体験しなかった者が居たのか?」


「......」


「不幸にビビる気持ちは分かるが、結局、人生ってのは、不幸を体験しないと『幸せ』になれないような仕組みになってんだよ」


「......意外、烏乃助からそんな台詞が出るとは思わなかった」


「......俺が時定丸を斬るのもそれだ。楽な道には、得るものはない。嫌な道にしか、俺達が求めてるものはないんだよ」


 烏乃助が時定丸を斬るのも、そこから、何かを得るためなのだろうか?


 だが、それでも、うずめは微笑んだ後に、烏乃助の手を握った。


「烏乃助。やっぱり、あなたに出会えて良かった。あなたに出会えた事そのものが、私にとっての幸せなのかもしれないって、思ってるよ?」


「あっそ、俺はお前と出会えた事が、不幸の連続のような気がするがな」


 少し、烏乃助は意地悪な事を言ったが、うずめは「そうかもねー」と、軽く笑った。


「ねぇ烏乃助。また我が儘を言っていい?」


「我が儘を言わなかった時なんてあったか? まぁいい、なんだ?」


「......残り二つの私の心を集めてください。それだけ」


「はっ、なんだ、いつも通りじゃねぇか」


「ふふ、いつも通りだね」


 紆余曲折して、結局、いつもの路線に戻った二人。


「話は纏まったの?」


 そんな二人の背後から、いつの間にか鴨居の娘である『御祓姫(みそぎひめ)』がそこに立っていた。


「よぉ、久し振りだな。お姫さま」


「え、えぇ、久し振りね。ごにょごにょ」


「?」


 軽く挨拶しただけで、御祓姫は顔を赤くして視線を逸らした。その事に烏乃助は疑問を感じたが、御祓姫はすぐに視線を烏乃助に戻した。


「ある程度の事情は知ってるわ。神様が来ることも、この歴史が嘘偽りであることもね」


「みそぎ......」


「でも、それでも私は、どんな事が起ころうとも、あなた達二人が一番大事。だから烏乃助」


 ドンッと、御祓姫は力強く、烏乃助の胸を叩いて激励した。


「さっさとうずめの心を全て集めて、さっさと神様との問題を解決して戻ってきなさい! 私はいつまでも、あなた達の帰りを待ってるから、安心して江戸に行ってきなさい! それじゃ!!」


「え? お、おい!」


 そのまま御祓姫は、二人の元を立ち去ってしまった。振り返りもせず、廊下の突き当たりを曲がって、二人の姿が見えなくなるまで、けっして振り返らなかった。


「くは、よいのか? 御祓姫よ」


「な、何よ。居たの? あんた」


 廊下を曲がると、そこには政至がおり、御祓姫は嫌そうな視線を政至に送る。


「なぁんじゃまったく、もう御主には手を出さぬわ。そんなことしたら、あの剣士に怒られそうじゃしの~」


「さっきから何なのよあんた」


「......惚れとるんじゃろ? あの剣士に、良かったのか? これが『最後』かもしれぬのに」


「......いいの、あいつは、絶対に戻ってくる。だから、戻って来た時に『婚約』を迫るつもりよ? それじゃあね。もう城の兵を殺すんじゃないわよ?」


 それだけ言い残し、御祓姫は政至の前から立ち去るのであった。


「......くは、ははは、純情な女よ。その純心さを、この手の中に納めたかったが......余には、御主の心はまぶし過ぎる故、あの剣士に譲ってやろうぞ」



 そして、三日後。


「いよいよ、江戸に向かうのだな烏乃助よ」


「ああ、全てが終わったら、また出羽に戻るよ」


 烏乃助とうずめ、旅立ちの日。


 見送りに集まった鴨居と御祓姫と政至、それに何処かに隠れてる『影隠 女郎蜘蛛』達に挨拶をする烏乃助とうずめ。


 この人達に会えるのは、きっと、全てが終わった時になるかもしれない。そう思いつつも、烏乃助とうずめは皆に背を向けた。


「くはは! 剣士よ! 時定丸なんぞ、さくっと倒してしまえい! 後ついでに『影隠 鵺』のバカタレもな!」


「......」


 結局、御祓姫からは、何の挨拶もないまま、二人は出羽を出た。少し寂しい気がするが、それだけ御祓姫は二人の事を信じているんだろう。だから何も言わない、そう解釈する二人であった。


「なんか、あの日を思い出すね」


「あの日?」


「ほら、私達が初めて旅に出たあの日」


「あー」


 そう言えばそうだな、と思った。


 三ヶ月前の尾張の時、あの時は急ぎであった為に、とてもそんな気分にはなれなかったが、確かに今なら言える。


 去年の葉月に旅立った。あの日と今がそっくりだと思った。


「ねぇねぇ烏乃助。せっかくだし、あの時と同じ台詞を言わない?」


「はぁ? なんでまた」


「.....だって、これが、私達の『再出発』のような気がするから、じゃあ行くよ烏乃助!」


「お、おいおい......たく、しょうがねぇ奴だな、んじゃ」


 ━━せーの。


「だから俺の後を黙って付いてこい、うずめ!」


「うん! 頼りにしてる!」


 こうして、二人は旅に出た。


 再出発の名の下に、最後の心集めの旅、そして、神々との抗争を止める旅に。


 果たして、この先に二人を待ち構えてるのは、一体なんなのか?


 そんな不安をも、自己を高める要素の一つと考え、二人は一歩、また一歩と、足を大きく踏み出すのであった。



 こころあつめる第十話「こころあいする」


 全てが無に帰す江戸編の幕が、ようやくここに開かれるのであった。



















 ただ、うずめは一つ気掛かりがあった。


 ━━こんな事、『前にもやった気がするような』......気のせい......だよね?


 その時、三日前の、あの夢が、烏乃助が時定丸に負ける夢を思い出してしまった。


 そう、気のせい、この気掛かりも、全てがあの白昼夢と同じ気のせいだ。


 そう自分に言い聞かせるように、うずめは烏乃助と共に、江戸へと歩を進めるのであった。



「馬鹿な。こんな事が......」


 烏乃助とうずめが出羽を出てからの一週間後。


 とある寺院。


 とても立派で巨大な仏様が鎮座する前で、鴨居に仕える鴨居直属の隠密部隊総監督『郷見(さとみ)』は、ある事実を知ってしまった。


「そんな......ことが......影隠を裏で操っていたのは『あの人』だった......のか?」


 知ってしまった。この物語において、とても重要な事を、郷見は誰よりも一早く知ってしまったのだ。


「報せねば、親方様に、いや、先に烏乃助殿か? 鎌鼬とも連絡が取れない今、影隠の目を掻い潜りながら報せるのは......!?」


 瞬間、背後から、強烈な、獣じみた殺気を感じて振り返ると、そこには七尺を超える『鬼』が立っていた。


「影隠.......牛鬼っ!!」


「■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!」


 それから、郷見は、自身が掴んだ情報を、全てが終わるその時まで、鴨居にも烏乃助にも、報せる事は、



 決して無かった。




 第二章『邂逅と再会』に続く。

 ついに、十話の幕が上がったものの、すまないね。今日から一ヶ月間『休載』するんだ。


 その間、小説書けないのは心苦しいが、これも将来の夢を叶える為、許せ。


 てな事で、一ヶ月後にまた会いましょう!


 では、さらば!

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