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こころあつめる(仮)~烏と不思議な少女の伝奇時代冒険譚~  作者: 葉月 心之助
第九話「こころあきらめる」
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第一章『たいむすりっぷなぅ』(書き直し版)

 うへぇ、とうとうタイムスリップ設定をこの話に持ち込んでしまったぁ、と、いうわけで、新たなる舞台、陸奥編のはじまり~はじまり~。


 あれはそうだなぁ、一年くらい前だったか。


 俺が八人の兄弟の内、七人を斬り殺して、一人を見逃して、幕府から追われながら各地を転々としていた頃か。


 この頃、俺にはまだ名前がなく、人を斬る事に何も感じなかった頃だな。


「......」


 人は、迫り来る人は、人と思うな。そう教え込まれた。


 魚やウサギを可哀想だと思うから、刺身が喰えない、肉が喰えなくなる、人を斬るのもそれと同じだ。


 だから俺は、斬られる奴を可哀想とも思った事もない。


 あの時だってそうさ。


 目の前で俺と歳が近い変な格好をした女が三人の盗賊に襲われていた。


 しかも、盗賊を目の前にして気絶してやがる。あれじゃ襲って下さいって言ってるもんだ。


 もし俺が偽善者だったら、すぐに女を助けたかもしれないが、生憎、俺にそんな善意はないし、面倒事に巻き込まれるのも御免だ。あの女には悪いが、運が無かったとしか言い様がねぇ。


 なので俺はその女を見捨てた。他人から批判を受けようが知った事か、俺を育てた男も言っていた。無益な争いはなるべく避けろってな。


 しかし、盗賊の連中が俺の存在に気付いちまった。


 自分達の行為を役人に陰口されると厄介だと思ったのだろう。盗賊の一人が俺に斬りかかる。だが、俺はそいつの手首を腰に差していた刀で斬り落とし、すぐさま腹を切り裂いた。


 すると、中から大量の血と臓物が出てきたが、俺はそう言うのに見馴れているが、血で着物を汚すのも忍びないので、血を避けながら次の盗賊の頸動脈を切り裂き、もう一人の盗賊の両手を切り落としてから袈裟斬りによって肩口から脇腹を切り裂いた。


 ......脆い。あまりにも脆い。どうも、自分以外の人間が壊れやすい陶器に見えてしょうがない。


 いや、陶器よりも脆い、血と臓物と骨が入っただけの、ただの肉の袋にしか過ぎない。


 そして俺は、三つの肉袋から中身を出してから、気絶している女に近付いた。


「......すぅ......すぅ......」


「......」


 寝てる。こいつ、盗賊相手に気絶したわけじゃないのか?

 ここまで能天気な女だったとは。しかし、間近で見ると本当に奇妙な服だ。

 西洋の服なのか? 生地は日本の着物よりも薄く、肌触りは良さそうな服、で、下はヒラヒラした布が腰から膝に届きそうで届かないぐらい短い。


 なんだこいつ、痴女か?


 ......ま、物は試しか、こいつからなんか話でも聞いてみるか。見た目日本人なのにこの格好、多分ただの気違いかもしれんが、だが、何か面白い話が聞けるかもしれん。


「おい、起きろ」


「すぅ......すぅ......」


「 起きろ」


「......むにゃ......」


 ......全然起きない。さすがにムカついたので、俺は女の鼻をつまみ上げた。


「さっさと起きろ」


「ふ、ふぎゃー!! は、鼻、鼻がぁ!!」


 やっと起きやがった。そして、見た目通りアホそうな感じの女だ。


「ちょ!? は、離してよ!」


 そして、女は俺を両手で突き飛ばした。が、女の力は大した事なかったとは言え、これ以上鼻をつまみ上げる事に意味を感じなくなった俺は、女の鼻から手を離した。


「いった~......こ、ここ、どこ?」


 女は周囲を確認し始めた。この様子だと、自分が何処から来たのか、何故自分がここに居るのか分かっていない様子だ。


 俺は女に話し掛けようとしたら、女の視線が俺からの足元にある『物体』を凝視し始める。


「え? な、何それ?」


 それ? あぁ、さっき中身を開封してやった肉袋どもの事か、俺事態は肉袋の中身を見ても何も感じないが、この女、見るからに今までそう言うことから無縁そうな生き方をしてきたんだろうな。

 すると、ここで起こすのは不味かったか? だが、こんな女に気を使うのも面倒だ。


 ここで騒がれると面倒だ、叫ばないように脅迫するか。が━━


「......う、う~ん」


 ......今度はちゃんと気絶した。そんなにこの肉袋を見るのが嫌なのか? やっぱり『俺達』以外の人間の思考と価値観はよくわからないな。



 そして、俺は近くの小屋に例の女を運んだ。あの場所で女を起こしたら、また気絶してしまうだろうと思ったからだ。


 腹も減ってきたし、俺は女を小屋に残して、一人で食料調達に向かった。


 あの様子だと、すぐには起きないだろう。俺は一刻ぐらいである程度山草や木の実、キツネ、ウサギ、魚と言った肉を確保して小屋に向かった。


 小屋の戸を開けると、丁度女が起き上がっていた。ここならさっきみたいに気絶したり、騒いだりしないだろう。


 しかし、女と俺の目が合うと、女は俺の予想をことごとく裏切る行為に出た。


「ひぃ、い、いやぁああ!!」


 なんと叫びやがった。何故だ? ここにはアイツが嫌がるような肉袋は居ないのに、これだから普通の人間の価値観が良く判らん。


 しっかし、耳障りな奇声だな。


「むぐっ!?」


「うるせー、死にたくなかったら黙れ」


 あまりにも五月蝿かったので、俺は一気に女との間合いを詰め、女の口を塞いだ。


 すると、女は泣きそうになりながらも、何度も俺の警告に対して頷いた。


 女の反応を見る限り、俺に恐怖を感じているのか? ......あ、そっか、こいつ、自分が俺に殺されると思い込んでいるのか?


 そうか、普通の奴は『死』を恐れるのか、なんで怖いんだ? 俺には理解出来なかった。


 女がほんの少し落ち着いたのを感じてから、俺は女の口から手を離した。


「ぷはっ! ぜぇ......ぜぇ......き、君は......一体......ここは......何処なの? な、なんでワタシこんな......う、うぅ」


 落ち着いたかと思ったら、今度は泣き出した。


 めんどくせぇなぁ。なんだこいつ?


 『俺達』でも、こんな状況に陥っても、涙一つ流さなかったのに......やはり俺達以外の人間の扱いは良く判らん。


 良く判んないので、俺は女が泣き止むまで待ってやった。


 泣き止んだが、女は膝を抱えたまま動かなくなった。


「......おい」


「な、何? わ、ワタシも殺すの? さっきの人達みたいに」


「そうじゃない、俺はお前に聞きたい事があるんだよ」


「え?」


 俺は女とようやく対話をした。女の名は『槌蛍(つちぼたる) このか』と言うらしく。どうもこいつが何を言ってるのか理解出来ない。意味不明な単語ばかり出てくる。


 色々と話していると、女は何かに気付いたらしく。俺に年代を聞いてきた。


「ね、ねぇ、今って、西暦何年なの?」


「......? 宝永(ほうえい)八年だが?」


「え? そ、それって何年?」


「......1711年だったか......」


「え、嘘......」


「?」


 今が宝永八年だと聞くと、女は突如困惑した後に、自分は三百年後の未来から来たとか言い始めた。


 ......やばい、俺は相当変な女を拾ってしまったのでは?


 これ以上、この女と関わるのは不味い、俺は女を置いて小屋から出ていこうとすると。


「あ、ま、待って! い、未だに自分がタイムスリップしたことが信じられないけど......で、でも、お願い! も、もしかしたら君って......悪い人......じゃないんだよね?」


「......さぁ? 俺、何が正しくて、何が悪いのか理解出来ないから、自分が善人とか悪人だとかは判らん」


「だ、だったら、お願い! いえ、お願いします! わ、ワタシを、き、君の旅に同行させて......」


 この女、何言ってんだ? 俺を見て怖がったり、泣いたりしたくせに、今度は旅に同行させろだ? なんて我が儘な奴、少しでもこいつから俺が求めてるものがあるかもしれないと思ったが......。


「知った事か、お前が何処でどうなろうが俺には関係ない、じゃあ......!?」


「お、おお、お願いじぃばぁすぅぅ」


 今度は涙と鼻水を垂れ流しながら抱き付いてきた。


 汚い、せっかく血で汚さないようにした着物が、女の排泄液のせいで汚れてしまった。


 ......もう面倒だ。こいつもここでさっきの盗賊のように開封して、そこら辺の獣どもの餌にしてやろうか?

 

 ......しかし、こいつ、やっぱり見た目が『四』に似てるな、けど性格は『九』に近いか。


 だからかもしれんな。こいつを助けたのも、たぶん、アイツらに、もう会えなくなった俺の『家族』に似ていたからかもしれん。


「いいぞ」


「え?」


 俺としたことが、アイツらの事を考えていると、つい女の要求に応えてしまった。


「う、うぅ、あ、ありがとぉぉ!!」


 うるさい。了承してしまった以上、もう何を言ってもこの女は俺から離れないだろう。


 ならばもういいか、うるさいし、頭もおかしそうだが、こいつと旅をしたら何か得られるかもしれない。


「あ、ね、ねぇ、ところで、君、な、名前はその......なんて言うの? こ、これから旅をするんだし......」


「『(はち)』」


「......え? な、何それ? あだ名?」


「あだ? ......正式名称は『滅刀(めっとう)鴉八号(からすはちごう)』」


「......そ、それ名前じゃないよね?」


「本名だ」


「へ、変なの......」


 変、人の名前を変とか言ってきた。失礼な奴、取り合えず、俺と女は次の日に近くの町に向かった。


 何でも、こいつ行く宛が無いらしい。こいつが未来から来たって話、信用できないが、もしかしたらこいつの妄言で、近くの町でこいつの事を知っている奴がいるかもしれん。


 そう思ったのだが、誰も女の事を知らなかった。


 それどころか、ガキ共に腰に巻いている布を(めく)られて、女は褌のような白い下着を見られて激怒した。


 怒るぐらいなら、そんな卑猥な格好するなよ。


「......気になっていたんだが、お前のその服って何なんだ? 着物じゃないし、西洋のものか?」


「え、と、西洋と言われたら西洋かな......『セーラー服』って言うんだけど」


「せーらーふく? どっちにしろ、そんな卑猥な格好してたら注目の的だろ? この町で着物にでも着替えたらどうだ?」


「ひ、卑猥って......この格好、可愛くない? ワタシ結構気に入ってんだけど......」


「自分の事可愛いとか言ってる奴に祿(ろく)なのがいねぇ」


「む、むぅ? さすがに怒るよ?」


 だから何だと言うんだ? 俺に勝てるわけでもないくせに、折角だ、昨日の盗賊から奪った金で、こいつの着物を見繕って......て、


「なんで俺がこんな事を......」


「あ、ワタシこれが良い」


 気が付いたら俺達は呉服屋に居た。そして、女はいつの間にか着物を一着選んで、すでに会計を済ませていた。


「あ、着替えるけど、覗いたら駄目だよ?」


「覗いた日には、俺は嘔吐するかもしれん」


「き、君って、色々失礼だよね?」


 十分後。


「ど、どぉ? 可愛くない? 折角だしスマホで自撮りしちゃお」


 女は桃色の着物に着替えると、えらく上機嫌になった。てか、その小判みたいな物体は何だ? 色々と判らないだらけの女だ......。


 そして、俺達が旅に出てから早二週間。


 やはり、こいつが何を言ってるのか理解出来ない。日本語の筈なのに意味不明な単語を並べ立てやがる。


 ......何だよ、つんでれって。


「うひゃ~。この時代、通話とか電車とか無くて不便だけど。食べ物はおいひ~」


「......」


「行く町の人々は優しくて助かるよね~。最初の頃の不安が嘘みたい~」


「......」


「...... おーい、『黒』~」


「......」


「.......おぉぉぉい!! 聞こえてますかぁぁぁ!?」


「......うるせぇ、黙れ」


「だったらなんか喋ってよ! ワタシ一人言喋ってるみたいで恥ずかしいんですけどー!」


「......お前の言ってる事が時々理解できなくなる。たくっ、何だってこんな頭おかしい奴拾ったかなぁ」


「お、おかしくないし! 普通だし!」


「......うぜぇ」


 まじで何なんだこいつ? そもそも、なんで俺はこんなのと旅してんだ? 最初の頃は泣いてばかりいたくせに、俺に慣れた途端、急に明るくなりやがって、おまけに旅先で絡まれるチンピラやゴロツキ、山賊、盗賊、野武士、そして幕府からの追っ手。


 迫り来る肉袋達を次々と切り開くと、女が血相を変えて俺に抗議し始めた。


 人を殺すのは良くないとか、なに仏の真似事してんだ? その事で俺達は何度も衝突した。


「うるせぇ奴、そんなに嫌なら見るな。それとも、俺との旅は止めるか?」


「......き、君との旅は、止めない。ここで君との旅を止めたら、それこそ、君は『闇』に堕ちてしまいそうな気がするから!」


「だったら、今すぐ死ね」


「し、死なないし! ワタシは、君に殺される筋合いはない! 君を、ほ、放って置けないんだよぉ!!」


 こいつ......! 腹が立つ、顔は俺の家族に似てるくせに、性格は全然違う。もう面倒だ、早く死ねよ。早く肉袋になれよ!


 俺は女に刃を振り下ろした。が、俺は女の目を見て、刃が当たる直前で手に持った刀を止めた。


「!?」


 な、なんだ、なんなんだ! 今殺されそうになっているのに、何故お前の瞳からは恐怖がない? 怯えがない? こんな理不尽に対する怒りもない?


 まるで......まっすぐ直進する『光』。光のように俺を見詰めやがる。


「......ほら、死ななかった」


「っっ!!」


 なんで、そこで笑う!! くそ、止めろ、眩しすぎるんだよぉ!!


「くそっ! なんだテメェ、ムカつくんだよ」


「ムカつくなら、殺すのを止めてくんない? そしたら、もう君が嫌がる事はしないからさ」


「チィ......!」


 俺は、この時初めてあるものを感じた。今まで味わった事もなかったから、この時は理解するまでに及ばなかったが、後になってそれが『敗北感』であることを、俺は生まれて初めて知った。 



 一ヶ月後。


 俺達は陸奥の真魂山にある『極浄寺(ごくじょうでら)』にやってきた。


 真魂山は、古くからあの世に近い山とされていて、あの世から亡者や悪鬼がやってくると言い伝えられ、そんな亡者達をこの世にやってこないように建てられたのがここ極浄寺だ、そうだが、亡者とか悪鬼とか馬鹿馬鹿しい、今時そんなの信じる奴がいるのか?


「うん? なんでここに来たの?」


 女は呆けた顔で俺に問い掛けた。今さらこいつに期待するのもアレだが、こいつ人の話を聞かない奴だな。


「別に、本当は麓の町で泊まる予定だったが、どうも何処かの馬鹿のせいで金が心もとなくってきたんでな、寺なら無償で一泊ぐらいさせてくれると思ったから来たんだよって、言ったはずだが?」


「あれ? そうだっけ? いや~、なんかごめんね『黒』」


「......その『黒』って呼び方、いい加減止めろ、俺は猫か何かか?」


「え~? だって君って、本名とか言ってるあれって、明らかに人の名前じゃないじゃん。だから人間らしい名前が決まるまでの仮の呼び名が『黒』なの!」


 ......はぁ~。もう疲れた。さっさと寺の住職と話をつけて寝よ。


 しかし、寺の住職はある頼み事を持ち掛けてきた。


「悪霊?」


「は、はいぃ、実は近頃、人に害を与える悪霊が現れまして、麓の者達から苦情が来ているのです。その悪霊を追い払ってくれましたら、無償で一泊させてあげます」


「いやいや、悪霊を追い払うのはそちらの専門だろ?」


「はぁ、ですが、悪霊とは名ばかりで、私は人間の仕業だと思っているのです。根拠はありませんが、最近、この山に誰かが住み着いた痕跡がありまして......」


「つまり、俺が悪霊の正体を突き止めて、そいつが人間なら退治すればいいのか?」


「は、はい、その通りでございます! ですので、どうか!」


 住職が懇願する中、女がなにやら不思議そうに首を傾げた。


「......あれ? ねぇ、黒。もしかしてだけど、ワタシ頭数に入ってなくない?」


「いや、だってお前、うるさいだけで、基本役立たずじゃねぇか」


「むぐぅ、それはひどす」


 こうして、俺は悪霊の正体を突き止める為に寺を拠点として、毎晩山の見回りをした。


 が、三日後の夜。俺が寺から帰ると、そこに女と住職が居なかった。


「あ? どこ行ったアイツら......ん?」


 ふと、暗闇の中に山頂を目指す人影が見えた。よく見えなかったが、今のは住職とあの女か?


 人影を追おうとすると、唐突に目から矢が飛んできて、それが俺の足下に刺ささり、目の前に一人の痩せ細った男が現れた。


「......なんだお前?」


「あぁ? おれが悪霊正体......て、言えばいいか?」


 悪霊、なんだ、結局山賊だったか、山賊ごときどうってことない、また開封してや━━。


『殺しは良くないよ!』


 ......っ!


「おや? 動きが止まってるぜぇ、旦那よぉぉぉぉぉぉぉ、うっ!?」


 ちぃ、アイツのせいで反応するのに数秒遅れちまった!


 しかも、俺はいつの間にか、抜刀もせず、鯉口を握ったまま、腰から鞘ごと刀をを伸ばして山賊の腹を突いていた。


 そのまま山賊は白目を向いて、前のめりに気絶した。


 反射的に殺さずに仕止めた。初めてだ、俺が初めて人を殺さずに人を倒した.......なんか、アイツに負けた気分になる。


 俺は取り合えず、俺の育ての親から学んだ捕縄術(とりなわじゅつ)で、山賊の男を無力化した。


 捕縄術自体、実践で使うのはこれが初めてだ......何もかもが初めての闘い方。


 恐らくだが、山頂にはこの山賊の仲間と頭、それにあの女も居るだろう。


 俺は知らず知らずに、あの女の影響で人が殺せなくなっている。だったらどう戦えばいい? 今行ったら、何も出来ず、山賊ごときに敗けてしまう。


 ...... あ、そうだ。こうしよう。



 俺は新たな闘い方を閃き、そのまま頂上に向かった。


 真魂山の頂上は霊園となっていた。


 今まで見たこともないほどの夥しい数の墓石。

 そんな霊園の中央の広間に先程の山賊の仲間と、俺達をもてなしてくれた筈の住職が女を人質にしていた。


 つまり、あの住職は裏で山賊達と繋がっていたのか、それに気付いた女を人質にして、ついでに俺を殺そうって腹か? どうも、昔っからこいつらは単純な思考回路をしていやがるな。


「黒! 来てくれたんだ!」


「う、せぇなぁ、お前が死んで化けて出られた日には、毎日頭痛で苦しみそうな気がしただけだ。後、その黒って呼び方も止めろって言ってるだろ?」


「うわぁ、素直じゃないのぉ」


 ざけんな......そもそもお前のせいで殺すことに躊躇するようになったんだぞ?


 殺し合いにおいて、一瞬の迷いは死に繋がる。例え相手が自分より格下の相手でも油断できない。


 それなのに、お前のせいで今の俺には殺すことに対する迷いが生じてしまった。


 が、焦る事はない。人を殺さずに倒す闘い方はさっき閃いた!


「な、なんだお前、その刀?」


「あぁ、そこの馬鹿な女が血を見るのが嫌だ嫌だと、五月蝿いから仕方なくだ」


 刀に鞘を付けたまま、俺は刀を腰から抜いた。


 そして、鞘が外れないように鞘の緒を右手に握った状態にした。


 一見すると、馬鹿げた方法だが、これなら誰も開封せずに済みそうだ。


 が、女は俺の鞘付き刀を見て目を潤ませていた。


「! く、黒~やっと分かってくれたんだね~、そうだよ、人殺しは善くないんだよ!」


 ......自分で考えたやり方の筈なのに、まるでこいつの手のひらの上で踊らされていただけのように感じて腹が立つ。


「......あ、やっぱり鞘外す」


「うぇ!? そ、そんなぁ」


「冗談だ」


 殺したくても、どうもあの女の前だと人を殺しづらい、だから今鞘を外すわけにはいかない。


 武器はいつもと違うが、要領は大体同じだろ!


 そう思って俺は、手始めに手前の山賊の両甲手を打ち、続けて胴を撃ち抜いた。が、


「痛っ!?.......いけど、あれ? 大したことない?」


「んなっ!?」


 何時もならこれで山賊を開封している筈だが、今は得物が違うから開封は出来ないにしても、俺の打ち込みで山賊を倒せなかったのはこれが生まれて初めてだった。


 そういや、俺があの女以上に嫌いな男が言ってたっけ? 木刀と真剣は全く違う武器だ。それは持った時の重量もそうだが、まず、真剣は上手く斬れると何の抵抗もなく肉を通過して開封することが出来る。なので、真剣は重たいが、その重量だけで人を斬れるから大して力を使わなくて済むが、木刀は違う。


 刀を模しているが、これは刃物じゃなく鈍器。つまり、人体に触れると真剣みたいに抵抗なく斬れるわけではない。木刀だと肉と骨の抵抗を大いに受けてしまう。


「くっそ......!」


 今俺が使っているのは『鞘付き刀』、武器としての分類は木刀と同じ鈍器、しかも鞘が刀身に付いたままだから、木刀よりも、真剣よりも重い、慣れていないと振っただけで体が逆に鞘刀に持ってかれちまう。


 その後も、慣れない鞘刀で俺は山賊達と闘った。ノロマなこいつらの攻撃は一つも当たらなかったが、何時もよりも闘いが長く感じる。


 嘘だろ? いつもならこの程度の相手、ものの数秒で倒せるのに......あの女のせいだ。あの女が口喧しく不殺、不殺って言うからだ......こりゃ呪いだ。あの女、俺に呪いをかけやがった。

 

 思った以上に体が重い、使い慣れたはずの刀が、鞘を付けただけでこんなに重くなるのか?


 山賊の数はおよそ十二。なのに、一人倒すのに、なんで十秒も掛かるんだよ!


 こんなの、いつもなら一人倒すのに一秒も掛からないのに......!


 いつも、いつもの俺なら、いつもの真剣なら、いつも、いつもいつもいつもいつもッッ!! 


「う、動くでない!!」


 気が付いたら俺は永久に感じた山賊達との闘いをいつの間にか終えていて、残るは女を人質に取っている住職だけだった。


 あーイライラする。山賊ごときに手間取る、おまけに人質に取られている。それに、『いつもの自分なら』って、何『以前の自分』にしがみついて言い訳してんだ、俺? ......くそっ! あの女に会ってから俺の何もかもがメチャクチャだ!


 しかも、何? 動くなだと? だったらこの位置でお前だけを仕止めてやる似非住職!


「ぶぅ、ぶげひゃぁぁぁぁ!?」


「ぇえ!?」


 俺は住職から七尺離れた間合いから刀を上段から振り下ろした。


 俺の刀は全長三尺、全然届かないが、届いた。


 何故なら、投石機の要領で鞘だけを飛ばしたからだ。しかも、手には鞘の緒が握られているから、飛んでった鞘は伸びきった緒の反動で、そのまま刀の方へ自然と戻っていき、再び鞘付き刀へと戻った。


 何とも妙竹林なやり方。こんな子供みたいな事をするのは俺ぐらいだろう。しかも、これが実践初だって言うんだから......今思うと呆れたやり方だ。


 鞘による一撃で気絶した住職は、そのまま女から手を離して地に伏した。ざまぁ。


「くっろぉ!!」


 住職から開放されると、女は急に俺に抱き付こうとする。が、また着物をこいつの鼻水で汚されるのは御免だ。なので避けた。


「ふぁ!? ひぎゃ!?」


 そして、綺麗な顔面着地。


「うっとおしい奴だな。おら、さっさとこいつら縛り上げろ」


「う、うぅ、わ、分かったよぉ」


 また泣いてらぁ。俺に殺されそうになった時は真っ直ぐな目をしていたくせに、本当にわけが分からん。


 にしても、手元に縄が無いから、こいつらの衣服でこいつらを縛り上げてはいるが、この女、縛るのが下手くそ過ぎだろ。


 結局、俺一人で山賊と住職を縛り上げた。こいつ本当に使えないな。


「え? な、何これ?」


「あ?」


 なんて思っていると、女の方で何かあったらしい。何だ? とうとう漏らしたか? 


 気になったので覗き込むと......ん? 気のせいか? 女の胸が光ってるように見えるが......。


「!? く、黒!」


「......っ!」


 女が声を上げると、先程縛り上げた筈の住職が自力で縄を引きちぎり、獣のような眼光、そして細身だった体が、筋骨粒々になっていた。


 なんだ? こいつ、急にどうした? 見るからに話が通じる感じに思えない。


 すると、住職が俺に殴り掛かったが、俺は左手で軽く住職の拳をいなし、それと同時に鞘刀で喉を突いてやった。


 突いたと言うより、刀をそこに置いただけで、相手が自分から刀の切っ先に突っ込んだ感じだな。


 理性も失って、間抜けになったこいつにはお似合いの最後だ。


 しかし、鞘刀の切っ先が深々と喉にめり込んでいるのにも関わらず、住職は両腕を竜巻のように振り回し始めやがった!


「う、わぁあ!?」


「ちっ!」


 俺は舌打ちをしながら後退する。そして、俺は身構えるが、住職は俺達を無視して近くにある墓石を素手で破壊しだした。どんな怪力だ? しかもアイツ、腕が変な方向に曲がってるのに、まだ他の墓石を破壊している。


 何がしたいんだこいつ? 最早理解出来ん。


 しかし、破壊した墓石の破片が周囲に飛び散って厄介だ。

 散々人の命を軽蔑してきた俺が言うのもあれだが、ひんやり冷たい土の中で眠ってる連中を起こすようなやり方は頂けねぇなぁ。


 俺は墓石の破片を避けながら発狂した住職を冷静に観察する。


 腕が曲がっているのに、それでも墓石を破壊し続けている、明らかに痛覚はないであろう。


 しかも、あの肥大化した肉体はよく分からんが、真剣なら問題ないが、鞘刀だと首から下への攻撃は通用しないだろう。


 だとしたら、さっきの山賊衆みたいな長期戦は部が悪い、速攻で終わらせる。


 すると、狙うは『首』。特に頸動脈あたり、あそこは確か、斬ることは出来なくても、両方の頸動脈を挟み込むように打撃を与えると、首から頭に行く血流が一時的に遮断されて、どんな狂人も一瞬で気絶するんだったか?


 だとしたら、こんな小者に『奥義』を使うのは癪だが、今の俺は鞘刀に慣れていないから贅沢を言ってる場合ではない。


 それにあの奥義なら、ほぼ同時に左右の頸動脈と脳天を挟み込むようにして攻撃を与える事が出来るから、これであの発狂住職を仕止められる。


 俺は飛んでくる墓石の破片を避けながら一気に間合いを詰め、住職が俺の間合いに入ったところで、八つの奥義の内の一つを発動した。


「第八羽の奥義『夜鴉(よがらす)』!!」


 鴉の三本の爪を連想させる奥義が、住職の左右の頸動脈と脳天をほぼ同時に強襲し、ようやく住職の暴走は止まった。


 ちなみにこの『夜鴉』における左右の頸動脈への打ち込みなんだが、本来はこれが正しい人の首の落とし方......なんて知ったらあの女の事だ、また口うるさくなるだろうから黙っておこう。



 ......やっぱり刀に鞘を付けたままだと多少重いし、慣れていないと体を持ってかれてしまうが、慣れれば刀身よりも厚みがあって折れにくく、しかも厚さ一分(いちぶ)ぐらいしかない真剣なんて簡単にへし折ってやることが出来るだろう。


 何となく閃いた武器だが、慣れたらこれはこれで、強力な武器なりそうだな。


「や~、これで一件落着ってやつかな?」


「どうだろうな、取り合えずさっさとこいつらを麓の町に連行しようぜ? さっきの住職みたいに暴れられたら厄介極まりない」


「それもそうだね......ん?」


 俺達が山賊と住職を徹底的に縛り上げると、奥の方から何やら呻き声が聞こえる。


 なんだ? 馬鹿な住職が暴れたせいでとうとう亡者共が起きちまったか?


 なんて冗談は置いといて、呻き声がする方向を調べると、底には手首を縄で縛られ、口には猿轡(さるぐつわ)をされた僧侶の格好をした中年の男が墓石の影に隠れていた。


「んー! んー!」


 なんだ? アイツらに捕まってた奴か? 見付けた以上、見捨てたりしたら本当に呪われそうだからその男の縄と猿轡を解いてやった。


「ぶっはぁ! ぜぇぜぇ、す、すまぬな。世話を掛けた」


「アンタは?」


「『六道坊(りくどうぼう)』。(それがし)こそが、本物の極浄寺の住職だ......はぁ、苦しかった」


 この六道坊の話を聞く限り、さっきまでの住職は偽者で、この真魂山を麓の連中にバレないように占拠。そして、怪しまれないように六道坊に顔が似ていたあの偽住職が本物とすり代わっていたそうだ。


「いやはや、お恥ずかしい限りだが、貴方は恩人だ。是非とも貴殿方の名を伺っても宜しいですかな?」


「あ、はい! ワタシ『槌蛍 このか』! んで、こっちのむっつりは『黒』」


「だから俺は黒じゃないし、名前なんてねぇよ」


「ん? 名前がない? ......何か訳ありですかな?」


「まぁな」


 名前、名前か、冷静に考えたら、そろそろ別の名前を名乗るべきだろうか?


 『滅刀・鴉八号』、俺はこれを本名とか言ったし、名前なんてどうでもいいとか思っていたが、ぶっちゃけて言うと、いつまでも無名だとこの先、この女に『黒』で押し通されてしまいそうな気がするし、ここいらで自分の名前を決めようか。


 そう考えていると、六道坊が俺の思考を読んだのか知らないが、たった今俺が求めていた事に対する提案をした。


「あ、でしたら、某が貴方様のお名前を決めさせてもよろしいか?」


「あんたが?」


「はい、実は貴方が山賊と闘っている所を最後まで見させて頂きました。最後に狂人と化したあの者を倒したあの技、あの技を見て閃きました」


「ほぉ?」


 これは少し期待してもいいかもしれん、が、この女と殆ど変わらない名前だったら、その卵みたいな住職の頭をカチ割ってやろう。


「これは、先程の剣技を見て閃いたのだが。あれはまるで、空から飛来せし鴉がその爪で獲物の頭部を襲っているようにも見える鋭い剣技であった。そこから準えて、お主の名字は『黒爪』。そして名は『鴉乃助(うのすけ)』。どうだ?」


「どうだって......」


「いいんじゃないかな! なんかかっこいい......ような気がするかも?」


 お前に聞いてねぇよ。しかし『鴉乃助』か。少しダサい感じがするが悪くない名だ。だが、


「......ところで一つ聞くが、鴉乃助の『鴉』って、牙がついてる方のカラスか?」


「む? そうだが、いやか?」


 嫌ではない、むしろ強そうな気がするが、だが悲しいかな、この女に『殺すな殺すな』て、呪いを掛けられているからなぁ。

 今の俺には人を殺す為の牙がない、そもそもカラスに牙なんてないだろ。

 なので、より一層ダサくなるが、今の俺にはお似合いの名前が思い付いた。


「あぁ、いやだね。そもそもカラスに牙なんて存在しないだろ。だから俺の名は━━」


 ━━黒爪 『烏』乃助だ。


 こんな形で俺の名前が決まるとはな。これで、あの女に『黒』呼ばわりされずに済む。


 ......ん? でも結局、名字に黒が入ってるから......深く考えるのは止めよう。


 何だかんだで、この悪霊、もとい山賊騒ぎは無事に解決し、俺達は半月程、極浄寺に滞在する事にした。


 俺は自身と名前もようやく決まった事だし、これであの女に『黒』呼ばわり......されていた。


「ねぇ、黒、ここを離れたら次どこに行くの?」


「......烏乃助だ。俺はもう名無しじゃねぇ、だからもう黒呼びすんな」


「うーん、でも、もう黒で呼び慣れてるしなぁ」


 俺の名前が決まっても安定のうざさであった。


 俺はふと考えた。この女、どこまで俺に付いてくる気だ?


 当分離れる気はないんだろうな。だが、女との縁はあっさり途切れた。


 それは、滞在を終え、極浄寺から離れる時であった。


「あ? ここに残る?」


「うん! ここ、真魂山って、この世とあの世の次元が緩い場所なんだって、つまり、もしかしたら、ここでワタシが未来に帰れる方法が見つかるかもしれないの!」


 こいつ、まだ未来から来たって設定引っ張ってるのか、つーか、誰の入れ知恵だ? とてもこいつ一人で出した結論とは思えねぇ。


 しかし、何はともあれ、次元やら未来やらなんて頭が痛くなるような単語を並び立てる女とこれで別れる事が出来る。


「そっか、だったらここでお別れだな」


「え? 黒もここに残ればいいじゃん、どうせ行く宛ないんでしょ?」


 ......こいつは俺と旅をしてきて何を見てきたんだ?


「......そうだが、しかし前に話したろ? 俺は幕府に追われる身だ、もし俺がここに(とど)まって幕府の刺客が攻めてきたらどうする? 俺を匿っていたこの寺の住職やお前も同罪になる」


「え、う、で、でもでもぉ!」


 たく、残るのか離れたくないのかハッキリしろよ、歯切れが悪い。面倒だから俺は六道坊に女を預けてさっさと一人旅に戻る事にしよう。


「......六道坊。この馬鹿を頼んだぞ」


「......気を付けてな烏乃助よ」


 こうして、俺はようやく女から開放された。


 これで心置きなく人を━━。


『殺しはよくないよ!』


「......っ、やっぱ呪いじゃねぇか。......けど、人を殺さないのが普通の人間の思考だったりするのか?」


 それ以来、俺は人を殺せなくなった。今思うと、あの女はウザくて平和ボケした温室育ちの馬鹿だと思っていたが、アイツは自分の感情にとても素直な奴だったな。


 感情、心、普通の人間が持つそれらは、あの女と別れた一年後の現在でも分かってはいないが、だが、感受性豊かな人間として、あの女は参考になった。


 俺の思い出話は以上だ。


「ほー、そんなことがあったんだねぇ」


 陸奥の港から二里程の海域。


 その海域に浮かぶ船の上に烏乃助とうずめと鎌鼬だった男が乗っていて、烏乃助はうずめに自身の思い出話を話し終えたところであった。。


「あぁ、未来だの何だのと頭おかしい奴だったが、まさかこんな形で再会することになろうとはな」


「でも、未来から来たって、もし本当ならなんだか素敵。早くその人に会ってみたいなぁ。あ、陸奥が見えてきたよ」


 と、うずめは諦土(たいど)の所有者『槌蛍 このか』に会うことが楽しみらしく、早く陸奥に着かないかと、そわそわしていた。


「そうで御座るなぁ......ちらっ」


 そんなうずめの後ろ姿を見て、鎌鼬だった男は鼻息を荒くしていたが、烏乃助が鎌鼬に目潰しをしといた。


「ごっぱぁ!? い、たぁいでござる!!」


「んなイヤらしい目で俺のうずめを見るな」


「......ちょ、烏乃助。そう言われると恥ずかしい......」


 と、今まで何をしても動じなかったうずめが、珍しく頬を赤らめてもじもじしており、そんなうずめの姿を見て鎌鼬は『忍法・鼻血噴射』を発動するが、烏乃助は鞘付き刀で鎌鼬を吹き飛ばして海に突き落とした。


「ござぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ......なんつって」


 しかし、どういう分けか、鎌鼬は海面の上に着地し、そのまま海面を走りながら一人で先に陸奥に向かうのであった。


「烏乃助殿! うずめ殿! ここで一旦お別れでござる! 用事が済み次第合流するでござるよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「......忍者って、何でもありだな」


「......うん、そうだね」


 そんなやり取りをしていると、船はいつの間にか陸奥の港に到着寸前となっていた。


「うわぁ、何かドキドキするね、烏乃助」


「あぁ、そうだな......ん?」


 烏乃助は港を見て、そこに見覚えのある人影が見え、その人影は烏乃助と目が合うや、こちらに手を振りながら大きく叫んだ。


「ふはははははは! また会ったな剣士よ!!」


 そこに居たのは、睦月に出羽で出会った『伏真 政至』本人であった。

 陸奥にいる以上、いつか政至に再会するとは思っていたが、まさか向こうが出迎えてくるとは思いもよらなかった。


 政至の姿を視界に捉えるや、烏乃助はうずめの肩を掴んだ。


「うずめ、陸奥に着いたら急いで出羽に帰るぞ」


「え、えぇ? あの人が嫌いだからって、さすがにそれはないよぉ」


 うずめに説得されて、烏乃助は船が港に到着するや、精一杯の不機嫌な顔で政至に面と向きあった。


「......ヒサシブリダナ、コノマエハ、ドウモセワニナッタナ」


「ふは! ふはははは! なんじゃ、そのしゃべり方は! 久し振りに余に会えて嬉しいからと言って、そのような面白い話し方をせずともよいよい」


「......(こういう所が嫌い何だよなぁ)」


 と、ここで烏乃助はあることに気が付いた。


「あ? 何だよ、アンタ一人か? お供無しで不用心な」


「ふは! 案ずるでない! 余の実力なら剣を交えた御主なら分かるであろう? ......それにしても、暫く見ない間に腕を上げたみたいじゃのう、見ただけで理解したわ」


「......で? 用件はなんだ? まさか世間話するために待ってたわけじゃないんだろ?」


「おお、そうじゃったそうじゃった! 実は御主等に頼みたい事があってな、是非とも余の城に招待したいのじゃ!」


「あ? 頼み事?」


「そうじゃ! 嫌とは言わせんぞ!」


 なんだか、半ば強引に二人は政至と共に伏真城を目指すのであった。


 そこで、烏乃助は自称・未来から来た少女『槌蛍 このか』と再会し、『伏真 政至』の正体を知ることとなる。


 こうして、何やら不穏な空気が立ち込め、裏で良からぬ陰謀が渦巻く中、色んな意味で次元を越えた陸奥編が幕を開けたのであった。


 あの世からの亡者達がやって来る第九話「こころあきらめる」はじまり~はじまり~。



 第二章『この時代、激ヤバなんですけどー』に続く。 


 あー、ここでちょろっと解説をいれると、偽住職が暴れたのは『諦土』の能力によるものです。はい。


 それにしても、改めて読み返すとJKのウザさがヤバいな。


 それでは、次回をお楽しみに~............うへ~、やっぱ、予告守るのだり~。

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