第二章『不思議な少女』
はい!一話の二章です!今回は男二人の会話がメインです。そしてメインヒロインが登場します。今回は少し長文になってしまいました。それでははじまりはじまり~
ここは鴨居城(旧名;武上城)、鎌倉時代に庄内(出羽の日本海側に属する地域)と内陸部を結ぶ六十里街道沿いの要地に築造され、その頃は武上家という武家が城主を務めていたが戦乱の頃に没落してしまい現在は武上家の家臣であった最髪家が城主を務めている。
■
その鴨居城の一室、広さは六畳程のその一室に流浪の剣士『黒爪 烏乃助』は待機していた。あの後この城の城主『鴨居 義明』に招かれたのである。
「いやぁすまんすまん遅れてしまったわい!」
烏乃助がいる部屋の襖が開きそこから派手な着物を着た中年の男、鴨居が入ってきた。
「......人を自分の城に招いておきながら随分と待たせてくれるじゃねぇか」
鴨居に対して烏乃助は皮肉混じりな口調で話した。
「ははは! 公務の最中に城を脱け出したのがよくなかったようでな、ついさっきワシの側近にあたる男にこっぴどく叱られてきたところじゃ!」
叱られたばかりにしては随分と余裕な口調で、まるで他人事のようにへらへら笑いながら鴨居は烏乃助の目の前まで来てそこで腰を下ろした。
「......で? 話ってなんだよ?さっきあんたの娘を (仕方なく) 助けた事に対する礼かなにかか?」
「ははは! 確かにそれに対する礼は後でする!」
と、先程鴨居が入ってきた襖がガラリと開き、そこにはさっき烏乃助が (嫌々で)助けた鴨居の娘でこの城の姫君である黒髪の娘『御祓姫』が立っていた。
さっき助けた時は町娘のような質素な着物姿であったが、今は絢爛豪華な衣装を身に纏っていた。こうして見ると確かにお姫様に見えなくもない。
「父上! べ、別にそんな薄汚い奴にお礼なんて必要ないわよ!」
やはり失礼である。
「なぁにを言うかぁ! お前の恩人に礼をしなければワシの顔が立たないではないか!」
「そ、そんなことより父上! まさかこんな薄汚くてボロ雑巾で極悪人のような目をしたこんなのに例のアレを頼むわけ!?」
言い過ぎである。というよりまさかさっき一度チンピラに人質になったことを根に持っているのだろうか。烏乃助はお姫様とは思えない粗暴な口調の御祓姫に対してそう思った。
「......信用できるの?」
という御祓姫の問いに対して鴨居は、
「ワシを信じろ! この男の太刀筋を見て確信したんじゃ! この男なら任せられると!」
烏乃助を尻目にこの親子はまた二人だけで会話を弾ませる。
「御祓よ、今からこの男に事情を話すからお前は『うずめ』をここに連れてきてくれ」
それに対して御祓姫はーー
「はぁ!? なんで私が!?」
「おんやぁ?ワシの公務中に城を脱け出していろんな人に迷惑かけた悪い子はどこの誰じゃったかなぁ?」
「だ、だってお外に出たかったんだもん・・・いいじゃないのよそれぐらい!」
普通お姫様がお城を無断で脱け出したら大騒ぎになるだろう、それを「それぐらい」で片づける御祓姫。
「......今日の晩飯に人参入れちゃうぞぉ」
「ぐっ!ぬぬぬ!わ、わかったわよ!」
と御祓姫は乱暴に襖を閉めて出て行った。
「騒がしくして悪かったのう、あれでも昔は素直でいい子だったんじゃが」
「......いい加減本題に入れよ」
正直、烏乃助はうんざりしていた。
「なぁにおぬしに頼みたい事があるんじゃ、だがその前におぬし去年起きた出雲での動乱のことは知っておるか?」
「出雲の?......まぁ噂程度でなら」
出雲の動乱、約五百名程の賊と出雲を守護する護神隊が衝突し結果、護神隊は敗北、その後残った賊共が出雲の地を蹂躙し甚大な被害が出た動乱。戦乱の世が終結し泰平の世が訪れてからの日本史上最も最悪であったとか。
「俺への頼みってのはその動乱と関係あるのかよ?」
話の流れからしておそらくそうであろう、それに対して鴨居は「ああそうじゃ」と答える。するとさっきまでへらへらしていた鴨居の表情が一変して険しい表情になる。
「おぬしは、この動乱の引き金となったのがなんなのか知っておるか?」
その問いに烏乃助は首を横に振る。当然である、それに関しては公には明かされていないのだから。
「......実はこの動乱、ある一人の少女を巡って起こったことなんじゃ」
少女?一人の少女が泰平の世の日本史上最悪な動乱の原因?さすがの烏乃助も動揺する。
「どういうことだ? そいつはなんなんだ?」
「『神子』その子は出雲ではそう呼ばれて祀られておった、その子は生まれつきある特殊な力を宿しておったのじゃ、故に正確にはその子のその力を巡っての動乱となるな」
すると襖の向こうから御祓姫の声が聞こえてきた、どうやら戻ってきたようである。
「失礼します父上、『うずめ』を連れて参りました」
さっきまでお姫様としてはそぐわない乱暴な口調だった御祓姫の口調がとても丁寧な口調になっていた。
襖が開くとそこから一人の少女が入ってきた。小柄で華奢な体格、質素な着物を着て、腰まで伸びる髪は透き通るような美しい白髪、そしてその瞳には一切の光が宿っていなかった、まるで人形のような、作り物ような、そんな印象を受ける。あまりにも現実離れ......いや、むしろ幻想的な少女が部屋に入ってきて言葉を失う烏乃助。
「紹介しよう、この子が例の神子『うずめ』じゃ」
うずめと呼ばれたその白髪の少女は烏乃助に対して軽く会釈をする。
■
ある程度の事情は呑み込めた。まず、出雲の動乱の原因となったのが神子であるうずめを巡っての事で、その後、鴨居が駆けつけるが鴨居が出雲に着いた頃にはすべてが終わっていて、生存者の捜索をしている時にうずめを発見し出羽に連れ帰って保護し今に至ると、ここまでは理解したのだがーー
「なんであんたは出雲に向かっていたんだ? まさか動乱を止めようとしてたのか?」
そこが気になる烏乃助、その問いに対し鴨居はーー
「いや、ワシが出雲に向かってる最中に動乱が起こったから違うな、実はその時ワシはうずめの父親に呼ばれてのう、あやつとワシは旧知の仲だったんじゃ、動乱が起こる一ヶ月前にあやつから一通の文通が届いたんじゃ」
『貴殿に託したいモノがある、至急出雲に来てくれ』と、わざわざ本人であることを証明するために血印まで押してあったらしい。
「ワシはただ事ではないと思い急いで出雲に向かった、だが時すでに遅しであった」
「......」
烏乃助の中に新たな疑問が浮かんだ。うずめの父、おそらく神職に携わる人間であろう。それがなぜいくら旧知の仲と言えど一国の大名である鴨居を呼ぶことができるのだろうか?
その事について鴨居に聞いてみた。
「すまんがそれに関しては答えられん.......今はな」
つまり極秘事項か。
「でさ、そいつ......えぇと、うずめだっけ? そいつが持っている特殊な力ってのはなんなんだ?」
神子と呼ばれるぐらいだから普通にはないものなのであろう。ちなみにうずめは部屋に入ってから終止無言であった。ただじっと、その光が宿ってない両の瞳で烏乃助を見ていた、というよりむしろ観察している。
ちなみに御祓姫はうずめを送り届けた後、部屋を出て行った、去り際に烏乃助に対して「うずめに手を出したらあんたの金〇潰すわよ」と警告してきた。あいつは俺のことをなんだと思っているんだ、と心の中で思う烏乃助。
「ああ、この子の力か......えぇと......その......」
「?」
ここにきて鴨居は初めて言葉を濁す。というか選んでるようにも見える。
「......多分信じてもらえないじゃろうな」
「もったいぶるなよ」
少し悩んだ後、鴨居は口を開く。
「この子は生まれつき奇跡を起こせる力を持っていたんじゃ、ワシも最初は半信半疑であったが十年ぐらい前にこの子の奇跡の力を目の当たりにしてワシは驚愕した、当時ワシは公務の都合で出雲に寄ってな、その時、出雲大社の社の一つに火の手が上がったんじゃ、原因はたき火をしていた一人の神官の火の不始末であった、消火活動が難航する中まだ四歳だった頃のうずめがその燃え盛る社に近づき掌をかざすと竜巻が起こったのじゃ、そして見事消火に成功した、ワシはそれを見て心底驚いた、他にも無から火や水を生み出したり、ボロボロとなった刃物を一瞬で新品同様に修復して見せたりと数多くの奇跡を見せつけられた、人々はうずめの奇跡の力を神の力『神通力』として崇め奉っておったのじゃ」
正直烏乃助は半信半疑だった。当然である、一人の少女が竜巻やら火だの水だのと、そんなことができたらまさしく『神』そのものである。だがもしそれが本当だとすると一年前の動乱にも納得がいく。
と、ここで烏乃助は先程の鴨居の言葉に思い当たる節があった。
「さっきあんた『奇跡を起こせる力を持っていた』って言ってたな、それってつまり......」
「ああ、ご察しの通りうずめは現在神通力が一つも使えないのじゃ、おぬしに頼みたい事とはまさにそれじゃ」
■
烏乃助がこの部屋に来てからすでに一刻(約二時間)が経過していた。ずっと座りっぱなしで鴨居の話を聞いていたせいか現在烏乃助は正座から足を崩し胡坐をかいていた。うずめも足が痺れたのか少し足を横に崩していた。鴨居は最初から胡坐である。少し休憩した後、鴨居の話が再開される......はずだった。
「おい」
「うん? どうした」
話を再開するのかと思いきや鴨居は冷酒を飲んでいた。しかもまだ子供であるうずめの隣で。
「なに酒飲んでんだよ、つうかそれどこから出した?」
と、少し気が立ってきた烏乃助。
「ははは! 今は葉月(八月)! つまり夏真っ盛りじゃ! こんな何もない部屋でずっと話してたら喉が渇くもんよ! それにこの部屋少し暑いしのう、冷酒でもって暑気払いでもしようかと思ってな!」
「酒で暑気払いなんて聞いたことねえよ!」
と突っ込みを入れる烏乃助、この男なんか自由過ぎだろ!と心の中でさらに突っ込みを入れると鴨居が冷酒の入った杯を烏乃助に差し出した。
「ほれ! 飲め! 別に飲めないわけではなかろう?」
よく見ると鴨居の顔はすでに赤く出来上がっていた。酒に強いのか弱いのかよくわからん男だ。
「ちっ! 酒に弱いなら飲むなよ」
鴨居が差し出した杯を受け取ろうとする烏乃助、だが途中でその手を止めて一瞬険しい表情になる。
「......」
「ありゃ? 飲まないの?」
烏乃助は静かに伸ばした手を引いた。
「やっぱいいや、まだ暑い日中だぜ? 酒なんか飲んだら余計暑くなるしな」
つれないの~、と呟きながら鴨居は渋々酒を飲む。ちなみにうずめはまだ子供なので氷が入った麦茶を飲んでいた。
......え?俺には茶はないのか?この部屋に来てから粗茶すら用意されていないことに疑問と不満を抱く烏乃助。
「さてと、話の続きをするかのぅ」
そんな烏乃助を尻目に話の続きをしようとする鴨居。半ば諦める烏乃助。
「現在うずめが神通力が使えない理由、それは動乱の最中うずめの神通力が暴走を起こしてしまいーー」
「それで使えなくなったと?」
「これこれ! 話は最後まで聞きなさい! ......まぁそんなところじゃ、その暴走のおかげで動乱は終結したのじゃが賊側、出雲側双方に被害が出たそうじゃ」
ちなみに烏乃助はまだ神通力の存在そのものを信じ切れていなかった。なので鴨居の神通力の話を真剣には聞いていなかった。
「まぁワシもその暴走のせいでうずめは神通力を失われたと思ったんじゃ、じゃがワシはこれでよかったと思ったんじゃ」
「は? なんで?」
「当然じゃろ? うずめから神通力がなくなればもう誰かに狙われることもないじゃろ?」
言われてみれば確かにそうだ、うずめの神通力、烏乃助はまだ信じてないがもしその力をうまく利用すればどんなことだってできそうだ。もしうずめの力の存在が日本全体に知れ渡ったらうずめは日本国そのものに狙われてしまう可能性だってある。
「じゃがご覧の通り、ワシがうずめを発見した頃にはこのような状態になっておった」
うずめはやはり無言であった。というよりさっきから一度も表情を変えていない、これじゃまるで本当に人形のようだ。
「......やっぱ暴走が原因か?」
「......そうとしか考えられなかった、ワシはうずめが心を閉ざしてしまったと思ったんじゃ、無理もない自分の力のせいで動乱が起こり大切な人々が皆死んでしまったのじゃからな、ワシはうずめを保護した後心の治療に詳しいいろんな医師にうずめを見せたが結果は全て駄目であった」
少し目を伏せる鴨居。
「この子はワシの親友の娘、つまりワシにとっても御祓姫と同じぐらい我が子のように大切に思っておる、......もうこの子に辛い思いをして欲しくないのじゃ」
どうやら鴨居は本気でうずめの身を案じているようだ。
ん?とここで烏乃助は少し疑問に思う。先程鴨居は『神通力を失ったと思った』と言った。
つまりそれは......。
「......実は二か月前事態は急変したんじゃ」
そんな烏乃助の疑問を察したのか、鴨居は答える。
「おぬしは出羽の城下町の南西にある巨大な氷の壁を見たか?」
氷の壁、烏乃助は出羽の城下町に入った時にその氷の壁を見てはいる。烏乃助はてっきり夏の風物詩として北の国か、どこかから取り寄せたのかと思っていた。
「それがどうしたよ?」
「二か月前、ある男が出羽に訪れたのじゃ、名は『曉 黎命』現在幕府が過去最高峰の懸賞金を出してまでその後を追っておるお尋ね者じゃ」
『曉 黎命』、烏乃助も名前だけは知ってはいたがそいつが幕府に狙われる理由はわからなかった。
「......そいつなに仕出かしたんだ?」
「なんでも幕府の役人やら幕臣、合わせて42名を殺害したんじゃ」
「は!随分とまぁイかれた野郎だな!」
「他にも自分に逆らう者は手当たり次第斬り捨てる言わば辻切りじゃな、幕府関係者以外にも既に何名かが奴の凶刃にやられておる、現在泰平の世を震撼させる人斬りじゃ」
そんな人斬りが二ヶ月前に出羽に訪れたらしい。しかし先程の氷の壁とその人斬りになんの関係があるのだろうかと烏乃助は疑問に思う。
「......奴は無から氷を生み出してワシの兵士を氷漬けにしたのじゃ、目を疑った、うずめ以外にも神通力が使える奴がいたことに」
氷を操る人斬り、そんなのが日本を彷徨っていると思うとゾッとする。
「ワシは兵士を引かせて奴と話をしようと試みた」
「......よくそんな奴と話をしようと思ったな」
あきれる烏乃助。
「ワシは単刀直入に聞いた『その力はなんだ』とすると奴はこう答えた」
『さあな、俺もこの力の事はよくわかっちゃいないが、アレは半年ぐらい前だったか、空から不思議な光が降ってきてそれに触れるとこの力が使えるようになったんだ』と、思っていたより律儀な奴である。
「ワシはもっと詳しい話を聞こうと奴に近づいた、すると奴の胸に『勇』という漢字が浮かび上がってその直後巨大な氷の壁でワシと奴との間を隔てたのじゃ」
ここまで聞くと現実離れしていてうさん臭く聞こえるが、もしあの氷の壁が人の手によるものなら確かにその『曉 黎命』という男は相当危険な人物である。
「その後、奴は氷の壁の向こう側から何かを言ってはいたが結局聞こえなかった、そして奴は出羽を去り行方を眩ませた、ワシは奴の胸に浮かび上がった『勇』という漢字と奴が言った『不思議な光』が気になってな、その後ワシは隠密部隊を使って調査したすると日本各地にも同様な者たちが存在している事を知った、しかも全員、出雲の動乱が起こった次の月に空から不思議な光が降ってきてそれから神通力が使えるようになったそうじゃ」
出雲の動乱の次の月に日本各地で神通力が使える者達が現れた、明らかにうずめとなにか関係がありそうだ。
「ワシは出雲で回収したうずめの父の資料を読み漁った、あやつはここ数年うずめの力について研究しておったのじゃ、神だの奇跡の力だのと言われても結局のところこの力がなんなのか謎だらけじゃったからな、読み漁っておるうちにこのような物を見つけた」
と、鴨居は懐から一つの紙切れを取り出した、そこにはこう書かれていた。
『喜風』『怒火』『哀水』『楽雷』『恐金』『勇氷』『恥木』『諦土』『愛無』『怨毒』
十個のいろんな属性と感情を組み合わせた漢字が書かれていた。
「なんだこれ?」
「これはうずめが使える神通力全てじゃ」
十個の神通力、一人の少女がこんなにたくさん使えたのか?と、烏乃助は驚く。
「うずめのこの状態、空からの不思議な光、そして、『曉 黎命』の胸に浮かび上がった『勇』という漢字、ワシはこれらからある結論に至った、うずめは心を閉ざしたのではない! 心を失ってしまったと! そして、うずめの心は日本各地に散らばってしまい! そして、うずめの心を宿した者は神通力が使えると!」
にわかに信じられない烏乃助、まず神通力の存在すらまだ信じられないのに、その上少女の心が日本各地に散らばったとか言われても信じられなかった。
「そこでおぬしに頼みたいのが日本各地に散らばったうずめの心を集めてくれないか! この子がずっとこのままなのはワシも見てられないのじゃ!」
鴨居は床に頭をぶつけるほど深く頭を下げた。
「......まぁ事情はわかった、でもなんで俺なんだ?どこの誰なのかも知らない俺になぜ一国の大名であるあんたがそこまでする?」
すると鴨居は下げた頭を上げて烏乃助の目をしっかりと見つめる。
「......ワシも若い頃はよく剣を振っておった、だからわかる! おぬしの先程の太刀筋を見て確信したんじゃ! おぬしがどれだけ真面目に剣の道に精進したのかを! 太刀筋、目線、腰の向き、手の内、足先、どれも一分一厘狂うことがない程の見事なものであった! 剣士にとって刀はいわば心じゃ! じゃからおぬしがどれだけ真っ直ぐな男なのかは太刀筋を見ればよくわかる!」
鴨居が言う太刀筋とは先程の黒髪のお姫様『御祓姫』がチンピラに人質になった際、烏乃助はチンピラが取り出した短刀を御祓姫の喉元に突き立てられるより前に刀を抜いてチンピラを撃退したのである。
「......それがこのガキの心を集める役目を俺に頼む理由? さっきの人斬りといい、あんた大物なのかバカなのかよくわからんな」
「はははは!よく言われる!」
ここまでくると呆れて言葉が出ないが、だが鴨居が今の座につけたのもこの人柄によるものであろう。
「で? どうじゃ? やってくれるか?」
しかし、烏乃助の答えはーー
「期待させて悪いが俺はあんたが思ってるほどの男じゃないし、そもそも神通力だの心が日本各地に散らばったなどそんな話信用できるわけないだろ? 第一あんたは仮に俺がそいつの心をすべて集めたらなんかしてくれるのかよ?」
それに対して鴨居はまるで烏乃助のお断りの返事を最初から予想していたかのように不敵な笑みを浮かべる。
「ああモチのロンじゃ!おぬしを動かすに足りえる理由を用意した!」
「なんだよそれ?」
少し怪訝な表情になる烏乃助。どうせロクな理由ではない。
「うずめじゃ」
「は?」
「うずめの神通力をおぬしの好きなように使ってよいぞ!」
「.....................いらん」
「そうじゃよなぁうずめの力をあーんなことやこーんなことに使ってみたいよなぁ.......て、あれ!?」
「当然だろ? 俺はまだ神通力のことを信じてないし、それにそんなもの俺は興味がない、つーかあんたはこのガキの神通力が無ければ誰にも狙われないって」
「じゃーからおぬしのような邪気が無い真っ直ぐな男になら任せられると思ったんじゃ! おぬしなら悪しき事に神通力を使わないと思ったんじゃ! うずめの神通力が悪しき者の手に渡ったら何が起こるかわからんからな! だから頼む!」
再び頭を下げる鴨居、しかし。
「いらね」
「本当に?」
「ああ」
「本当に本当に?」
「そんなガキいらん」
「......そうかぁ」
落ち込む鴨居。
「では仕方ない、他の者に頼むとしよう」
と立ち上がる鴨居、鴨居に合わせてうずめも立ち上がる。
「じゃが、娘を助けてくれた礼はちゃんとするから少し待っておれ、宴の準備をする」
「ああ、そうさせてもらう」
鴨居はうずめを連れて部屋から出て行った。去り際にうずめは烏乃助を見たがその光が宿っていない瞳からでは彼女が烏乃助のことをどう思っているのかわからなかった。
■
鴨居とうずめが部屋を出てからしばらくした後、烏乃助は呟く。
「よぉ邪魔者はいなくなったぜ」
誰もいないはずの部屋で独り言を話す、するとその独り言に対して天井裏から返事が返ってきた。
「...やはり気づいていたか」
「へ! あんだけ妙な気を発してたら誰だって気づくわ!」
どうやら天井裏に何者かが潜んでいるようだ!
「...いつからでござる?」
「あのおっさんがこの部屋に入ってきたときから」
「ほぉ? てっきり拙者はお前が鴨居から酒を受け取らなかった所で拙者の存在に気付いたのかと思ったぞ?」
烏乃助が鴨居から酒を受け取る際一瞬険しい表情をした時のことを言っているようだ。
「は! だってそうだろ? 鴨居とあのガキが出て行ってからお前と闘り合おうと思ってたからな! 酒で少しでも剣が鈍ったら面白くないだろうがよぉ!」
すると烏乃助は自身の左脇に置いてあった刀を手に取り天井を突いた! というより鞘が付いたままの刀で突いたので正確には天井を突き破った! すると崩れ落ちる天井と共に男が一人落ちてきた。
その男は忍装束を身に纏い、覆面で顔を隠し、そして特徴的なのが首から膝裏まで伸びる首巻布をしていた。誰がどう見ても忍者である。
つまりこの忍者はこの城に忍び込んだ曲者である!
「くくく、鴨居を暗殺しようと思っておったがお前の存在が邪魔で手が出せなかったわ、お前随分と獣じみた殺気を発するのだな」
「御託はいいから闘ろうぜ?てめー強いんだろ?」
「...ふっ! ならばここでは拙者は全力で戦えぬゆえ、ついてくるがいい!」
と言って忍者は襖を蹴破って廊下に飛び出した。
「は! 最近雑魚ばっかりとしか闘ってねぇから退屈してたところだ! 楽しませてくれよ!」
と言って烏乃助も廊下に飛び出してその後を追った。
第一話「こころよろこぶ」第三章『狂喜の風』に続く
こんなにたくさん書いたの初めてで疲れました(:’Д')六時間ぶっ通しで書いたからどこかミスがあるかもしれませんが皆さまが読んでくれるだけで私は幸せです。次回からいよいよ最初の神通力を使う相手と戦闘です。では、皆さまお楽しみに~・・・・して欲しいっっ!