第一章『暗雲の兆し』
帰りたーい、帰りたーい、暖かい我が家が待っているー、帰りたーい、帰りたぁぁぁぁぁぁぁい!
はい、もう六話です。この物語もようやく半分まで来ました。
そして、また出羽編でございまーす。
それでは、はじまりーはじまりー。
燃えていた。
私の目の前で全てが、私が暮らした建物、思い出の場所が、次々無くなっていく。
争っていた。
人と人が争っていた。刀を手に、人が人の首を跳ねていた。中には逃げ惑う人々を追いかけ回して殺す者も居た。
赤かった。
景色が、人々が、私の眼前にあるものは全て赤々としていた。まるで赤以外の色を許さないかのような光景だ。
自分のせいだ。
こんなことになったのは、自分が原因だ。私はすぐに理解した。
どうしたら止まる? 何をしたら彼らは争うのを止めてくれる?
「簡単な話だよ●●●。君のその力を開放してあげるんだ」
私は首を横に振った。そんな事をしたら......。
「大丈夫だよ。君には僕が付いてる。だから恐れないで、君はここで死んではいけない、君は生き残るんだ」
私は『あなた』の言葉を拒絶した。
そしたら、『あなた』まで赤くなってしまった。
「さぁ......やるんだ......誰を犠牲に......して......も......その『心』は守らな......きゃならない......」
「━━━━━━━━━━━━━━っ!!」
私は叫んだ。声にもならない声で叫んだ。
もう、全てが終わってくれれば...........。
■
「はっ! あぅ!?」
「ほげぇ!?」
うずめは急に目を覚ました。すると、一緒に寝ていた烏乃助の額に自分の額をぶつけてしまった。
「う、う~」
「いってぇなぁ、随分と派手な起こし方だなぁ」
二人は上体を起こして、ぶつけた額を押さえながら互いを見つめ合った。
「んだよ。『恐怖』を取り戻したから恐い夢でも見たのか?」
「......う~ん。確かに見たには見たんだけどぉ.......今ので忘れた」
「あっそ」
すると、部屋の扉を叩く音と聞き覚えがある声が聞こえてきた。
「シャーシャシャシャ! お二人さぁん、目的地の『出羽』が見えて来たで~」
声の主は現在二人が乗っている渡航船の船長『深鮫 挟樂』であった。
越中を出てから一ヶ月。
時期は睦月(一月)。
二人は船の上で年越しを過ごしたのであった。
二人は船室を出て甲板から目的地である『出羽』の港を見る。
「......あっと言う間だったなぁ、去年の葉月に出羽を出てからもう半年か」
「うん、色々あったね」
二人は出羽を眺めながら、この半年間の出来事を振り返る。
葉月、出羽で烏乃助はうずめと出会い、そして最初の心の所有者『影隠 鎌鼬』と戦い、勝利した。
長月、信濃で強くなる事に情熱を燃やす少年『鈴鳴 源国』と対峙し、烏乃助は自身の正体をうずめに打ち明けた。
神無月、若狭で日照りで死にかけた烏乃助とうずめを救ってくれたのは、水潟群の女領主『水守 弥都波』しかし、幕府の使い『高見魂』に脅迫され、彼女は烏乃助と対峙してしまい、その後行方不明となった。
霧月、丹波で濃霧に覆われた平原で意思を持つ鎧『雷剣』に遭遇し、ここで初めての敗走をし、後に京の町の人々と共に雷剣の暴走を食い止めた。
師走、越中で北陸水軍の頭領『深鮫 挟樂』に出会い、何だかんだで深鮫のお陰で烏乃助とうずめの間に『絆』が芽生えたのであった。
「なんか、出羽を出たのが昨日の事のように思うね」
「ま、そんなもんだろ」
「はい、そういうものです」
二人がこの半年間の事を振り返っていると、二人の背後にはいつの間にか上は武士、下は忍び装束の鴨居の腹心『郷見』が居た。
予想外の相手に二人は驚いてしまった。
「どわぁ!? 郷見!? な、なんでこの船に乗ってんだ!?」
「はい、実は越中の時から既に乗っていました」
「はぁ? じゃあなんでこの一ヶ月の間、姿を見せなかったんだ?」
「はい、なんと言うか......烏乃助殿とうずめ様が随分と仲良くなっていたものでして、お二人の雰囲気を壊すのはあれかと」
「要らん気遣いはすんな!」
そうこうする内に、烏乃助達が乗る船は港に到着した。
「ふぅ、わたくしも久方ぶりの出羽です。ではお二人が到着した事を先に親方様、もとい鴨居様に報告して参ります。それでは失礼」
そう言い残すと、郷見は何故か煙幕を使ってその場から居なくなった。
「こほ、こほ」
「げほ! げほ! .....だっからなんで一々あいつは煙幕を使わないと立ち去れないんだよぉ! 個性作りか!」
烏乃助が若狭の時のように、郷見に文句を言っていると、船員の一人が声を荒げた。
「ひ、火だぁ! 甲板に火が付いてるぞぉ!」
「あぁぁぁぁぁん? 何事やぁぁぁぁ? て、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
船員の声を聞いて深鮫が船内から甲板に出ると、規模は小さいが甲板の至るところに火が燃え移っていた。
どうやら郷見の煙幕の火薬が原因らしい。
「誰やぁ! 俺様の船の上で焚き火しとった奴はぁぁぁぁ!! お前かぁぁぁぁぁぁ!」
「げぶぅ!? ち、違いますよ、お頭~。そ、そんなことより火を消さないと!」
「私に任せて!」
と、うずめが火に向けて両手をかざし、『哀水』の力で火は鎮火した、が。
「ひゃう! つ、冷たーい!」
「ぎゃああああ! つっめてぇぇぇぇぇ!!」
哀水を使用したことによりうずめの手が濡れてしまい、その上この季節の外気はかなり低いため、うずめはその冷たさに思わず手に残った水気を烏乃助にかけてしまった。
到着早々慌ただしい烏乃助達であった。
■
時は遡り二週間前。
奥州陸奥のとある城の一室。
襖で隔てられた部屋の前に一人の男が正座をし、座礼していた。
「よい、面を上げよ」
襖の向こうから若い男性の声が聞こえてきた。
その声は、通常の男性の声に比べると少し高めで
、注意深く聞かないと女性の声と間違えてしまうほどの美しい声であった。
その言葉に従い、座礼していた男は顔を上げた。
その男はこの城の家臣と思われる服装をし、身だしなみはしっかりと整っており、髪型はちょんまげと、ここまで聞けばとても真面目そうな感じではあるが、その表情はとても家臣、もとい武士とは思えないくらいにやる気が無い表情であり、その瞳には正気がない死人のような目......を、通り越して眠たそうな眼をしていた。
「あのぉ、『政至』様ぁ、ご報告が御座いますぅ」
表情だけでなく、言動までもやる気が無さそうであった。
当時の事を考えると、それだけで切腹ものである。
しかし、そんなこともお構いなしに、男はやる気がないまま襖の向こうの男に報告をした。
「なんかぁ、先月『影隠』の皆さんから耳寄りな情報がございま......し......ふぁ~」
恐らく襖の向こうに居る男は、このやる気が無い男の主であろう。にも関わらず、男は襖越しとはいえ、主の前で大きな欠伸をした。
本当に場合によっては切腹どころか、その場で打ち首になりかねない行動である。
「ほうほう、それはそれは、何やら気になるのぉ」
「あ~ん、政至様~わたくしめも気になさって下さい~」
「あーずる~い、あたしも~」
と、どうやら襖の向こうに居るのは政至と呼ばれる男だけでなく、複数の女性が居るようであった。
「ふははははは、可愛い奴等め、存分に愛でてやろうぞ」
「......ぐーぐー」
「......ふむ、『伸杉』。お主どさくさに紛れて寝ておるな?」
「......ふぇ? あ、これは失礼しました」
伸杉と呼ばれたやる気の無い男はその言葉に目を醒まし、先程報告しようとしたことを伝えた。
「はい、先月の『影隠 うわん』からの報告で、例の『紫上 兼晴』に似ている娘と、その娘と共にあの『鎌鼬』及び『濡女』を退けた剣士が越中に向かったとの事です」
「ほぉほぉ、越中とな、して、その二人組はどういう目的で旅をしているのか分かったのかえ?」
「はぁ、うわんの報告によりますと......」
「む? どうした? はよ伝えよ」
「(うわ、言いたくねー)......何でも、『神通力』? なるものを集めているようです、はい」
「神通力?」
「はぁ、正直わたくし自身もよく分かっておりませぬ故」
暫しの間、沈黙が続いたが、襖の向こうにいる男が沈黙を破った。
「そういえば、確か先月京の町で一人でに『動く鎧』が暴れたとか何とか、と言った話を噂程度でなら聞いたことがあるのぉ」
「あー、ありましたねー」
「ふむ、それに越中か......確か余が推薦してやった男があの地に居たな、一年前に奴からの文通が届いたが......内容は『旦那ぁぁぁぁ、なんか知らんが体から刃物が出せるようになったぁぁぁぁ』とか訳分からぬ事をぬかしておったが、もしかすると、例の二人組はあの男の世迷い言につられて越中に向かったのかのぉ?」
「はぁ、つまりあれですか? あの異国かぶれの『刃物』も神通力だとでも?」
「で、あろうな。まぁ、真相は知らぬが」
二人が話していると、襖の向こうに居る女達が会話に割り込んできた。
「政至様~、そろそろわたくしともお話して下さいまし~」
「ぬぅ? おぉそうかそうか、しょうがない奴じゃのぉ」
「はぁい、政至様~こんな寒い時期は熱燗がよろしいかと~」
「......確かに、寒い時期は酒に限る......しかし、余は『こちら』を味わいたいのぉ」
「え? ぎ、あああああああああああああああ!!?」
すると、襖の向こうから女性の絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。
中で何が起こっているのだろうか?
「あ、がぁ、ま、政至ぃぃぃぃ様ぁぁ!」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぺちゃ、ぬちゃ、くちゅ、くちゅ、と、かなり湿った音が鳴り響いていた。
すると、襖の下のほうから、大量の液体が流れ出てきた。
それは......『血』であった。
「あー、ちょっと政至様ぁ、こんなに汚してぇ、後で掃除するのこのわたくしなんですよぉ」
と、伸杉は襖から血が滲み出ているのにも関わらず、とても呑気な事を言った。
「ひ、ひぃ!」
「ま、政至さ、まあああああああ!!」
今度は別の女性の悲鳴が聞こえてきた。今、中で想像したくもない惨劇が起こっているのであろう。
「くは、くはははははははは!! やはり甘美よなぁ! やはり寒い日はこれに限るわい! に、しても大袈裟じゃのぉ、別に死ぬわけではあるまいに」
「いやいや、この出血量だと死にますよ?」
「ぬ? そうなのか? 余としたことがうっかりしておったわ」
この惨劇に合わないような会話をする中、ついに襖が開き、中から全身血まみれの小柄な男が全裸で現れた。
その男は、男とは思えないほどに触れれば壊れてしまうのではないかと思う程に華奢な体格をしており、透き通るような髪は足首まで伸びており、下手したら男と言うよりも女性に近いような容姿と顔立ちであった。
それにしても、言動には多少の威厳っぽいものはあるものの、見た目は随分と若かった。
実際の年齢は分からないが、その見た目と若さのせいで、男と言うより少女に見えてしまう。
そして、血まみれでおぞましい姿をしているにも関わらず、小柄な男は仁王立ちで、両手を腰に当てて不敵な笑みを浮かべた。
「......あのぉ、政至様。『見えて』ますよ」
「くはははは! 見せ付けておるのだ!」
「うわぁ、相変わらずの変態っぷりですね。男に股の『それ』見せ付けて何が愉しいのですか?」
「愉しいわい! なんせ親愛なる我が臣下に余のこの愛らしい姿を見せ付け、日頃の労をねぎらってやりたい......そういう余の計らいじゃよ!」
「......確かにお顔は可愛らしいですけどぉ、その股間のものを見せ付けられるのは、ちょっと......」
「ぬぅ、余の愛らしさが分からぬ奴じゃ。それより出掛けるぞ、支度せよ伸杉」
「はぁ、どちらへ?」
「決まっておろう! 出羽の『鴨居 義明』のところじゃ! 余の予想では、例の二人組は近々出羽の鴨居の元に戻るであろう、是非この目でその者達を拝見しておきたい! そして、例の神通力なるものも知りたい! そして、我が愛しの『御祓姫』の顔もよく見てみたいしのぉ!」
「......相変わらずですねぇ、わたくしはあの御姫様は苦手で御座います」
「くはははは! そこがよいのじゃ! ああ言う強情な女子はのぉ、屈伏させがいがあるというものじゃぁ!」
ふははははははははははは!!
■
そして、時は戻る。
出羽の城下町。
「うわー、めっちゃ久しぶりだなぁ、この町の門をくぐるのは」
「私もー 」
二人は港で深鮫達と別れ、出羽の城下町の入り口に到着していた。
「あーそうそう、この通りであのお姫様に会ったんだよなぁ」
「ふーん、そうなんだぁ」
「んで、あのお姫様。初対面の俺に対して偉そうな態度を取っておきながら、その後ゴロツキに誘拐されてさぁ、あん時は内心爆笑ものだったなぁ、お前にも見......せ......て......」
烏乃助が思い出話をしていると、背後から異様な殺気のようなものを感じ、振り返るとそこには、鴨居の娘にして、出羽国のお姫様である『御祓姫』が立っていた。
「ふ、ふぅん、あ、あんたぁ私のこと内心笑ってたんだぁ、ふぅん」
「よ、よぉ、久しぶりだな、また城を脱け出したのか?」
濡れた黒髪を左右に縛った髪形が特徴的な御祓姫は、烏乃助と出会った時のような質素な町娘のような格好をしていた。
また無断で城を脱け出したらしい。
「折角、あんたらが帰って来たって言うからこの私が直々に出迎えに来たって言うのにぃ.....ちょぉと、話があるんだけどぉ、いいかしらぁ?」
「お、おいおい、再会早々怒りすぎだろ......」
「うっさぁぁぁい! この鳥頭がぁぁ! こっちはあの時ちょっぴり怖かったんだからぁぁ! それを笑い話にすんなぁ!」
と、御祓姫が烏乃助に歩み寄って来た。
「ぬぅお!? さ、させるかぁ!」
危機を感じた烏乃助は隣に居たうずめの両肩を掴んで自身と御祓姫の間に引き寄せた。
「『うずめ防壁』!!」
「え? え?」
突然のことで困惑するうずめ。
すると、さっきまで怒っていた御祓姫が急におとなしくなり、うずめを抱き寄せた。
「う、うわぁぁぁぁん、うずめぇ、会いたかったよぉぉ」
「ふ、ふぎぃ、み、みそぎ、く、苦しい......」
お忘れな方も居られるかもしれないが、御祓姫はうずめの事を実の妹のように溺愛している。
烏乃助は、その習性を利用して、この危機を回避したのである。
「ねぇうずめ、どこま怪我はしてない? 寂しくなかった? この鳥頭に変なことされなかった?」
「おい、こら」
「ふ、ふぐぅぅぅ、ど、どこも怪我してないし、烏乃助はそんなことしないよぉ、だ、だから離してぇ......!」
御祓姫に捕縛されて身動きが取れないうずめは、助けを求めるような目で烏乃助に目配りをした。
しかし、烏乃助は目線で『諦めろ』と返した。
それに対しうずめは『残念、今の私に諦めるなんてものはありません。そんなことより早く助けて』と、目線だけで訴えかけてきた。
だが、これでは埒が明かないと思った烏乃助は頃合いを見計らって助け船を出した。
「......こんな寒空の下で抱き合うのはいいけどなぁ、さすがにそろそろ屋内に入らないか? うずめの奴も旅で疲れてるだろうし」
「む、それもそうね。私ったら、喜びのあまり我を忘れてしまったわ。ごめんねうずめ、そろそろ城の中に入りましょう。父上も待っているだろうし」
ようやく捕縛から解放されたかと思ったら、今度は御祓姫がうずめの手を引いて、歩み出すのであった。
■
同時刻。
越中。
新音港の物置小屋。
「フム、大分金も貯まったことだし、そろそろこの教会(物置小屋)を改築しないかね?」
物置小屋の椅子に腰掛けるのは、ほんの半月の間だけ、烏乃助とうずめと行動を共にしていた仮面宣教師『ディアル』であった。
「うーん、改築はもう少し待った方がよろしいですね。確かにこの額なら改築は出来ますが、その代わりしばらくひもじい思いをすることになりますよ?」
ディアルの向かいの椅子に腰掛けるのは、十代後半辺りの若き宣教師『フェリス・イカーサ』であった。
「......フゥ、さすがにひもじい思いはしたくないな。あんな思いは戦場に居た頃に何度も経験してきたが、もう味わいたくないな」
そんな世間話をしていると、物置小屋の扉が開き、一人の中年の男性が入ってきた。
「ハハハハ! 待たせたな諸君!」
その男性は、かつてイスパニアの第一騎士団『カラトラス』の団長でもあった男『ドン・フェルナンド』であった。
「ようやく『奴』の行動を捉えたぞぉ!」
「......!」
「ホォ、やっとか」
フェルナンドの言葉を聞き、二人は椅子から腰を上げた。
「それで? 奴は何処に?」
「まぁまぁ、そう慌てるなディアル君」
「......勿体振るのがあなたの悪い癖だな」
「そ、そう言うな、では、おほん! 奴は現在『土佐(高知県)』に潜伏しているようだ!」
「?Que!?(何!?) 土佐......だと!?」
「......て、何処ですか?」
「......知らん!!」
さんざん勿体振らせておきながら、フェルナンドは土佐が日本の何処に在るのか知らなかったようである。
「......」
「......」
「ま、まぁまぁ、落ち着きたまえ、ちゃんと土佐までの案内役がおる!」
「案内役?」
「そ、そう! 奴が土佐に居ることを教えてくれたのも彼のお陰、そして彼自らが土佐まで案内してくれるそうだ!」
「ホォ、その者は今何処に?」
「......今はこの場には居らん。なんせ、奴に近付いたからな、奴の手の者に尾行されてないか警戒しておるらしく、『美濃(岐阜県南部)』にて合流しよう.......と、先程文通が届いた。美濃の位置はちゃんと分かっておるぞ! ここから南の方角に位置する国だ」
「......分かったよ。つまり、私とフェリスの二人で、美濃まで行ってその者と合流すればよいのだな?」
「うむ! その通り、いやぁ話が早くて助かる」
ディアルとフェルナンドが今後の事を話していると、フェリスは心配そうな顔でフェルナンドを見つめた。
どうやら、自分達が越中の地を離れたら、フェルナンドの身が危険なのでは? との心配の眼差しであった。
それに気付いたフェルナンドは、フェリスの肩に手を置いた。
「案ずるな。もう歳だが、これでも第一騎士団『カラトラス』の団長だった男だぞ? それに、この日本に上陸出来たのはワタシと君達合わせて『六人』ではあるが、残りの者は皆優秀な騎士であることは君も分かっているだろ?」
「た、確かにそうですが......」
「フェリス」
と、今度はディアルがフェリスの横から語りかけてきた。
「......こういう時は心配するな。君も騎士なら分かる筈だ......我々にとっては、『心配』するとは、『信用していない』と、言うことだ。フェルナンド殿が大丈夫と言うなら、我々はただ信じるのみ」
「はい......失礼......しました......」
ディアルに促され、フェリスは顔を伏して少し落ち込んだ。
「さて、では我々はいつ出発すればよいのだ? フェルナンド殿」
「......そうだなぁ......では、一週間後。理由は君達の旅支度もあるが、何より隠れキリシタン達や奉行所の目をもう少し欺く必要がある。なんせ我々は布教活動のために来日した......と、言うことになっているからな」
ちなみに、当時は幕府将軍が敷いた禁教令により、日本でのキリスト教の信仰は禁じられていたが、一部地域には『隠れキリシタン』が存在しており、ディアル達は彼らを中心に布教活動を行っていた。
奉行所の目を欺く理由は、この物語では他の国だと厳しい布教活動も越中ではある程度制約付きで許されているのである。
許される理由は、越中の海の守護を務める『深鮫 挟樂』のこれまで功績が認められ、ほんの少しだけ幕府の認可を得ることができたのである。
※あくまでもこの物語の話である。
■
「わっはははははは! よくぞ無事に戻ってきたな二人とも! ワシはそれだけでも嬉しくてしょうがないわい!」
場所は鴨居城。
烏乃助とうずめは半年ぶりに出羽の大名『鴨居 義明』と、鴨居城の一室で再会した。
「にっしても、烏乃助。おんし本当にかすり傷一つもなく出羽に帰ってこれたのか? ......さすがに気持ち悪いのぉ......」
「なんでだよ!」
「いや......だって、特に『恐金』相手にかすり傷無しとか......うん、キモいのぉ!」
「そこまでか!?」
「うん、うん、烏乃助ったら、私に本心を打ち明けた途端に急に強くなったから私も驚いちゃった」
「ほぉ! やっぱキモいのぉ!」
「......うん、お前俺をバカにするの楽しんでるだろ?」
「ハハハハハ! ばれたか」
烏乃助とうずめが鴨居にこの半年間の出来事を話していると、部屋の襖が開いて、屋敷の使用人が現れた。
「失礼します親方様。宴の準備が整いました」
「おお! そうかそうか! では二人とも! 長旅で疲れたろう。ささ、皆お主達が帰って来て喜んでおる! 一緒に酒を飲み交わそうぞ!」
「酒かぁ......こいつの前だと浴びるほど飲むことが出来なかったからなぁ、久し振りにぶっ倒れる程飲むとするぜ!」
「私は倒れるまで食べ尽くしたいなぁ」
■
同時刻。
土佐のとある地下施設。
「......☆」
「調子はどうだ『死刻』よ」
「はい☆ 順調で御座いますよ☆」
その施設の一室に、京で烏乃助が遭遇した謎の黒ずくめ『不知無 死刻』が、何やら日本には無いような試験管を使って何かを作っていた。
その部屋の片隅でその様子を伺う男が一人。
「必ず成功させろ。何のためにお前を異国から招いたか分かっているな?」
「分かってますよー☆ 本当に人使いが荒いですねー☆」
「......ふん、本当はお前のような外道の手を借りたくないのだがな」
「またまた~☆」
「......まだ時間が掛かるなら私は地上に戻る。そして、念のため忠告しておこう」
と、男は急に腰の刀を抜いて、死刻の首を背後から貫いた。
「京で『あの子』に接触したそうだな。いいか、『あの子』には決して近付くな。これ以上近付くと貴様が死ぬまで斬り刻むぞ」
恐ろしい事を言ってはいるが、その言葉には何の感情も込められていなかった。それが一層恐怖を引き立てた。
「......ふふ、ふふふふふ、殺せるかな? 人間風情が☆ この『叡智の結晶』を」
「何が叡智だ。貴様のその所業は人だけでなく神にも反する行いだ。こんな時で無ければ、貴様を葬る手段を考えていたよ」
そう言うと、男は死刻の首から刀を抜き、その場を立ち去った。
「......くひ、うっざ~☆ そもそもあの子が貴方の関係者だと知っていたら......あんな堂々と人前に現れず、こっそり接触してましたよ~だ☆」
すると、首の傷がひとりでに治って、傷跡すら無くなってしまった。
「ふう、それにしても......私の事を嗅ぎ回る連中が居るようだな☆ いいでしょう、全員生け捕りにして、新たな実験材料となってもらいましょうかねぇ~...........くひ、ひひひひひ、あひ、はははははははははははははははははは!!」
あーははははははははははは!! うっ! げほ、げほ、やべ、むせた☆
第六話「こころきずつく」第二章『血染め酒』に続く。
最近こんな事に疑問を感じ始めました。
人って、どういう基準で他人を信じる信じない、あるいは裏切られた、と感じるのだろうか?
まぁ、これは私自身が調べて導いた見解なので、大したことはないと思いますが、他人を信じる、それはつまり自分が作った規則の中で他人が行動してくれた時に『信じる』と思うけど、自分の規則以外の行動をされたら『信じてたのに』『裏切ったな!』『野郎ぶっ殺してやるぅぅぅ!』て、なるそうです。
つまり、裏切られて苦しんでる人って、自分で作った規則に、自分が作った法律に苦しんでるんだなぁ、と思いました。
......まぁ、特にこんなこと話してなんかあるわけではないので、雑談程度で聞き流してください。
それでは次回をお楽しみ........うっ! げほ、げほ、やべ、むせた☆




