第四章『最後の一撃』
うわぁ! また長くなってしまったぁぁぁ!
そして、これが今年中最後の投稿です。
最後の最後に第五話を書き切ることが出来て良かった~ふぃー。
それでは、始まります。一本の刀vs恐怖の無限の刃
はじまり~はじまり~。
「シャアァァァァァァァァァァァァァァァァ!! 逝ってらっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
全身から大小様々な刃物を生やした状態で深鮫は烏乃助に飛び掛かった。
「悪いが、逝くのはテメェだぁ!!」
烏乃助はうずめをその場に残して深鮫に向かって走った。
「シャラァ!!」
深鮫は刃物だらけの腕を鞭のようにしならせて、烏乃助の脳天目掛けて打ち下ろしてきた。
「ぬぉぉぉぉぉ?!」
「......避けるのも受けるのもめんどくせぇ」
烏乃助は右手に持っている鞘刀を垂直に立てて深鮫の打ち下ろしてきた腕の手首の辺りを切っ先で止めた。
実際これが正しいのかもしれない。通常の上段受け(頭の上で刀を横にしたもの)を行うのはこの場合危険である。
なんせ、深鮫の腕から生えている刃は全て切っ先がこちらに向いているからである。通常の斬撃とはことなり、深鮫は刃で斬りにきているわけではない、無数の刃で烏乃助を串刺しにしようとしているからである。
「アァァァァァァァァリァ!!」
まだ空中にいる深鮫は刃物だらけの左足で廻し蹴りを放った。
「ほ!?」
なんと、烏乃助は刃物だらけの深鮫の蹴りを『足で止めた』のである。よく見ると刃物が生えていない箇所を一瞬で見極めて足で止めたのである。
そのまま烏乃助に弾き飛ばされた深鮫は体勢を立て直した後に烏乃助との間合いを取ってすぐにその場で一回転すると深鮫の手の平からかなり長大な刃が伸びてきたのである。長さは八尺(240cm)と、かなり長い刀身が現れ、その切っ先は真っ直ぐに烏乃助の喉元を狙いながら直進した。
「......はん、すっとろいな」
飛んできた刃をほんの一寸(3cm)、余裕そうに横に避けた。
すると深鮫は不敵な笑みを浮かべた。
「掛かったなぁぁぁぁぁこのドアホォォォォォォォォ『金鮃刀』ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
なんと、烏乃助目掛けて伸びた刀身から更に無数の刃が余すことなくびっしりと、根元から切っ先にかけて生え揃ったのである。
これだけ見ると最早、刃と言うより鬼が持っているような金棒みたいな感じである。
深鮫は、烏乃助が横に避ける事を分かっていたらしく、その隙を突いて刀身の側面から更に刃を生やしたようである。
「......いや、ばればれだからな」
「わぁお! まじかぁいなぁ!」
深鮫は烏乃助を串刺しに出来たと思ったのだが、烏乃助は身を低くして、その刃を避けたと同時に突貫してきた。
「シャーシャシャシャ! どないなっとんねん、あんたの反射神経はやぉぉぉぉぉぉぉ!」
「喰らえ! 『白鷺』!」
突進と同時に深鮫の体から刃物が生えていない箇所である喉を突こうとする、しかし。
「あっひょぉぉぉぉう!」
なんと、喉からも刃が生えてきたのである。
そして、空中で烏乃助の刀の切っ先と深鮫の喉から伸びる刃の切っ先が衝突し静止した。
「シャシャッ! ざぁんね......」
「『啄木鳥』!」
静止している刀の柄頭に掌底を叩き付けた。
すると、その衝撃が深鮫の喉から伸びる刃を伝って深鮫の喉に直接届いた。
「ゴッバァッ!?」
何が起こったか分からずに、深鮫は膝から崩れ落ちそうになったが、すぐに踏み止まった。
「ガ.......べ......ギ........ジャ.......」
全ての刃を体内に戻した深鮫は自分の喉を両手で押さえて苦しそうにする。どうやら喉が潰れてしまったらしい。
そんな烏乃助の戦いっぷりを見てうずめは思った。何だかいつもの烏乃助と何処か違うと、一つ一つの動きになんの迷いもない、相手が全身から無限に等しい刃を生やす恐ろしい相手にも関わらず、烏乃助はいつも以上に冷静な対応であった。
うずめがそんな事を考えていると深鮫が突然叫んだ。
「ジ......ジャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
喉が潰れているにも関わらずにこの絶叫、それだけで周囲の大気が震えてしまうほどの凄まじいものであった。
深鮫の絶叫に対して、うずめはつい耳を塞いでしまった。それは、二人の戦いを見守る他の船員達も同様であった。
ただ、唯一耳を塞がなかったのは烏乃助だけであった。
「......あーあー、お・れ・さ・ま・はー。......シャシャシャ! 治ったでぇ!」
信じられない事に、今の絶叫のお陰で深鮫の潰れた喉が治ったらしい。......もう人間超えちゃってるよこの人。
「そやぁ、これやこれぇ! やぁっとあんたの『迷い』が消え失せたのぉぉぉ!」
「......」
「一昨日の海岸での殴り合い......あの時感じたんや、あんたの拳にはなぁぁぁんか迷いというか、悩みというか、靄みたいなぁぁぁぁ、それがあんたの実力を上手く引き出せてない気がしてのぉぉぉぉぉ!」
「......つまりなんだ? ここまで大掛かりな事をしたのは、俺の迷いを払って全力の俺と闘り合いたかったって事か?」
「シャシャシャ! そのとぉぉぉぉり! いやぁ、上手くいって良かったわぁぁぁぁぁぁぁシャーシャシャシャ!!」
どうやら、烏乃助がうずめに己の本心を隠していたせいで、烏乃助の動きに何かしらの迷いがあったらしく、深鮫がそれを取り払ってくれた、と言う事らしい。
「後悔するぜ」
「もうしたわ」
すると今度は右腕を大きく回して、再び八尺近くあるような刃を手のひらから生やし、今度は斬り掛かってきた。
「そぉれ! 『刃寿螺斬』!!」
深鮫の剣速は、通常の剣士よりも遅い感じに思えたが、急に根元から切っ先にかけて再び刀身の側面からびっしりと余すことなく刃が生え揃った。
その刃の重みで一瞬にして、深鮫の剣速はとんでもない速度になった。
普通こんな刃の塊が来たら逃げるか避けるかの行動を取るものだが、烏乃助は全くその場で動かなかった。
「......『燕』!」
その場に居た烏乃助は自身に迫り来る刃の塊に向けて逆袈裟斬りを放ってへし折った。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!?」」
烏乃助達が居る船の隣にあるもう一隻の船の上にいる船員達が驚愕の声を上げた。
いくら折る自信があるからと言って、折れた刃の破片が刺さるかもしれないような危険な選択肢を烏乃助は選んだのである。
すると、予想通り烏乃助に向かって刃の雨が降り注いだ、しかし━━。
「あんりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!」」
なんと、烏乃助はその場から動いてもいないのに、刃の雨は烏乃助の体に掠りもしなかったのである。
その事に深鮫達は驚きを隠せなかった。
「なんや兄ちゃん、なんでそんなに『冷静』なん?」
どうやら烏乃助は冷静に刃の雨を見極めて、体を、腕を、足を、頭を、どこにどのように配置すれば刃の破片が当たらないのか一瞬で見切ったらしい。
やはり、うずめと互いの本心を打ち明けた後の烏乃助は今まで以上に冷静過ぎるのであった。
「......不思議だ。なんか、妙に頭が冴えるな。お前が千、万の刃を出したとしても全て冷静に対処出来そうな気がする」
「......もしかして俺様、とんでもない『怪物』を目覚めさせてしまったのかなぁぁぁぁ??」
一見すると深鮫にとって不利な状況に思えるが、それでも深鮫は全く焦っておらず、むしろ新しい玩具を手にした子供のように嬉しそうに笑うのであった。
「フシャシャシャシャ! これじゃどっちが化物か分からんの~。そんじゃ、『準備体操』はここまでにして、本気出すかの~」
「あっそ、負け惜しみにしか聞こえないぜ?」
「ウッシャーシャシャシャ! 相変わらずの減らず口やのぉぉぉぉぉぉぉぉ! さっき兄ちゃん言ったよなぁぁぁぁぁぁ? 千でも万でも対処出来るってなぁ? ......やれるもんならやってみぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
すると、今度は深鮫は甲板に突き刺さる折れた無数の刃の上を跳びながら烏乃助に接近し、急に手のひらから長さ三寸のみの刃を生やし、折れた刃の上で独楽のように逆立ちとなって回転しながら開脚をした。
一見すると蹴り技かと思いきや、足の裏から長さ五寸(150cm)の刃を生やして、横薙ぎに斬り掛かってきた。
「オシャオシャオシャシャシャッシャ! 『神回鯡参舞大歯』!!」
この時、烏乃助は冷静に観察していたからすぐに深鮫の意図を理解した。
一見すると足の刃に目が行きがちだが、どうやら深鮫は足、胴、もう一方の手のひらと、三本の刃を出して上、中、下を同時に攻めて来たのである。
凄まじい回転で近付いてくる深鮫、しかし烏乃助は上段に構え、そのまま上段から下段まで、膝が地面に付くぐらいまでに振り下ろした。
すると、三本の刃は全て折れて宙に舞った。
「しゃあ!」
「シャラァァァァァ! 緊急回避やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
深鮫は、独楽にしていた手のひらの刃を急激に伸ばして空中に逃げ、烏乃助の追撃を避け、そのまま烏乃助から遠ざかる深鮫。
「シャーシャシャシャ! これも避けたらマジモンの怪物やでぇぇぇぇぇぇぇ!」
すると、深鮫は両手からまた八尺の刃を二本生やし、またびっしりと根元から切っ先にかけて刃を生やした。
と、同時に二本の刃の塊を甲板に叩き付けて大量の刃が折れて全て宙に舞った。
「今やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 面舵いっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
という合図と共に烏乃助達が乗る船が大きく右に傾いた。
「うわ~!」
船が傾いたせいでうずめは大きく転倒して転がってしまい、欄干の所で止まった。
「!?」
一瞬、烏乃助の気がうずめに行ってしまったせいで、烏乃助は視界から深鮫を見失ってしまった。
驚異的な冷静状態であった烏乃助でも、慣れない船上での戦闘で船が大きく傾くとは予想すら出来ていなかったのである。
「シャーシャシャシャ! 真剣勝負に卑怯なんて言葉は存在しないよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『流刃之束鮪』!!」
背後から深鮫の声が聞こえたかと思うと 、烏乃助の目の前で未だに宙を舞っている数百ぐらいはある刃が信じがたい事に烏乃助に向けて全て向かって来たのである。
しかも宙に舞っていた刃だけでなく、甲板に刺さっていた刃までもが烏乃助に向かって前方から飛んで来たのである。
全ての刃を合わせると数百どころではない、数千はくだらない数の刃が烏乃助に向かって来る絶望的な状況となった。
「う、う~ん......烏乃助!」
気を失っていたうずめが目を覚ますと、烏乃助とその背後に立っている深鮫の姿を見て叫んだ。何故数千の刃が烏乃助に向かってくるのか謎だが、この状況での逃げ道は烏乃助の背後だけだが、その背後に居る深鮫は全身から刃を生やしていた。
今背後に避けたら刃だらけの深鮫の餌食になってしまう。
「こっちへ逝らっしゃぁぁぁぁぁぁぁい」
「......知ってたさ」
「あぁぁぁぁぁぁん? ......ほぉ!?」
後ろを振り返った烏乃助はすぐに深鮫に向かって突貫した。
「刃が向かってくるのは『刃物を直す能力』だろ? だからお前は俺の背後に回ったわけだ」
刃物を直す能力、葉月の頃に鴨居が言っていた言葉を思い出した烏乃助。
『ボロボロになった刃物を一瞬で新品同様に直した』
この言葉を思い出し、『恐金』の能力は刃物を生やす『生成』の能力と、刃物を『直す』能力があるのではないかと思った烏乃助は、数千の刃が烏乃助に向かって、正しくは深鮫に向かって飛んでくることを瞬時に解明したのである。
「分かった所で何が......ぬぉう!?」
深鮫が喋っている間に、烏乃助はなんと深鮫から生えている刃の峰の部分を踏み台にして、一瞬で深鮫の背後まで飛んだ。
「ほぉら、やっぱり背後はガラ空きだ」
深鮫は烏乃助の行動を予想できなかったため、今深鮫の背後には、刃が一本も生えていなかった。
「あばよ、『鷹』!!」
烏乃助は深鮫が刃を生やすよりも速く、最上段からの袈裟斬りを放った。
「ぬげぇ! ......あば、あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばぁ!!」
烏乃助の袈裟斬りは決まった。しかも深鮫は自分が引き寄せた数千の刃を全てその身に吸収したのである。
「......ぶっへぇぇぇぇぇぇぇぇ、出した物を再び戻すのは、なんか気分わっる~」
「おいおい、いくら真剣じゃないとはいえ、直撃したのによく平気でいられるな」
烏乃助の鞘刀による袈裟斬りが直撃したのに深鮫は倒れもしなかった。
「......シシシィ、例え真剣で斬られても俺様は倒れへんでぇぇぇぇ、俺様が地面に顔を埋める時......それはぁ!!」
と、急にその場で深鮫は右手の人差し指を上に向け、左手を腰に当てて叫んだ。
「俺様の野望が完全に潰えた時だけと決めとるんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「......野望?」
突然野望と言われて首を傾げる烏乃助。
「シシシィ、気になる? 気になるよなぁ? でも教えなぁぁぁぁぁぁぁい! 知りたかったら俺様をぶっ飛ばしてからにせぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
すると、急に深鮫は船の帆を張る『帆柱』に向かって走った。そして━━。
「アッシャシャシャシャシャ! さっきあんたが嬢ちゃん助ける時にやった『壁走り』を参考にさせてもらうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と、言うと、なんと深鮫は垂直に直立する帆柱をまるで重力を無視したかのように、帆柱の上に向かって帆柱の側面を走ったのである。どうやら足の裏に刃を生やして、それを帆柱に突き刺しながら登っているらしい。
「や、やばい! お頭が『アレ』をやる気だぁ!」
「おい、お前ら! その船を捨ててこっちの船に来い!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ! 退避ぃ! 退避ぃぃぃぃぃ!!」
すると、烏乃助達が乗る船を動かしていた船員達が今度こそ全員完全に船を捨てて隣の船に飛び移った。
「......これが、最後か?」
深鮫が何をしようとしてるのか分からないが、恐らくこれが最後の一騎打ちになると予想した烏乃助は、ただ静かに登っていく深鮫を見守った。
そして、帆柱の頂上まで到達した深鮫は、そのまま甲板に向かって縦回転しながら飛び降りた。
「アッギャギャギャギャギャギャギャギャ! 逝ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
すると、深鮫の足の裏から刃が伸び、その刃が縦回転することにより、ドンドンドンドン引き伸ばされていき、最終的には全長八十尺(24m)まで伸びた! かなり現実的には不可能な大きさである。この刃を見て烏乃助は思った。
深鮫は、自分だけでなく、船ごと両断するつもりのようであると。
もし、それが本当なら完全に正気の沙汰どころではない!
「ァアアアアアアアアアア! 『恐器ノ金月』!!」
そして、その馬鹿げた大きさの刃を深鮫は振り下ろし、烏乃助の予想通り船を両断してしまったのである。
深鮫から見ると両断した船の烏乃助の様子は見えにくいが、普通はこれで仕止めたと思うであろう。
しかし、両断され沈没を始めた船の方から叫び声が聞こえてきた。
「お、おおおおおおおおおお!!」
なんと、烏乃助は深鮫が振り下ろした刃の峰の部分を足場にして、刃のてっぺんにいる深鮫に向けて突貫した。
「うわぁはっはっはっはぁ!! マジモンの化物やあんたぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ここで決着つけたるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
すると、深鮫は宙返りをして、足から伸びる刃を自らへし折った後に、深鮫も刃の峰の部分を足場にしてこちらに向かって来る烏乃助に向かって突貫した。
「ジャァアアアアアアアアアアアアア!! 『金恐報酷』!!」
深鮫は再び刃を生やすのかと思いきや、なんと今度は自分の両腕の肩から先を分厚い刃へと『変形』させたのである。通常の刀の厚さは一分(3mm)だが、深鮫の腕が変形した刃の厚さは一尺(30cm)と、かなり分厚い、これではこの刃を折ることは不可能であろう。
どうやら『恐金』の能力は『生成』、『修復』、それに加え『変形』も存在していたようである。
この変形こそが『恐金』の真の奥の手のようである。
「逝けェェエエェエ!」
と、その分厚い二振りの刃をそれぞれ左右の袈裟斬りでもって、烏乃助の首をハネようとする。
「......第七羽の奥義」
振り下ろされた深鮫の刃を勢いよく刀の柄でカチ上げ、そのまま深鮫の左の脇腹に強烈な胴打ちを放つ。
「ヘゲェエエ!! ......ジャッ!」
今の胴打ちで深鮫は刃の上から落ちそうになるが、それでもお構いなしにもう一方の刃で烏乃助の頭を貫こうとする、が。
「『禁鳥』ッ!!」
再び深鮫の刃をカチ上げた後に、今度は反対側の脇腹に強烈な胴打ちを決めた烏乃助。
「ア、ベボォォォ!!」
烏乃助の胴打ちを喰らって、深鮫は目玉が飛び出そうな程の勢いで体が横に『くの字』となり、そのまま海に向かって落下した。
「う、烏乃助ぇぇぇぇ!!」
「!? あいつまだあそこにいたのか!」
深鮫との決着がついたかと思ったが、烏乃助が乗っている刃の下で沈没し続ける船にはまだうずめが乗っていた。
うずめを救うために烏乃助は刃から飛び降り、沈没し続ける船の甲板に飛び乗った。
「掴まれ!」
「ん!」
烏乃助から差し出された手を強く握ったうずめは、そのまま烏乃助に抱えられ、烏乃助は不安定となった船の甲板を駆けながら、隣の安全な船に向かって飛んだ。
「ぬ、おおおおおおお! 届けぇぇぇぇ!!」
なんとかギリギリ烏乃助の足は安全な船の欄干に届き、そのまま船の甲板に身を放り投げ、無事に沈没する船から脱出した。
■
深鮫が両断した船は完全に沈没した。しかし、海に落ちた深鮫は未だに行方不明であった。
「お、お頭ぁ......」
「おい泣くな! この程度であの人がくたばるかよ!」
現在海は夜の闇に覆われているため、深鮫の捜索は困難を極めた。
「......よぉ、テメェらのお頭を倒しちまった俺に対しては何もしないのか?」
と、激戦を終えた烏乃助は甲板に腰を下ろして座り込んでいた状態で船員達に呼び掛けた。そして、その隣にはうずめが眠って居た。どうやら疲れたらしい。
「いや、あの人からは、あんたらに手を出すなと言われているからな。それに、これで死んだなら死んだで、あの人も本望だろうしなぁ」
「......そうか」
と、その時であった。一人の船員が叫んだ。
「お、おい! あれを見ろ!」
叫んだ船員が指差した方向の海面には何かが浮かんでいた。
よく見るとそれは、血と何かの肉片であった。
「......ま、まさかお頭、フカ(鮫)の群れに食われたんじゃ......」
「そ、そんなわけ......ん!?」
「な、なんだ!?」
海面から何かが勢いよくこちらに向かって泳いで来たのである。それは、......深鮫であった!
「ガボベべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべ!!」
そして、深鮫が船まで近付くと、手のひらから刃を生やし、そのまま船の側面に突き刺しながら甲板まで登ってきた。
......これだけ見ると完全に妖怪である。
「ブッシャャャャャャャ!!」
甲板に着地した深鮫は白目を向きながら、口に鮫の背鰭をくわえていた。まさか、先程海面に浮かんでいた血と肉片は、深鮫のものではなく海中で深鮫が仕止めた鮫のものであったようである。
烏乃助と戦った後に、海中で鮫と戦って勝利して戻って来るとは......人間辞めちゃった~。
「あ、じ、ジャァアアアアアアアアアアアアア!!」
口にくわえていた鮫の背鰭を吐き捨てると、深鮫は白目を向いたまま烏乃助に向かって拳を構えながら突貫してきた。
どうやらもう意識がないらしく、ほとんど残された闘争本能のみで体を動かしているらしい。
烏乃助は思った。これが深鮫の最後の一撃だと。
立ち上がった烏乃助もまた、刀をその場に置いて、深鮫に向かって突貫した。
「ジャァアアアアアアアアアアアアア!!」
「がぁああああああああああああああ!!」
二人の拳が交錯し、深鮫の拳は烏乃助の頬をかすめ、烏乃助の拳は深鮫の顔面に直撃した。
「が...............く.......................」
「......まじかこいつ」
烏乃助の一撃で深鮫は立ったまま気絶した。
そんな深鮫の姿を見て烏乃助は先程の深鮫の言葉を思い出す。
『俺様が顔を地面に埋める時......それはぁ!! 俺様の野望が完全に潰えた時だけやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
恐らく深鮫がここまで不屈の精神を保てるのは、その『野望』のお陰であろう。そんな深鮫の姿を見て烏乃助はつい、この海の覇者に対して敬意を払ってしまったのである。
■
うずめは、夢の中で他人の思い出を記憶を見ていた。
ここは、海岸であろう。波の音が聞こえる、そんな波の音に混じって赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「おぉ、可哀想に。まさか、赤ん坊が打ち上げられるとは......」
「おい『富さん』。どうかしたか? ん? その子の目と髪......異国の子じゃないか?」
赤ん坊の目の前には二人の漁師のような格好をした恰幅の良い中年の男性が顔を覗かせていた。
その後、赤ん坊はその漁師の男性に拾われ、彼の養子となり、すくすくと育った。
食事を与えられ、着るものも与えられ、名前も与えられたその子は、義父と共に二人で暮らしていて、生活そのものに不自由を感じなかった。
しかし、その子が九歳になる頃にその子はあることに対して不自由を感じた。
それは、家から出られないであった。彼は何故家から出てはいけないのか分からず彼の義父に問いただした。すると━━
「外はお前が思っている以上に危険なのじゃ、だからお前は成人するまで家から出てはいかん」
「......危険?」
すると、その子は義父の目の前で不敵な笑みを浮かべると、そのまま家を飛び出した。
「あ! ま、待て待つんじゃ『きょうらく』!」
「うしゃしゃしゃ! なんか分からへんけど『危険』......なんて.......なんて......えぇ響きなんやぁ!」
と、目を輝かせて彼は初めて外の世界に飛び出した。すると、彼の髪と瞳の色を見た人々は青ざめた。
「う、うわぁ!? な、なんだこの子!」
「髪が『金色』だ!」
「瞳が青いぞ! 気味が悪い!」
気味が悪い、不気味、恐い、あっちに行け、人々はまだ九歳である彼に向かって軽蔑の言葉を浴びせまくった。
普通の子供なら、いや例え大人でもこの状況に耐えられるだろうか?
しかし彼は━━。
「......『こわい』? 『ぶきみ』?」
人々の自分に対する反応を見て、彼は笑った。
「なんや......なんや......なんやこの感じ......ひゃおおおおおおおおおおお!!」
「「うわぁ!?」」
まだ言葉をそこまで知らない彼は、今の自分の気持ちを言葉で表現出来なかったが、彼は後にこの時に感じた感覚をこう表現した。
『優越感』
皆が自分に畏怖する事は、それだけ自分は特別な存在なんだと、選ばれた存在なんだと思い込むようになったのである。
三年後。
「うわぁ?! こ、こいつ歯が尖ってんぞぉ!」
「化物の子やぁ!」
「シャーシャシャシャ! もっと恐がれ恐がれぇ!」
彼の行動はどんどん増長し、短刀で自らの歯を尖らせたのである。
それからも、彼は成人して以降も他人に恐がられる努力を続けたのである。
彼の行動に対して義父は気苦労が絶えなかったのであった。
それから十数年後、彼は人々から恐怖の存在として知らしめる為に海賊になった。
彼は最初は一人であったが、彼の強さと恐さに逆に魅了されて、彼の元には人が集まったのである。
そして、仲間達と北の海を全て支配しちゃってからしばらくした後に彼の人生の転機とも呼べる時が来た。
「あぁ? 『陸奥』の大名の息子が乗った船がここを通るぅ? ......シャシャシャ! ここの連中には飽きてきたからのぉ~、そろそろ別の獲物に手ぇ出してみるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その数日後。彼は仲間と共にその船を襲撃した、しかし。
「な、なんでやぁぁぁぁ? なんでこの俺様が膝を付いとるんやぁぁぁ? なんで胸から血がこないに出とるんやぁぁぁぁ? そ、それにぃ何故お前はこの俺様を『恐れない』?」
彼は自分を見下す小柄な男に疑問だらけの視線を送った。
彼の人生で初めての経験であった為に、彼の理解を越えていたのである。
つまり、彼は人生で初めて敗北したのである。
「何故に『恐がらない』じゃと? ......ふは、ふはははははははははははは! 外見だけでなく言動まで珍妙な男よなぁ! 」
男は彼を見下しながら高笑いをし、彼の疑問に答えた。
「簡単な話じゃ。余の方がお主より『恐い』からじゃ」
「!?」
「くはははは! この程度の悪行で『最恐』を名乗るとは片腹痛いのぉ」
すると、男は膝を付く彼の胸をその手に持つ刀で斬り付けた。
「ブゥ!?」
「お、お頭ぁ!」
「ふはははははははははははは! あーはははははははははは!! やはりそなたは、『傷』が似合う男よなぁ!」
この時、彼は初めて自分以外の存在に『恐怖』したのである。
何故なら、彼は自分が他人に恐がられる事に喜びを感じていたのに対し、目の前の男は人を傷付けて、その血を浴びて喜んでいるのである。
明らかに自分とは、『恐怖』の次元が違い過ぎる。
「くふ、ついつい、はしゃぎ過ぎたわ。しかし、お主は殺すのには惜しいのう。どうじゃ? 余の口添えでこの海の『水軍』になってみないか? 幕府のじじぃ共がそう言ったものを欲していたのを思い出したわ。これでお主の命と薄汚い仲間達は助かり、余はあのじじぃ共に借りを作ることが出来る。まさに一石二鳥じゃ。はーははははははははは!!」
それから二年後。
「......挟樂や」
「あ? なんや親父ィ」
彼は例の男の口添えで、二年間牢に入れられた後に、彼は北の海を守る水軍となった。
そして、彼は牢から出てすぐに、義父が居る実家に帰省していた。
「お前は本当に手間が掛かる子じゃった......儂はもう長くない......最後にお前に言っておきたい事が......ある......ゴホッ! ゴホッ!」
「......」
「もしも、お前が海の向こうに行く事があったら.....お前の本当の『親』を......本当の『家族』を探せ......手掛かりはお前の『髪と瞳』じゃ......」
「......はぁ? なんでそんな会った事もない家族を探さなあかんのやぁ?」
「必要だからじゃ。お前は二年前に己の未熟さを身を持って知った......それに......お前がどう思っとるか知らんが、お前の本当の家族はきっと......お前の帰りを待っているに違いない......だから」
すると、義父は彼にしがみついて訴えた。
「頼む! お前はずっと孤独に生きてきただろうから分からないだろうが、真に孤高に生きられる人間なんてこの世に存在しない! 儂が死ねばお前は本当に孤独となる! だから儂の最後の望みは、お前が己の欲に溺れた恐怖の化身になって孤独に生きてほしくない! この世にお前を愛する者が一人も居なくなってほしくない! ただ......ただそれだけじゃああ...あああ......!!」
それを最後に、彼は息を引き取った。どうやら本当に命が長くなかったようであった。
そして、息を引き取った義父を、彼は丁重に埋葬した。
「......はぁ~、めんどくせ~、なんで最後の最後にあんなめんどくさい頼みを頼むんや~?」
めんどくさそうに頭を掻く彼は、一人、彼の帰りを待つ仲間の元に向かった。
「たくっ、あんなこと頼まれたら断りずらいやないかぁぁぁぁい。......ま、ええかぁぁぁぁぁぁ、男と男の最後の頼み......それぐらい聞いてやるわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
■
烏乃助と深鮫の対決から数刻後。
「......あ、また私寝てたの?」
と、うずめは目を覚ました。そこは、船室の中であった。
うずめが寝床から身を起こすと、何やら外が騒がしかった。
船室の扉を開けて外の様子を伺うと......。
「シャーシャシャ!! どやどやぁ? 俺様が用意した飯と酒はぁぁぁぁぁぁ? て、いたたたたたたたたたたた!」
「......お前、肋骨折れてるのによくそんなに動けるなぁ」
「折ったの兄ちゃんやないかぁぁぁぁぁい!」
何やら烏乃助と包帯まみれの深鮫とその船員達が船の甲板で宴を行っていた。
あれほどの激戦を終えた後に二人が酒を飲み交わす姿を見てうずめは困惑を隠せなかった。
「お、なんだ。起きたか気絶好き」
「......誰が気絶好きよ」
うずめが事情を聞くと、どうやらあの後深鮫達とは和解し、このまま自分達が乗っている船で二人の次の目的地でもある『出羽』まで連れて行ってくれるそうである。ちなみに深鮫は『恐金』をすでにうずめに返していたのであった。
「......ん? ちょっと待って烏乃助。確か出羽に帰る前に『越後』に寄るんじゃなかった?」
二ヶ月前の『若狭』の港での烏乃助との会話を思い出したうずめ。
あの時うずめは、若狭で見掛けたうずめそっくりの謎の男、現越後の大名、紫上家十代目当主『紫上 兼晴』に出羽に帰る前に会おうと言っていたのを思い出した。
「あ? あぁ、冷静に考えたら一国一城の主に会うのになんの紹介状も無しに会えるとは思えないんだよなぁ。だから一旦出羽に帰って、鴨居に紹介状を書いてもらうように頼んでから会いに行ったほうがよくね?」
「......言われてみればそうかも、......あっ! どうしよう」
と、うずめは何かを思い出したらしく、慌てて越中の港の方を見る。
「あ? どうした?」
「......ディアルにお別れの挨拶をしてない」
「......あ、忘れてた」
京から越中までの道中まで行動を共にしたディアルに挨拶をするのを忘れてしまい、少し青ざめるうずめ。
この様子だと、無事に『恐怖』を取り戻したみたいである。
「シャシャ! 安心せぇ、あんたら届けたら俺の方から伝えとくわぁ! ......あだ! あだだだだだだ!」
と、深鮫が言ったのだが、すぐに脇腹を押さえて苦しそうにする。
「......お前いい加減休め」
「いやや! やっっっっとあんたらと仲よぉなれたんやぁぁぁ! もっともっと酒を飲まなきゃやっとれん........いったぁぁああああ!!」
そんなこんなで、騒がしかった北の海の夜は、ようやくおとなしくなったのである。
■
「.....行ってしまったようだな。また会おう」
越中の港から烏乃助達が乗る船を見送るディアルがそこに居た。
「あ、ここに居ましたかディアル殿」
「ム? フェリスか」
「はい、ディアル殿が遅いせいで団ち......司教様に様子を見て来いと言われたものでして」
「......すまなかったな。今そこに『ゴミ』が落ちていたものでな、それの処理を手間取っていたのだ」
「え? 『ゴミ』?」
「......いや、なんでもない。では司教の元に向かうとするか」
ディアルはフェリスを連れてその場を後にした。
ディアルを襲った『影隠 うわん』はどこに行ったのだろうか?
......よく見ると、ディアルがさっきまで居た場所の海面が赤く染まっていた。
その血に混じって、一枚の布切れが浮いていた。
それは、うわんが首にしていた『首巻き布』であった。
しかも周辺には大量の鮫が漂っていた。
どうやらあの後、うわんを殺害したディアルは、その死体を海に捨て、鮫の餌にしたようである。
この一連の出来事がキッカケで、ディアルは『影隠妖魔忍軍』に狙われる事となるのであったのだが、この時の彼はそんなこと知るよしもなかった。
■
「むふー」
「......」
甲板での宴を終えた後、烏乃助とうずめは、深鮫から借りた船室の寝床で二人っきりとなっていた。
しかも一つの寝床で、一つの布団の中で二人は一緒に入っていた。
「烏乃助~」
「......なんでこうなる」
「うん? いいじゃないの~お互い本心を打ち明けた仲なんだし~」
どうも数刻前の出来事以降、うずめの態度は変わってしまったのである。
なんか、甘えん坊へと変貌した。(烏乃助限定)
「ねぇ、烏乃助。私の『名前』言ってみて」
「は? ......うずめ」
「むふ~もっともっと」
名前を言われて喜ぶうずめ、そして言った烏乃助の顔は赤くなっていた。
「い、いいだろ別に! ほら、寝るぞ」
「えー、やだー」
「はい寝たー! ぐごー」
そんな二人のやり取りを扉の隙間から覗き見る深鮫と数名の船員達はニヤついていた。
そんな深鮫達の気を察した烏乃助は、布団から飛び起きて鞘刀を掴んで扉を吹き飛びした。
「おぉぉぉう!? おいおい兄ちゃぁん、何壊しとんねん、弁償せぇやぁぁぁぁぁぁぁ」
「うっせぇ! な、何覗いてんだこの変態共がぁ!」
「はぁ? 変態はどっちやねん。あんな嬢ちゃんと一緒に寝てイチャイチャしおってぇぇぇぇ。て、うわぁお!」
「死ね! 死ねぇ!」
「シャーシャシャシャ! にっげろ~」
「テメェらガキかこらぁ! 全員ぶっ飛ばしてやるぅ!」
そんな烏乃助達のやり取りを見て微笑むうずめ。
「ふふ、なんか、変わったのは私だけじゃないみたいだね......烏乃助、烏乃助と仲良くなれて良かった......」
■
「本当に良かった良かった。あの子の事を大切に思ってくれる人が出来て良かった良かった」
ここは越後の『天空山城』の天守閣。
その一室で一人言を呟く男が一人、それはうずめにそっくりな例の男『紫上 兼晴』であった。
「また『覗き見』ですか? 本当に趣味がよろしくないですね」
と、闇の中から巫女装束の女性が現れた。
紫上の側近『加護弓 天』である。
「趣味がいいと言って欲しいなぁ、時々こうしてあの子と視界が繋がっちゃうんだもん。こればっかりは仕方ないね」
と、言いながら軽く首を横に振る紫上。
「さてさて、順調に心が宿ってるみたいですね。良かった良かった。これで今あの子の中にある神通力は......『喜風』『怒火』『哀水』『楽雷』『恐金』の五つ。凄いな、もう半分も集まったのか、流石だよ『烏乃助』」
すると、紫上はその場で立ち上がり、急に衣服を脱ぎ捨て、全裸となった。それを見た加護弓は顔を赤らめた。
「......///」
「はは、加護弓さん。貴女のそう言う反応、好きですよ」
「い、いえ......あの......その......」
「ふふ、『恥ずかしい』。それはこの世界では人間しか持ち合わせない特別な感情、次にあの子が遭遇するのは『恥木』かな?」
すると、暗闇から面沙で顔を隠した女中二人が現れ、裸となった紫上に寝間着を着させる。
「あ、でも分からないなぁ。もしかしたら『勇氷』かな? ま、いいかぁどうせ烏乃助が全てを集めてくれるだろうし」
まるで、烏乃助の事も、これから先の展開も、何もかも知り尽くしているかのような言動であった。
そんな事を話していると、突然紫上が天井に視線を向けて呟いた。
「『落ちろ』」
「!?」
そう呟やくと、天井から一人の忍者が落ちてきた。
「な、なんだ今の!? そ、それに気づぃ!?」
「あ、すみません。僕はそろそろ寝る時間ですので、加護弓さん。後、よろしくお願いします」
「御意」
━━な、なんだ!? う、動けない、しゃ、喋れない......何が......。
「申し訳御座いません。今ここでお聞きになった事は......わ......て......」
━━あ、あれ? 声が聞こえない? あれ? ところでここは何処だ? 自分は何してたんだっけ? ......あ、どうでもいいや。さっさと出羽に帰って『郷見』様に報告しよーと。
そう言うと、盗み聞きしていた忍者は何事もなかったかのように、城から無事に生きて返された。
恐らく、紫上が何かをしたようだが、それがなんなのか謎であった。
「......烏乃助。早くあの子の心を全て集めておくれ、でないと......『地獄』を見ることになるよ」
寝室に向かいながら、紫上は一人言を呟くのであった。
━━『恐金』蒐集完了。
第六話「こころきずつく」に続く。
【絆】
断とうと思っても断ち切れない。人と人との結び付き。
うん、自分と同年代の人が回りに居ない社会人生活を5年近く送って思いました。
学生生活の頃にボッチを気取っていた自分が恨めしく思えてきてしまいました。
うわぁ! まじで自分の電話帳には年上の人達の奴しかねぇ! 同年代の人の連絡先がねぇ! ......なるほど、当時はこんな未来想像出来なかったけど、今なら言える。一人は寂しいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! うわ、メッチャ後悔し始めた! 今のこの状態で中学生から人生やり直してぇぇぇぇぇぇ!
なぁんて、ボッチの見苦しいうわ言を書いてしまい、申し訳ございません。
いや~、しかし無事に年内に五話を書けてよかった~。
それでは皆様、今年はこのような小説を読んで頂き、誠に誠にありがとうございました。
新年もこの小説を読んで下されば幸いです。それでは次回をお楽しみに~......来年は残業地獄から脱け出して、同年代の仲間ができますよーに(^人^)




