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こころあつめる(仮)~烏と不思議な少女の伝奇時代冒険譚~  作者: 葉月 心之助
第五話「こころおそれる」
22/54

第一章『暴力遊戯』

 ふ、ふふふ、なんかこぅ、自分の思い通りに事が進まなかったら誰でもイライラしちゃいますね~。(何言ってんだこの人? と、思った人は活動報告の『投稿延期。orz』を参照)


 てなわけで今回の舞台は『越中(富山県)』!

 私の地元でございます。

 そして、まぁた前回に続き第一章からいきなり心の所有者と戦います。


 そういうわけでして、第五話のはじまり~はじまり~。

 師走(十二月) 某日。


 江戸。


「......暇だなぁ」


 ここは、江戸のとある武家屋敷。


 その屋敷の縁側から屋敷の庭を眺める青年が一人。


「......お前は良いよなぁ、暇であり続ける事こそがお前の生きる役目なんだから」


「にゃぁ」


 その縁側に腰を下ろす青年の膝の上に白猫が一匹。


「そっんっなぁこったねぇぜ『九』......いや、今は『白羽(しらはね) 時定丸(ときさだまる)』だったなぁ 」


 その庭の塀の上にいつの間にか一人の男が立っていた。その男は若狭で烏乃助と『水守 弥都波』を戦わせるようにしむけた男『高見魂(たかみたま)』であった。


「ひっさっしぶりだなぁ、一年ぶりか?」


「あ、『父さん』」


 高見魂は塀から飛び降りて、青年の元に歩み寄った後に青年の隣に腰下ろした。


「くっくっくぅ、この俺をまだ父と呼んでくれるのかぁ? お前たち『九人』を殺し合わせた張本人だぜぇ?」


「そう言われても、僕の家族と言えば『一』と『二』と『三』と『四』と『五』と『六』と『七』と『八』と『父さん』ぐらいだしなぁ、それに父さんいつも言ってたじゃん、『俺達に血の繋がりは無いけど、魂の繋がりはある』って、だから『八』以外のみんなが死んじゃったけど、でもみんなの魂は繋がってるから別に一人ぼっちになった気はしないな」


「だから俺を恨んでないと? ......くっくっくぅ、お前はやっぱり俺の自慢の息子だなぁ。そして、もうすぐお前の退屈な時間は終わると思うぜ?」


 それを聞いた青年、もとい時定丸は首を傾げた。


「? どういうこと?」


「......なぁに、二ヶ月前に若狭で『八』を見かけたもんでな」


 その名を聞いた途端、時定丸の穏やかな目が少し変わった。


「......やっぱり生きてたんだね」


「くっくっくぅ、当然さぁ、『八』も俺の自慢の息子だからなぁ、そう簡単にくたばるような鍛え方はしてねぇよ」


「......『八』。予想はしてたけど、また『八』と戦う日が近付いてるんだね」


 その言葉を発した時の時定丸の表情は少し悲しそうな感じであった。


「さっらっにぃ、あれから『八』は大分変わったぜぇ。何があったか知らんが、今『八』は例の『神子』と共に旅をしてるぜぇ」


 それを聞いた途端、時定丸は縁側から驚きながら立ち上がった。それと同時に時定丸の膝の上に乗っていた白猫も驚いて飛び上がった後、地面に着地した。


「え、えぇぇぇ!? あ、あの『八』が......神子、つまり女の子と一緒に旅して......るの?」


「くっくっくぅ、お前でも驚くか、俺も驚いたもんだしなぁ、出雲の動乱以降、行方不明だった神子と『八』が旅してんだからなぁ、しかも奴の今の名前は『黒爪(くろづめ) 烏乃助(うのすけ)』だ、そうだ」


「え、えぇぇぇ? あ、あの『八』がぁ? ......ぜ、全然似合わないよぉ」


「くっくっくぅ、だよなぁ。ぜぇんぜん似合わねぇよなぁ、お前達九人の中で一番、『人を斬ることに対して何とも思わない、何も感じない』まさに人の形をした『刀』そのものだったのになぁ......く、くくくぅ、あーひゃっひゃっひゃっひゃ!!」


 高笑いする高見魂の背後から誰かが忍び寄ってきて......。


「人の家に勝手に上がり込むなー!」


 と、叫びながらその人物は、高見魂の脳天目掛けて手刀を振り下ろした。


「おっと、そいつぁ悪かったぁ『猿目田(さるめだ) 阿姫(あき)』殿」


 そう言いながら高見魂は普通に縁側から立ち上がりながら背後から飛んできた手刀をかわした。


「おっ! わ、わー!」


「よっと、大丈夫? 阿姫ちゃん」


 手刀が空振りして前足に全体重が乗ってしまい、そのまま縁側から落ちそうになった人物を時定丸が優しく受け止めた。


 その人物は若い女性で、白を強調した絢爛豪華な衣装を身に纏い、左目に片眼鏡を掛けており、その腰まで伸びた髪は黒く美しいのだが、その頭は少し白く染まっていた。まるで雪化粧でもしたかのような白と黒を織り混ぜた色鮮やかな髪であった。


「......こ、こらー! このわたしに『ちゃん』付けするなと言っただろうがー!」


「えーと、何が良くないの?」


「む、むきー! 恥ずかしいからに決まってるからだろうがー! このなまくらがー!」


 阿姫と呼ばれた女性は顔面を真っ赤にし、怒りながら時定丸の胸をポカポカと殴り始めた。


「ちょ、地味に痛いよ」


「うるさいうるさい! 口答えするなー!」


 すると、阿姫は庭に立っている高見魂に視線を変えた。


「......こほん。少々取り乱したが、私の家に無断で上がるとはどういう了見かな? 高見魂殿」


 さっきまで子供みたいな感じであった阿姫が急に態度を改め、鋭い視線と険しい口調になった。


「くっくっくぅ、ただ息子の様子を見たかっただけだよぉ、そうカリカリするな折角の美人が台無しだぜぇ」


「ふん、大きなお世話だ」


「......しっわっがぁ増えるぞぉ~」


「増えるかバカー!」


 また子供みたいな感じになった。


「くっくっくぅ、ホント、そんな性格でよく幕府の外部監察所総監督が務まるねぇ」


「そんな言い方はないよ父さん、阿姫ちゃんはこんな性格だけど、ちゃんと仕事はやってるよ?」


「お前は私を庇ってるのかバカにしてるのかどっちかにしろー! あと『ちゃん』を付けるなー!」


 また子供みたいに怒りながら阿姫は時定丸の脛を蹴った。


「いったぁい」


「さってっとぉ、これ以上居たらじゃじゃ馬に蹴られそうだから退散するかねぇ、じゃあな『九』」


 高見魂は立ち去ろうとしたが、再び時定丸と阿姫の方を振り返った。


「......おっぼっえってぇ、おけよぉ阿姫殿。『九』は一時的にあんたに預けてるだけだからなぁ、そいつが『八』を斬って真の『鴉』となった時に将軍様の物となることを覚えておけぇ」


 若干睨みをきかせた目つきで阿姫に警告した。


「ふんだ! それまではこのわたしが、徹底的にコキ使ってやるわ!」


 べー、と阿姫は高見魂に向けてあっかんべーをし、それに対して何の反応も示さずに高見魂はその場から庭の塀を飛び越えて去っていった。


 そんな二人のやり取りの中、時定丸は一人で空を眺めていた。


「......僕も、近いうちに皆の所に羽ばたくのかな......」




『『八』。僕たち死んだら何処に行くのかな?』


『なんで......俺に聞くんだよ? 死んだら何処に行くか? 何処にも行かねぇし、何もねぇよ、死んだら死んだで何もねぇ、あるのはただの『無』だろ?』


 時定丸は昔の記憶を思い出しながら現在の主と共に、屋敷に戻るのであった。



 ハラハラドキドキする第五話「こころおそれる」


 はじまり~はじまり~。



 烏乃助とうずめとディアルが丹波をあとにしてから早、半月。


 船旅を終え、三人は越中の港に到着していた。


 三人が現在いる港の名は『新音港(しんおんこう)』。


 ここは越中及び、北陸地方にとっても主要な港湾であり、鎖国中の日本でも外国と交易が持てる数少ない港で、大陸(中国)、韓の国などの環日本海圏の交易拠点として重要な役割を担っている。

 ちなみに最近では大陸よりも北に位置する露の国 (ロシア)とも交易を持とうという動きもあるようだ。


「......なんか、外国の人が多いね」


 港湾を行き来する人混みの中で、大陸系や南蛮人(オランダ人)などの外国人がちらほらと見えたので、うずめがそんな事を呟いた。


「......お前も見た目外国人だけどな」


 視界に入る外国人とうずめの外見を見比べて烏乃助は呟いた。


「フッ、この様子だとやはりここが『えっち』もとい、『越中』のようだな」


 と、二人の隣に立っている宣教師のディアルが呟いた。


「早速着いたわけだが、多分、例の『深鮫(ふかざめ) 挾樂(きょうらく)』はすぐ見付かるだろうな」


 『深鮫 挾樂』、かつて北の海を支配していた最恐の海賊団の船長で、現在は幕府公認の北陸水軍の頭領である。どういう経緯でその最恐の極悪人が幕府の公認を得られたのか謎ではあるが、それほどの人物ならすぐ見付かるであろう。


「ところで烏乃助。海賊と水軍て、どう違うの?」


「ん? まぁ、海賊と水軍ってあんまし変わらない気がするが、ようは水軍は水上兵力の呼称で、それが徒党を組んで組織化されたのが水軍だ。んで、水軍と言っても『海賊衆』と『警護衆』などに分かれているな」


「ほー。烏乃助物知りー」


「なるほど、つまりその『深鮫 挾樂』という男はかつて海賊衆の水軍で、今は海上の治安を維持する警護衆の水軍になったわけか」


 ある程度理解したディアルが補足を加えた。


「......経緯に関しては知らんが、最恐と恐れられた極悪人が海上の治安維持に当たるのは結構効果的だな」


 確かに、それほどの男が海の治安を守護するならかなり心強い。しかし、それだけの理由で幕府の容認を得られるはずがない。


「ま、考えてしょうがねぇ、深鮫が有名人ならすぐに見付か━━」


「みぃぃぃぃぃぃぃぃつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇたぁぁぁぁぁぁぁぁでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 烏乃助が深鮫の捜索にあたろうとした直後、人混みの中から男の声が聞こえてきた。


 その男は人混みを力任せに押し退けながら烏乃助に向かって走ってきた。


「シャァァァァァァァァァシャシャシャシャァ!!」


 男が烏乃助達の目の前まで来た直後、いきなり男は烏乃助目掛けて跳躍し、落下しながら烏乃助に殴りかかってきた。


「おぉ!?」


 突然の奇襲ではあったが、烏乃助は一歩引いてその拳をかわした。

 

「まぁだぁやぁぁぁぁぁ!!」


 男は着地と同時に烏乃助の顎目掛けて今度は拳による突き上げを繰り出した。


「シャァ!」


「ぬぉ!」


 その突き上げをを今度は横に移動してかわした烏乃助は、回避と同時に腰から鞘付き刀を抜刀して男に向けて横薙ぎに打ち掛かった。


「ァシャ!」


 と、男は拳を突き上げた勢いで今度は地面に手が付くほどに背中を反らして烏乃助の横薙ぎをかわした。

 だが、男はそのままの勢いを利用して今度は両足を使って蹴り上げてきた。


「な、なんだこいつ!?」


 まるで曲芸みたい動きから繰り出された蹴りを烏乃助は斜め前に入身しながら回避した。


「あぁぁぁぁん?」


 蹴り上げた力で後方に一回転した後に男は着地して、ようやく男の攻撃は止まったようである。


「......く、くくくくくく、アーシャシャシャシャァ!! よくこの俺様の奇襲をしのいだなぁぁぁぁ、取り合えず合格やぁぁぁ」


 突然の出来事で烏乃助だけでなく、うずめとディアルも呆然としていた。


「......まさか、お前が『深鮫 挾樂』か? 随分と派手な挨拶だな」


 烏乃助は軽口を言った。


「シャァァァァァァァァァ......どやぁ? 楽しんでくれたかぁぁぁぁぁ? お前さんが、『郷見』の兄ちゃんが言ってた目つきが悪い、黒い格好の剣士はぁぁぁぁぁ......一目見て確信したわぁぁぁぁ」


 その男の格好は漁師が着るような着物に袖を通してはいるが、その着物に帯は巻かれておらず、男のその鍛え上げられた大胸筋と腹筋を露出させ、下は右足は七分、左足が五分と、まったく丈の長さが均一ではない股引きを履いていた。


 そして、特に目立つのがそのツンツンに尖った金髪と猫のような縦に細い碧眼(へきがん)の瞳であった。

 とても、日本人とは思えない外見をしており、口元から覗かせる歯はまるで鮫のように鋭く尖っていた。

 そして、もうひとつ気になるのが、胸の傷であった。大きな左右の袈裟斬りによる二つの古い刀傷があった。


「あ、ぁぁぁぁぁぁぁ自己紹介がまだだったがぁ、必要なさそうやなぁぁぁぁ『黒爪 烏乃助』くん」


 やはりこの男が『深鮫 挾樂』らしい。


「なんだぁ? 俺のことは『郷見』からでも聞いたのか?」


「シャ、シャァ! 当然やぁ、半年間ずっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっとぉ! 待ちわびたぜぇぇぇぇぇシャァァァァァァァァァシャシャシャシャ!」


 さっきから思っていたが、随分と気が昂っているようである。


「てな、わけで。話し合いとかどぉでもよいやろぉ? ちゃちゃっと終らせようやぁ、ほぉれ! ついて来いやぁ」

 

 そう言って深鮫は一人で勝手に歩き出した。


「烏乃助。なんだか色んな意味で凄そうな人が現れたね」


「......ちょっと、予想の斜め上の奴だな」


「フム、やはり日本は面白いな」



 深鮫に連れて来られた場所は、新音港の隣にある『きときと海岸』であった。


 特にこれと言って特徴がある海岸ではないが、強いて言うなれば、ほぼ毎朝漁師がこの海岸で地引き網漁をしているぐらいか。


 ちなみに『きときと海岸』の『きときと』とは、越中の方言で『新鮮、精力的な』と、言う意味である。


「シャッシャァ! 取り合えずさっきの奇襲が『第一次審査』て、事にしとこうかぁ」


「第一次審査?」


 その海岸の浜辺に、烏乃助と深鮫が向かい合って立っていた。


 そんな二人を少し離れた所にある茶屋から団子を食べながらうずめとディアルが見守っていた。


「シャァ、確かにお前さんと早く闘り合いたいのは山々なんやけどなぁ? あんたが俺様と闘り合うに相応しいか確認したいんやぁぁぁ」


「なんだ、見た目に反して結構疑り深いな、第一次審査て事はまだあるんだな?」


「せやでぇ! 全部で三つの審査があるぅ! この三つ全て合格してからぁ、『こいつ』で相手したるわぁぁぁぁ!!」


 深鮫が右手の親指で自身の胸を指差すと、深鮫の胸に『恐』の一文字が浮かび上がった。


「シシシィ! こいつの力は強力過ぎるからなぁ、普通の人間に使ったらあ! っっっっっという間にズタズタになってしまうんやぁぁぁ、そぉなったらつまらんやろぉ? だからこの審査であんたの実力を確かめるんやぁ」


 確か、深鮫が現在所有しているうずめの心と神通力は『恐金(おそれがね)』。

 鴨居の話だと刃物の神通力だそうだが、いまいちどういうものなのか謎である。


「あっそ、んで? 第二次審査は何すんだ?」


「シャシャシャシャ! おいおいぃ、男が浜辺でやることと言えば決まっとるやろぉ? 今から凶器なし、武器なし、真剣なしの『殴り合い』をするんやぁぁぁぁ!!」


 殴り合い、それで烏乃助の実力を知りたいそうである。


「そっか、ならそうしようか」


 そう言うと烏乃助は腰に差していた鞘付き刀を腰から抜いて浜辺に突き立てた。


 正直に言うと、烏乃助は警戒していた。先程の奇襲を考えると、この殴り合いの最中に金の神通力を使用するのではないだろうか? だがそんな事を考える暇も与えずに深鮫が烏乃助に向かって襲い掛かってきた。


「シャォラァ!!」


「ふっ!」


 一度深鮫の殴り方を見ているため、烏乃助は深鮫の拳を見切った上で、深鮫の殴ってきた腕の手首と肘関節に両手を軽く当てた。


「『燕』!」


「おぉぉぉう?」


 烏乃助は深鮫の手首を掴み、その腕をまるで刀を振るみたいに、下から腰の力で逆袈裟斬りのような軌道で深鮫を振り回した。

 すると、深鮫の体勢は大きく崩れた。


「繋げて『鸚鵡(おうむ)』!」


 と、今度は流れるように後ろの足が前へ一歩踏み出したのと同時に後ろへと反転し、まるで八相の構えのような形になって、深鮫の肘関節を極めた。


「アーダダダダダダダァ!! 痛いやろぉがぁい!」


「続けて『(うずら)』!」


 続けて烏乃助は一歩踏み出して、自身の体重移動をする力で深鮫を後頭部から地面に叩き付けようとする、が。


「あまったるいわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「なぁ!?」


 肘関節を極められているのに、深鮫はその場で後方に宙返りをして、その遠心力を用いて烏乃助の関節技から逃れた。


「だらっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ちぃ!」


 宙返りしながら、烏乃助の後頭部目掛けて深鮫は、飛び膝蹴りを繰り出し、烏乃助はそれをしゃがんで回避した。


 そして、地面に着地したと同時に深鮫は横からの肘打ち、烏乃助はそれを一歩引いて回避、続けて深鮫は一回転しての回し蹴り、烏乃助はしゃがんで回避し、間髪入れずに深鮫はしゃがんだ烏乃助に踵落とし、烏乃助は前に出て肩で踵落としを止めながら深鮫に貫手での目突き、それを首を振ってかわした深鮫は烏乃助の肩に乗っている自身の足を烏乃助の首に回して逃がさないようにした後にもう片方の足で膝蹴り、再び前に出て烏乃助はその膝蹴りをした足の大腿部に両手を当てて止めつつ深鮫に体当たりをして深鮫を突き飛ばした。


「......シャーシャシャシャシャ! なんやなんやぁ? 結構動けるやないかぁい」


「お前もな」


 この時、茶屋から二人の攻防を眺めていたうずめは思った。私が想像してた殴り合いと違う、と。


「フム、あの男、やはり日本人ではないな」


 困惑するうずめの隣に座っているディアルがそう呟いた。


「髪、瞳、肌の色、そしてあの身体能力。どれを取っても日本人に当てはまらない。それにあの髪と瞳と肌、あの色の人種はおそらく北欧系であろうな」


「......だとしたら、あの人なんで日本人の名前なの?」


「......それを私に聞くのか、それは本人に聞きたまえ」


 二人が茶屋で観戦している中、烏乃助と深鮫は間合いを取って身構えていた。


「フゥゥゥゥゥゥ、ぞくぞくするわぁぁぁぁ」


「なんか気色悪いな、感じてる暇があったらまた掛かってこいよ深『爪』......あ」


 軽く挑発したつもりが、まさかの相手の名前を言い間違えてしまった。


「誰が深爪やぁ! 人を爪切りに失敗したような名前で呼ぶなやぁ!」


 単に言い間違えただけなのに盛大に突っ込みを入れてきた。


「な、なんだよ、単に言い間違えただけだろ?」


「カァァァァァァァァァ! 俺様はなぁぁぁぁ名前間違われるのが気に入らんのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そう言いながら深鮫は勢いよく殴り掛かりながら、連続的な拳による突きの嵐を繰り出してきた。


 それに対して烏乃助は全ての突きを捌きながら一歩も引かずに立ち向かった。


「大体よぉぉ、あんたの苗字の『黒爪』ってなんやそれぇぇぇ? 爪の病気か何かかぁぁぁぁぁぁ?」


「うるせぇ! これは俺が考えた名前でもないし好きで名乗ってるわけじゃねぇ!」


「あぁぁぁぁぁん? だったらそんな言い方するなやぁぁぁ、名付け親が可愛そうやないかぁぁぁぁい」


「先にいちゃもん付けたのお前だろうがぁ!」


 二人が激しい殴り合いをしながら拳だけでなく口でも喧嘩し始めた。


 この時、うずめは思った。あ、やっと私が想像した通りの殴り合いになった、と......別段どうでもいいか。


 と、深鮫の両の拳を烏乃助が両手の手のひらで受け止め、深鮫の動きを封じた。


「と、思ったかゴラァァァァァァァァァァ!!」


 両手を封じられた深鮫はそのまま頭突きを繰り出し、烏乃助はそれに合わせて転換してかわした、そのまま頭突きをした勢いで前方に崩れた深鮫を両手で持ったままの深鮫の両手を上手く操作して、深鮫が地面に仰向けになるように導いた後に、深鮫の頭を踵で踏みつけようと片足を上げた。


「おらぁ!」


「さっせるかぁぁぁぁぁい!」


 頭を持ち上げて烏乃助の踏みつけを回避した後に、そのまま立ち上がって、自分の両手を持ったままの烏乃助を力任せにぶん投げた。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 予想外の馬鹿力で烏乃助は投げられてしまったが、見事に空中で体勢を立て直して着地し即、深鮫に突貫した。 


「おおおおおお!!」


「そこまでやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 突貫してきた烏乃助の顔前で手のひらを突きだし、それを見た烏乃助は攻撃を止めた。


「あ? なんだよ、もう終わりか?」


「......シャシャシャシャそや、名残惜しいが取り合えず第二次審査も合格にしとこうかぁ」


 そう言って深鮫は背を向けて立ち去ろうとする。


「あ、おい。どこに行くんだ?」


「あぁぁぁぁぁ? 今から第三次審査の準備しに行くんやぁ、第三次は少々準備が必要なもんでなぁ、第三次は明後日にしようやぁ」


「......なんだ、怖じ気ついて中止したのかと思ったぜ」


 また深鮫に挑発した。しかし、深鮫は狂喜に満ちた表情で振り返った。


「シャシャシャシャ! なかなかえぇ根性しとるのぉ気に入ったでぇぇぇぇ、本当はこんなお遊戯なんかよりも、ちゃんと真剣を用いた命の奪い合いをしたいんやけどなぁぁぁぁ、鴨居の旦那に言われたんや、『楽しみの花は待った時間に比例する』ってなぁ、だから明後日まで待ってその花を咲かせたるわぁぁぁ、ほなまたなぁ~」


 そう言い残し深鮫は去っていった。


「フム、なかなかに素晴らしい闘いであったぞ」


 深鮫が去った後にうずめとディアルが烏乃助に近付いてきた。


「よくよく考えたら私、烏乃助が素手で戦うの初めてみたかも」


「は! そうかよ、にしても次に奴と闘り合うのは明後日か、やれやれ、今度はいったい何企んでるんだ? あの男」


 ちなみに今の攻防で烏乃助の体には傷一つ付かなかった。



「シャー! たっだいまぁぁぁぁぁぁ!!」


「あっ! お頭、お疲れ様です!」


「「お疲れ様です!!」」


 ここは新音港の造船場。基本的にここで漁業船や渡航船を造ったり、修理したり、調整し、管理しているのである。


 現在は深鮫率いる北陸水軍の根城となっている。


「シャーシャシャシャシャ!! 予想通りの男やったわぁぁぁぁぁ! テッメェェェェェェラァァァァァァァァ!! 明後日までに準備しとけよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 


「「おう!」」


 今深鮫の眼前には二隻の巨大な木造船があり、その二隻を深鮫の部下達が調整と修理をしていた。


「く、くくくぅ、せっっっっかく来てくれたんやぁ、あの男と連れのお嬢ちゃんの度肝抜かしたるわぁぁぁ!」



 第五話「こころおそれる」第二章『海鮮漫遊』に続く。

 次回は特に戦闘はありません。前半は烏乃助とうずめが越中の港町を漫遊するだけです。


 そういや、この間までやってたアニメ『クロムクロ』も富山県が舞台でしたねー。


 いやー面白かったなぁ。いつかp.a.ワークスさんの本社に見学に行ってみたい。


 それでは、次回をお楽しみにィィィィィィィィィィィィィィィィ......しろやテッメェェェェェェラァァァァァァァァ!! シャーシャシャシャシャ!!

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