第一章『神なき地』
いよいよ、第三話です。
なんかまだ三話なのにここまで来るのが長かった気がします。
ちなみに前回の予告と少し違う展開になっておりますが......お許し下さい!
それでは新章である「若狭編」のぉぉぉぉぉ!
はじまり~はじまり~。
神無月(十月)の某日、正午
江戸
現在幕府が本拠を置くその城下町のとある広場。
その広場である男が公開処刑されようとしていた。
男の名は『真玄 語呂八』、現在泰平の世の日本を震撼させる人斬り『曉 黎命』程じゃないにしろ、『曉 黎命』の次に名が知られている人斬りである。
今まで幕府ですら、捜索に困難を極めたその男が先日、何者かに捕縛され奉行所の前に放置されていたのである。
『真玄 語呂八』を捕縛したその人物は何者か分からないが、どの様な理由にしろ『曉 黎命』の次に悪名高い男を拘束することが出来たのである。
幕府としては、見せしめの為にも、真玄を徹底的に拷問した後に公開処刑をすることにしたのである。
処刑方法は『斬首刑』、その後は当然獄門、つまり晒し首である。
町民からは、もっと残酷な処刑法にしろと言う声があったが、さすがに今は泰平の世の日本。
戦乱の世でもないのに、そんなことをするわけにはいかないと言う理由で斬首刑になったのである。
「執行人! 前へ!」
という号令と共に死刑執行人が刀を持って現れた。
「罪人『真玄 語呂八』! 罪状はーー」
その罪状はあまりにも悲惨にして、残酷なものであった為、割愛させて頂く。
そして、罪状を全て読み上げた後、執行人が刀を構える。そして、真玄が暴れないように役人二名が二人がかりで真玄を押さえる。
「...何か言い残すことは?」
せめてもの情けであろう、執行人は真玄から末期の言葉を聞くことにした。
「...」
「...無いのか? ではそろそろーー」
と、執行人が刀を振り下ろそうとした瞬間であった。
「...あ?」
「...れ?」
「な!?」
突然であった。真玄を押さえていた役人二名の首から血しぶきが上がったのである。
「...き、きひひひひひ、あめぇあめぇ、やっぱ幕府つっても所詮、平和ボケの集まりだなぁ」
真玄の手には小刀が握られていた。
どうやら押さえていた役人から奪ったらしい。
「な、なぜだ!? 二人がかりで押さえられていた......の......に」
動揺する執行人もまた、真玄の凶刃の元に倒れてしまった。
「きひひひひひ、なぜかって? それはあの世での宿題だなぁ......さてと」
真玄は、この公開処刑を見るために集まった町人達の方を見て、おぞましい笑みを浮かべる。
「さぁさぁ! お集まりの皆さん! 今から世紀の大殺戮演劇を行いたいと思います!......さてさてさてぇ、何人生き残れるかなぁ」
そう言って真玄は、町人達を襲い始めた。
辺りは、騒然とし、悲鳴と血しぶきが飛び交う。
ーー正に地獄絵図であった。
異常事態を察知した幕府の精鋭達が駆けつけるが、彼らが数人がかりですら苦戦するほどに真玄は強かった。
ーー伊達に『最悪の人斬り』を名乗ってはいないと言うことか。
「きひゃー! 天下の往来でぇ! しかも御上の御膝元でぇ! こんな大暴れが出来るなんてなぁ! 奴に感謝してもし足りないやぁぁぁぁぁぁ!!」
と、その時であった。さっきまで騒がしかった広場が突然静まり返った。
流石の真玄もこの事態に驚き、そして、背後からなんとも言えない威圧感を感じた真玄が後ろを振り返る。するとーー
「あ、あぁ...!」
真玄は、自身の背後にいた男を視界に捕らえた瞬間。まるで待ちに待った、運命の相手に巡り会えたかのような、嬉しげな、安堵したかのような表情を浮かべる。
「あの男に...あの男の誘いに乗って良かったぁ...!」
突然号泣し出した真玄。今真玄の目の前にいる男は、長身で総髪を一纏めに縛り、その総髪の毛先は少し白みがかっていて、上級階級の武士のような身なりの上に羽織を羽織っていた。
その羽織にはこの国の象徴でもある『日ノ本』が描かれていた。
「ずっと...ずっとあんたみたいな奴を斬ってみたいと思ってもいたし、あんたみたいな奴に斬られてもいいとも思っていたぁ!」
「......」
長身の男は終止無言であった。ただ、目の前にいる真玄に対して、敵意も殺意も無い、とても穏やかな表情で、目で、真玄を見つめていた。
「...あんたになら」
真玄が動く、手に持った血塗れの小刀の切っ先を男に向けて斬りかかる。
その動きはとても素人の動きではなかった。
「あんたになら殺され!
\
てもいい
/
...........か、な?」
┃
長身の男はいつの間にか、真玄の背後に立っていた。更に男の手にはいつの間にか、腰に差していた筈の刀が握られていた。
その刀の刀身は雪のように白く、切っ先辺りの刃紋が真玄の血で濡れて、刃は赤色、峰の部分は白色と、とても不気味ではあるが、その刀からは、どこと無い美しさを放っていた。
「第八羽の奥義『夜鴉』」
男がそう言った直後、真玄の頸部左右の頸動脈と脳天からほぼ同時に三つの血の噴水が上がった。その三つの血の噴水は、まるで鳥類の爪を連想させるように天高く宙に散った。そして、真玄はそのまま地面に倒れた。
「....あ....ぁ.....」
その場にいる全員、今何が起こったのか解らず呆然としていた。
ーー血溜まりの中、真玄は最後の力を振り絞って、男にこう言った。
「.....あ、........り.......が..........と..................」
最後まで言い切れず真玄は事切れた。
その表情はまるで、長年の自分の願いが叶ったかのような、満足気な顔であった。
「...君のその暴力性、まるで彼に似ているな、それに君は人を斬る事でしか、誰かに斬られる事でしか、生きる実感が得られなかったんだね.........でも僕は、」
男は静かに血振りをした後に、静かに納刀をした。
「『僕達』は、人を斬っても何も感じないんだ......」
そう言い残し男はその場を立ち去ろうとした。
すると、空から無数の鴉が舞い降りて、骸と化した真玄をついばみ出した。
「...もうすぐかな......『八』...今度こそ斬ってあげるね」
■
「...もうすぐだな......『九』...今度こそ終わらせてやる」
ここは、近江(滋賀県)の街道、そこに二人の人物がいた。
一人は黒い着物が特徴的な男『黒爪 烏乃助』。
もう一人は、透き通るような白髪が特徴的な少女『うずめ』。
烏乃助は、その街道から見える琵琶湖を眺めながら一人言を呟いた。
「......」
うずめは、烏乃助の一人言を静かに聞いていた。
とても今、烏乃助に声を掛けられる雰囲気ではなかった。
烏乃助の表情は、まるで近い未来で起こる何かを予感し、そして、それに対する覚悟を決めたような顔つきであった。
それに対して、うずめは烏乃助に問い掛けた。
「...烏乃助、その『九』て、もしかして...」
「...へ! なんでもねぇよ、おら、行くぞ」
そう言うと烏乃助は歩き出し、うずめはその後を追った。
二人は近江を経由して、若狭を目指している最中であった。
信濃で金欠になりかけたが、どうやらその後、半月間上手く節約をして、無事鴨居の使いと合流し、若狭までの路銀を得ることが出来たようである。
ちなみにその使いは、やたら「ござるござる」と言っていたので烏乃助は、あの男かと疑ったが、どうやら違うらしい。
ーー多分。
「むー気になるー」
「お前が気にしてどうするんだよ、これは俺の問題だ、お前はお前の心配をしろ」
珍しく烏乃助の口からその様な言葉が出た。
「そんな気がするだけで確信はない、今のところ江戸に戻る気も無いしな」
「ふーん」
うずめは、素っ気ない返事をした。
ーー本当にそんな気がするだけ、だが『あいつ』とは、ガキの頃から一緒だったせいか...本当に近いうちに再びあいつに、剣を向けることになるかもしれねぇ。
ーー俺は、
『どうしたの? 八、僕を斬れば全てが終わるよ』
『...........馬鹿馬鹿しい、なんであいつらの都合で俺達が闘らなきゃならん』
『八?八、何処に行くの?八!』
ーーあいつに、『あいつら』に、どう顔向けすりゃいいんだ?
そんな事を思い悩みながら烏乃助とうずめは、若狭を目指すのであった。
この時、烏乃助の予感は将来、的中する事となる。
なぜなら、烏乃助が言う彼もまた、うずめの心を所有していたのだから。
二人が再会し、再び剣を交える日が刻一刻と迫っていた。
こころあつめる(仮)~烏と不思議な少女の伝記時代冒険譚~
読めば水が欲しくなる第三話「こころかなしむ」
はじまり~はじまり~
■
「あっつ~」
二人は、近江を出てから一週間後に若狭に到着した。
現在は神無月、夏の残暑も無くなり、季節は秋、もうすぐ冬が訪れ、この時期は少し肌寒くなる筈であったが......
「おかしいだろ、この暑さ」
あまりにも季節外れな日差しの下を二人は歩いていた。
「鴨居から聞いてはいたが、ここまで日照りが酷いとは思わなかったぜ」
よく見ると周囲の大地は干上がっており、草一本すら生えていなかった。
とても、生物が棲んでる痕跡すら伺えない。
「...ここまで干上がった土地で水不足解消とか......『水守 弥都波』って奴は本当に神通力も無しでそんなことが出来るのか?...なぁ、お前はどう......」
烏乃助は隣を歩いていたはずのうずめに呼び掛けた。
ーーが、そこにうずめの姿は無かった。
「...あれ? おい、何処だ?」
振り返ると少し遠い所でうずめがうつ伏せで倒れていた。
「......おい、.............まさか!?」
呼び掛けても返事が無い上に、ぴくりとも動かないうずめを見て烏乃助は、うずめの元に駆け寄った。
「おい!...しっかりしろ!」
「う、......ぐ........」
普段は無表情なうずめが、とても苦しそうな表情を浮かべていた。
うずめのような年端もいかぬ華奢な少女には、この日差しの下を歩くのはあまりにも厳しかったようである。
「さ、最後に.......団子を鱈腹......食べたかった...........」
「いやいや! 諦めるなよ! つーか最後の言葉がそれでいいのか!?」
「う、烏乃助......私が死んだら...日本全国の茶屋を...制覇して......それが......あなたの歩む道.......」
「そんな道歩みたくねぇ!つーかもう喋るな!」
烏乃助はうずめに怒鳴った後、うずめに持っていた水筒を飲ませた。
少し落ち着いたのか、うずめは、そのまま気を失った。
■
それから、一刻、烏乃助は、先月の信濃の時と同じようにうずめを背負ってひたすら歩を進めていた。
「はぁ.....はぁ......」
烏乃助の表情にも疲労の色が表れた。
手持ちの水筒は全て底をついてしまった。
「せ、先週の...はぁ...はぁ...琵琶湖が...はぁ...はぁ...恋しく...はぁ...はぁ...なってきた」
かなり歩いた筈だが、未だに人に会えない、村すら見えない、それどころか、日差しが生み出す陽炎のせいで視界が思うように働かない。
ーーそもそも、今自分達は若狭のどの辺りを歩いているのかすら分からなかった。
この時、烏乃助は準備不足でこの土地を訪れた事を後悔していた。
若狭は、全国の中でも比較的に小さな小国だと侮っていた自分自身を呪いたくなってきた烏乃助。
「う、ぐぅ...ま、マジでこれは、ヤバイな...」
その時であった。
視覚が上手く働かない烏乃助の目の前に馬車が現れた。
烏乃助は、「あーとうとう、幻覚まで見えてきたか」と、言ってしまうほど焦燥仕切っていた。
「もし、宜しければ私の屋敷に来ませんか?」
馬車の中から女性の声が聞こえてきた。
とても、穏やかな声であった。
顔を見ようにも今の烏乃助では、顔を伺うことすら困難であった。
「そのままでは、あなた方はここで死んでしまいます。私の土地でこれ以上死者を出すわけには、いきません。さぁ早くこちらに」
そう言って女性は馬車から手を差し伸べた。
「......あー、もうどうでもいいやー」
烏乃助は先にうずめを馬車に乗せてから自分も馬車に乗った。
そこで力尽きたのか、烏乃助は、馬車に乗った直後、意識を失った。
■
うずめは夢の中で、いつもみたいに他人の記憶や思い出をーー
見ていたわけではなく、今回は普通に自身の記憶と思い出を見ていた。
「わぁーすっごーい!」
まだ幼き日の、心がちゃんとあった頃の彼女は、ある日の昼頃に母親と共に出雲のとある花畑に訪れていた。
「黄色いお花さん達がいーぱいだー!」
彼女の眼前には、黄色い菜の花が辺り一面を覆い尽くしていた。
幼き頃の彼女は今とは比べ物にならないくらい活発で、太陽のような眩しい笑顔を浮かべていた。
「●●●、走ると危ないわよ」
「あははは! 母様も早く早くー!」
「もう、●●●ったら、急がなくてもお花さん達は居なくならないわよ」
ーーあれ?なんでだろう、記憶の中とは言え、母様が私の名前を言っている筈なのに、なぜか聞き取れない。
ーーそれになんで今この時の思い出を?
「ねぇねぇ母様、お花さん達頑張ってるね! みんな生きたい、生きたい、て言ってるよ!」
「あらあら、またお花さんとお喋りしたの?」
「うん!...ねぇ母様」
「なぁに?●●●」
ーー私に恐怖の感情があったら恐いと思うかもしれない。
ーーだってさっきから私の名前だけ聞こえないんだもん。
「どうして私達は、生きてるの?」
「......我ながら難しい事を聞くわね、我が娘は」
少し困った顔をした後に、彼女の母親は口を開いた。
「それはね......分からない」
「えー母様は頭が良いから何でも知ってると思ってたのに」
「うーん、頭が良いからって何でも知ってるとは限らないわよ? 覚えて置きなさい」
「はーい」
ーー今思うと我ながら難しい質問をしちゃったな。
「結局の所、本当に分からないの、でもね●●●、母さんが思うには、多分みんなこの世に必要だから生まれたんだと思うの」
「うーん? そうなの?」
「そうよ、だってもし必要なかったら最初っからこの世に生まれてないんだもん」
そっかー、と納得したようである。
「●●●、貴女とその力もきっと、この世に必要だからこそ、この世に生まれたんだとお母さんは思うなぁ」
「うん! なんだかそんな気がしてきた!」
「ふふ、......でもね、●●●、これから先何があっても■■■■■■■■■■■■」
「え? どうして? そんなことあるわけないよ」
「もしもよ、もしそんな事がこれから先あっても決して挫けちゃ駄目よ?」
「......うん、約束するよ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■
「母......様......」
うずめが目を覚ますと、そこには、見知らぬ女性の顔があった。
「あ、目を覚ましましたね、良かった」
「......」
ーー誰?
顔を見る限りとても悪人に見えない、もしかして自分を介抱してくれたのかもしれない。
現在うずめは見知らぬ何処かの建物の一室に居た。
どうやらうずめは、今は床に敷かれた布団の上で横になっているようである。
「あ! まだ起きてはなりません、さぁ、これをお飲みになって」
女性は横になっているうずめの頭を上げて手のひらを上にしてうずめの口元に当てた。
すると、女性の手のひらから水が沸き上がった。
女性はその水をうずめに飲ませる。
ーー!おいしい。
「あ、ちょ!?」
ーーおいしい、水がこんなにおいしいとは......!
うずめは両手で女性の腕を逃がさないようにしっかりと掴んで女性の手のひらの水を勢いよく吸いだす。
「あ、や! んん.......あぁ!」
手のひらを吸われてくすぐったいのか、女性はとても色っぽい喘ぎ声を漏らした。
「......目覚めて早々、なーにやってんだお前」
その声に我に帰ったうずめは、声のする方を見ると、そこには烏乃助が部屋の襖を開けて部屋に入ってきた。
「こ、これは、その......えーと」
女性は顔を赤くして弁明しようとする。
「あー気にするな、こいつ結構食い意地張ってるから」
「むー、これ食い意地関係ないと思う」
うずめは無表情のまま頬を膨らませた。
「そ、それではうずめさん、改めて自己紹介させて頂きます」
さっきまで赤面だった女性が無理矢理落ち着きを取り戻して、とても穏やかで優しい表情でうずめに自己紹介した。
「私はここ、若狭の東に位置する『水潟郡』の領主を務めさせていただいてます『水守 弥都波』と申します。以後、お見知りおきを」
そう言って水守はうずめに頭を下げた。
「うずめです。こちらこそよろしく」
あまりにも水守が礼儀正しいものでうずめもつい、深々と頭を下げた。
先程は、顔しか見えなかったが、水守の服装は浅木色を中心とした着物、腰に巻かれた帯は通常よりも太く、両肩と胸元を覆い隠すほどの肩掛け布を羽織っており、膝裏まで伸びる髪を後頭部の上部で結んでいた。
外見年齢は二十代半ばぐらいと思われる。
「お話はすでに伺っております。私の中にあるうずめさんの心を献上すれば宜しいのですね?」
「献上て......まぁそんな所だな」
どうやらうずめが眠ってる間に話は進んでいたらしい。
「確かに三ヶ月前、出羽の鴨居様とは約束しました...ですが申し訳ありません」
水守は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「...どういうことだ? もしかして、あんたが進めている水不足解消と関係あるのか?」
「.....はい、現在、他の地域の若狭の領主達と共に『川の開発』を進めております。それもかなり大掛かりな」
「それで? その川の開発でなにか問題でもあったのか?」
うずめを置いてけぼりにして、二人は話を進める。
よく考えたらこうして、まともに交渉するのはこれが初めてかもしれないと思ったうずめ。
「先週、何者かが開発途中の川を大岩で塞いでしまい、作業が大幅に遅れてしまっているのです」
「えーと、それは山からの落石とかじゃなくて?」
「いいえ、その大岩があったのは山からかなり離れた所です。落石にしては不自然過ぎます」
「じゃあ、証拠はあるんだな?」
「確証はありません、ですが、大岩以外にもここ最近、川の開発に携わる人達が夜、何者かに次々と襲われる事件が起きています」
つまり水守は、その大岩と、夜の襲撃者は同一人物と捉えているらしい。
「つまり、その何者かのせいで、予定よりも開発が遅れていると?」
「はい、誰が何のためにこんなことをしているのか分かりませんが......ようやくこの土地を救える直前でこの様なことは許せません!」
「......まぁ事情は分かったよ、じゃあこうしよう、川の開発を妨害するそいつを俺が捕まえてあんたの前に差し出すってことでどうだ?」
「そ、それは構いませんが......ですが、お客人である貴殿方にそのような危険な事......」
「じゃあ、この土地にそいつを捕まえられる程の手練れがいるのか?」
「そ、それは...」
水守は少し戸惑った。
当然であろう、いくら客人とは言え、赤の他人である者に自身の土地の脅威を任せるなど、水守が許したとしてもこの土地の人達はどう思うだろうか?
その時、うずめは水守の手を小さな手で強く握った。
「大丈夫、烏乃助は、目つき悪いけど、とっても頼りになるよ」
「え?」
「おいこら、目付きは関係ないだろ」
水守は、自分の手を握るうずめの目を見る、やっぱり光が宿ってないせいでイマイチ分からないが、とても自信に溢れた力強い眼差し.........に見えた。(多分)
「それに、若狭だと、剣の出番が無いんじゃないかと思ってはいたが、こいつは好都合だ」
「.........」
水守は少し悩んだ後、決断した。
「分かりました。では、烏乃助さん、貴方にこの件、委ねてみたいと思います」
「おう」
「ただし条件があります」
「なんだ?」
「一週間です。一週間以内に今回の事件の下手人を捕まえて下さい、今回の川の開発は若狭国全体の支援の元、行われているものです」
「確かその下手人のせいで、完成予定が遅れたんだよな? つまり、これ以上予定を先伸ばしにしたら他の領主共の機嫌を損ねる恐れがあると?」
「...その通りです。話が早くて助かります。ですが、正確には、これ以上先伸ばしにする予算がないのです」
「烏乃助って以外と頭が回るんだね」
と、うずめが会話に割り込んできた。
「よーし、分かった、分かったからお前黙れ」
烏乃助は真顔でうずめの頬をつねる。
「あ、あう~」
その二人のやり取りを見て水守は微笑む。
「ふふ、仲がよろしいのですね...まるであの人のよう...」
「え?」
「い、いえ何でも有りません!...そ、それでは明日からお願いしますね烏乃助さん」
「あぁ、任しとけ」
「他の皆様には事情を伝えておきますので、それでは、ごゆっくり」
水守は立ち上がって一礼した後に襖を開けて、部屋から退室した。
「さぁーて、今日はゆっくり休むか、まさか日射病で死にかけるとは思わなかったしな」
「...... ねぇ烏乃助、なんか変じゃない?」
うずめは何かしらの異変に気付いたようである。
「変って、何が?」
「あの水守って人、なんでこんなに暑いのに肩掛け布なんて羽織ってるんだろ?」
言われてみればその通りなのだがーー
「よく分からんが、ここの領主としての証か何かじゃね? そんなに気になるなら明日水守に聞けばいいだろ?」
「...うーん、気になる......解った」
「あ? 何が?」
「あの肩掛け布はきっとーー」
■
「本当にあの方達で大丈夫なのですか?」
と、眼鏡をかけた、いかにも生真面目そうな若い女性が水守に言い寄った。
「心配性ですね『玄子』は」
「う、下の名前で呼ぶのは恥ずかしいので止めて下さい!」
「ふふ、ごめんね、『闇御津』」
ちなみに二人は、水守が所有する屋敷の廊下で立ち話をしていた。
「闇御津、出羽の鴨居様と言えば、誰に対しても分け隔てなく、平等に接する大らかな御方だと聞き及んでおります。そんな御方が寄越した方々です。信じて宜しいかと」
「はぁ、そんなもんでいいのですか?」
「いいんです、あの二人はイイ人です。...ところで現在死者は出てないのですね?」
「はい、今のところは、ですがこのままでは危険ですね、早急に手を打たなければ」
「そうですね、......結局私達の力では何も出来ないのですね......」
■
「はぁ?なんでそんな発想に至るんだよ?」
「ふっふーん、男の烏乃助には理解出来ないだろうね」
うずめは、とても自信満々の様子である。
「まぁ答え合わせは明日、水守に聞けばいいだろ?今日はもう遅いからもう寝るぞ」
「うん、おやすみなさい」
こうして、二人は明日に備えて水守から借りた部屋で眠ることにした。
ーー二人はこれから、この過酷な地で一週間、川の開発を妨害する犯人探しをする事となる。
この時、烏乃助と水守は予想だにしなかったであろう、まさか一週間後、二人が互いに剣を向けることとなろうとはーー
第三話「こころかなしむ」第二章『流れなき七曜』に続く
み、水ぅ......!
毎日毎日あっつい職場で残業残業!
もう嫌だーーーー!
てな感じで現在作者は残業アレルギー発症中です。
それでは次回は、コ○ン編...げふんげふん!
犯人探し編です。
それでは、次回をお楽しみに~..........あっつ~してくれないかな~




