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お酒

樹さんってお菓子作り初心者だけど私たちの邪魔にならない


骨惜しみをせずよく動くし、よく気がつく

いつもドアなんかさり気なく開けてくれるし、あれ計量スプーンどこ行ったかなと探していると察してすっとさしだしてくれる


先生が用意し忘れた高いところにしまってあるシノアを手を伸ばして取っている姿なんかが素敵


こういう姿に女という生き物は弱いよね?


この前の日曜、先生が長年続けている養護施設への訪問に一緒に焼菓子配りに行ったんだけど、その時の格好がいつものスーツ姿の樹さんと真逆な感じで、そのギャップに驚いた


細身のデニムに淡いレモンイエローのカットソー

右脇の前から後ろにかけてクラッシックカーの大きなアップリケが付いている

足元はグレージュのデッキシューズ


このデッキシューズが大人を主張している

レモンイエローのカットソーも質のいい綿の光沢がなかったらひどく子供っぽく見えてしまうだろう


いつもは前髪を上げて固めてある髪型もこの日のカジュアルな服装に合わせて変えていた


サラサラの前髪を垂らしてゆるく左寄りで分けて


こだわるなあ



樹さんは気難しいマダムや先生からも気に入られてる

まあ最初はちょっと胡散臭そうに見られていたんだけど


私なんか最初ここを仕切るマダム伴野ばんのが恐かったなあ


樹さん言葉使いこそ敬語だけど六十代のマダムにも自分の彼女のような扱いをしてる

なんか上からの感じで


それがいやらしく感じないのはなんの気負いも計算もなく自然体で接しているからだろう


それにほんとに親切な人だもの

もともとそういう性格なのか、気を使っているのか


多分性格なんだろうな


この前クリップで留めてあった髪が落ちてきて、手はチョコで汚れていたし、困ったなと思っていたら、樹さんが「直す」と一言いって留めなおしてくれた


すっと横の髪を梳きあげられた時に、ひどくゾクッとしちゃった

ふつうこんなことしないよね、遠慮して…


それを見ていた真帆子さんや雪乃ちゃんもドキドキしちゃったらしい


「なんかずるいよね樹さんは」ってその場にいた女子全員で苦笑いした

 六十代のマダムや多分七十オーバーの先生も含めて



自然にに仲良くなった私たち四人はお教室のない金曜日に一緒に飲みに行くことになった


真帆子さんのお気に入りのDDホテルのスカイラウンジ


顔なじみのギャルソンが、メンバーに男の人が加わったものだからおやっという顔をした


樹さんは連れて歩くのに恥ずかしくないルックス

身なりもいいし


…もしかしたら私たちはそこが一番気に入ったのかもしれない


親にさせられるお見合いでこのレベルの人が来たらうれしい、きっと


まあ、ファッションも性格も少し個性的だけれど許せる範囲だ


通されたのはいつものソファー席

天井から床までのガラス窓に向かってテーブルがあり、二人がけのソファーの左右に一人がけのソファーが置いてある四人席


樹さんは夜景に向かって右側のソファーに座りその向かえに真帆子さん、夜景が正面に見える二人がけのソファーには私と雪乃ちゃんが座った


その席で樹さんが私をちらちら見ていた理由が判明した


「さゆみちゃんの髪型いいね」

「肩のあたりで内側に巻き込む感じ」


「大好き」


と、樹さんに言われてひどくドキドキしたんだけど


「曲線フェチだから女の子の巻髪好き」


って続いた言葉に、あ、私の髪型鑑賞していたんだって少しがっかりした


まあ彼女いるしね


でもこの人雪乃ちゃんや真帆子さんはさん付けで呼ぶのに私だけはさゆみちゃんって呼ぶんだよね…


そういうところについ期待を持ったりもする

今日も気合を入れておしゃれしてきちゃった


肩が大きく出た少しウエストの位置の高いサーモンピンクのシフォンのワンピース

それに華奢なヒールのベージュのハイヒール

ちょっと結婚式の二次会っぽいかな…


「ねえ、樹さんってほんとは何者なの」

「正体教えてよ」


シャンパンに少し酔った勢いで甘えた感じで聞いてみる


「正体もなにも…ほんとに普通のサラリーマンなんだって」

「玩具会社に勤める」


雪乃ちゃんがそれを聞いて、んっ?って顔をした


「玩具会社?」

「もしかして○○○○」


と誰もが知っている玩具メーカーの名を口にする


「そう」という樹さんの答えを聞いてちょっと考え込んだ


「樹さんって苗字なんだっけ」

「えっと、たしか上島…」

「上島樹?」


樹さんがうなずく


雪乃ちゃんが樹さんの方を向いて座り直して


「ねえ、樹さん、土下座した頭を女の人に踏まれたことない?」


っていきなり樹さんに変な質問した


雪乃ちゃん!なんてことを訊いているのっ!





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