お茶
樹さんは…
エネルギッシュで積極的、悪く言うと少し落ち着きがない
なんだか妙に自信満々
でも気さくで人懐っこくて、なんか憎めない
「私達いつも帰りに駅前でお茶するんですけどよかったら樹さんもご一緒にいかがですか?」
って真帆子さんが誘ったらサクッと
「あ、じゃあせっかくだからご一緒させて下さい」
と言ってついてきた
よくアラサー女子三人のなかに入ってくるなと思ったけど…うん、色々聞けるな樹さんのこと
なにせ作業中は私語厳禁だから
粉が会話を聞いているとか先生おっしゃって…
いつも立ち寄る昔ながらの喫茶店で樹さんへの尋問が始まる
主に真帆子さんが色々聞いてくれた
「樹さんほんとうにサラリーマンなの?」
「はい」
「いつも素敵なスーツ着てるわね」
「よっぽど高給取りなのね」
「いえ、うちの会社は給料安いです」
ウソ…じゃあお金持ちのお坊っちゃんとか?とは聞けないしな
そこをあまり聞き出すのは上品じゃないから真帆子さんが話題を変える
「彼女とかいるの?いるよね?」
そうそう、それが聞きたかった
「います」
あ…そう…いるよね
「今、彼女からのプロポーズ待ちです」
「遠距離恋愛けっこうしんどいんで」
ん?って私達三人は顔を見合わす
「彼女からのプロポーズ待ち?プロポーズの返事じゃなくて?」
って思わず私は聞き直してしまった
「そう、自分からしちゃったら一生尻に敷かれると思って」
「それに相手から結婚してってお願いされるのが昔からの夢なんで」
雪乃ちゃんはふふっと笑って
「うん、まあわかる気がする」
と言ったあと
「そんなに彼女恐いの?」と聞いた
「うん、恐い」
樹さんがかぶせ気味に言ったものだから私たちは笑ってしまった
この人を恐がらせる彼女ってどんな人だろうと思っていたら
「みなさんはお付き合いされてる方とかいらっしゃるんですか?」
と樹さんが聞いてきた
ふふ、逆襲してきたな
「私とさゆみはフリーだけど、雪乃にはいるよ」
代表して真帆子さんが答える
それに樹さんはふーんという顔で応えた
その後樹さんは話題を先生の家の近くをうろつくロシアンブルーっぽい野良猫の話に変えた
私たちもその猫のことは気になっていたので話しが盛り上がった
みんなで相談してその猫に名前をつけた
クイーンと
クイーンの過去を詮索しながら勝手に気の毒がったり、いや彼女は野良猫になって幸せなのだと議論しているうちに時間が過ぎる
樹さん、その日はほんの三十分ほどで店を出たけど、私はもう少し樹さんと一緒に話していたい気がした
せっかく隣の席に座ってたし
樹さんが席を立ってから雪乃ちゃんが
「あーやっぱり彼女がいたか、さゆみにちょうどいいと思ったんだけど」
って言った
私は自分の顔が赤くならないように自律神経をコントロールするのに必死だった
「かなり女慣れしている、樹さんは」
って真帆子さんのセリフに私と雪乃ちゃんはウンウンと頷く
なんとなくそんな気がする
遠距離恋愛か…樹さんの彼女っていったいどんな人だろう
そんなことを考えていた私の耳に真帆子さんの、ちらちらさゆみを見てるから少し気があるかなと思ったんだけど、とつぶやく声が聞こえてきた
実は私もそう思っていた