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再会  作者: 金吾
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4

4ー1 元旦 朝 自宅

携帯のアラームかと思ったら着信音だった。

(元旦の朝から誰だよ…)

昨日はゆっくりしていたので朝の疲労感はだいぶマシにはなった。

だが、眠い。

身体を起こし、スマホの画面を覗く。

(あぁ、洋平か…)

「もしもし、早いな。」

「匡彦、呼んだか?つか、その前に言う事あんだろ!」

「今日は確かに呼んだ。お前、待ち合わせの正確な時間言わないしさ…

言う事って、何だ?」

「おい、本気で言ってんのか?明けましておめでとうからだろ!お前、本当に日本人かよ?」

「お前に言われたかねぇよ(笑)わかった、わかった、明けましておめでとう。」

「よし。明けましておめでとう。」

「で、洋平…何時に迎えに行けばいいんだ?」

「お前って、本当に素っ気ないな。高達とは連絡着いたのか?」

「いや、昨日、着信はあったんだが墓参り中でさ…

気が付いたのが9時ぐらいだったから電話してない。」

「子供への気遣いはお前らしい(笑)詳しい事は高達にメールしてあるから。それじゃあなー。」

(また何も言わずに切りやがった!)

何故、そんなに高達に連絡させたいのか考えてみたが

具体的には思い付かない。

(まあ、洋平が何企んでようが高達から聞き出せばいっか。)

8時前…ちょっと時間は早いが高達に電話してみる。

(あの家は朝早いからな)

しかし、何度鳴らしても出ない。

(元旦だからゆっくりしてるのかな?悪い事したな…)

そう思った俺は呼び出しを終わらせ、スマホを置いた。

(高達が電話に出ないなんて珍しいな…)

俺から滅多な事では電話しないからかもしれないが

高達はどんな時でも電話に出る。

たとえデート中でもだ。

こちらは後でデート中だったと聞かされとてもばつが悪いのだが…

そんな事を思っていたら、電話が鳴った。

(あれ…何で家の電話からだよ?)

「もしもし、忙しかったのか?悪かったな。」

「気にしなくていいのよ。さっきは電話出れなくてごめんね。きょうちん、電話切るの早すぎるのよ(笑)」

(あれ…何でなっちゃんから…)

「なっちゃん、お久しぶり。高達どうしたの?何かあった?」

「心配しなくても大丈夫よ。今、組合の挨拶回りに行ってるだけ。それよりさ…言っていいんだっけ?」

「あは(笑)大丈夫だよ(笑)昨日で喪が明けたから。高達に今日の事、聞いてる?」

「じゃあ、改めて…明けましておめでとう、きょうちん。旦那からと言うよりマイケルからメール貰ってるけど。マイケル、またいい加減な連絡して来たの?」

「明けましておめでとう、なっちゃん。あいつ、高達じゃなくてなっちゃんと打ち合わせてたのか…

話が違う(笑)なっちゃん、呼び名変えてないんだね(笑)」

「あはは(笑)当たり前じゃない(笑)うちの旦那と話したって話が纏まらないでしょ?マイケルは約束事が絡むと私に連絡するわよ(笑)きょうちん、彼をマイケルって紹介したの君でしょ?(笑)今さら呼び名変えないわよ。うちの子達だって、マイケルおじさんって呼んでるわよ。」

「そうなんだ(笑)確かに俺もきょうちんおじさんって呼ばれてるしね(笑)

という事は…洋平が何か企んでるのは間違いないね、なっちゃん?ただの迎えになっちゃんまで巻き込むわけないし。」

「企んでるって、聞えが悪いわね(笑)だからって今、話が聞けると思って無いわよね、きょうちん?」

「勿論だよ(笑)なっちゃんから聞き出せると思えるほどバカじゃない(笑)昔を忘れた訳じゃないしね。」

「合格よ、きょうちん(笑)君がどんな事でも忘れられない人だから訊かれるとも思ってなかったけど。」

「今日の予定は教えて頂けますよね、菜摘様?」

「何でいきなり様なのよ?(笑)マイケルは正午過ぎ着の新幹線よ。ちょっと早めに集合でお願い。旦那がきょうちんに会いたくて昨日からうるさいのよ(笑)」

「じゃあ、11時くらいに名駅行くよ。お茶でもして待とうって言っといて。」

「一時間もはしゃいだうちの旦那相手にするなんて、きょうちん…疲れるわよ?(笑)」

「高達の扱いは慣れてるから(笑)じゃあ、またね。」

「それじゃあねー」

電話を切った後、苦笑した。

(マイケルおじさんて(笑)洋平、そんなに高達の家に行ってたんだ…)

洋平が何か企んでるのは確定した。

俺には崩せないと分かっている鉄壁のガードまで着けて…

(こりゃ、高達に訊いてもムダだな…)

そんな事を思いながら立ち上がる。

元旦だろうと変わらないいつも通りの朝。

台所に行き、コーヒーを入れトーストをかじる。

新聞を読みながら思わずにはいられない…

(高達…遅刻しないと良いけど…)


4ー2 高校1年 春 藤が丘駅

もう約束の時間から30分過ぎた…

(だから学校から一緒に行こうって言ったのに)

待ち合わせの時間に来ないのは、いつもの事だが今日だけはまずい。

高達が遅刻常習犯ではあるが今日だけは大丈夫と信用した。

そして裏切られた。

(バンドの初顔合わせに遅刻するってなんだよ!)

駅で待ち合わせは良いが俺はスタジオの場所もメンバーの名前も知らないのだ。

高達はサプライズのつもりなのだろうが迷惑この上ない。

俺は少し苛つき始めた。

(ただでさえ久しぶりにベース弾くので緊張してんのに!)

そんな事を思っているといきなり知らない奴に声を掛けられた。

「あのぉ…紀藤君だよね?」

振り返ると胸しか見えない。

そいつは見上げる程、背が高かった。

(誰だこいつ?それにしてもでけぇな。)

もしかしてと思い、少し丁寧に答えた。

「はい、紀藤です。あなたは?」

「はじめまして。僕、田部大って言います。コータツの幼なじみで今日、紀藤君とスタジオで会うはずだった…」

「あー、メンバーの人?今日はよろしくお願いします。田部君もコータツと待ち合わせなのかな?」

(こいつ、何でこんなにおどおどしてるんだろ?)

苛ついてはいるがなるべく当たり障りのないように会話する事を心掛けた。

「あっ、マサルで良いです。コータツはダイちゃんて呼ぶけど(笑)

僕は紀藤君を迎えに来たんだ。スタジオで二人を待ってたんだけど、来ないから。ゴーさんが怒り始めてね(笑)」

「ゴーさん?」

「もう一人のメンバー。ドラマーなんだよ。」

(じゃあ、こいつがギター弾くんだ…)

「でも、よく俺だって判ったね?」

「コータツから写真見せて貰ってたから(笑)カラオケの時に撮ったと聞いたよ。」

「あー、あの時か…コータツにしては手回しいいな(笑)どうする?このままコータツ待つ?」

「コータツは変なところで気が回るからね(笑)先にスタジオ入った方が良いと思う。ゴーさん、怒ってるし。それに…コータツはまだまだ来ないと思うから(笑)」

「そだね(笑)音合わせならコータツ要らないし(笑)マサル、タダヒコって呼んでくれれば良い。」

「じゃあ、タダヒコ。早速、行こう。」

コータツが来た時に困らないように駅の連絡板に先に行ってると書き残しスタジオに向かった。

歩いて10分ぐらいで着いたがマサルは終始無言だった。

(ゴーさんって人、そんなに恐い人なんかな?)

初顔合わせから遅刻とはこちらとしてもばつが悪い。

それにコータツに頼まれて前以て2曲分、詞を渡してある。

その評価も気になって、だんだん緊張してきた。

「タダヒコ、この部屋だよ。」

マサルは手招きしながらスタジオのドアを開けた。

「ゴーさん、連れて来たよ。」

「おう、来たか。」

背はそんなに高くはないががっちりとした男が仁王立ちで待っていた。

「お前が紀藤か…早速、本題に入ろう。ベースはそこに置いてある。チューニングはしてあるから直ぐに弾ける。曲はこっちで選ばせて貰った。タブ譜が置いてあるから覚えてくれ。」

ゴーさんと呼ばれてる男は矢継ぎ早に指示を出す。

見かねてマサルが口を出した。

「ちょっと、ゴーさん…自己紹介ぐらいしようよ。お互い始めて会うんだしさ…」

「いや大丈夫だよ、マサル。時間が限られてるんだ。自己紹介は後でいい。」

俺は置いてあったベースを手にし、タブ譜を見始めた。

(うーん、これオリジナルだな…それにかなりリフが重くて速い。指がついていくかちょっと不安。完全に試されてんな…)

そう思いながら無表情で黙々と覚える作業を進める。

アンプの電源を切ったまま弦を弾く。

二人はこちらを気にしながらひそひそと打つ合わせている。

そんな時にスタジオのドアが開いた。

「ごめん、ごめん、遅くなっちゃった。ほら、なっちゃん達も入って、入って♪」

コータツの声が聴こえる。

「お邪魔しまーす♪」

それに3人の女の子の声も。

俺は目も繰れず作業を進めた。

「マサル、ほんとにコータツとバンド組んだんだ。あの大人しいマサルがバンドなんて大丈夫なの?」

女の子の一人はマサルとも知り合いらしい。

「これって、何ていう楽器ですか?」

気付かない内に女の子が隣にいて声を掛けられた。

さっきの声とは違う子だ。

「これはベース。」

(うわ、可愛いなこの子…)

顔を上げて答える。

「ギターとは違うの?」

その子は不思議そうな顔で質問を続ける。

「ギターより低い音が出るんだ。弦の数も違ってギターは6本、ベースは4本なんだよ。」

俺はちょっと見惚れながら…何故か一生懸命答えていた。

そんな時、さっきの女の子が突然怒鳴り出した。

「あんた!何て時に私達を呼んだのよ‼今日が初めて会って演奏するって一番大事な時じゃん‼あんたは良いかもしれないけど、メンバーの気持ち考えなさいよ‼」

(これはまずいな…)

俺は立ち上がって止めに入った。

「まあまあ、おさえて。コータツにも考えがあってだと思うんで。」

「えっと…あなたが紀藤君?」

女の子は怒りが収まらない顔で訊ねてきた。

「はい、紀藤です。」

「コータツを甘やかさないでくれる?こいつ、ちゃんと言わないと永久にこのままだから!」

彼女の怒りは収まらないらしい。

コータツは項垂れたまま動かない。

(参ったな、こりゃ)

「甘やかしてはないですよ。ただ、時間が限られてるんで。そこを理解して貰えるとありがたいです。後でしっかり叱っておきますから(笑)」

俺は笑顔で言った。

「そうね。ごめんなさい。私も熱くなってしまって。あなた、何だか信用出来るわ。コータツよろしくね(笑)じゃあ、帰りましょうか?」

彼女は笑顔を取り戻し他の二人に声を掛けた。

「はーい」

声を掛けられた二人は返事をしドアに向かって行った。

さっき声を掛けて来た女の子がこっち見て軽く会釈をする。

つられて俺も会釈した。

そしてドアが閉まると嵐が過ぎた後の様な静けさ…

ふと見るとコータツが泣きそうな顔で棒立ちになってる。

「じゃあ、そろそろ始めましょうか」

俺は何事もなかった様に言った。

ゴーさんは俺を訝しげに見ながら、

「いきなりで大丈夫か?全部じゃなくてもいいが1フレーズだけじゃ困るぞ」

「大丈夫です。あらかた頭に入ったんで。」

表情も変えず俺が言うのでマサルはほっとした顔で言った。

「タダヒコが言ってるからとにかくやってみようよ」

コータツは泣きそうな顔のままで何も言わない。

「おい!コータツ!そこに居ると邪魔だ!端に寄っとけ!」

ゴーさんに怒られて場所を移動したがかなりショックな様だ。

今にも崩れ落ちそうな雰囲気を醸し出して立っている。

「ごめんね、タダヒコ。コータツはなっちゃんに怒られるといつもああなんだ。」

と、マサルが教えてくれた。

「よし、いくぞ!俺のカウントから始めるから。タダヒコはギターのリフに合わせていってくれ。マサル、手加減するなよ!いくぞ!」

ゴーさんのカウントと共に演奏スタート。

俺は無我夢中で弾いた。

(マサル、かなり速弾きだな…ゴーさんのドラムは重い…何でこのアレンジか分かった…)

去年の秋から弾いていなかったからだろう、演奏が終わった時には指先にマメが出来ていた。

「タダヒコ、よくついてきたな。」

ゴーさんは笑顔だ。

「いえ、1曲で指がボロボロです。こんなんじゃダメですね」

俺は苦笑しながら言うと

「そんな事ないよ!ブランクあるのにこんなに弾けるなんて凄い‼それに凄く弾きやすかった!タダヒコと弾きたいって思ったよ」

マサルは興奮気味に捲し立てる。

ゴーさんは落ち着けとゼスチャーしながら、

「どうだ、タダヒコ?俺達と一緒にやらないか?最初からこんなに合わせられるってあり得ないんだ。俺達、相性良いと思う。」

俺は迷わなかった。

「よろしくお願いします。まだ自分のベースを持ってないですが。このバンドの一員にさせて下さい」

俺は深々と頭を下げると声を張って言った。

ゴーさんはびっくりした声で、

「頭なんか下げるなよ!俺達からお願いしたんだしさ。まさかこんなに良いベースが入ってくれるとはな(笑)それに今やった曲さ…お前が書いた詞に付けた曲なんだぜ!」

「えっ?そうなんですか?」

今度は俺が驚く番だった。

「ゴーさん、タダヒコの歌詞が気に入ったみたいでね♪歌詞見てから3日で曲書いたんだ(笑)僕達、迎えに行くまで必死に練習したんだよ(笑)」

マサルは笑顔で楽しそうに話してくれる。

「ベースの事は気にするな。そのベースは俺のだから気に入ったならそのまま使ってていい。お前は演奏と作詞に集中してくれ。」

「ありがとうございます。まだアイデアはあるので何曲か詞が書けると思います。」

ゴーさんは呆れた様に

「それは頼もしいな。お前の書く詞は面白い。ただな…その詞を歌う奴があんなんだと不安になるな(笑)」

ゴーさんに言われ、コータツの方を振り向くと…

壁に頭をつけながら肩を震わせ泣いていた。

マサルはまたか…という顔で、

俺は初めての事で絶句した。

(あいつ…なっちゃんて子が余程好きなんだな。でも…ここまで反応が激しいと不安になるな)


この不安がまさか的中するとは、思ってもみなかった。





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