悪魔のサービス
俺は、悪魔と契約している。
他人から奪った能力や幸福を契約者に与える力を持った、俺好みの悪魔だ。しかも、妙にサービス精神旺盛で、いつも俺を驚かせてくれる。
一番最初に頼んだのは、一生遊んで暮らせる大金をくれ、だったか。
悪魔が用意した金は、一生かかっても使い切れないほどの額だった。あれから十年近く経ったが、まだ十分の一も消費できていない。
あの後、いくつかの企業が潰れたという話を聞いて、最初は罪悪感もあったが、それも富豪生活をするうちに薄れてしまった。今では、他人の不幸は最高級の蜜の味、とすら思っている。
金に不自由しなくなると、次は女が欲しくなるものだ。もちろん、いろんな女が金目当てで寄って来たが、生憎、俺の周りにはろくな女がいなかった。
そこで、俺好みの女が欲しいと頼めば、悪魔は当然のように何人もの女を見繕ってくる。彼女達にも恋人や旦那がいただろう。そいつらの悲痛な想いを想像するだけで、俺の快感中枢は大いに刺激された。
そんなこんなで取っ替え引っ替えしていたが、だんだん飽きてきた俺は、今度は趣味に打ち込んだ。自分専用のテニスコートやゴルフ場を作ってみたり、山や湖を買い取って、猟や釣りをしてみたり……。
だが、元々俺は不器用な方だ。何をやっても達者、というわけにはいかない。だから、あらゆる能力を欲した。
その結果、スポーツ界のスーパースター達を相次いで引退に追い込んだことは、今思い出しても笑いが止まらない。
最高だ。楽しくてたまらない。何をやっても飽きはくるが、代わりに次から次へとやりたいことが見つかる。
この悪魔の力には無限の可能性があった。これなら、退屈することはない。むしろ、人間の寿命ごときでは遊び足りないくらいだ。
そう思ってしまったら、次に欲しくなるのはアレに決まっている。いつの世でも、人間の究極の欲求として君臨する、「不老不死」だ。
俺は、不死なんてものには興味ない。ただ、不老のまま、人より長く生きたい。そう思うだけだ。具体的には、あと千年くらい生きてもいい。
サービス好きな悪魔のことだ。あと百年くらい生きたいとでも言っておけば、ちょうどいい感じになるはず。そう考え、ある晩の就寝前に、枕元に立つ悪魔に告げる。
翌日。目が覚めると、時刻は既に正午を回っていた。いつもなら、七時にはメイドが起こしに来るはずだが、今日はどうしたことだろう。
働かない頭を抱えて、空腹を満たすべく寝室を後にする。
……なんだ、これは。
廊下にも、階段にも、ダイニングにも、誰もいないじゃないか。
胸騒ぎを感じながら、リビングに向かう。ここにも、人の気配はない。咄嗟にテレビをつける……が、何故かどのチャンネルも砂嵐になっている。
夢でも見ているのだろうか。真相を確認すべく、悪魔を呼ぶ。フッと姿を現した悪魔は、気持ち悪いほどの笑みを浮かべてこう言った。
「喜べ。昨夜の私は機嫌が良かったから、大サービスしておいたぞ。貴様に、全人類分の寿命をくれてやった」




