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悪魔のサービス

作者: 束田慧
掲載日:2015/02/27

 俺は、悪魔と契約している。

 他人から奪った能力や幸福を契約者に与える力を持った、俺好みの悪魔だ。しかも、妙にサービス精神旺盛で、いつも俺を驚かせてくれる。


 一番最初に頼んだのは、一生遊んで暮らせる大金をくれ、だったか。

 悪魔が用意した金は、一生かかっても使い切れないほどの額だった。あれから十年近く経ったが、まだ十分の一も消費できていない。

 あの後、いくつかの企業が潰れたという話を聞いて、最初は罪悪感もあったが、それも富豪生活をするうちに薄れてしまった。今では、他人の不幸は最高級の蜜の味、とすら思っている。


 金に不自由しなくなると、次は女が欲しくなるものだ。もちろん、いろんな女が金目当てで寄って来たが、生憎、俺の周りにはろくな女がいなかった。

 そこで、俺好みの女が欲しいと頼めば、悪魔は当然のように何人もの女を見繕ってくる。彼女達にも恋人や旦那がいただろう。そいつらの悲痛な想いを想像するだけで、俺の快感中枢は大いに刺激された。


 そんなこんなで取っ替え引っ替えしていたが、だんだん飽きてきた俺は、今度は趣味に打ち込んだ。自分専用のテニスコートやゴルフ場を作ってみたり、山や湖を買い取って、猟や釣りをしてみたり……。

 だが、元々俺は不器用な方だ。何をやっても達者、というわけにはいかない。だから、あらゆる能力を欲した。

 その結果、スポーツ界のスーパースター達を相次いで引退に追い込んだことは、今思い出しても笑いが止まらない。


 最高だ。楽しくてたまらない。何をやっても飽きはくるが、代わりに次から次へとやりたいことが見つかる。

 この悪魔の力には無限の可能性があった。これなら、退屈することはない。むしろ、人間の寿命ごときでは遊び足りないくらいだ。

 そう思ってしまったら、次に欲しくなるのはアレに決まっている。いつの世でも、人間の究極の欲求として君臨する、「不老不死」だ。

 俺は、不死なんてものには興味ない。ただ、不老のまま、人より長く生きたい。そう思うだけだ。具体的には、あと千年くらい生きてもいい。

 サービス好きな悪魔のことだ。あと百年くらい生きたいとでも言っておけば、ちょうどいい感じになるはず。そう考え、ある晩の就寝前に、枕元に立つ悪魔に告げる。


 翌日。目が覚めると、時刻は既に正午を回っていた。いつもなら、七時にはメイドが起こしに来るはずだが、今日はどうしたことだろう。

 働かない頭を抱えて、空腹を満たすべく寝室を後にする。


 ……なんだ、これは。

 廊下にも、階段にも、ダイニングにも、誰もいないじゃないか。

 胸騒ぎを感じながら、リビングに向かう。ここにも、人の気配はない。咄嗟にテレビをつける……が、何故かどのチャンネルも砂嵐になっている。

 夢でも見ているのだろうか。真相を確認すべく、悪魔を呼ぶ。フッと姿を現した悪魔は、気持ち悪いほどの笑みを浮かべてこう言った。


「喜べ。昨夜の私は機嫌が良かったから、大サービスしておいたぞ。貴様に、全人類分の寿命をくれてやった」

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