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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

四季(仮)

冬物語

作者: 未樹

男性同士のカップル、俗に言うボーイズラブ小説です。


ボーイズラブに偏見がある、ボーイズラブが苦手、という方は

ブラウザバックをお願い致します。


大丈夫、どんとこい、という方のみドウゾ。





ミレニアムを翌年に控えた1999年の1月。


僕達は、雪男をつかまえた。










「ぁは、バッカじゃないの」


ケラケラと、前の席に座った織季しきが嗤う。


俺からすれば、某ファーストフード店のシェイクにうっかりハマりまくってるおまえがバッカじゃないの、だ。


今、自分がすすっているシェイクが、本日3つ目だという事に気付いているのだろうか。

いい加減、見てるだけでくどいんですケド。


「おまえこれで何度目だっけ?」


「3杯目。…いや、3回目だ。

―――っておまえまだ飲むのか」


「うん。飲むよ?

今度は、3つの中で一番美味しかったバニラ味~」


立ち上がった織季にうんざりとした様子で問えば、織季は何言ってんの、当たり前じゃん、という顔をする。


そして、楽しそうに笑ってレジの方へと歩いていった。


その姿を見ながら、もう織季の来た事の無さそうな店には一緒に行かないようにしよう、と思う。


織季のツボは良く分からないから、何か変なモノにでもハマってしまったら大変だ。


もう俺の手には負えない。

いや、むしろ負いたくないのだが。











しゃら、と。彼が動くたびに音がする。


「…俺は犬かっ」


「いや、だって逃げられても困るし」


綺麗な銀色の髪をした男が突っ込めば、ゆたかがケロっとそう返す。


「……でも、ちょっとやりすぎ…じゃない?」


何か、さすがに見ていて可哀相だ。


「でもおまえ、オレがこれを解いたら逃げるだろ?」


「当たり前だっ。いきなり縛られたら誰だって逃げるだろ」


ガシャガシャと、見せ付けるように手を動かす彼。


どっから持ってきたのだろう、と僕でさえ首を傾げたくなるような量の鎖で、彼は防音の為に窓の無い部屋に縛りつけられていた。


身じろぎ一つするのも大変そうで、僕は後でこっそり少しだけ、鎖を緩めてあげようと思う。


「まぁいいじゃん。これから仲良くしようぜ、雪男」


いつもの、裕の人懐っこい笑み。


無邪気で、キレイで、僕はこの裕の笑顔が大好きだ。


「…誰がするか、バーカ」


雪男の答えに、あはは、と笑って裕が部屋を後にする。


「……ごめんね?」


部屋の隅で、鎖まみれになっている彼に小さな声で謝って、僕も裕に続いて部屋を出る。


廊下を歩きながら握った裕の手は、なかなか暖まらない僕の手とは違ってとても暖かかった。









「じゃぁ、夏はどうしてるんだ?」


「おまえらみたいな悪ガキの来れないような山ん中に住んでるよ」


僕達が捕まえた雪男―――キトウに、裕は興味深々で、学校が終わるなり、僕と裕はキトウを閉じ込めた部屋に来ていた。


最初は僕達と会話をする気も無かったらしいキトウだが、こしょばしが効いたのか、カイロが効いたのか、裕の質問攻めが効いたのか、


何が効いたのかは分からないけれど、今ではものすごく面倒くさそうな声と口調で返事をしてくれるようになって、どことなく裕は嬉しそうだ。


最初は、はしゃぐ裕が嬉しくて、つられて何だか僕の楽しかった。


キトウはまるで僕達のお兄ちゃんにたいで、僕もキトウの事が気に入っていた。




でも―――






だんだん、僕はキトウが嫌いになった。










「ねーぇー裕ぁー、僕と、一緒に遊びに行くって約束はっ?

プレゼント、一緒に選んでくれるって言ったじゃん」


学校が終わるなり、いつものようにダッシュで自宅へ向かう裕の腕を引っ張りながらそう問えば、返ってくるのは今度ね、という言葉。


ほたるとは、ずっとこれから先も一緒に居られるけど、キトウは冬が終わる前に別れなきゃいけないじゃん。

だから、今のうちに聞ける話は聞いとかないと」


前を向いたまま、こちらを振り返ってすらくれない。


裕は、一度興味を持つと、とことんそれにハマりこむ。

それしか見えないくらいに。


でも、いつもならすぐ飽きて、放り投げてしまうのに。


今回は、飽きるまでがいつもより長い。


いつもだったらもうとっくに飽きてる頃なのに、今回はちっとも熱が冷めない。


僕は、その事に理由の分からない、焦燥感のようなものを抱いていた。


「…裕は、僕とキトウ、どっちが好き? どっちが大事?」


裕の腕を掴んだまま、僕も一緒に小走りになりながらそう問う。


「蛍に決まってんじゃん。

キトウと一緒に居ると楽しいけど、やっぱり蛍の方が大事だよ?」


僕の方が大事。裕のそんな言葉を聞くと少しだけ安心できる。


訳の分からない不安が、消えていく。


この質問をすれば、裕は必ず僕の顔を見てくれるから。


「僕、裕の事、だーい好きだよ」


「オレも、蛍の事だーい好きだよ」


家路を急ぎながら、裕が笑う。


僕だけに向けられたその笑顔を、僕はずっと見ていたいと思った。















「ごめん、遅くなったー…って……織季は随分気に入ったみたいだね」


ここまで走ってきたらしく、息を切らせた紫苑しおんが、謝罪の言葉を述べて―――織季の前に散乱しているゴミを見て微笑んだ。


ちなみに現在シェイク5本目。

フライドポテトにも少し前に興味を持ち始めて、Sサイズを完食後、Lサイズを注文してきた。


「おまえ…後で体調くずしてもしらないからな」


見てるだけでもう気持ち悪くて、少しでもあっさりしようとオレはウーロン茶を頼んだ。


まったく、こいつは胸焼けという言葉を知らないのだろうか。


「はは、へーきへーき」


いや、俺が平気じゃないんだって。


「僕も何か食べよっかな」


「ぁ、じゃあバニラシェイクもよろしく」


ポテトを頬張りながらそう告げた織季に「了解」と微笑んで、紫苑がカウンターの方へと向かった。


……もう本当、いい加減勘弁して下さい…。













「今日は相方は?」


部屋に入るなりそう問われて、オレは一瞬その相方というのが誰を指しているのか分からなかった。


「…―――あぁ、蛍ね。

蛍は、風邪だって。あいつ、この時期必ず一回は寝込むんだよ」


「そ?」


「うん。3日ぐらいしたらだいぶ落ち着くから、明後日にお見舞い行こうと思って」


1日目、2日目あたりは辛そうで、行っても無理させるだけだから、オレは行くなら3日目と決めている。


鞄を下ろして、すでに定位置となった場所にオレが座ると、キトウが口を開いた。


「おまえとあの子の関係って、何」


「はぁ? 別に…親友、だけど」


いきなり何その質問、とオレは首を傾げる。


「あの子は、おまえの事好きみたいだけど、おまえはそれ知ってんの?」


「知ってるよ? オレも、蛍の事大好きだもん」


ケロっとして答えたオレに、キトウははぁ~、と頭を抱えて溜め息をついた。


…まったく、何だっていうのだろう。


再度首をかしげたオレに、キトウは微苦笑を浮かべる。


「まぁ、落ち着いてる分おまえより蛍の方が大人って事だな。おまえは好奇心に支配されすぎ」


「いいんだよ、これからどんどん老けていくしかないキトウと違ってオレはまだまだガキだもーん」


べぇーだ、とちょっと嫌味を混ぜてやると、「かっわいくないガキだなぁー…」とキトウが呻いた。


「……まぁ、まだ小学生だしな。ガキなのはしゃーないと思うけど。

―――おまえも、蛍の為にもうちょっと大人になってやれよ」


ポン、ポン、とオレの頭を撫でる、キトウの顔が。


まるで、いつものキトウとは違って。


友達とか、兄弟とかじゃなく。


すごく、大人の顔をしていた。













居るはずのない時間に現れた僕に、キトウは少しだけ驚いた顔をしていた。


「学校は? ―――あぁ、風邪で休みか」


もう大丈夫なのか、と問うキトウの声に、僕は自嘲気味な笑みを浮かべる。


「平気だよ。…仮病だから」


「ぁー…そっか。

……もしかしなくても、その顔じゃあ原因は俺だろ?」


キトウが、気まずそうにぎこちなく笑みを浮かべた。


―――やっぱり、キトウは気付いてたんだ。


「…気付いてたなら、消えてくれれば良かったのに」


小さな声で呟く。今まで自分でも聞いた事のないような、低い声。


まるで、僕の中にあるドロドロとした感情の象徴みたいな。


ぇ、何? と聞き取れなかったらしいキトウが尋ねるが、僕に答える気は無かった。


「僕の一番は裕で。裕の一番は僕だった。ねぇ、知ってた?


いつもなら、裕は興味を持ってもすぐ飽きるのに…キトウだけは、飽きないんだ。

その他にも……裕はキトウに会って変わった。


僕は、ずっと裕のままで居て欲しかった。

…でも、変えたのが僕なら、それで良かったんだ」


「―――……」


自分の中にあるのが、あまりに幼い感情だという事に僕は気付いている。


でも―――気付けたからといって、どうにかできるモノでもなかった。


僕は、裕が好きだ。


裕だって、今は気付いていないだけで、時期に恋愛感情で僕を好きだという事に気付くはずだった。


でも。でも、キトウが来てから。


裕が、どんどん遠ざかっていく。僕から、離れていく。


全部キトウの所為だ。全部キトウが悪いんだ。


キトウが、僕から裕を取ったんだ。


「裕が、キトウと出会わなければ良かった。

キトウなんて、居なければ良かった」


ぎゅ、と。背中に隠していた包丁を握る手に力を入れる。


「…蛍は、俺が消えたら裕が元に戻ると思ってるのか?」


裕と、僕と。3人で居る時には見せた事もないような大人の顔をして、キトウが問うた。


多分、今までのキトウは僕達に合わせてくれていただけで、本当のキトウはこっちなんだと思う。


その辺の大人なんかよりも、ずっと色々な事を悟っているような。


「もう元には―――戻らないと思う」


何も知らずに、ただ一つの事だけを追える、無邪気ですごくキラキラしてた、裕の笑み。


それは、幼い子供だけが浮かべる事のできる笑みだから。

成長して、そこから一度飛び出してしまったら、もう帰れない。


確かに、今が変わっていってしまうのは嫌だけれど、裕が成長する事の全てが嫌な訳じゃない。


僕じゃなくて―――まるで、裕の中でキトウの存在の方が大きいみたいに。


裕が、キトウばかりを見ているのが嫌なんだ。


「でも―――…キトウが居なくなれば、少しは良くなる」


キトウが居なくなったとして、裕は、また僕を見てくれるだろうか。


もしかしたら、もう僕には興味がなくて、見てくれないかもしれない。


それでも。何も、しないよりまマシでしょう?


キトウと、楽しそうに喋ってる裕の姿を見ると、胸が押し潰されそうなくらいに苦しくなるんだ。

僕は、もうそれに耐えられない。


どうか、お願いだから。


誰も、僕から裕を取り上げないで下さい。

僕は、裕が大好きなんです。裕だけが、大好きなんです。


「だから―――…」


「消えて、だろ?」


幼い子を甘やかすかのように、優しく笑ったキトウが僕の言葉を先に言った。


僕は、ゆっくりと背中の包丁を前に回す。


「でも、残念。

俺は、包丁で刺されたくらいじゃ死なないよ」


ポン、ポン、と。久々に、キトウの手が僕の頭を撫でる。

少し、ヒンヤリした手。


「ごめんな。裕と、ここに俺が居るのは今月いっぱいって約束してたから。


そっち、守ってやりたくて…蛍が、こんなに思いつめてんの、知らなかった。

俺が、もう少し気を使ってやれば良かったのにな。ゴメンな」


途中から、キトウに触れられるのが嫌だった。

キトウの事が嫌いになったから。


でも―――不思議と、今は嫌じゃなかった。

何でかは分からない。


「裕に、悪い、約束守れなかった、って伝えといてくれ。


じゃぁ、な。最初は流石にどうなるかと思ったけど……俺もなかなか楽しかったぞ」


笑って、もう一度僕の頭を撫でて。


ふわぁ、と。


まるで、煙みたいに。


ゆっくり、キトウが消えていく。


咄嗟に伸ばした僕の腕は。


何も、掴む事が出来なかった。














「……っていう話を聞いた事があるんだけど」


何年振りだろう。


久々に会った彼に、同級生から聞いた話をしてみると、彼は苦い顔をして「ぁ~…それ、俺だわ」と言った。


「やっぱり?」


話を聞いていた時点でそうだと思っていた僕は、小さく笑みを浮かべる。


何だか楽しそうな様子の僕に、少しだけ彼が嫌そうな顔をした。


「ふふ、どうりで見つからない訳だよねぇ?

監禁されてたんだから」


ベッドの上で足をパタパタさせながら言えば、ちょっと嬉しそうに、でもそれを悟られまいとぶっきらぼうに言葉を紡ぐ彼が面白い。


「探してたのかよ……」


「いや? 探してないけど」


「……だよ、な…」


にっこり笑って告げる僕に、はぁーと溜め息をつく。そうだと思ってた、と。


そんな彼の様子に、僕はクス、と笑って口付けた。


「嘘だよ」


小さく、甘い声でそんな事を囁いてみる。顔を上げた彼が、嬉しそうな表情をしていて。


「ぷっ……ぁははははっ」


僕は、とうとう噴出してしまった。











8本目のシェイクを手にした織季を連れて、俺達は店を後にした。


またここに案内しろ、という織季はオール無視だ。

もうおまえと飲食店には入らない。


「きっと、生冬きとうの姿をみたら驚くよ」


楽しそうに、紫苑が言う。


「何でだよ」


何も、俺は驚かせるような事はしてないはずだ。

…ちょっと目の前で消えただけで。


「だって、彼は“キトウ”を自分が殺したと思ってるもん」


ふふふ、と笑う紫苑。


「―――はぁっ!?」


俺の声が、晴れた冬の空に響いた。











「なまえ…名前、何ていうの?」


眠ってしまった妹を、小さい体で抱っこして歩こうとする少年から、幼い女の子の体を抱き上げる。


すごく軽くて、でも、とても暖かかった。


唐突に、バサリと虫取り網を被せられて。

なのに、何でおとなしく俺は付いていっているのか。


握ってきた手が、あまりに小さくて壊れそうだったからかもしれない。


「名前? あぁー…必要無かったしな。名前は、無いよ」


「ふぅーん、そっか。…じゃぁ、僕がつけてあげるよ」


しっかりしているような雰囲気なのに、声だけがどこか舌足らずで。

そのちぐはぐさも、放っておけない原因だろうか。


「―――キトウ。生きる冬で、生冬」


いい名前でしょ? と自慢気に笑う。

その笑顔が、俺は切ない。


「生冬、か……あぁ、いい名だな」


俺は、どうして冬なのに虫取り網を持っていたのか尋ねた。

冬なのだから、虫など居ないだろうに。


少年は答えた。雪を、捕りたかったのだ、と。


まだ雪が積もるには早い季節だ。

空から舞い降りた雪は、地面に着くなり溶けて無くなってしまう。


だから。消える前の、雪を捕まえようと思ったのだと言った。


「ぇへへ。きっと、生冬が雪男だって言ったら驚くよ」


嬉しそうな笑顔。

それは、もうすぐ死んでしまう母親に、見たいと言っていた雪を見せてあげられるから。


「有り難う。お礼に、僕が出来る事なら何でもするよ」


その言葉に、俺は思わず口を開いていた。


「じゃあ……」


この子なら、いいよ、って言ってくれそうな気がしたから。


自分が、もっとこの子の側に居たいと思ったから。


「―――嬉しい。

僕もね、生冬と、もっと一緒に居たいと思ってたから」


その言葉に。何だか、全てが救われたような気がした。









20080123-20080129

稚拙な文章に最後までお付き合い下さいまして有難うございました*_ _))

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