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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第八話『ハイパーターボアクセルババア』
99/310

ハイパーターボアクセルババア 一

1

「はぁ――はぁ――はぁ――」

 男の荒い息遣いが車内に響く。

 カーステレオからは、轟くようなデスメタルミュージックが大音量で流れている。

 しかし、それでも男の息遣いは――そして、外の『それ』が放つ声は、デスメタルよりも大きく、はっきりと聞こえていた。


 男は今、某県の高速道路を疾走していた。

 時刻は深夜三時。

 昼間、この高速道路は非常に混雑するのだが、この時間帯は車の数はとにかく少ない。

 その為男は、時速一五〇キロという凄まじい速度で走行していた。

 当然、法で定められた速度をオーバーしている。

 実を言うと、男はスピード狂であった。

 一般道であろうが高速道であろうが、直進の道や障害物の少ない道は、アクセル全開で突っ走る。

 亀のようにノロノロ走るのは、車の運転ではない。

 スピードを出さなければ、それは車の運転ではない――そう豪語するほど、男は高速度の運転が大好きであった。


 しかし、現在彼が猛スピードで走行する理由は、彼の性分からではない。

 自身の運転する車と並走している『それ』――その存在から逃げる為であった。


 その存在に気付いたのは一分前。

 お気に入りのデスメタルを大音量で流しながら、男はアクセルを踏み続けていた。

 気分が良かった。

 爽快であった。

 スピードが上がる度に、自身の頭の中から脳内麻薬が分泌されるのを感じ取っていた。


 その時、ふとサイドミラーに目をやったのである。

 何故サイドミラーを見ようと思ったのか。

 それは、車の外から笑い声が聞こえた気がしたためであった。

 何を馬鹿な――そうやって、その時の彼は自分の考えに失笑してしまった。

 ここは高速道路――しかも、凄まじい速度で走行する車の中である。

 外から声が聞こえるはずがない――そう思いながら、サイドミラーに目をやったのである。


 そして―――男は戦慄した。

 アクセルを更に踏み込み、迫り来る『それ』から必死に逃れようとした。

 しかし、『それ』は男を追い続けた。

 獲物を狩ろうと疾走する肉食動物の如く、しつこく、粘り強く。

 そして現在―――『それ』の存在を知ってから一分ほど。

 その短い時間の内に、『それ』はいつしか、男の運転する車と並走していたのである。


(だ、大丈夫だ、見間違いだ……!! きっとテンションが上がりすぎて、脳ミソが馬鹿になってんだ……!!)

 男はアクセルを踏み続けながら、心の中で自分にそう言い聞かせていた。

 有り得ない。

 有り得るはずがない。

 もう一度窓の外を見れば、何かの見間違いだと分かる筈だ――そう思いながら、男は外に目をやった。


 しかし――

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひをゃ!!」

「……ッ!?」

 現実であった。

 窓の外には、『それ』が――『老婆』がいた。


「ひぃいいいいいいっ!!」

 そう――老婆である。

 顔中血まみれの老婆が、全力疾走しているのである。

 老婆が車を運転しているのではない。

 赤い血に塗れた老婆自身が、『己の足で走っている』のである。

 男を見てけたけたと笑いながら、凄まじい速度で並走しているのである。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

「ひぃっ――ヒィイイイイイイイイイイイ!!」

 壊れたスピーカーのような恐ろしい笑い声が、老婆の口から放たれる。

 それが耳に入り、脳を刺激し、男の口から、恐怖の叫びが響き渡った。


 手が汗ばんで滑る。

 ハンドルが上手く操作出来ない。

 しかし、そんな状態でもアクセルは踏み続ける。

 そうしなければ、その老婆から逃げることは出来ない。

 ああ、この老婆に捕まってしまったら、自分はどうなってしまうのであろうか――男の思考回路は、自分の頭が作り出す、ホラー映画の展開の如き想像に囚われてしまっていた。


 その時、老婆の両目に異変が起こった。

 奇妙な光が宿ったのである。

 光は徐々に強く、大きく光り始め、そして――

「げぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

 ――奇声と共に、両目から怪光線を発射。

 運転席に座る男に向かって眩い光を注ぐ。

「!? ――あ――うわっ――!? あああああああああああっ!!」

 強烈な光に照らされ、男の視界が白色に包まれる。

 瞼を閉じ、更に両腕で目を庇うが、眩しさは全く治まらない。


 そして次の瞬間――男の全身を、凄まじい衝撃が襲った。

 次の投稿日は未定です。

 そして次回は、投稿パート100部目──即ち、連載100回目となります。

 ここまで続けることが出来たのも、皆様から励ましや叱咤の言葉を頂けたからだと思っております。

 それでは、また次回もお付き合いください。


【追記】

 次は、火曜日の午前10時頃に投稿する予定です。

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