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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第七話『滅掌の延慶』
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滅掌の延慶 十四

【これまでのあらすじ】

 遂に始まった衛と延慶の立ち合い。

 その中で衛は、憎悪によって自身が冷静な判断力を失っていることに気付いた。

 一旦心を静め、どう攻めるかを黙考した後、再び衛が動く。

「っ───!」

 延慶の懐を目掛け、素早く踏み込む衛。

 その速さは、先程の踏み込みの比ではない。

 風を切るような勢いで、延慶に右の冲拳を見舞う。

「シッ───!!」

 それを防ぐべく、延慶は左腕を動かした。

 両者の腕が触れ合い───

「む───」

 その一瞬、延慶は感じ取った。

 衛の攻め───その一撃に込められた何かが、更に鋭いものへと変化したことを。


「───ッ!」

 間髪入れず、衛は左ストレートを。

 そして右フック、左アッパーを延慶に向けて放つ。

 それらを延慶は、両腕を用い、辛うじて防ぐ。

 やはり変わっていた。

 衛の攻めの質が、確実に向上していた。


「───ッ!」

 衛は更に踏み込み、左の直拳を放つ。

 延慶はこれを素早く捌き、その手で顔面に当て身を食らわせようとする。

 が───

「っ───!」

「・・・!」

 当たることはなかった。

 間一髪のところで、衛が防いでいた。

「でやっ!」

「ぬうっ!」

 衛がすぐさま放った直拳を、延慶は平手で弾く。

 それを見ても、衛の闘志が萎えることはなかった。

 そこから更に左ストレート。

 延慶が右腕で逸らす。

 右フック。

 延慶はそれを、腰を屈めて真下に避ける。


「───!」

 衛は、避けられた右フックの軌道上に左手を置き、フックにブレーキをかける。

 そのまま、左ストレートを延慶の喉を目掛け放つ。

 延慶は、やはりそれをガード。


「せいっ!!」

 畳み掛けるように、衛の右裏拳。

 延慶の額を狙う。

「ちっ!」

 放物線を描くように飛来する拳。

 延慶はそれを、両腕をクロスさせてガードする。

 その防御姿勢をとらせること。

 そして、意識を完全に上へと向かわせること───それこそが、衛の狙いであった。


(今だ!!)

 衛の目に、強い意志が宿る。

 同時に、左手を下から上へと振り、延慶の両腕をかち上げる。

「む───!?」

 一瞬───延慶の顔が驚きの色に染まる。

 その隙に衛は、右拳による一撃を叩き込まんとする。

 狙うは、がら空きとなった延慶の腹部。

 放つは、構え太刀三兄弟の長兄を沈めたあの突き───その名も、瓦稜螺旋拳(がりょうらせんけん)


「でいりゃあああああっ!!」

 凄まじい勢いの回転運動と共に、瓦稜拳が延慶へと突進する。

 旋風と赤色の抗体をまといながら、延慶の腹部に衝突した。

「ぐうっ───!?」

 延慶が苦悶の声を漏らす。

 同時に、彼の体が後方に跳んだ。

 数歩離れた位置に、両足で着地していた。

 瓦稜拳が当たった腹部から、僅かに煙が立ち上っていた。


 直撃だ───衛はそう思っていた。

 威力、スピード、間合い、タイミング───全てが完璧であった。

 流石の延慶も、この一撃はひとたまりもない───そう思っていた。


 しかし、実際は───

(・・・!この感覚・・・!『浅い』!?)

 そう───瓦稜拳は、直撃していなかった。

 直撃する寸前、延慶は後方へと飛び退き、直撃を免れていたのである。

 凄まじい反射神経───そして身体能力の成せる技であった。

「・・・・・」

 だがしかし───直撃を免れたと言えど、延慶にはダメージが入っていた。

 衛の一撃は、致命傷を与えるまでには至らなかったものの、延慶の肉体に、確かな痛みをもたらしたのである。


「・・・・・」

 延慶は、無表情であった。

 無言であった。

 黙って俯きながら、衛の拳が入った箇所に手を当てていた。

「・・・」

 延慶が、ゆっくりと顔を上げる。

 不気味なほどに意思を感じない表情。

 それが───突如、獣の如き笑みへと変貌した。

「・・・見事。一発入れおったな」

 延慶が、衛に称賛の言葉を送る。

 声は、喜びに溢れていた。

 嬉しくて堪らない───そんな響きを含む声であった。


「お代わりはいるかい?」

「もらおうか。こちらも馳走してやろう」

 衛の軽口に対し、延慶も余裕そうに答える。

 更に口の端を吊り上げる。

 そして、構え直した。

 肉体から、歓喜の想いが立ち上っているように見えた。


「・・・・・」

 衛も、ゆっくりと構え直す。

 延慶と違い、こちらは喜びの感情はない。

 ただ冷静に、相手の攻撃を捌き、こちらの攻撃をぶち込む───その想いだけであった。

「・・・・・」

「・・・・・」

 無言で睨み合う。

 空気が張り詰めている。

 晒した皮膚を、空気の針が突き刺さるような錯覚が襲う。

 永遠に続くような緊迫した間を、嫌というほど堪能した後───

「───っ!」

「・・・ッ!」

 両者は、同時に動いた。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、木曜日の午前10時に投稿する予定です。

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