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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第七話『滅掌の延慶』
91/310

滅掌の延慶 十三

【これまでのあらすじ】

 遂に始まった、衛と延慶の立ち合い。

 延慶の凄まじい攻撃によって、衛は思いきり吹き飛ばされてしまう。

 しかし、何とか立ち上がり、延慶に一矢報いることを誓う。

 半身になり、両足を肩幅に開く。

 脇を軽く閉め、両拳を顎の左右に掲げる。

 キックボクシングのアップライトスタイルに近い構えである。


 構えて一呼吸後。

 衛が、再び延慶に向かって踏み込む。

「―――っ!」

 ──左拳(ジャブ)

 牽制の為の一撃であるが、常人が受ければ、一瞬で意識を失うほどの威力を持っていた。


 ―――が、延慶はそれを、片手で易々と捌いてみせる。

「ちぃっ―――!」

 衛は短く舌打ちをしながら、再び左の拳を見舞う。

 ジャブ気味なその拳に続いて、右の拳。

 そこから連続で、両拳を用いたコンビネーションに移行。

 強力かつ素早い打撃を、延慶に向けて放ち続ける。


 しかし―――やはり延慶は、それらを軽々といなしていく。

 防御に徹している両手の動きは精密で、衛はそれをかい潜ることが出来ない。

(クソッ―――!)

 衛が心中で悪態をつく。

 そして、徐々にアクセルを掛ける。

 連続技のスピードを速めていく。

 互いの手が接触するまでの間隔が短くなっていく。


 その時―――一瞬、延慶の左側頭部に隙が生じた。

(―――!しめた!)

 衛の右足が動く。

 上段回し蹴り。

 延慶の頭を捉えるべく、右足が伸びていく。


 必死であった。

 何とか一撃を見舞おうと繰り出したコンビネーション。

 その最中に生じた隙に、食らい付かないはずがなかった。

 無我夢中であった。

 その隙事態が、延慶の罠であるとも気付かぬほどに。


「甘いわ小僧―――!!」

 延慶の一喝。

 同時に繰り出される右掌。

 回し蹴りの動作を行っている今の衛は、対応出来ない。

(しまっ―――!)

 気付いた時には既に遅い。

「が―――!?」

 強烈な衝撃。

 衛の体が、再び宙を舞う。

「っ―――か、はっ・・・!」

 そのまま、地面に激しく叩き付けられる。

 肺の中の空気が、一気に外に漏れ出したような感覚があった。


「ククク・・・どうした魔拳の・・・!貴様の番ではなかったのか・・・?」

 いやらしい笑みを浮かべながら、延慶が挑発する。

 しかし―――衛は、その言葉に逆上することはなかった。

(・・・落ち着け───)

 たった今受けた一撃によって、目が覚めた。

 延慶の明らかな罠にも気付かぬほど、自身が精彩を欠いていたことに、ようやく気付いた。

(怒りは静かに燃やし続けろ。ただし、判断力は鈍らせるな。しっかりと見極めるんだ───)

 呼吸を整えながら、衛が構え直す。

 一呼吸する度に、周りが透き通って見える気がした。


「・・・・・」

 衛はしばし、無言で構え続けた。

 構えたまま、延慶を観察した。

 そして、延慶をどう攻めるかを考えていた。

 上段への蹴り等、隙の多い技は不用意には使えない。

 先程のように、反撃を受ける危険性がある為である。

 もし使うのであれば、ここぞという時だ。


 では、どうすれば『ここぞという時』まで辿り着くことが出来るのか―――答えは明らかであった。

(簡単だ・・・!隙の少ない手技で削っていけばいい!)

 そう決意し、拳を固く握りしめる。

 幸い、武心拳は手技が豊富である。

 その上、隙が少なく、連打に長ける技が多い。

 先程のように、怒りと焦燥感に駆られず、冷静かつ正確に攻めれば、いつかきっと届くはず。


「―――っ・・・」

 ゆっくりと、深く息を吸い込み―――

「―――ほぉ・・・」

 同じくらいゆっくりと、息を吐き出す。

 酸素が―――意思が―――活力が―――全身の細胞一つ一つに行き渡る。

 肉体と精神のコンディションが整い、一致したことを確かめてから―――

「・・・行くぞ」

 衛が、動いた。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

次は、火曜日の午前10時に投稿する予定です。

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