滅掌の延慶 十二
【これまでのあらすじ】
衛は、延慶に対して不意打ちを仕掛ける。
それを受けた延慶は、『この男ならば、自分を楽しませてくれるかもしれない』と、衛に対する認識を改めるのであった。
その時―――衛はふと、風を感じた気がした。
そして次の瞬間―――衛の目と鼻の先に、延慶の顔が出現したのである。
「―――っ!?」
驚愕する間もなく、延慶の右拳が襲い掛かる。
(速い―――!?)
衛は左手を使い、その突きを辛うじて受け流す。
直後、左掌の強襲。
真っ直ぐに飛んでくるそれを、衛は右手で防ごうとする。
―――が、突如、軌道が変わった。
(何―――!?)
真っ直ぐに飛んでくる掌は、減速することなく、カーブを描くような軌道に。
そして次の瞬間、衛の右頬の辺りを捉えていた。
「つッ―――!!」
衝撃。
凄まじい威力に、意識が飛びそうになる。
それを何とか堪え―――
「!?」
胸元に違和感。
延慶が両手で、衛の胸ぐらを掴んでいた 。
「フンッ!!」
「ぐぅっ!?」
延慶が下に思い切り引っ張る。
凄い力であった。
堪え切れず、衛の姿勢がやや前傾になる。
同時に、延慶が衛の右腕を掴む。
そして、背を向け、衛の懐に入り込んだ。
(背負う気か―――!?)
そう思った瞬間、衛の体が浮かび上がりそうになる。
予測通りである。
(させるかよ!)
すぐさま、衛は自ら地面を蹴る。
延慶を中心に、半円を描くように宙を舞う。
そのまま、延慶の正面に着地をし―――
「ぐうっ―――!?」
その時、右脇腹に衝撃。
延慶の掌打が入っていた。
更に、右頬に強烈な拳撃が叩き込まれる。
「があっ!」
衛の体が、アクセル全開の乗用車にはねられたかの如く吹き飛ぶ。
地面を数メートルほど転がり、両足でブレーキをかけ、何とか勢いを打ち消す。
そして、ゆらりと立ち上がった。
「ほう、あれを受けてまだ立ち上がれるとは・・・。頑丈な奴よ・・・!」
ニヤリと笑いながら、延慶が衛に言葉を掛ける。
衛はそれを耳にしながら、ダメージがどれほどのものかを確認しようとする。
「・・・」
口の奥が酷く痛む。
鉄の味がする。
「・・・っ―――」
舌の先で、右奥の歯茎に触れる。
歯茎が裂け、砕けた親不知が中から飛び出してしていた。
「っく―――」
衛はそれを吸い出す。
一瞬、刺すような痛みが走る。
「ぶっ―――」
それを堪えながら、地面に向かって、吸い出した歯を吐き捨てた。
「・・・やるじゃねえか。歯医者代が浮いたぜ」
口の端を拭いながら、衛が軽口を叩く。
その反応を見て、延慶は愉快そうな笑い声を挙げた。
「ムハハハハハ!そのような戯れ言を二度とほざけぬよう、歯を全てへし折ってやっても良いぞ?」
「その必要はねえよ。今度は俺の番だ」
そう返しながら、衛は再び、静かに構え直した。
次の投稿日は未定です。
【追記】
次は、火曜日の午前10時に投稿する予定です。




