滅掌の延慶 十一
【これまでのあらすじ】
延慶の目的は、やはり武心拳の使い手と立ち合うことであった。
衛に向かって、『武心拳の使い手について教えなければ、無関係な人々を殺す』と宣言する延慶。
怒りに震える衛は、『答えを知りたければ闘え』と、延慶に拳をかざして見せる。
「クククク・・・!」
衛が突き出している拳を見て、延慶が低く笑う。
「なるほど・・・!素直に教えるつもりはないと言う訳か、面白い・・・!」
「・・・」
愉快そうに語る延慶。
対する衛は、何も答えない。
延慶を睨みつけたまま、構えて動かない。
「しかし―――」
延慶が、右手で髭を弄り始める。
余裕のある表情であった。
「本当にそれでよいのか?そこいらの雑魚と違い、我輩は強いぞ・・・?」
「・・・・・」
「貴様の実力もそこそこ出来るのであろうが、我輩を倒すことが出来るかどうかは分か―――」
その時―――
「―――ッ!!」
衛が動いた。
一気に延慶へと間合いを詰める。
右冲拳。
顔面を狙う。
「ハッ、甘いわ―――!」
延慶の体から、再び凄まじい殺気。
衛の右拳を、首を横へ動かし回避。
すかさず衛は、続けざまに左の拳を放つ。
―――が、それも避けられた。
それを見た衛は、右肘を勢いよく振りかぶる。
延慶の懐に更に踏み込む。
そして―――
「シッ―――!」
斬り裂くように、右肘を斜めに振り下ろした。
「ちっ―――!」
舌打ちをし、延慶が後方へ飛び退く。
屈み込むように着地し―――俯いた顔を、正面へと直した。
髭の右端が、僅かに乱れている。
衛の肘が掠めていたのである。
「クク・・クククク・・・」
にやにやと笑みを浮かべる延慶。
「完全に見切ったはずだったのだがな・・・」
立ち上がりながら、右手で髭を整え直す。
両目には、妖しい光が宿っていた。
それに対し、衛は再び構え直す。
寸分も警戒心を緩めなかった。
その様子を見ながら、延慶は声を漏らす。
「いや、それにしても・・・まさか、この延慶に不意打ちを仕掛けるとはな・・・!」
「『汚ぇ』と罵るかい?」
「ムハハ!その逆よ!ムハハハハハ!!」
その時、延慶が大きな笑い声を辺りに響かせた。
愉快で堪らない―――そんな笑い方であった。
「気に入った・・・!気に入ったぞ魔拳の!!」
「・・・」
「そして詫びようぞ!我輩は貴様のことを、武心拳と死合う前の余興程度にしか見ていなかったが・・・!今の不意打ちで確信したぞ!正々堂々などとのたまう御行儀の良い似非武術家や、腰抜けの退魔師共とは違う・・・!貴様は―――貴様ならば、我輩を心から楽しませてくれるやもしれん!!」
「・・・ああ、そうかい」
心から歓喜する延慶。
それとは対照的に、衛の表情はますます不快そうに歪んでいた。
―――許せない。
―――気に入らない。
―――この不愉快な妖怪の顔面に、一刻も早く拳の雨を降らせたい。
そんな考えに満ち溢れた表情であった。
その衛の思惑に応じるかの如く―――延慶が、初めて構えた。
左の掌を前に出し、右掌はその後ろ―――やや下方気味に控えている。
体は半身で、隙はない。
力みはなく、程よくリラックスした構えであった。
しかし―――その構えをとった瞬間、延慶の殺気は更に膨れ上がっていた。
それを感じ取り、衛は更に警戒心を強めた。
「・・・・・」
延慶は、無言で構え続けた。
先ほどまでの饒舌な様子が、まるで嘘のようであった。
しばし、そのまま構え続け―――
「では―――」
口の端を、大きく吊り上げた。
「参るぞ―――!!」
次の投稿日は未定です。
【追記】
次は、土曜日の午前10時に投稿する予定です。




