表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第七話『滅掌の延慶』
88/310

滅掌の延慶 十

【これまでのあらすじ】

 青木衛が『滅掌』を探していたのと同じように、延慶もまた、『魔拳』を探し求め、夜の街を歩き回っていた。

 そして遂に、魔拳・青木衛と滅掌の延慶が、邂逅を果たす。

9

 その男が何故ここにいると思ったのか、衛自身にもよく解らなかった。

 マンションを出て歩き出したら、自然とこの公園に向かっていたのである。

 最初は、どうして自分が公園に向かっているのか全く理解出来なかった。

 しかし、目的地に近付いていくに連れて、強者の気配が漂い始めた。

 その時初めて―――何となくではあるが、理解した。

 自分は引き寄せられるのだ―――と。

 妖術や策略などではない。

 言うなれば―――『因縁』のような何かに。


「・・・」

 目の前で瞑想をしていた男は、古めかしいフロックコートを羽織っている。

 口の上には、若かりし頃の嘉納治五郎を彷彿とさせるような、ボリュームのある立派な口髭が蓄えてある。

 間違いなく、滅掌の延慶だ―――衛は、そう確信した。


「貴様が・・・『魔拳』か」

 その男が、衛に声を掛ける。

 問い掛けではない。

 確信の言葉であった。

「ああ。退魔師―――青木衛だ」

 衛が答える。

「貴様は・・・『滅掌の延慶』だな」

「・・・!ほう―――」

 衛のその言葉に、延慶が僅かに驚いたような顔をする。

「何故、我輩だと?」

「知り合いから聞いたもんでね。進藤雄矢って奴にな」

「進藤・・・あやつか・・・!まさかあやつが魔拳の仲間だとはな・・・!」

 衛の返答に、延慶は嬉しそうな顔になる。

 対する衛は、怪訝な表情であった。


「雄矢のことなら後回しだ。それよりお前、何でまた人間達の前に姿を現した?」

「何・・・?」

「理由は分からねえけど、お前は一度、どこかに姿をくらました。けどお前は、もう一度こうやってまた姿を現した。何か目的があるんだろ?・・・雄矢から聞いたけどよ、やっぱり武心拳か?」

「・・・・・」

 衛の問い掛けに、延慶は何も答えなかった。

 代わりに、口の端を大きく吊り上げた。

 その笑みが、何よりも多くを語っていた。

 肯定の笑みであった。

(やっぱりか・・・)

 衛が眉をひそめる。

 延慶の目的―――それはやはり、武心拳の使い手であった。


「貴様・・・武心拳の使い手を知っておるのか?」

「フン・・・さあな」

 延慶の問いを、衛は適当にはぐらかす。

 自身が武心拳の使い手であることを打ち明けはしなかった。

 打ち明けるにはまだ早い―――そう判断した為である。

「答えろ。どうしてそこまで武心拳と闘り合いたいんだ?」

「ハッ!知れたこと。我輩が最強の座を掴み取る為の、肥やしとなってもらう為よ」

「最強?」

「うむ―――」

 延慶はにやけたまま、自身の目的を語り続ける。

「この世には、人間が化け物と闘う為に生み出した武術が数多く存在する。武心拳は、その中でも最強と謳われておる。我輩が『最強』という名の頂に君臨する為には、武心拳を撃ち破らねばならぬのだ」


 その時―――延慶の表情に、僅かに変化が起こった。

 口は相変わらずにやけた形を作っていた。

 しかし―――ほんの少しだけ、目の奥に暗いものが宿った気がした。

(何だ・・・この目は・・・?)

 その様子に―――その目に、衛が気付いた。

(これは・・・『怒り』か・・・?)

 延慶の目に宿ったもの。

 それは、静かに燃える怒りであった。

 この男は、武心拳に対して怒りを持っているのであろうか。

 一体何故、武心拳を憎むのであろうか。

 ただ純粋に、自分が強くなる為に武心拳を倒そうとしている訳ではないのか。


 いくつもの疑問が、衛の頭の中に浮かんでは消えていく。

 すると、延慶が静かな怒気を湛えた声を放った。

「知っているのであれば、素直に話せ。さもなくば―――」

「・・・さもなくば―――?」

 その時―――延慶が、狂気に満ちた笑みを浮かべた。

「そこいらの人間共を、殴り殺して見せてやってもよいぞ・・・?」

「・・・!」

 直後、衛が凄まじい形相を浮かべた。

 怒り。

 憎悪。

 殺気。

 負の感情と禍々しい闘気の混ざった、恐るべき形相であった。


「・・・ああ・・・そうかい・・・」

 ぽつりと。

 身体の内から煮えたぎるものを抑えた声を漏らす衛。

「そんなに知りたいってんならよ・・・武術家の妖怪らしく・・・」

 衛が構えるべく、ゆっくりと動く。

 肉体が、熱を帯びていた。

 怒りと憎悪が凝縮され、全身を熱く沸騰させていた。

 ―――この妖怪は、敵だ。

 ―――噂通りの、残虐で血も涙もない、憎むべき敵だ。

 そう思い、延慶に向けて、目から殺気を放っていた。

「答えは―――『これ』で訊きな」

 構え終え―――延慶に向けて突き出した手を、静かに握り締めた。

 次の投稿日は未定です。


 遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

 本年度も、魔拳をよろしくお願い致します。


【追記】

 次回は、月曜日の午前10時に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ