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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第七話『滅掌の延慶』
86/310

滅掌の延慶 八

7

「よし・・・そんじゃ、行ってくる」

「う、うん。気を付けてね」

「危ないと思ったら、すぐに撤退するんじゃぞ?」

 助手の人形妖怪―――マリーと舞依が、衛に心配そうな声を掛ける。

「ああ、分かってる。お前等も戸締まりはしっかりな」

 それに対し、衛は普段の無愛想な表情で、言葉を返した。

 既にウォームアップは万全である。

 いつどこで襲われても対応出来る状態であった。


 衛が妖気を感知したあの夜から、既に二日が経過していた。

 あの後、衛はすぐに夜の街を駆け回り、妖気を発した存在を捜し求めた。

 しかし、その日は結局、その存在を見つけ出すことは出来なかった。

 次の晩も捜索を行ってはみたものの、結局は無駄足となってしまった。

 しかし、衛は諦めようとはしなかった。

 その翌晩―――つまり今晩も、衛は捜索を行おうとしていた。

 もしも妖気を発したものの正体が、本当に延慶だったとしたら―――そう考えるだけで、衛の背筋は凍り付きそうであった。

 延慶は危険な妖怪である。

 奴を野放しにしては、大勢の人間が犠牲になるかもしれない―――そう思っていた。


(今夜こそ・・・必ず奴を捕まえてみせる)

 心の中で、衛はそう強く決意していた。

 自然と身体の内側から、熱いものがこみ上げてくる。

 それらを冷静な感情で塗りつぶしながら、衛はジャケットを羽織った。


「・・・ねえ、衛」

「・・・?」

 そんな衛に、マリーがおずおずと声を掛ける。

「何だ?」

「・・・えっと・・・何かさ、最近悩んでない?」

「え・・・?」

 マリーの思いがけぬ一言に、衛の思考が一瞬停止する。

「実はね・・・舞依と話してたんだ。『最近、衛の様子がちょっと変だ』って」

「うむ。今探しておる『延慶』とかいう妖怪についてのことなのか、ハッキリとは分からんが・・・何だか、思い詰めておるような感じがしての・・・」

 マリーの言葉に続いて、舞依がそう話す。

 どちらも、不安げな表情を浮かべていた。

 それを見て、衛は静かに眉をひそめた。

 僅かに、表情が曇っていた。


 二人の言う通りである。

 衛は、囁鬼の事件以来、何かと考え込むことが多くなった。

 悩みを打ち明けようとしたことも何度かあったが、二人に責任を感じさせてしまうような気がして、結局止めた。

 なるべく気取られぬよう注意していたが―――それでも二人は、僅かな違和感に気付いていたようであった。


「・・・あのさ、衛。何か悩みがあったら、あたし達にも言ってね。あたし達、あんたの助手なんだからさ」

「うむ、そうじゃ。何を悩んでおるのかは知らんが、あまり思い詰めるでないぞ?」

 そう言うと、二人は静かに微笑んだ。

 笑ってはいるが、その姿はどこか寂しげなものであった。

「・・・ああ。ありがとな」

 それに対し、衛は素直に礼を言った。

 自身を案じてくれている助手達へと、心からの感謝の言葉であった。


 しかし衛は―――

「・・・でも、大丈夫だ。ちょっと、頭の片隅に引っ掛かってるくらいのもんだからよ」

 結局、二人に打ち明けることはなかった。

 そのまま衛は玄関へと向かい、204号室を後にしたのであった。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、大晦日の午前10時に投稿する予定です。

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