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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第七話『滅掌の延慶』
84/310

滅掌の延慶 六

5

 同時刻。

 遠く離れた神社の境内にて、衛は黙々と自己鍛錬に励んでいた。

 実戦を想定し、架空の敵と闘う練習法。

 いわゆるシャドーである。


「・・・っ!―――ッ!!」

 身法と歩型を意識し、緩急を付けて動く。

 短く呼気を漏らし、突く。

 蹴る。

 防ぐ。

 崩す。

 投げる。

 極める。


 素早く、激しいシャドーであった。

 普通の人間が行えば、すぐに呼吸が乱れ疲労してしまうほどに。

 が、衛の動きには、一切乱れがなかった。

 一切の無駄が見られなかった。

 しかし―――その見事な動作とは裏腹に、衛の顔は、何かに心を乱されているような表情を浮かべていた。


 頭の中を満たしているのは、昨晩雄矢から訊いたこと―――滅掌の延慶に関することではない。

 先日彼が解決した、囁鬼による洗脳事件のこと。

 その際彼が直面した、二つの選択肢―――『少数を切り捨て多数を助けるか』、もしくは『危険を伴うが、全員を助けるか』───そのことについて考えていた。

 あの時、衛は後者を選択したが───衛には、その選択が正解だったのか、全く分からなかった。

 自分が決断した選択肢が本当に正しかったのか、何度も何度も考え続けていた。

 しかし―――何度考えても、答えは見つからなかった。


 もしあの時、少数を切り捨てる方を選択していれば、人形達は負傷することはなかった。

 だがそうなると、巻き込まれただけの被害者達の家族はどんな思いをすることになっていたのだろうか。

 昨日まで一緒だった人が、突然殺され、いなくなる―――その悲しみと苦痛は、地獄の責め苦にも匹敵する。

 衛は何度も、その経験があった。

 だから、見ず知らずの人間といえど、その苦しみを味あわせる訳にはいかなかった。


 しかし、あの時自分が下した決断が正しかったのかというと、それも違うように思えた。

 あの時、自分があのような方法を選択したことで、助手達は怪我をすることになってしまった。

 だが、それだけならばまだ良い。

 怪我はいつか治る。

 命がある。

 まだ生きることが出来る。

 しかし―――運が悪ければ、助手達は命を落としていたのかもしれない。

 怪我だけでは済まなかったのかもしれない。

 自分は仲間に、命に関わるほど危険な目に遭わせてしまったのである。

 では、自分はあの時どうすれば良かったのか―――そんなことを、ずっと自問自答し続けていた。


「―――ッ!・・・シッ―――!」

 衛の動きに、初めて乱れが生じる。

 悩みによって、力みが生まれた為であった。

 すぐに頭の中を空っぽにしようとするが、次々に悩みが沸いてくる。

(俺は・・・どうすれば・・・!)

 悩みは徐々に焦りとなり、動きが精細を欠いたものへと変わっていく。

 もはや、心を抑えることが出来なくなっていた。

(あの時・・・俺は・・・!どうすれば良かったんだ・・・!?)


 その時―――

「!?」

 衛の五感が、殺気の混じった妖気を感じ取った。

 この近くではない。

 遠く離れた地点から放たれたものである。

 凄まじい妖気であった。

 衛が妖気を感知できる範囲は、それほど広くはない。

 それでも感じ取れるほど、その妖気は強大かつ凶悪であった。


(どこだ・・・?誰だ・・・!?)

 衛は動きを止め、両目を閉じる。

 そして、その妖気がどこから放たれたものであるかを探ろうとする。

 しかし、やはり見つからない。

 先ほどの爆発的な妖気は既に消え失せており、全く感じ取れなかった。


(・・・まさか・・・)

 衛が眉をひそめる。

 妖気を放った者が誰なのか、とある考えに思い至ったのである。

 それは昨晩―――進藤雄矢から訊いた、『あの男』であった。

(『滅掌の延慶』か・・・!?)

 衛がゆっくりと両目を開く。

 額には、小さく冷たい汗の粒が浮かんでいる。

 全身の体温は、先ほどまで動いていたのが嘘のように、ぞっとするほど下がっていた。

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、土曜日の午前10時に投稿する予定です。

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