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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第七話『滅掌の延慶』
79/310

滅掌の延慶 一

1

 深夜の、寂れた神社の境内。

 そこに、1人の男がぽつんと佇んでいた。

 青木衛。

 人々に危害を加える超常的存在と日夜闘う、悪人面の退魔師である。

 しかし、どんな凶悪な妖怪も震え上がる彼の顔は今、何かを憂うように俯いていた。

「・・・」

 彼は、一言も言葉を発しなかった。

 目を僅かに伏せ、物思いに耽っていた。

 内に秘めた悩みに対し、そうやって自問自答し続けていた。

「・・・」


 その時―――

「どうしたんじゃ、そんなに思い詰めて」

 衛の背後から、声が聞こえた。

 それに対し、衛がゆっくりと振り返る。

 そこにはいつの間にか、1人の老人が立っていた。

 道士服をまとっており、背は衛よりも僅かに低い。

 人懐っこそうな顔は、白い頭髪と、同じくらい白く長い髭によって、口周りは覆われていた。


「ヤン爺さん―――」

 衛が、その人物の名を呟く。

 驚いた様子はなかった。

 この老人は、衛がよく知る人物であり、彼がここを訪れたのも、衛によって呼び出された為であった。

「また、何かに悩んでおるようじゃな」

「・・・」

 ヤンと呼ばれた老人が、微笑を浮かべながら呟く。

 衛は、何も答えなかった。

 無言の肯定であった。

「お前さんは昔よく悩む男じゃからのう。それが例え、どんな些細なことでもな」

「・・・」

「どれ、お前さんの悩みをまたかき消してやろう。わしに言うてみると良い」

 笑顔でそう告げるヤン。

 幼い子供を彷彿とさせるような、無邪気な笑みであった。

「・・・」

 衛はしばらく無言であったが―――

「爺さん―――」

「ん?」

 不意に、ぽつりと切り出した。


「俺、『ある男』と立ち合ったんだ」

「『ある男』?」

 衛の言葉に、ヤンは僅かに眉を寄せる。

 が、すぐに元の笑顔へと戻った。

 そして再び、衛に問い掛ける。

「そいつは、どんな男なんじゃ・・・?名前は、何と言うんじゃ?」

「・・・」

 また無言になる衛。

 衛の表情に差した影が、僅かに濃くなる。


「・・・」

 ヤンは、じっと待った。

 衛が勇気を振り絞り、その男の名を口にするのを、辛抱強く待った。

 そして衛は―――遂に、その男の名を告げた。


「・・・・・『延慶』」

「・・・!」


 その時、ヤンの顔から笑みが消えた。

 表情が一瞬で険しいものになり、額からは汗が噴き出していた。

 衛はその様を目にしながら、再びその男の名を告げた。

「・・・『滅掌(めっしょう)の、延慶』」

 次の投稿日は未定です。


【追記】

 次は、水曜日の午前10時頃に投稿する予定です。

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