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魔拳、狂ひて  作者: 武田道志郎
第六話『魔拳参上』
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魔拳参上 十九

【これまでのあらすじ】

 遂に囁鬼───柳善の下へと辿り着いた衛達。

 彼らの前に現れたのは、昨晩取り逃がした義満と康治郎であった。

 彼らと闘え───柳善は衛にそう告げるが、衛はこれを拒否。

 その直後、柳善は信者の1人に腹を切らせる。

 怒りに震える衛は、止むを得ず義満・康治郎と闘うことに───

「ゥアオオオオオオオオオオオオオオオオオオ───!!」

「ッガアアアアアアアアアアアアアアアアアア───!!」

 衛の啖呵に応えるかのように、義満と康治郎が咆哮を上げた。

 衛の体に、声と共に殺気が叩き付けられた。


 咆哮が止む前に、義満が動いた。

 一瞬で衛の懐に潜り込む。

(速い───!)

 衛はバックステップし、義満の攻撃に対応すべく身構える。

 それと同時に、義満が爪による斬撃を放った。

「グァァッ───!!」

 衛の左腕から、血の筋が何本か宙に舞う。

 掠めていた。

 鋭い爪が、衛の左腕の皮膚を斬り裂いていた。

「シッ───!」

 その痛みを無視しながら、衛が前蹴りを放つ。

 胸板に直撃。

 義満の身体が僅かに後方にのけ反る。

「でやッ───!!」

 衛はこの隙に、義満の顔面に裏拳の一撃。

 直後、水月に左ストレート。

 左頬に右フックを見舞う。

「グゥッ・・・!」

 義満が僅かに呻く。


 しかし───

「ウガァァァッ!!」

 衛の電光石火の如き連撃に、義満は臆することはなかった。

 すかさず、両手の爪で連続して斬り掛かって来る。

「ちぃっ───!!」

 衛は後方へと後退りながら、その嵐のような攻撃を丁寧にいなしていく。

 しかし、完全には捌けない。

 いくつかの斬撃が衛の腕を掠め、その度に少量の血が舞う。

 速い。

 最初に衛が闘った時よりも、義満の動きは速く、そして正確であった。


(嘗めんじゃねぇッ!!)

 衛は、義満の連続技の僅かな隙を突き、懐に潜り込む。

 そして、冲拳の三連打を水月に叩き込んだ。

「ウガッ!?」

 己の意識を失っているとは言えど、流石の義満も、これは耐えられなかった。

 腹部の苦痛に、思わず前屈みになる。

 衛は、そんな義満の右腕を捕える。

 そして、後方に向けて思いきり背負い投げた。

「ガフッ───ガ───ァァ・・・!!」

 勢い良く叩き付けられ、義満の肺から、空気が絞り出される。

 だが、地面に生い茂る草がクッションになっている為、それ以外の決定的なダメージは無い。

 僅かな時間で回復し、立ち上がって衛に攻撃を仕掛けて来るであろう。

 しかし、そんな僅かな時間でも、衛には必要であった。

 もう1人の敵───赤鬼の攻撃に対応する為の時間が。


「ガアアアアアアアアアアッ!!」

 その時、背後から雄叫びと共に、強烈な圧を感知する。

 康治郎である。

 凄まじい勢いで、衛を目掛けて突進していた。

「死ねェェェェェッ!!」

 怒号と共に、康治郎は右拳を力任せに振る。

「ッ!」

 衛はそれを左手で捌く。

 康治郎がバランスを崩した。

「でやぁッ───!!」

 その隙を突いて、衛は顔面にローリングソバットを叩き込む。

 が───

「・・・!」

 康治郎はびくともしなかった。

 殺気で塗り潰された瞳で、衛を見ていた。


「ッオオオオオオオオ!!」

(何───!?)

 康治郎が、宙に浮いた衛の右足を掴む。

 そのまま衛の体を振り上げ───

(不味いッ!!)

 地面に思いきり叩き付けた。

「───ッ、が・・・!!」

 衛の視界が揺れる。

 全身に衝撃が走る。

 叩き付けられる直前に鋼鎧功を発動した為、ダメージは軽減することが出来た。

 しかし、それでも赤鬼の怪力は凄まじいものであった。

 全てのダメージを打ち消すことは、出来なかった。


「ま、衛!!」

「大丈夫か!?」

 離れた場所から、マリーと舞依の声が聞こえる。

 悲鳴に近い声であった。

「・・・ッ・・・ぐ・・・!」

 衛が状態を起こす。

 そして、赤鬼に目を向けた。

 その視界いっぱいに、康治郎の右足の裏が映し出された。

 衛を踏み潰すつもりであった。

「うおおおおっ!!」

 康治郎が右足を振り下ろそうとする。

 衛は痛みを堪え、素早く姿勢を立て直す。

 そして、後掃腿で康治郎の左足を刈った。

「ごっ───!?」

 康治郎が仰向けに倒れる。

 その人中を目掛け、衛が全体重を乗せたエルボードロップを叩き込んだ。

「でぃぃやッ!!」

「ぶっ!?」

 前歯が砕け、血が跳ねる。

 康治郎は口を手で覆うが、血走った両目には、未だに殺気が漲っていた。


「ガァァァァァァァァァァァァッ!!」

 そこに、回復した義満が疾走。

 鋭い爪が、月光をギラリと反射する。

 横薙ぎの爪撃。

 衛はスウェーバックし、それを躱す。

 更に左、そして再びの右の爪が襲う。

 衛はそれらを腕で捌き、拳による反撃を放つ。

 ───が、先程のように義満に当たることはなかった。

 義満も同様に、腕で捌いていた。

 そこから、一進一退の攻防が始まった。

 拳で突く。

 それを防ぐ。

 爪で斬る。

 それを躱す。

 徐々に攻防の速度は速さを増し、熾烈なものになっていく。

「でやッ───!」

 その最中、衛が前蹴りを放つ。

「ぐぅっ!?」

 蹴りは義満の腹に直撃し、後方へ押しやる。

 義満は体勢を崩していた。

(今だ───!)

 勝機と判断し、衛が一気に詰め寄ろうとする。


 が───

「ぐぅッ───!?」

 衛が呻く。

 苦しい。

 前へ踏み出せない。

 首に何かが絡まり、全く動けない。

「ぅがアアアアアアアアアアア!!」

 衛の耳元に、やかましい怒鳴り声が。

 康治郎の声であった。

 チョークスリーパーで衛の首を絞め、捕えていた。

「───っ───グ───ガ───・・・!」

 呼吸が出来ない。

 首が折れそうになる。

 徐々に、意識が薄れていく。

「死ね・・・!」

 体勢を立て直した義満はそう呟き、前方に疾走する。

 そして、衛の顔面を八つ裂きにしようと爪を向ける。

 衛は、薄れゆく意識の中───

(クソッ───タレが・・・・!!)

 左足に渾身の力を込めながら、蹴りを放った。

「ゥブッ!?」

 義満の鼻先に直撃。

 勢い良く血が噴き出す。

 更に衛は、丹田に意識を集中させ、瞬時に思いきり腰を屈める。

「───!!」

「ぐおッ!?」

 康治郎が体勢を崩す。

 前傾姿勢になった。

 同時に衛は、右足を振り上げる。

 右脚は、弧を描くような軌道で真上へと進み───

「───!・・・、が・・・あ、ご・・・!?」

 康治郎が呻く。

 衛の爪先が、康治郎の右目を潰していた。

 思わず康治郎は両手を離し、目を覆う。


 この隙に衛は横に飛び退く。

 草地を転がり、立ち上がる。

「う───っ、ゲホッ、ゴホッ・・・!う───っ、ゲボッ・・・!!」

 そして、思いきり咳き込んだ。

 首が痛い。

 吐き気がする。

 喉が潰れそうだ。

 そんなことを考えながら、衛は義満と康治郎を睨み付けた。


「ぐぅっ・・・!」

 義満が、よろよろと立ち上がる。

 鼻から血を垂れ流していた。

 凄まじい形相で、牙を剥き出していた。

 その隙間から、ねっとりとした唾液が零れた。

「う・・・ぬぅっ・・・!」

 潰れた右目を押さえながら、康治郎が身構える。

 指の隙間から血が流れている。

 常人が目にすれば、委縮してしまうような姿であった。

 が、残された康治郎の左目は、衛を睨み付け、殺気を送り続けていた。


 両者共に、初めて衛と闘った時の面影はなかった。

 あの時、義満と康治郎の中には、僅かに怯えがあった。

 衛に対する恐怖心が、心の奥底にあった。

 それが、今はない。

 衛に対して、一切の恐怖を抱いていない。

 囁鬼の洗脳術によって、彼らは恐怖の感情すらも奪われているのであろう───衛はそう思った。


 ──その時、衛の頭の中に、先程の扇動者の姿が浮かび上がる。

 彼が、己の腹にナイフを突き立てた光景が、思い起こされる。

 思えば彼も、己の腹を刺すことに、一切の恐怖を抱いてはいなかった。

 柳善に、『そうしろ』と命じられた時も。

 あの扇動者も、前方で衛に殺気を放ち続ける妖怪達のように、感情を奪われたのであろう。

 おそらく、生きとし生ける者全てが持つ、喜びや悲しみといった感情すらも、柳善から奪われているのであろう。

 そうして柳善は、彼らを人形へと変えたのであろう。

 己の『主人』のことしか考えられない操り人形に。

 衛はそう思うと、心の内の怒りが、更に激しく煮立つのを感じた。


(許さねえ・・・許さねえぞ・・・!!)

 衛は憎しみに顔を歪めながら、再び構え直す。

 そして、怒りに身を任せ、2体の妖怪目掛けて突進した。

「うおおおおおおおおおっ!!」


 次は、日曜日の午前10時に投稿する予定です。

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